8、記者と出会う
8、
「少し取材陣の様子を見に行ってもいいですか?」
クラツクニ本土に到着してからしばらくたって――
山田氏はそんなことを魔女に申し出てみた。
理由は、これといってない。
強いて言うのなら、興味があったらからだ。
また、山田氏にとってもクラツクニは完全に未知の場所であった。
こっちにいた時は常に魔女の部屋の中で、一瞥したことすらない。
だから、取材陣と立場は見たようなものだ。
「かまわん。行ってこい」
お許しはあっさりと出た。
ありがたくだんだん慣れ始めた城内を飛んで、ホールを目指す。
ついてみると、ホールは大きな半透明の丸天井に包まれていた。
その間あいだに巨大な窓ガラスがあり、外の様子を直に見れる。
取材陣はガラス越しに魔界の風景を写真に撮っており、誰もちっぽけな山田氏に気づく者はいない。
しばしホール内を飛ぶうち、山田氏はある女性に目をやった。
カメラで熱心に外の様子を映し、その迫力は少しおっかないほど。
山田氏は近くのテーブルに着陸して、様子を見てみる。
女性が写真に撮っているのは、どうやら風景ではないらしい。
どうも城の内外に数多にいる使い魔たちだ。
ホールにいる使い魔メイドにも声をかけて、写真を撮らせてもらっていた。
まるで怪獣映画にはしゃぐ小学生みたいだ。
「熱心ですな」
しばし小休止というところか、カメラを手にテーブルに近づいてくる女性に、山田氏は何気く声をかけてみた。
女性のほうは周りをキョロキョロするばかり。
そこで山田氏は自分が小さなコウモリネズミであることを思い出した。
不思議なことが当たり前の世界ではあるが、これが話すと考える人は少なかろう。
何よりも山田氏のサイズはとても小さいのだ。
「ここですよ」
山田氏は宙に浮きながら、女性に再度話しかけた。
その途端、女性は目を丸くする。
「うわっ。見たことのない……あなたも使い魔?」
カメラを向けながら、女性は妙に嬉しそうな声で言うのだった。
「そうですが……」
「ずいぶん可愛くって小さいんですね。でも、見たことはあるかも」
女性の態度が何となく妙なので、山田氏は首をかしげてしまう。
「そういうもんですか」
「あなた、女王陛下が姿を見せる時によく一緒に映ってたんですよ」
「ああ、なるほど……」
言われてみれば、山田氏は使い魔らしく常に魔女と一緒にいるようだ。
「良い機会だから色々お話をさせていただいてかまいません?」
女性はボイスレコーダーを手に、ウキウキした態度。
「いいですけど」
「良かった。それじゃあ……あ、私はネットでニュース記事を書いてる鈴谷っていいます」
「ヤマダです」
「え?」
山田氏の名前を聞いて、女性は首をひねったようだった。
「それ、何か日本の名前っぽいねえ。日本にちなんでつけられたとか」
「あまり気にしないでください」
山田氏はちょっとごまかすように翼をはためかした。
「ふうん。同じ発音ってだけなのかな。ま、いいや。ヤマダさん、あなたは女王陛下の使い魔ということですが、使い魔にも番号とか順番みたいなものはあるんですか?」
「番号はないですけど……自分はちょうど17億5806万4177番目だったかな」
「17億! それは、すごい数ですね。なるほど、あんなドラゴンや悪魔みたいながそれだけいたら、最強の軍隊かもしれません」
と、女性は目をランランと光らせる。
「そういえば使い魔は色々種類がありますけど、何か明確な違いはあるんですか?」
「ええと……」
よくわからない質問に、山田氏が困っていると、ふと脳内に囁く声が。
――大別すると我が造り出したものと、それ以外のモノだ
魔女の声だった。
どうやら、山田氏を通じて質問に答えるつもりらしい。
こうなってくると山田氏は、魔女の代理という感じだ。
「女王自身の造り出したものと、そうでないものの二種だそうです」
「ほうほう。それ以外のモノとは? 具体的にお願いします」
――主に野生の獣だったり、よそからきて魔界に住みついた者どもだなあ。そういう奴らと約を結び、我の魔力を与えることで使い魔にするのだ。
「野生動物やよそからきて魔界に住んでいる住人なんかを契約で、使い魔にすると」
「すると、人間とも……?」
――まあ、できるな。あまりやる気は起きんが
「できるけど、やる気がしないそうです」
「ふむふむ……ちなみにヤマダさんは?」
「……契約を結んだほうかな」
「そうですか~」
聞きながら、鈴谷女史は何度も何度もうなずいている。
「では、どれが創造型でどれが契約型かお聞きしたいんですけど……」
続いて女史はとったばかりの写真を見せながら尋ねてきた。
それに魔女の声に合わせて答える山田氏。
主にドラゴンや女性型は契約型で、悪魔型のものは創造型の傾向があった。
ドラゴンはともかく、悪魔娘ともいうべき姿のメイドなどが契約型というのは、少々以外なような気もしたが。
そこで山田氏は、悪魔娘たちにもかなり人種的違いがあるのを改めて気づくのだった。
「ところで使い魔にも種類ごとに名前があったりするんですよね?」
――ないな。
「ないそうです」
「ええ! でも、それだと色々不便じゃありませんか」
――そうでもない。
「不便は感じないそうです」
「はああ……」
――全ての使い魔は手に取るようにわかる。名前なんぞ不要だ。
「感覚的に把握しているので何も不自由ないようですね」
「それはすごい……」
鈴谷女史はうなずきながら、実に生き生きとしている。
まさに、人生を楽しんでいるという感じだ。
「でも、魔法が使えるというのはすごいですね。女王陛下も使い魔も。人間には到底不可能なとですから」
――そうでもない。人間にも使おうと思えば使える。
山田氏はその答えを出すべきか、どうか。一瞬躊躇した。