最期の手榴弾
ハンドグレネードのピンをいじる。
栄養が行き届いていない僕の指では、もう硬い。
出来ればこれを敵陣に向かって投げたかったけれど、それはもう無理な話だ。
厳しかった上官も、肉が食いたいと笑った友も、真新しい死の臭いが鼻を突くこの中で逝ってしまった。
僕は未だ見ぬ娘に会いたくて躊躇ってしまった。
四散した誰かの腕が「早く来いよ」と僕を招く。
ああ、行かなければ。
最期の力を振り絞り、指に力を込めた。
どうせ死ぬのに楽もくそも尊厳もあるものか。
ハンドグレネードのピンを抜く。
後三秒もすれば爆発するそれを、僕は胸に抱かずに
光の差すほうへ思いっきり放り投げた。