36部
「どうですか、久しぶりのシャバの空気は?」
上田が笑いながら言い、山本は上田の言葉など気にせずに
「例の事件はどんな感じだ?」
「少しくらい乗ってくださいよ。
まぁ、警部のことだから軟禁状態だったとか気にしてないだろうと思ってましたけど。」
「それで?」
「入れ替わっていた片方が見つかって、竹中さんが大阪に事情聴取に行きました。
ただ、入れ替わることを斡旋した人間がいたことは話したそうですが、それ以降は何も話さない状態らしいです。
引き続き、竹中さんはそっちからの情報を探るそうです。
こちらはひきこもり支援を行っている会社の捜査をしています。」
「加藤は?」
「今は捜査一課の取り調べを受けています。
事件の内容的には殺人未遂で調べられていたので、そのまま捜査一課が担当になったみたいです。
懲戒処分が下される可能性はありますが、事件が秘匿されていたので対応は難しくなると思われます。」
「加藤の先輩については?」
「勤務態度は真面目で、正義感も強く、人当たりも良かったので、今回の件を聞いた人は信じられないといった感じだったみたいです。
上司、部下ともに認める優秀な警察官だったそうです。」
「睡眠薬を狙撃で投与することはできるのか?」
「車の中からは弾痕等は見つかっていないそうです。
被害者の首についていた傷も狙撃されたものではなく鋭い物がかすってできた裂傷だったみたいです。」
「例えば、睡眠薬を塗った吹き矢みたいな物で狙ったとか、或いは同乗者がいて傷をつけてから下車した後で事故が起きたなんてことはなかったのか?」
「車は炎上はしてなかったので、吹き矢が使われたなら矢が残ってるはずですし、同乗者がいたとしても傷をつけられたなら、被害者が傷を触ってるはずです。
でも、被害者の手からは血液反応は出てません。
いくら40~50kmで走っていた車でも飛び降りるのは危険ですし、
車の通りも多かったみたいなので目撃者が出てないのは不自然です。
この状況では警部の言ったことは難しいでしょうね。」
「なるほど、厄介な事件だな。
俺がいない間に他に変わったことは?」
「そう言えば、A国の反日的な外交官が日本人に殺されたって事件がありましたよ。
海外で起こった事件なので、あまり詳細はわかってませんけどね。」
「それならネットのニュースで見たよ。
拘束時に日本万歳!って叫んだんだろ。」
「日本に敵対的な要人が殺害されて、そんなことを叫んだから日本政府の陰謀を疑う国もあったみたいですね。」
「日本人が国際的なテロを起こしたなんてのははじめて聞く話だからな。騒ぎだたくもなるんだろうな。」
「外務省あたりからの情報が出てもおかしくないですけど、それもないですからね。」
上田が軽く言うと山本が
「例えば、入れ替わったもう片方は海外でスパイになってたり………ないな。」
「そこまでぶっ飛んだ計画ならもうお手上げですよ。」
上田が苦笑しながら言い、山本も同じように苦笑してから、
「とりあえず、影山の身柄確保を最優先だな。
何かとんでもないことをやらかす前に捕まえたいし、俺の身動きを封じてまで何がしたかったのかを早急にわりださないとな。」
山本はそう言って足早に警視庁の扉へと進んだ。




