表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/23

21、魔法の力

 21、




 とにかく諸外国は様々な手段を講じてクラツクニに対するスパイ活動を行っていた。

 それらが全て虚しい勘違いや徒労に終わっても、それを止める気配はない。


 というか、一種ヤケクソの気分なのだろうか。

 しばらくして、リムネによる魔法の授業がネットで動画配信されるようになる。


 あっという間に爆発的な再生数を記録したが、内容はそのまんま。

 授業の内容を工夫もなく撮ったものを流しただけ。


 映像そのものにさほど面白いところはない。

 その時から生徒たちは一つの宿舎に集められ、そこで生活をするようになった。


 一応狙われる危険性をかんがみてのことらしい。


 とはいえ、現在の日本は、 


「外国のスパイは一秒たりとも生存できない場所」


 と噂されるほどスパイ活動には厳しくになっている。


 少なくとも生徒を狙う不心得者は、いたとしても何もできないのが現状だ。

 それと同時に、他の国から魔法について学びたいという希望者を募り出す。


 希望者はすぐさま膨大な数となった。

 急ピッチで専用研究施設が建造され、学校も校舎が建てられる。


 それらは全てクラツクニ本土にあった魔法製人工浮遊島にまとめられた。

 日本というか世界初の浮遊島は東京湾の上で、悠然と浮かぶ。


 その風景はあっと言う間に観光スポットとなり、全国から見物人が殺到した。

 学校の始動はまだ先のこととされたが、研究施設はすぐさま稼働を開始する。


 審査をクリアした諸外国の科学者が島に集められ、魔法の科学的研究を始めたわけだ。

 今までの研究体制とは比較にならないその巨大さに、世界の指導者たちは震撼する。


 が、そのへんはクラツクニ――魔女には関係のない話で。

 まず、魔法の基礎というか根幹と言える魔力の研究は、なかなか進まない。


 というより、まず調べることが多すぎて何とも言えないらしい。

 山田氏がちらりと覗き見したところ。


 魔力は宇宙の法則に信じられない強さで逆らう、逆らえる力らしい。


 形あるものは滅び、秩序は混沌に向かう。

 そうした根源的な法則を、鼻で嘲笑うような力。


 まさに、魔法としか言いようのない力。

 それが魔力というものらしい。


 こんなものが、微量とはいえ生身の人間が生み出し、操作できる。

 その事実に大半の科学者は、少々おかしくなったようだ。


 まさに夢の力、夢のエネルギーなのだから。

 ただし、それも人間が有し、操れるレベルではできることは高が知れている。


 せいぜいケチな超能力者や種のない手品ができる程度だとか。

 その魔力を信じられないほど膨大に持ち、操れる故、魔女の魔法は、


「私とは比べものにもならないのです」


 と、リムネは生徒に語ったそうだ。


 魔法の研究が将来どんなことになっていくかは、まだわからない。

 しかし、あちこちの国では独自の魔法研究を必死で行っているらしい。


 研究というよりは、解析とするべきなのか。


「この世界も広いな、いや、宇宙というべきか」


 玉座に座る魔女は唐突に言った。

 中学生くらいの読みそうな宇宙関連の書籍を読んでいる。


 どうも研究施設からの報告書を呼んで宇宙に興味を持ったらしい。


「そりゃあ、広いですよ」


「しかし、現在人間の住めるところは地球くらいしかない」


 クラツクニを除けばな、と魔女は妙な笑いかたをする。

 そうなんでしょうねえ、と投やりに山田氏は応えた。


「だからな、今後の方針は決まったぞ。ヤマダよ」


「何なんですか」


「宇宙開発だ」


「う」


 うちゅう、と山田氏は胡乱な声を出した。人間だったら表情もそうなっていただろう。


「我、いや我らの魔法を駆使して地球外に人間の住める場所を押し広げていく」


「そ、それは壮大というか人類に貢献しそうですねえ」


 よくわからない山田氏は適当なことを言った。


「最初はまず月を我がクラツクニの領土としよう」


 魔女は本を読みながら、冗談みたいなことを言った。

 しかし、多分冗談ではないのだろう。


 馬鹿みたいな話題ではあるが、この少女の姿をした魔物には、


(それを実現できる力があるんだよなあ……)


 山田氏は幼い頃に観たSF映画を思い出しつつ、本の表紙を見つめる。


「そういった研究にも協力なさるんですねえ」


「なさるつもりだ」


 言って魔女は軽く手を振るった。


 同時に横長方形の画面が展開する。

 画面には、紫色のクラツクニの空が映っていた。


 大地から岩山が剥離して浮き上がり、その周辺を紫の人魂みたいなものが飛び交う。


「何をなさってるんです」


「月に行くための舟を、とりあえず土台だけ造っている」


 まるで近所に散歩でも行くような態度で魔女は笑った。

 とんでもない話である。


 きっと、他の者がやれば個人どころが国家が総動員になっても、長い月日と莫大なる予算がかかるに違いない。


 それが、強大な魔力を持つ魔女ならできてしまうのだ。

 こんな存在を人間が恐れないはずはない。


 普通ならば、排除されるか拘束される。

 が、人間の力ではどうあがいてもそれは不可能なわけで。


 ならば、逆らうよりもせいぜい流れに身を任せて、自分たちの生きやすいようにする。

 現状の日本人たちの態度はそんな感じだった。


 他の国では、いまだに戦うかどうかで揉めているところもあるらしい。


(結局、これで良かったのかもしれない)


 山田氏は思う。いや、良い悪いではないのだろう、きっと。

 魔女のせいで良くなった部分もあるが、それはせいぜい日本の内部のことだ。


 世界はむしろ今までのバランスが崩れて、あちこちで戦火が起きている。

 それも魔女のせいだ。


 でも、じゃあ魔女がいなくなれば、いなかったほうが良いかと言うと、


(そうとも言い切れない)


 魔女は全般的に見れば善政――と言えるのかはわからないが、良い統治をしている。


 だが、その一方で簡単に人間を億単位で殺してもいるのだ。

 たまたま日本人の被害者が少ないというだけである。


 しかし、それまでの世界がそのままで良かったのかと言えば。


 そんなことはないだろう。


 何だかんだで戦争はテロはなくならないし、ろくでもないことは多くあった。

 このまま行ったら、今すぐではないかもしれないが、人間は滅んでいただろう。


 そんな予感をうっすらとみんなしていたような気がする。


 だったら――





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ