大きな地震
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
俺、平良響は突然の地響きで目を覚ました。
布団に包まりながら考える。先ごろ経験した東日本を襲った大震災と比較しても強い揺れ。これは、震源が近いのか。それとも規模がでかいのか。
後者だとすると、日本は終わりだな。次はどこが爆発するのだろうか...。
富士山は大丈夫だろうか....と寝ぼけながらも思考を巡らせることで恐怖を紛らわす。
というか、紛らわすのは難しいほどの揺れだな、これは。気持ちが悪くなってきた。
布団の中に昨夜食べたスパゲティがぶちまけられる。トイレにまでなんて無理だ。
スパゲティ?夕飯にスパゲティって...と思いながら吐き続ける。麺類は吐瀉物になると気持ち悪いな。いや、飯物も同じか。
そんなことより、頭痛もしてきた...。これは、し...、死ぬ。
素数を、素数を数えるんだ。いや、こないだ買ったゲームの事を...。浅井の奴、裏切ってんじゃねーぞ...。
響の思考が姉小路家による織田家の攻略方法に及んでいたとき、揺れはようやく収まった。
布団に包まりながら、枕元にあるであろう携帯電話より情報を得ようと手を伸ばす。
しかし、携帯電話はそこにはなかった。揺れで吹き飛んでしまっていたのだ。
響は逡巡する。布団から出るべきだろうか...。彼の体調はそれを全力で拒否しているのだが、情報を得ずに死んでしまいたくはない。
日本海の荒波が聞こえてくる気がする...。
5分後、彼は布団からふらつきながら出ることに成功した。
「ん...、ここは何処だ...?」
なんで目の前にベッドがもう一つあるんだ。これは、まるでホテルの部屋のような...。
ハッとした様子で彼は思い出す。
そうだ。今、俺は旅行中なのだった。
高校主催の英語語学研修という名の北米旅行中だったのだ。
忘れていた。なんで忘れていたのだろう。
いや、寝ぼけてたからか...。
まぁ、いい。ということは、この自分の隣のベッドにいるのは...、ん?誰もいないな...。
あいつ、どこいったんだ?
響の友人、円谷浩二はドアの前で見つかった。
状況から察するに、外部へ助けを求めようと向かった途中で壁にでも頭をぶつけたのだろう。
「おい、浩二!!大丈夫か!!」
響は乱暴に浩二を抱き起こすと、往復ビンタを行った。
気絶している人間を無理に起こすと危険だが、この状況で彼にそんな冷静さは無いのだ。
「ん...、あぁ...、ひ、響か...」
「大丈夫か?」
浩二が目を覚ましたのに気付き、響はホッと胸をなでおろす。
「ひ...、ひびき。に、にげなきゃ。津波が...、津波が来る....」
浩二はガクガクと震えながら響に訴えかける。
その様子を見て響は安堵した。
こいつも寝ぼけている。
確かにこいつ(浩二)と俺の故郷は港町であり、地震のあとは高台に逃げることを幼少の頃より教えられてきた。
しかし、現在自分たちは北米の山岳部にいるのである。津波の心配など必要ない。
正直、このうろたえようは腹筋にくる...。動画を撮りたい...。と思いつつ携帯電話がないことを思い出した。
響が携帯電話を探しはじめる一方、浩二は四つんばいになりながらも部屋のドアを開け、外に出ていった。
響は床に落ちていた携帯電話を拾い上げ、情報を確認する。地震に関する情報は入っていない。海外だからだろうか...。
何がアメリカホーダイだよ。あのハゲ...。
リモコンを探して、テレビをつけてみる。つかない...。
情報が得られず、途方にくれていると浩二が慌てた様子で部屋に戻ってきた。
「響!!ここはどこだ??」
こいつまだ、寝ぼけてる...と思い、響は動画を回し始めた。