表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/23

6、戦争勃発

 6、




「大変なことになった……」


 山田氏が羽根をせわしなく動かして、広い室内を飛び回っていた。

 魔女は例の大使を殺した後、死体を箱詰めにして大使館に送り――


「無礼を働いたによって手打ちにした。文句があるならかかってこい」


 と、例の国に言ってのけたものである。

 やられたほうの国は当然怒り狂い、


「なまいきな魔女め、やっつけてやる!」


 それいけとばかりに軍艦を出し、戦闘機を飛び立たせた。


「一体どうするつもりですか」


「まあ黙って見ておれ」


 横で文句を言う山田氏を撫でながら、魔女は不敵に笑うのだった。



 戦争開始のニュースが巷に流れ、人々はあわて騒ぐ。


「戦争だ、戦争だ!」


「敵の軍隊がやってくるぞ、これもあの女のせいだ……」


「逃げよう、海外に逃げよう!」


 こんな具合であったが、すでに日本は魔女の支配下にあるから好き勝手に海外に出ていくということはできない。

 反戦デモを提案する者もいたが、急にやったところでどうにかなるものではない。


 そんな日本人を尻目に、日本各地から無数の使い魔が飛びかい、敵国を目指し始めた。


 先頭を行くのは凶暴そうなドラゴン。

 次に続くのは、悪魔のようなもの。最後に人間に似た悪魔娘たちが。 


 軍艦や戦闘機とぶつかり、いよいよ戦闘が始まる。

 しかし、自衛隊の時と同様ミサイルも弾丸もドラゴンに通じない。


 巨大なドラゴンを一時的に炎が包んでも、すぐさまより凶暴性を増した叫びがあがる。

 そして口から吐き出される超高熱の火の玉が軍艦に叩きつけられるのだった。


 炎は鉄を容易く溶かし、火薬を吹き飛ばして艦を沈めていく。


 また戦闘機も空中で捕えられ、爆散していった。

 運良く脱出したパイロットも途中で炎を受けて即死してしまう。


 空を切り裂くミサイルも、ドラゴンを一時的に足止めするのがせいぜいで、ダメージは全く与えることができなかった。

 軍人たちは、戦争を開始した祖国を恨みながら海の藻屑と化していく。


 ただで倒すことができないのに、使い魔たちの数は圧倒的だった。

 主戦力となるドラゴンだけでも何千、いや何万いるのか見当もつかない。


 そんなものがミサイル顔負けの炎を吹いて暴れまわるのだ。

 相手をするほうはたまったものではなかった。


 その悲惨な映像は、使い魔を通してネットで全世界に流されていた。

 巨大な目玉にコウモリの翼をはやした通信用の使い魔だ。


 一方的な殺戮は長くは続かず、日本を目指した敵軍が全滅して終わりとなる。


「悪魔だ……」


 自分の軍がやられるのをネットで見ていた敵国大統領はそうつぶやいた。


「冗談じゃないぞ、あんなに強いなんて知らなかった。これはインチキだ!」


 泣きべそをかいて憤慨するけれど、もうどうしようもない。


 グズグズしている間にも、使い魔の群れは悠々と敵国に侵入していく。

 あわてて軍が応戦に出るも、結果は悲惨な同じ。


 ドラゴンは軍施設を片っ端から焼き尽くしていき、かろうじて生き残った軍人たちを悪魔の姿をした使い魔が叩き潰していく。


 こうなるともう、恥も外聞もない。

 他の部隊は一目散に逃げていき、守るべき国民はほったらかしだ。


 というか、巻き添えを食らって主要な都市は壊滅状態に陥っている。


「これは大変だ……」


 魔女の圧倒的な戦力を知って驚いたのは他の国々。

 これでは迂闊に首を突っ込めない。

 下手に関わり合いになって、使い魔と戦う愚考を犯すわけにはいかないのだ。


 そんなことをしているうちにも、敵国では街が焼かれ、人がゴミみたいに死んでいく。

 大統領はあわてて自分だけ国外に逃げてしまったため、現場は混乱。


 このままでは一日と待たずに、この国は滅びてしまうだろう。

 そんなところまで追いつめられてしまった。


 逃げ出した大統領、


「この恐ろしい虐殺行為に抗議する!」


 と、ネットを通じて叫んでみるが、何の意味もなさない。

 むしろ白々しいと軽蔑の視線を受けるだけだった。


 しかし。


 この戦争とは言えないものに待ったをかけるものがいた。

 以前魔女に大使を送った同盟国である。


「これ以上の戦いは無意味でしょう。そろそろやめてはどうです」


 と、ネットを通じて魔女に呼びかけたものである。


「まあ、待て。もう少し敵を皆殺しにできる。そうすれば後腐れはない」


 対して魔女は、恐ろしい返事を笑顔で送った。


「ちょっと待ってください」


 呆然としていた山田氏がここにきて人類愛とも言うべきものを刺激され、言った。


「ここで皆殺しにしたら、もう遊べなくなるのですよ? いいのですか?」


 山田氏はあえてそんな言いかたをして、魔女の説得にかかる。

 人道とか平和を説いても、この魔女には効果はないと見たからだ。


「なるほど……。確かに、生かしておけばまた戦争を仕掛けてくるやもしれんな?」


 はたして、効果はあった。


 もう少しで敵国民を文字通り全滅というところで、魔女は使い魔を止めた。


「ま、しばらくはおとなしくしておるだろう。ここらで引くか」


 そう言って、敵国を灰にしつつあった使い魔を引かせるのである。

 こうして、山田氏は世界史上に残りそうなジェノサイドを止めることができた。


 とはいえ、街も何もかもをほとんど焼き尽くされた後では今さらというか……。


 ここで得をしたのは、同盟国である。

 戦争が終結した後すぐさま支援を行ったのだが、その後で行われる復興はほとんど同盟国の企業が受け持つことになった。


 まさに国家レベルの災害だから、かかるお金も莫大。

 同盟国は大儲けをしたことになる。


 さて、隣で様子を見ていた隣国は、


「しまった。この隙に侵略すれば良かった……」


 と、密かに悔しがった。

 ただ、ほとんど破壊された国を侵略しても、結局復興のためにお金を使わねばならないからこれで良かったのかもしれない。


 ちなみに日本国内では、


「この侵略に対してNOと言おう!」


 そんなデモを行う団体が出てきたけれど、魔女は無視していた。

 しかし、そのうちに政治家までも一緒になって、


「魔女の戦争に抗議する。敵国の復興支援と賠償をしよう!」


 という運動を始めたので――


「アホ」


 と、魔女は使い魔たちに彼らを捕えさせると、財産を没収した上で国外追放にする。


 さすがに山田氏もこれを止めることはできなかった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 『叫び』が『叫ぶ』になってますね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ