白い囚人服を着て、地上での罪を償う
霧の中を、僕は歩き続ける。
白く簡素な服を着せられたまま、歩き続ける。
これは囚人服。罪を犯した者が着せられる罪人の証。
僕はこれから罪を償いに向うのだ。生前に犯した罪に対する罰を受けに向うのだ。
どれほど歩いたことだろうか?
やがて、霧の先にボンヤリと何かの姿が浮かんでくる。
ハッキリとはしないが、どうやら何かの生き物らしい。ユラユラと揺らめいているのがわかる。あるいは、風に揺れる布切れか何かだろうか?
歩みを進めるにつれ、徐々にその正体がハッキリとしてくる。
それは老人だった。ひとりの老人。僕と同じように、白い囚人服を着ている。いや、もはや白ではない。ボロボロに擦り切れた囚人服は全体的に黄ばんでおり、ところどころが茶色くなったり黒くなったり変色している。
「やあ、ようやく代わりが来たか」
そう口にした老人は、手にクワを持っていた。どうやら、地面を掘っていたようだ。老人の側の地面の上には、シャベルやツルハシなどの道具が置かれている。これらも、地面を掘るのに使っているらしい。
「何十年。いや、何百年だろうか?えらく長い時間が過ぎたものじゃ」
老人の言葉に対して、僕はこう答える。
「これからは、僕がその役割を担うわけですね」
「そういうコトになるな。いつ果てるとも知れぬ長い時じゃが、必ず終わりの日は来る。こうして、お前さんが来てくれた。それがよい証明じゃ」
「はい。ノンビリとがんばります」
「そうじゃな。それがよい。ノンビリ、ジックリ。決してあわてる必要はない。どうせ、あわてたってそんなに変わらん」
それから僕は、簡単に作業の説明を受けた。
「こうして、クワやシャベルを使って穴を掘る。大きな岩にぶつかったらツルハシを使って破壊してやる。時間はかかってもええ。少しずつ少しずつけずってゆく」
「はい」
「それから、こっち。ある程度の深さまで掘れたら、こいつらを穴の底へと放り投げ、元のように土をかぶせて埋めてやる」
そういって老人は“こいつら”と呼んだ物を指さした。なんだかよくわからない茶色の塊だった。そういうのが、そこら中に落ちている。
「こいつらは情報の死骸じゃよ。地上から飛んできては、この辺りで死んで死骸となる。ホレ、また飛んできた」
老人がしゃべっている間に、小さくフワフワしたものがホタルのように光ながら飛んできた。そうして、そのフワフワとした光は、徐々に輝きを失っていきポタリと地面に落ちて、やがて完全に光は消え失せてしまい、後には茶色い塊が残っていた。
「現世では、膨大な量の情報が飛びかっておる。残念じゃが、それらのほとんどは不必要な情報じゃ。完全に役割を終えた情報はここへ飛んできて、死ぬ。ワシがやっておったのは、その情報の死骸を埋葬してやることじゃよ」
僕は、老人からクワを受け取ると、地面を掘り始めた。そうして、適度な深さまで掘り終えると、茶色い塊となった情報の死骸を穴の中へと放り込み、今度はシャベルで土をかぶせ始める。
「そうじゃ、そうじゃ。うまいもんじゃ。あとは、ひたすらその作業を繰り返すだけ。それだけじゃ。マジメに働いておったら、いずれ終わりの時が来るじゃろう」
「はい」
「さて。それでは、そろそろ行くとするか。長い時の果てに、ついに解放される時が来たわい。これで、ようやく生まれ変われる」
そういい残すと、老人は霧の中をどこへやら歩いていき、やがて見えなくなってしまった。
老人の姿が見えなくなると、僕は再び作業を開始した。
なぁに、時間だけはいくらでもある。あわてず、あせらず、ゆっくりとやっていけばいい。これが、僕に課せられた罰なのだから。こんな単純作業でも、あのまま生き続けるよりかはマシだろう。
僕が地上で犯した罪。その名は、自殺。