15部
「お疲れ様です、大隈さん。」
都内の事務所に戻ると社員である大井が話しかけてきた。
「お疲れ様、何かありましたか?」
別に話しかけられることが珍しいわけでもないが、事務所に入ってすぐに話しかけてきたあたり緊急の用事でもあるのかと一応疑ってみた。大井は
「いえ、今回の対象者が僕と同じような境遇の子だったので気になっていたんです。」
「ああ、そういうことか。
大丈夫だよ、とても頭の良い子で、自分の現状も反省点もつかめていた。
ただ、根本的な問題解決のための手段は持ち合わせてはいなかったし、デリケートな問題だから、こうすれば良いと簡単に言えることでもないからね。
今度行くときは一緒に行ってくれるかな、僕ではアドバイスできることに限界があるからね。」
「わかりました。
最近・・・・、調子がいいですよね?」
「どういう意味?」
首をかしげて聞くと、どういうべきなのか困ったようにオドオドとして大井が
「いえ、僕としてはサナギの人達が蝶になれるなら全力を尽くしたいと思ってるんですけど、その・・・社長が・・・」
「あの人から連絡があったのか?」
「はい、現在の顧客状況と進捗状況をたずねられました。
ありのままに答えると、大隈さんに『表ばかりでは脆くなるので裏の補強を忘れないように』と伝えるように言われました。」
ため息を一つついてから
「できれば裏の仕事はせずに行きたいと思ってる。
まっとうに社会に帰れるように道を作るのが私達の使命だ。
あの人たちの作る裏道では本当の意味の幸せなんてないと僕は思ってるよ。」
「あっ、その僕も同じ考えです。
ただ、大隈さんが承認しないだけで、今のところ20件ほど裏に回せる対象者はいる感じです。
どうしますか?今、社長たちに手を切られると財政面できつくなりますよ?」
頭の痛い問題である。頭を掻きながら、どうするべきかを考えた。裏に回されれば、きっと対象者には負担をかけてしまう。かと言って、会社のお金を実質握っているのはあの人なのだから反発を続けるわけにもいかない。
苦肉の策ではあるが
「わかった、大井君。
ステージ4の対象者をリストアップしといてくれ。その中から僕が2・3人選んで回しておくよ。
その場しのぎだけど、他の人を助けるためには・・・仕方・・・・・・・・・・・
ないよな。」
悔しさがにじむ、大井もそれを感じ取っていたのか
「大隈さん、いっそのこと社長たちを・・・」
「やめておけ。
どこで誰があの人達と通じてるかわからないんだ。
めったなことを言うと命が危なくなるぞ。」
大井はあたりを見回す、周囲には誰もいないが盗聴器の存在は否定できない。
「とりあえず、あの人達には従わないといけない。
リストアップ頼んだぞ。」
そう言って大井の肩を軽くたたいて自分のデスクに向かった。




