18部
管理をしている男は、山本も驚くほどの手際で盗聴機を回収するとどこかへと持っていき、戻ってきて
「申し訳ありません。
私の管理不足で不快な思いをさせてしまいました。
今後も不審なことがあれば何なりとお申し付け下さい。」
男は深々と頭を下げてから去っていった。成宮老人が
「それでは私もお暇しますよ。」
「ここで休んでいるんじゃないんですか?」
山本が聞くと成宮老人は笑顔で
「外でフラフラしてる方が私にはあっているんですよ。
それに空調も食べるものにも困らないこの場所は、一見してオアシスに見えますが、金持ちの道楽で運営されているこの施設はいつ無くなってもおかしくはない。
人間は楽な環境に流されがちですから、真夏の暑さも真冬の凍える寒さも感じないこんな施設にいたら我々は堕落してしまう。
一時の休暇ならまだしもここに常駐するのはホームレスである我々には毒を与えられているようなものなんですよ。」
「またここにこられますか?」
「寂しいですか?」
成宮老人はイタズラぽく笑った。
「いえ、今までのお礼を言っとかないともう会えないかもしれませんから。」
「そうですね。
人生は巡り合わせですから、出会えるかもしれないし、そうでないかもしれない。
まぁ、それもまた人生の一興ですよ。
それでは、失礼します。」
成宮老人は笑顔で言うと手を振って階段に向かって歩いていった。成宮老人が見えなくなるまで見送ってから、山本は頭を下げてから部屋に戻った。
成宮老人は一階の共有部分に降り、管理をしている男が急いで駆け寄って来たのを見た。その顔に笑顔はなく、
「例の男が仕掛けたものでしょうか?」
「申し訳ございません。
清掃の時にはまったく気がついてませんでした。」
「まぁ、良いですよ。
あの男が仕掛けたのだとしたら、標的は私でしょう。
まぁ、先程の会話は漏れていた可能性がありますから、人の出入りは厳重にお願いします。」
男は90度以上に体を曲げて頭を下げた。成宮老人は片手を上げてそれを制し、建物から出た所で山本のいる二階部分を見上げ
「また会いましょう、我らが君よ。」
成宮老人はそう呟くと、暗い路地裏に姿を消した。