14、ある国にて
14、
山田氏が魔女のもとで過ごしている頃――
遠く離れたある大国では、連日会議が開かれていた。
部屋の中ではいかめしい顔をした男たちが、スクリーンに映される映像を見ている。
見ると言うよりも、凝視するとすべきか。
映っているのは以前に起こったクラツクニと某国の戦争の様子。
巨大なドラゴンや魔物たちが空を進む中、戦闘機が落ち、戦艦が沈んでいく。
「現在確認されている中で、もっとも強力な攻撃力を持つのがこのドラゴンです」
説明が入ると画面が切り替わり、ドラゴンがその巨大な顎を大きく開く箇所へ。
ドラゴンの口内が青白く輝いたと見えた瞬間、長い光の帯が吐き出された。
光の帯は恐ろしい速度で空を駆け、海上を行く戦艦へ向かっていく。
そして、巨大で武骨な戦艦はまるで紙のように真っ二つに切り裂かれた。
直後に起こる爆発と吹きあがる水蒸気。
その巨大さが、光の帯の常識はずれな破壊力を物語っていた。
「ブレスというよりはビーム砲だな」
映像を睨む大統領がうなるように言った。
「このドラゴンの攻撃で艦隊は一隻残らず撃沈されました。生存者もいません」
今度はドラゴンたちに向かって機銃の雨やミサイルが飛んでいく映像。
だが、それらの攻撃もわずかに動きを鈍らせるのが関の山で、ダメージは皆無。
反対に突っ込んでくるドラゴンの体当たりなどで戦闘機は火を噴いて散っていく。
「これは、本当に生物か? ロボットか何かじゃないのかね?」
「現在のところ、不明です。わかっているのはけた外れの防御力と火力。そして多数存在しているということだけです」
「その数は? 大体でもいい」
「推測の段階ですが、おそらく数千を超えているものと」
「数千……」
この報告に大統領は椅子に深くもたれかかった。
「核ミサイル並の破壊力を持つを化け物がそんなにいるのか……」
「あくまでドラゴンタイプだけの話です。悪魔型や獣型を含めれば数万にもなるかと……」
「おお、神よ――」
大統領は軽く上を仰いでから、片手で顔を覆った。
額からは嫌な汗が一筋、つーっと流れていく。
「そもそも、あのウィッチ・クイーンは何者だ? どこから来た? いや、ヤツの来た場所は現在報告が上がっているが……」
「ダーク・アースに関しては取材陣の報道からしかわかっていません。果たしてよその宇宙の惑星なのか、それともまったく異次元のどこかなのか、皆目見当がつきません」
「うまくすれば新しいフロンティアになるかもしれんが、現状がこれではな」
大統領は目を通していた書類を投げながら、渋井を顔をより渋くさせる。
「仮に、我が国が奴らと戦った場合勝算はあるかね?」
「それも、何とも言えません。相手のことがよくわかっていないのですよ。あの使い魔などに関しても能力や数も確かなことは不明です。向こうの公式ホームページにはそれらしい情報が載ってはいますが、それを信用できるかというと」
「確かにそうだな」
「いざという時には我が国も負けるつもりはありません。しかし、甚大な損失は……」
「まず、避けられないか。こちらの武器がほとんど通用しないということはわかった。しかし例えば核ならどうかね?」
「現在の状況ではどこまで通じるか、あてにはできません。それに仮に通じるとしても……。向こうの本国に届くかどうか保証できません。何しろ、相手は時空を超えたはるか遠い場所にあるのです。ミサイルが届く前に入り口を閉じられたらそれまでですから」
報告した部下は、こめかみを揉みながらうつむき加減で言うのだった。
「とにかく今は平和的外交を維持しながら、相手のことを探り続ける他ありません」
「しかし、何なんだ。ヤツの常識はずれなテクノロジーは……。キリスト教徒としてできれば考えたくはないことだが、本物の魔法なのか?」
「その、『本物の魔法』がどういうものなのか、我々にはわからないので、何とも」
答える部下もひどく言いにくそうだった。
「現在オカルティストの意見を聞きながら分析を行っている最中です」
「まさか今世紀に魔法の研究をすることになるとはね」
「ただ現在の調査では向こうは我が国に敵対的な感情は持っていないようです。と言うよりも興味を持っていない、と言うべきでしょうか」
「それならば交渉の余地はあるということだな」
「日本の工作員は大半が連絡が取れなくなっていますが、残る半分は何とか情報を送ってきています。例の取材にも参加しておりますので――」
「できるだけ早く朗報を聞きたいところだね」
言って、大統領は手元にあったペットボトルをあおる。
「ただ……取材に参加した際施設に仕掛けた盗聴器が全て手元に送り返されてきた……という報告も来ています」
大統領は飲んでいた水を噴き出しかけた。
「おいおいおい」
「こちらの動きは全てとは言いませんが、相当把握されている可能性が高いです」
「それで、スパイとばれた工作員はどういう運命をたどったのかね……」
「何も。ただ落とし物を返却します、とだけ。笑顔で言われたそうです」
「……」
「我々は相当侮られているようですね……」
「それならそれでいい。強大な相手が油断してくれているのはむしろ喜ばしいことだ」
大統領は平静を装うながら、ハンカチで口をぬぐった。
「ただ、使い魔と呼ばれる女たちとの交渉が悪くないようです。袖の下が有効かどうかはまだわかりませんが、情報は徐々に得られていると」
「朗報だな。できれば、我々の友人をたくさん得たいものだ」
「友人たちに魔女にかわって支配階級についてもらえるといいのですがね」
部下は苦笑した。
ダーク・アースでクーデターを起こし、自国に有利な支配者に交代してほしい。
そういう野心が彼らにはあった。
「まあ、すぐにという贅沢は言わないが、彼女らのテクノロジーは欲しい」
「鋭意努力します」
「それまではなるべく平和的関係を望むように強調しよう。何せ人類が初めて出会う異世界の存在なのだからね。歴史に恥を残したくはない」
「それなのですが……」
別の部下が困った顔で報告書を取り上げる。
「西部や南部でDEに対するデモが頻発しています」
「キリスト教関係か。気持ちがわからんでもないが……魔法に関しては未知の新技術であるとして、できるだけ迷信的な印象は払拭したまえ」
「やってはいるのですが、何しろ見た目が見た目ですから」
使い魔のインプたちはまさに女悪魔という姿である。
キリスト教徒でなくても、誤解してもおかしくはなかった。
「また先の戦争における大量虐殺に対して国連も度々DEに抗議をしています。相手は一笑に付しているようですが……」
「やれやれ……」
その時だった。
会議室に慌てふためいた連絡が飛び込んでくる。
「大変です! X国が日本に向けて核ミサイルを発射しました!」




