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38部

「彼らのやったことは正義なんでしょうか?」

 大隈は唇を噛み締め、両拳を強く握りながら目の前に座る男に向かって言った。男は笑いながら、

「もちろん、彼らは正偽(せいぎ)ですよ。

 まぁ、ただの正義ではなく偽りの正しさの方ですけどね。」

「正しくないことをさせる意味は何なんですか?

 彼らは……………………彼らは今までの虐げられて来た人生をやり直したいと心から思っていた人達だったんですよ!」

 大隈は悔しさをそのままぶつけるように言い放った。男は笑うのをやめて、

「正と偽の違いとはなんですか?

 耳障りの良い言葉は常に正ですか、トゲのある厳しい言葉は常に悪ですか?

 人に優しくすることは素晴らしいことですが、優しさだけでは人はまともには成長しないものですよ。

 彼らが短期間で外国語を習得して、外国で活動できるようになったのは、世間に対する、社会に対する恨みが強かったからです。

 人は時に恨みや怒り等の負の感情によって大きく成長することがあります。

 温室の中から外の寒さを嘆いたところで誰が同情してくれるんですか?

 同じ寒さを共有して初めて人はわかりあえることもあるとは思いませんか?」

「影山さん、あなたはそうやって言葉巧みに人を洗脳してきたんですね?

 彼らは確かに自分の狭い世界の中で絶望して、外の世界に責任を転嫁してきたこともあったと思います。

 でも、彼らがテロリストになる必要性なんてなかったはずだ。」

 影山は呆れたようにため息をついて、

「大隈さん、きれいごとや理想論が成立するのはフィクションの世界だけなんですよ。

 いくら高尚な理想を説く政治家がいたとしても、金がなければそれは空論となり、金に任せて理想を現実にしたとしても反発するものが現れれば、高尚な理想も独裁的な思想へと貶められてしまう。

 それがこの世界の現実ですよ。

 国は国民から金を搾取するために手段を考え、耳障りの良い言葉や国民のためと嘘ぶいて一部の政治家の政策を実現するための費用を作ろうとしている。

 それが結果として、『国民のために』になれば、その政治家は優秀な指導者となり、『国民の反感を買う』ことになれば、マスコミのサンドバッグになる。

 つまり、政策とは常に恣意的に行われるが、その評価も国民による恣意的な判断で良くも悪くもなるということです。

 彼らの『犠牲』が、後のこの国の国民によって、テロリストとなるか国を救った英雄となるかは、まだ決められないことですよ。」

「人を殺した者が英雄になる世界なんて間違えてる。

 どんな人間にも尊厳があり、自らの幸せのためにがむしゃらに生きてるだけなんだ。

 その過程で誰かを不幸にしてしまうこともあるだろうが、償いは必要でも殺して良いなんてことはないですよ。」

「大隈さんの意見は奪われたことのない人の『きれいごと』ですよ。」

「私の言葉は、あなた言う『きれいごと』でも、『理想』でもない

 このように世界を変えてみせるという『目標』ですよ。」

  大隈はそう言うと部屋から出ていってしまった。

 影山は、口元を歪めて笑い、

「叶わない目標のことを僕は『理想』と呼んでるんですよ。

……………客寄せパンダはもう必要もないかもしれないな~、さよなら、大隈さん。」

 影山はそう言うと電話に手を伸ばした。

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