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ショートショートアンソロジー(怪奇・ホラー編)

仮想通貨のダイヤル

「おくりびと」になりたいですか?

「おくりびと?

あんなのなるもんじゃないと思ったよ

そう、特に棚ぼたなんてろくなもんじゃない」


「もう億り人の仲間入りだからいいって?

でも、まぁ、お前も気を付けろよ?」


 ◇ ◇


喫茶店でノマドしてたときの話だ


目の前で席をたった女性が何か紙のようなものを落としていった

レシートにしては大きい

俺はつい好奇心に駆られて拾ってしまった


「あの」


振り向くと既に彼女はいなくなっていた

手に取った紙を開いてみると英単語が並んでいた

文脈もなにもない、ただの英単語だ


「この単語の羅列、どこかで見覚えがある、なんだっけ………」


sky play seed ....


「シード………?」


シードとは、仮想通貨を保存するウォレットと呼ばれる仮想金庫の鍵のようなものだ


俺はこの単語を知っていた

自分の使っているウェブウォレットと同じキーワードだったからだ


家につくなり飛び付くようにパソコンの電源を入れた

ひとつひとつ間違えないように単語を入力していく


「ビンゴ!!」


急かす気持ちを抑えつつ、画面の増えていく数字を眺めた


「十、百、千………」

「1コインが200万だから………時価100億円だって?!」


軽く身震いした

億り人、憧れていた言葉が頭をよぎった


「でも、まてよ」


(これはもらっていいのか………

警察に拾いましたと言うのか?

いやいや、下手をしたら俺が不正アクセスなんたらにひっかかるんじゃ?)


大体、本人のものと証明するものはない

まして、持ち主が出てきたところで本物か分かるはずもない

自分のウォレットに送金してしまえばなんとでもなる

送金には時間がかかるし、さっさと処理してしまおう


送金処理を終わらせると、仮想通貨仲間に自慢するためにスマホを手に取った


「大金が手に入ったんだ

嘘って?ホントだよ

少し分けてやるよ

また明日、お前の家でな!」


通話をきり、画面に映る数字をニヤっと眺める


明日には大金が俺のものになるのだ


 ◇ ◇


翌日


早速、ウォレットの中身を確認する


「トランザクションの承認は完了してるな」


一定数の承認がなされないと送金処理は完了しない仕組みだ


ふと視線を下げると、自分が送金した以外の入金履歴が目に入った


見覚えのないアドレスからの入金だ


「マイニングはしてないけれど」


珍しいメッセージ付きの入金らしい


『送金したのですね。ありがとう

お陰で私は助かりそうです

あなたの無事を祈っています』


(助かる?無事?)


メッセージの意味がわからない

第一なぜ俺のウォレットアドレスを知っているんだ?


その瞬間、玄関の方からけたたましいドアが壊れるような音が部屋に鳴り響いた


ガンガンガンガンガンガンガンガン


「うわっ?!」


思わず椅子から転げ落ちる


慌てて玄関に向かうと何事もなかったかのようにシンと静まり返っている


(誰だ、誰にしてもタイミングが悪すぎる)


恐る恐るドア穴を覗きこんだ


………外には誰もいない


念のためドアチェーンをかけてゆっくりと扉を開く

視界の届く範囲には誰もいない


「なんだよ、うちじゃないのかよ………」


ホッとして吸い込んだ息を吐き出したその時


隙間からドス黒い何か

いやハッキリと俺を見る突き刺さるような何かが目に入った


「うわぁぁぁぁ」


慌ててドアを閉める

震える片手を抑えながらカギとチェーンをロックする


(なんだあれ

ヤバイヤバイヤバイ

本能がヤバイと言っている)


へたっと座りこんで足がカタカタ震え、まともに立てない


ガンガンガンガンガンガン


何かが執拗にドアを激しく叩き続ける


「ヒッ………」


生まれたての小鹿の様に転がりながら、急いで部屋にもどった


『あなたの無事を祈ってます』


(あれは、あの女はわざとだったのか

クソがっ!クソがっ!クソがっ!)


心の中で紙を落とした女を思い出し、思い付く限りの言葉でなじった


あのウォレットのせいなのか?!


ヤメロ!ヤメテクレ!!


先程まで激しく鳴り続けていた玄関の音が突然やんだ


 ◇ ◇


軽く一呼吸いれると少し視線をそらしつつ、ぼそりとつぶやいた


「………ひどい目に遭ったヨ」


向かいに座っている彼が少し不安そうに苦笑いをして問いかける


「なんでこの話をシたのかって?

話しておかナいと困るだロ?」


まさか、そう言わんばかりに顔が怒りと困惑と不安でひきつっている


「コの話をしてると言うことは俺は助かっタというこトだ」


そんな彼の感情はお構い無く、淡々と台詞を吐いた


「ドうやって助かっタカって?」


大したことはない


「オクリビトだよ

オクリビトになればいいんダ

お前もなりたいんだロ?」


「背後のベランダにいる彼女にきく、トい、い、よ………」


オクリビトは一人でも多い方がいいだ、ロ?

くれぐれもうまい話にはご注意を。

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