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1部

暗い路地裏の物陰から、少し顔を出して周囲をうかがう。誰かが走ってきた足音がしたので物陰に顔を引っ込めると足音は止まり、

「いたか?」

「こっちにはいません。」

「よし、じゃあ、あっちを探すぞ。」

 その言葉とともに走り去っていく足音が聞こえたので 安堵のため息が漏れる。そこに後ろから

「どうだね?私の言った通り彼らはこっちに来なかっただろう?」

 髪もひげも伸びっぱなしで色も真っ白な年齢もわからないホームレス風の老人が言った。何も答えずに疑いのまなざしを向けていると老人が

「どうかを判断するためにも少し落ち着いた方がよさそうだね。

 次はこっちだよ、山本勘二警部さん。」

 老人はそう言ってゆっくりと歩きだした。山本はどこの誰かもわからない老人の背中を見つめながら、小さく舌打ちをし、そして心の中で

『どうしてこうなった?』と自問した。


『国会議員資格認定試験の結果が公表されました。受験人数が750人ほどだったにもかかわらず、合格者数は120名足らずとなりました。

 北条総理や次期首相候補と噂されている黒木俊一議員などは高得点を出して合格されましたが閣僚の半分以上が落選していることから、閣僚であっても試験の結果次第で即クビとなる厳しい体制が取られています。

 次期閣僚の選定は、北条総理が引き続き当選者の中から選定を行い指名する予定であることが発表されました。

 現役国会議員のほとんどが落選しており、今後の政治活動は難しいものとなることが予想されています。

 それに引きかえ現役ではなかった新規受験者のほとんどが合格を果たすなど、日本の政治の転換点が訪れているといえるでしょう。』

 テレビのアナウンサーが一通り話すと画面は合格者から順に名前と点数、顔写真が並べられた画面に移った。

 山本も監視役として試験に同席しており、試験問題も見ていたがかなり難しいと山本でさえ感じたほどだった。

 警視庁特別犯罪捜査課の山本勘二警部は自分以外に誰もいない課の部屋でテレビを見ながら、捜査資料を読んでいた。

 当然というのはどうかと思うが、山本の担当した元国会議員の偉そうなおっさんは2割も取れずに落選していた。

アナウンサーが

『現役の国会議員のほとんどが落選した上、政党としてみても過半数を取れるほどの当選者が出た党はなく、政党そのものの在り方についても今後、議論が必要な状況となり、総理が当選後の挨拶の第一声で、このようなふがいない結果になったことを国民に謝罪しました。

 また、試験の結果が公表された後で、落選者の自宅などに石が投げ込まれる等の器物損壊事件や有権者が事務所に押し寄せて抗議を行う等、一部で落選者に対しての悪質ないたずらや迷惑行為に出る有権者が出ていることに対して警視庁が犯罪行為になる可能性が非常に高いため、元国会議員の方に対する活動は控えるようにとする注意を発表しています。』

 山本は画面に映し出された事務所の入り口に群がる人達の映像や誰の家かはわからないが窓ガラスが割れている映像などを見てため息をついた。

「こんなこと実際にやる人っているんですね」

 山本は後ろから声をかけられたので振り向くと、特別犯罪捜査課の巡査部長の加藤が立っていた。

「なんだ、まだいたのか?」

「今度の昇格試験に向けて勉強してるんですよ。

 キャリアだとは言え藤堂より階級が下なのは、そろそろ卒業しようかなと思ってるんです。」

「ああ、なるほどな。」

「で、警部はどう思いますか?」

「昇進についてか?」

「いや、このニュースですよ。」

「こんなことしても何の意味もないだろうな。

 自分に前科が付くだけで、結局は政治家なんて精神の図太い奴らだから損害賠償だなんだと言って金をとられるだけなんじゃないかと思うな。」

「ああ、優秀な弁護士さんとか知ってそうですもんね。」

「自分が元弁護士ってやつもいるだろうしな。」

「じゃあ、この人たちの行動は全て無駄なんでしょうか?」

「政府があえて作り出した状況である以上は、これが無駄かなんて判断はできないな。落選したらこんなにきつい目に遭うってすれば冷やかしで受験する奴もいなくなるだろうし、何より受かった人間の格が上がる。

 狭い門だからこそ、その先に進んだものが称賛され、世間の注目を浴びることになる。」

「難しい話ですね。」

「まあ、こんなふうに考えてるのも俺くらいだろ。

 時間も遅いし、早く帰って休めよ。

 そろそろ、総監から捜査命令が来てもおかしくはないからな。」

「何か事件ですか?」

「いや、ただの勘だよ。」

「なるほど・・・・・・・警部も早く切り上げて帰ってくださいね。」

「おお、そのうちな。」

「それ帰らない人の言う奴じゃないですか。

 まあ、いいか、じゃあお先に失礼します。」

「お疲れ・・・・」

 山本はそう言って手をヒラヒラと振り、手元の資料に目を戻した。


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