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4、恐るべき女王

 4、




 日本が魔女に征服されて数日後。


 山田氏は魔女の許可をもらって、東京の街を飛んでいた。

 許可など下りまいと考えていた山田氏の予想とは裏腹に、


「良かろう。お前の目でどう変わったかよく見てこい」


 実にあっけなく許された。


 小さくなったネズミコウモリの姿で山田氏は街の様子を見ていく。

 街は驚くほどに静かというか、平和だった。

 人々の表情はまだ戸惑いが多く見られ、食料品などを大量に買う人も。


 もっとも。


 街中にいる使い魔たちによって、あらゆる資源は日本中に行き渡っている。

 テレビなどのメディアは無用な爆買いをやめよと呼びかけていた。


 学校なども休校となっているところも多かったが、半数近くは開いている。

 児童・生徒たちの表情は大人以上に困惑しているようだった。

 中には授業そっちのけで、空を飛ぶ使い魔たちを撮影しているヤツも。

 のん気に、ドラゴンがかっこいいとぬかす悪ガキどももいた。


 インターネットを調べてみると。


 あらゆるところで使い魔たちの姿を撮影した動画が飛び交い、騒ぎとなっている。

 特にキリスト教圏の反応は良くも悪くも過剰なものだった。

 世界の終わりだと暴徒が暴れ、警官隊と激突している国も。

 すでに日本が魔女の支配するクラツクニに併合されたことは報道された。


 それでも騒ぎが起きないのは、魔女の軍勢があまりにも圧倒的だからだ。

 銃火器が通じたとしても、圧倒的な数の差で日本は負けただろう。

 と、山田氏も今なら理解できる。


 日本の隅から隅まで使い魔たちが目を光らせて、それでもなお全部の使い魔が日本にかかりきっているわけではない。

 その数は17億以上。日本の全人口よりも多いのだから。

 おまけに使い魔たちは大なり小なり魔女とリンクしており、忠誠は絶対。

 使い魔の眼はすなわち魔女の目でもある。


 これは生前の記憶や自我が残っている山田氏も例外ではなかった。


(今見ている光景も、全部魔女に通じているんだなあ)


 そう考えると、虚しいような不快なような気もするが、大きなものではない。

 できれば魔女が気まぐれで悪政をしかないようにしてほしいものだ、と思う。


 ところが。


 山田氏が街の上を飛んでいると、いきなり大きな声が響いた。

 見ると、大勢の人間が暴れながら商店などを襲っているではないか。


 使い魔としての感覚で見てみると、どうも日本人ではないらしい。


 祖国を離れた地でこんなことが起き、ヤケクソになったのかもしれぬ。

 普通なら警察の出番だが、警察はまだ使い魔たちによって制圧されたまま。

 このまま暴徒は野放しか。


 そんな心配をよそに、すぐさま使い魔たちが飛んできて暴徒を鎮圧してしまう。

 暴徒たちは何か言い訳をしているようだったが、使い魔が聞くはずもない。

 あっという間に捕縛され、連行されていく。

 それとは別に女性型の使い魔が破壊されたところへ行って話をしている。

 使い魔はすぐにその場を離れたが、その際に破壊されたものを魔法で修復した。


 気になって山田氏がネットにつないでみると。


 外国人が暴徒となって暴れる事件。

 こういったことが日本のあちこちで起こっているらしい。

 もっとも、五分もたたずに使い魔たちに鎮圧されてしまうので、平和なものだったが。

 ネットの掲示板では使い魔の迅速な対応を称賛する声も。


 さらに面白いことに、暴徒たちの多くは――


「俺たちは女王様の親衛隊だ」


 などと称して暴れていたらしい。

 当然魔女がそんなものを募集したという話は聞かないから、勝手に言っているだけ。


「どうされるつもりですか、あの連中」


 山田氏はテレパシーでもって魔女に尋ねてみた。


「決まっているだろう。殺すのさ」


 何でもないことのように魔女は応えた。


「でも、裁判もなしに……」


「勝手に割れの親衛隊などでぬかすバカどもだ。拷問にかけんのがせめてもの慈悲だ」


「……しかし」


「それにな。これは見せしめにもなる。我の支配する国が日本のような生ぬるいところだ、と勘違いしてもらっては困るのだ。罪状を公表して今日のうちの処刑するよ」


 ワイングラスでも片手に持っていそうな口調で、魔女は言った。


 それは本当にその通りになる。


 暴徒たちはそれぞれの詳細なプロフィールを共に各メディアやネットに公表され、そのまま斬首刑になってしまった。

 魔女は別に宗教や文化などの弾圧は行わなかっただけに、これは衝撃で。

 この情け容赦ない処理に日本でも世界でも批判が出たけれど。


 同時に、称賛する声も多かったことを記しておこう。


「あまりにもむごい。魔女は魔女だ」


「いや、よその国で好き勝手に悪事を働くような奴らはこれでいいのだ」


 日本の政治家たちも喧々諤々と口論しあったが、日本は魔女の支配下。

 八つ当たりとばかりに首相を攻撃するのが関の山であった。

 この恐るべき処分がなされてから、日本中の治安は急激に良くなってしまった。


 在日外国人たちは次々と、


「早く国に帰りたい! 何とかしてくれ!」


 と、大使館に泣きつく始末。


 中には、


「いや、できるだけねばってこの様子を全世界に見せてやるぞ」


 そうがんばることを誓う剛の者もいたようだが。



 やがて魔女は暴徒以外にも犯罪者たちを次々に捕縛させていった。

 さらには以前より捕まっている死刑囚たちも次々と処刑させていく。

 いつしかネットでは『首切り魔女』というあだ名が飛び交うようになっていた。


「……こういうのは取り締まらないんですか?」


 ネットの噂を見ながら、山田氏は聞いてみた。


「取り締まってほしいか?」


「……いいえ」


「なら安心しろ。そんなことはせん。ほっておくさ」


 魔女はうるさそうに手を振り、


「それよりも、だ。この映像はいちいち修正があって鬱陶しいな?」


 魔女が見ているのは、いわゆるところのアダルトDVDと呼ばれる代物。

 人間ならぬ魔女が見て、面白いのかどうか疑問だったが。


「よしよし。せっかくだから、こんな無駄はせんようにと法律を変えさせるかな」


 その日のうちに命令が出され、その手の法律は廃止された。

 そもそも、すでに日本の憲法・法律というものが意味をなさなくなっているのだが。

 これについて首相が面会を持てめてきたが、


「やかましい、あほ」


 魔女はすげなく追い返してしまった。


 妙なところで自由になってしまった日本である。





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