31部
『日本時間今日未明、A国の外交を取り仕切っていた要人が何者かに誘拐される事件が起きていました。
先程事件は大きく動きを見せ、要人の死亡が確認されると共にその場に居合わせた邦人4名を事件に関わりがあるとみてA国当局に拘束されました。
現在、外務省が身元の確認を行うと共に詳細な情報をA国に求めているということです。
なお、拘束された邦人は拘束時に日本語で日本万歳と叫んだということで、組織的な犯行である可能性を考慮して捜査が進められているということです。』
テレビのアナウンサーが深刻そうな顔でニュースを読むのを見て竹中が
「物騒な事件やな。
外交問題を任されとった要人が殺されたら、外交問題になるんとちゃうか?」
大阪に来てみたものの、指紋から苗木和也と判断された男との面会は未だにできずに待機を命じられていた。
そんなときにテレビで先程のニュースを見たのだった。
「一部では、その要人が反日感情の強い人だったとか、日本製品に対する関税を高めようとしていたという話も出てますよ。
外交問題だけですめば良いと思いますけど、拘束されてる日本人が話す内容によっては紛争が起こるんじゃないかって話でしたよ。」
大阪府警の高山警部補が言い、竹中が
「どこ情報や?」
「他のニュース番組です。」
「面白がって騒いどるだけとちゃうんか?」
「可能性は否定できませんね。
ただ、前々からA国との外交上では障壁やと言われてる人物やったらしいですよ。」
「まぁ、これに関しては向こうの国の出方を伺わんことには日本はなんもできへんからおいとくとしてや、俺はいつになったら苗木に会えるんや?」
「申請はしてますし、上からもうすぐ……………………言うてたら来ましたわ。」
高山がそう言って指差す先から若い刑事が走ってきて、
「竹中警部、面会の許可おりました。」
「やっとか、ほないこか。」
「警視庁特別犯罪捜査課の竹中って言います。
東京の方であんたがいいひんくなったから探してくれって言われて探してたんですよ。」
「………………………………」
竹中が言っても苗木は目を伏せて何も話そうとしない。そこで竹中は揺さぶりをかけるために
「彼女さんが心配で心配で…………って泣いてたで、可愛い彼女さん泣かしたらあかんやろ?」
「………か……………ない…………」
「は?なんて?」
「可愛くなんてないって言ってんだよ。
あんな自己中で俺のことを奴隷みたいに扱うようなやつが可愛いわけないだろ!」
「自分が苗木和也やってみとめるんやな?」
苗木はあからさまに『しまった』という顔をしてから、誤魔化す言葉が浮かばなかったのか、黙って頷いた。
「あんたには安藤優一さんを殺害して成り代わってるんちゃうかっていう疑惑がかけられとる。
正直に話せば悪いようにはしいひんで、どうや?」
「知らないんだよ。
安藤って人のことは何も。
どこかの病院に行って、手術を受けて、麻酔が切れて目が覚めたら、覆面した医者が『今日からあなたは安藤優一さんです。』って言った。
だから、本物の安藤って奴がどうなったかはわからないんだ。」
「なんで、その病院に行ったんや?」
「あいつからの締め付けがキツすぎて死にたいと思って、自殺サイト見てたらメールが来たんだよ。
自殺を考えるくらい辛い人生なら、まったく新しい人生をはじめて見ませんか?ってな。
面白半分で返信してたら、その人の言う通りにすれば地獄の生活から抜け出せると思って、実際に話を聞いてみたんだよ。」
「相手は?どんな奴やった?」
「20代半ばくらいの男が来て、顔と名前を入れ換えることによって、新しい人生を始められるって言ってた。」
「名前は?」
竹中は20代半ばくらいの男が影山ではないかと疑って聞いた。
「大木とか、あれ大山だったかな?
最初に一回だけ名前を言っただけだからはっきりとは覚えてない。」
「はぁ。じゃあ、なんで、大阪にいたんや?」
「本当は鹿児島で住むことになってたんだけど、どうしても会いたい人がいたから、その人の家まで行ったんだよ。
でも、顔も名前も変わってることをどう説明しようかと思って迷ってたら警官が来て。」
「今に至るわけか。」
竹中が言うと苗木は黙って頷いた。
「他にその男について覚えてることはないんか?」
「………………そう言えば、チェンジなんとかって言ってた。
なんか行動する上でのスローガン的なものだとか……………」
「それ、もっとはっきりとわからんか?」
「ああ、そうだ、C.O.Lって言ってたよ。頭文字とってどうのこうのとか言ってたな。」
「C.O.Lか……………………」
竹中はどこかで聞いたことがあるような気がして考えたが答えがでないうちに苗木が
「それで、俺はどうなるんだよ?
まさか、東京に連れ戻されるなんてことはないよな?」
「あんたが安藤さんになにもしてないってわかるまではとりあえず大阪で今まで通りの状態でいてもらうしかないやろな。
東京の彼女さんにはまだ黙っといたるは。
この状況を説明するんも大変そうやしな。」
苗木はどこか安心したような顔で目を閉じた。
愛され過ぎるのも人は辛いものなのだと竹中は思った。




