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7、クラツクニ本土へ

 7、




 戦争は文字通り一瞬で終わってしまった。

 ムチャクチャになった敵国は悲惨の一言だが、魔女にどうでもいいことで。


 別に興味もないらしく、占領も何もせずに放置したまま。

 国民は悲惨な状況下にあるが、同盟国の支援でどうにかなっているらしい。


 ただし、復興後は同盟国に都合の良い国にされているだろうが。


「さて、どうしたものかな?」


 いつのも玉座で魔女は考え事にふけっていた。

 クラツクニ本国の支援によって暴動は反乱が起きるほど国民は飢えていない。


 それでも、外国との貿易がまだ途絶えている状況なので、不安定なところがある。


「病院なんかはぐんと安くしてみたんだがなあ?」


 魔女の言葉通り、クラツクニとなってからは、国民は保険で病気になった時にかかるお金はほぼゼロになっている。

 おかげで助かった人は多いし、クラツクニを歓迎する人も多い。


 ただし外国を徹底的に攻撃したり、見せしめの処刑を行うので、それに抗議する人もやはりけっこうな数になるのだった。


「まあ百年もすれば考えも変わるだろうが、もう少し我が国の国民たる立場を受け入れるよう説得みたいなものをできんものかなあ」


 と、山田氏に聞いてくる魔女だが、その声には今一つ真剣みがない。

 言葉通り百年もたてばそのうちに……と考えている証拠であろう。


「……知りませんよ」


「まあそう言うな。税をも安くしておるし、そう民を痛めつけているわけでもないぞ」


「そりゃそうですが……」


「ならばもう少し我に協力せい、ヤマダよ」


 魔女にそう言われて、山田氏は少し考えてみた。


「見たところ、あなたというか本土に対する不信感があるみたいですね」


 と、山田氏は率直に言った。

 すなわち、魔女や魔界というわけのわからないモノに支配されているという感覚。


 特に魔女がどこからやって来たかもよくわからない。

 魔界というものが本当にあるのか、という疑問もあるようだった。


「ふーむ。そう言えば本土をきちんと紹介してはいなかったな。ならば、そこから行くか」


 魔女は最近扇子を使い始め、優雅にあおぎながらそんなこと言う。

 新たな命令が出たのは、そのすぐ後だった。


『クラツクニ本土の取材を行う者を募集する。プロアマを問わず』


 そんな広報が大々的に開始された。


『最大一年間まで本土での取材を援助するので、ふるって参加すべし』


 これに大勢の人たちが関心を寄せた。



 魔女がやって来た、クラツクニという異次元の世界。

 そこにあるものを想像するだけで、冒険心をくすぐられる人々は激増した。


「人類が初めて目にする異世界だ。これは見逃せないぞ!」


 大勢の人間がこぞって集まり始め、そればかりか海外からも声が。


「私たちもクラツクニ本土をぜひ取材したい。許可をください」


 と、頼んでくる外国人たち。

 これによって、クラツクニは本格的に海外との交流を開始することとなった。



 大勢の取材希望者がおっかなびっくりで日本へとやってくる。

 中には純粋に取材目的ではなく、よからぬことを企んで入国する者もいたが――


 そんな連中はあっと言う間につかまって、斬首されてしまった。

 これでまた抗議の声が出るが、魔女は気にせずにスパイ狩りを行う。

 このおかげで各国のスパイたちにとって日本に……クラツクニに行くということは事実上の死刑宣告を意味するようになったのである。


 しかし、何人死刑になろうがスパイや密入国者の絶えることはなかった。

 これは本土の援助によって日本人が良い暮らしをしていることがネットなどを通じて世界に広まってしまったせいらしい。


 国連などは、


「豊かな国なのだから、他の国に援助しなさい。移民を受け入れなさい」


 と、呼びかけるが、これも魔女は無視。


 いや、わずかだか援助をしないわけではなかった。


 日本国内でも他国を援助せよを言い出す人々がいたが、魔女は彼らの全財産を没収する。

 そして、そのお金を援助にあてたのだった。


「人助けなんてものは自分の金でやるものだ。国の金庫を当てにするな」


「何でこんなことに……」


 と、家を失ってホームレス同然になってしまった人々は泣いたがどうしようもない。


 他の人たちは関わりあいを恐れて助けようともしなかった。


 むしろ、


「好きな人助けや国際貢献ができて良かったじゃないの」


 などと、冷淡なものだったという。



 それはまあ、さておき。


 いよいよ本土へ取材者たちが赴こうという日。

 指定された大きな広場の真上に、魔女の空中城がやってきていた。


 改めて見る白の威容に人々は嘆息するばかり。

 さらに護衛ということでドラゴンをはじめとする使い魔たちが広場を囲んでいた。


「あれを見ると、日本があっと言う間に占領されたがわかるな」


「あのドラゴンにはミサイルも効かないんだろ?」


「モンスターというよりはカイジューだね」


 騒ぐ取材陣の上空へ、紫の魔法陣がゆっくりと展開する。


「あ」


 と、誰かがつぶやいた途端、取材陣は全員城の中へと移動していた。

 城内に用意された取材者たちのためのホールであり、そこは豪華な食事がバイキング形式で並んでいる。


 さらには、美しい使い魔女性のメイドたちもずらりと。


「城はすぐに本土へ向かいます。食べ物や飲み物はご自由にどうぞ」


 それでは、とばかりに取材陣がご馳走へ歩み寄った途端、場内は一瞬薄暗くなる。

 明かりが戻ったと同時に、いくつもの画面がホール内に展開した。


 そこに映るのは紫の空の下へ広がる巨大な大森林。


「これはすごい……」


 玉座の間で山田氏が感嘆の声をあげていた。

 魔女の前に広がる画面内では、紫の空、厚い雲から走る稲妻に照らされる大森林。


 その中を巨大な、怪獣のごとき獣がゆっくりと移動している。

 薄暗い空には巨大な鳥に群れが羽ばたいていた。


「よく考えれば初めて魔界を目にしたわけだけど……すごいものですね。一体全体どれほどの広さがあるのでしょう?」


 山田氏が好奇に駆られて魔女に聞いてみると。


「そうさな。地球の大きさと比べて、大体1400倍というところか」


 全くもってとんでもない数字が魔女の口から出た。


「……い、いくら何でもそれは」


「嘘だと言うのか? しかし地球の全人口を全て受け入れても十二分に余裕があるぞ」


 少なくともな、と魔女は自慢そうに笑うのだった。


「さてと、しばらくは魔界の空を遊覧して、後で直に見てもらうとしよう


 魔女は言いながら、いつの間にか手にしていたグラスを傾けた。

 グラスからはアルコールではなく、コーラの匂いが漂う。





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