26部
「警察が嗅ぎ回ってるみたいですね。
まぁ、彼らが本当の計画に気づけるとは思えませんが、用心に越したことはないでしょう。」
大久保はパソコンの前に座っている影山の背中に向かって言った。
返事が来ることはないかと思って、部屋を出ようとすると
「山本警部が僕の秘密にさえ気がつかなければ、そしてそれが他の警察官に伝わらなければ、おそらく計画に支障はないでしょう。
ただ、その可能性を否定できるだけの証拠がないんだよね。
結局、あの事件を起こして山本警部を身動きできなくしても見つからなかった。
アレさえ消せれば僕の正体は永遠に闇の中なのに!」
影山は珍しく語気を強めた。大久保は彼の正体を知っているが、彼が探している『アレ』に関してはどのような物かすら知らなかった。
そこまで消したい物があるとするなら、とんでもない物なのだろう。
「あの事件の真相について、バレてしまう可能性はないんですか?」
「バレてもいいよ。彼は所詮使い捨ての駒だ。
時間稼ぎには十分に役立ってくれた。これ以上は役に立つ見込みもないし、どこかのついでに消しておくのも良いかもしれない。」
「計画は少し早めますか?
それとも警察の動きが鈍るまで少し待ちますか?」
「必要ないよ。
もうすでに何人かは計画のための準備で移動してしまったしね。
それに僕の時間も限りがあるからなんとも言えないよ。
今は放置されてるけど、いつ暗殺されるかわからないからね。」
「黒木議員と接触して探りを入れますか?」
「黒木さんは今は何も動けないと思うよ。
向こう側に拾われたと考えるのが妥当だろうな。」
「例の『御前』という人物ですか?」
「まぁ、立ち寄ると聞いた場所にわざわざホームレスのふりまでして潜入したのに、快適な生活を送らせてもらっただけで収穫はゼロだよ。盗聴機まで仕掛けたのに最近は誰の声も聞こえないから、盗聴機の存在もバレてしまったかもしれない。」
「それがきっかけで攻撃されるとは思わなかったんですか?」
「何者なんだろうね?
研究者としては是非あってみたい。
完全に闇の中にいて、人を見事に操ることができる存在。
黒幕の向こう側にはどんな顔で座ってるんだと思う?」
「そんな人物は本当は存在していなかったと考える方が現実味がありますよ。日本人は偶像崇拝が得意ですからね。」
「何かにすがらないと立てない人間ばかりではないけどね。
日本の宗教はほとんどビジネスだからね。
オカルトじみた存在ほど崇めたくなるのかもしれないよ。」
「そんなオカルト的な存在を国のトップが信じているとなればこの国の終わりも近そうですね。」
「大久保君も気をつけた方がいいね、警察のトップまでがその信者なんだから、思いもよらない言いがかりで捕まることだって十分にあると思うから。」
「……………注意はしておきますよ。」
大久保はそう言うと部屋を出た。結局、表に出ることもできずに裏からこそこそと文句を言うことなら誰にでもできることであって、すごいことでも何でもないと大久保は思った。
「手を汚さずに、泥の中から宝石を見つけることなんてできはしない。手に入れたい物があるなら自分の手で探すしかないんですよ………」
誰に向かっての言葉でもなかったが、大久保は自分に言い聞かせるかのように言葉に出した。