29部
「たまに…………………警察の正義とは何なのかと考える時がある。」
武田総監が急に真面目な顔でこんなことを言い出したので、何か面倒なことを頼まれるのだろうと上杉刑事部長は思ったが、気づいていることを悟られるとそれはそれで面倒だなと思い、きづかないふりをして
「急にどうしたんですか?」
「我々が知っている事実を世間に公表すれば、事件が解決するということをたくさん知っていながら、我々には公表できない理由がある。
正義のためというのであれば、すべての事実を世間に伝えるべきではないかと考えてしまったんだ。」
「目の前の小さな悪を倒すことよりも、人目を忍んでいるのは巨悪を一掃しようと決められたのも武さんですよ?」
「そうだが……………………
その決意の影で、まったくの関係のない人達が涙を流しているのだとして、それを放置することが正義と言えるのだろうか?
加藤巡査部長の件も速やかに解決して山本を自由にしてやるべきだと思うんだ。」
「そうしないのも、巨悪を滅ぼすための準備の時間稼ぎだと思っていましたよ。」
上杉が呆れて言うと、武田は真剣な顔になって、
「伊達達が調べていることが、どこまで進んでいるかわからない今、うかつなことはできない。
御前の正体もその目的も既につかんでいるのかもしれない。
そうなれば、話は速いと思う。
さっさと消してしまえばいいんだからな。」
「誰をかは聞きませんが、総監という立場の人間が軽々しく言うべきではないですね。
竹中も動き始めた見たいですし、影山光輝の件にも進展はあると思いますよ。」
「あの会社がやっていること自体は否定するつもりはない。
だが、本当の意味での『更正』はあれではなし得ないのではないかと思う。」
「とりあえず、我々にできることをしましょう、武さん。
長年、積み重ねて来た努力がもう少しで報われるんです。
今回のことで、おそらく北条さんは表からいなくなるでしょう。
そうなったときに武さんが自由に動き回るためにも今は無心で御前を支えておくしかないですよ。」
「努力が報われることより、正義を優先していた若い頃に戻りたいと思うのは俺だけか?」
「風林火山の影の戦術のためですよ。」
「獅子身中の虫になりて、胃袋を食い破ってやるしかないな。」
武田は真剣な顔で言った。二人の会話を少し離れたところから聞いていた黒田は心中穏やかではなかった。
だが、この二人の見据える先にある正義の重要性は理解していた。
それは叔父であり、日本のトップである北条を裏切ることになったとしても目指すべきものだと思ったからだった。




