鈍感系女子×オネエ系男子。
「律!おはよ~♡」
「ああ、雪弥か。おはよう」
「もう、ユキって呼んでって言ってるでしょ?」
「あだ名で呼ばない主義だから」
昇降口に向かう途中、友人に声を掛けられた。朝から元気だな、と軽く感心。
友人歴2年目の藤堂雪弥は口調が女性的で、女子力高め。男女共にから人気のある男子高校生(17)。女しかいない家系故に、こうなったらしい。
「律、明日は私服デーよね!」
「え?あー…」
そういえばそんな日があったな、と思い出す。
月に一度ある私服デーは「制服から私服に変わって、異性からのギャップ萌を狙っちゃお☆」という生徒会発案の企画。数年前からあるらしく、よく先生が認めたな、と思う。
「律は今回、とんな格好にするの?」
「制服」
私服デーだからといって、制服を着てはいけないというわけではない。 一部の生徒は制服を着ているし、私も面倒だから制服にしている。
「駄目よ!前回も前々回も制服だったじゃない!」
「え、だって面倒…」
「よし、今日の放課後に買い物に行きましょ!」
約束よ!と強引に決め、下駄箱に逃げる。冗談じゃないと追いかけると、何故か雪弥が固まっていた。
「…雪弥?」
「っ、な、何でもないわ!」
「何でもないことない。何、変な物入れられてたの」
「…違うわよ」
拗ねたように唇を尖らせた雪弥の仕草は、私より女子っぽい。
女子より女子っぽい雪弥と軽く睨み合う。と、そこにのんびりした声。
「あれ、ユキと律、痴話喧嘩?」
「…梓」
諫める声色で牽制。だけど、効果が無いようで、雪弥が持っていた手紙をあっさりと取り上げる。
「「あ、」」
雪弥と声が重なる。何故か気まずそうな顔をする彼に少し腹が立った。
「ふーん…、ユキのモテ期、到来かもね。ねえ、律」
「は?」
ほら、と見せてくれた手紙の内容は「放課後、お話出来ませんか?」。可愛い便箋と可愛い文字。白河百合という名はどこかで見たことがある。
「白河百合っていえば、ミスコンで選ばれてた子だよね?可愛い感じの」
「…そうね」
「もー、ユキはなんでそんな不機嫌なの?」
「律とお買い物に行く約束してたのよ!私服デーのために」
「2人で?ふーん…。じゃ、私が代わりに一緒に行く。いいでしょ、律」
急に呼ばれ、つい頷いてしまった。
じゃ、放課後に正門ね、と約束を取り付けた梓は、特に仲のいい子達の方に走っていった。
「雪弥、行こう」
「ねえ、律」
「ん?」
「……ううん、何でもないわ」
少しモヤモヤする心と、少し寂しそうな雪弥の顔が合わさって、息が詰まる。
だけど、雪弥が寂しそうな顔をしたのも一瞬で、すぐに「ワンピースとかがいいわね〜」なんて呑気に話す。手紙のことには触れず、それがさらにモヤモヤする。
モヤモヤの正体が分からず、しっくりこないまま過ごした。
「律はユキが好きなんじゃないの」
「…好きだよ?」
急に当たり前のことを言った梓。肯定したのに、深い溜息をつかれた。
「LIKEじゃなくて、LOVE」
「は……」
愛だよ、愛。
恥ずかしげもなく言う梓。逆に?っていうか普通に、私が照れて赤くなる。
「初心だねえ、律ちゃ〜ん。まあ、自分の心によく問いかけてみなよ」
LIKEじゃなくて、LOVE。恋愛感情としての、好き。
「あらあら、図星?」
「かも…」
「(赤くなっちゃって…。ユキちゃんに見せたかったわ)」
気持ちの名前を知ってしまえば簡単だ。"好き"という言葉がすとん、と落ちて、はまる。自覚した途端に気持ちは膨らむ。
こんなにも好きだったのか、なんて。
「よし、これでオッケー」
「え?」
何がオッケーなんだろう、と思い、梓を見ると、2つも紙袋を持っている。しかも、片方は少し大きめ。
「買ってきた!」
「え、私見てないんだけど…」
「大丈夫だって!入ってるものを全て身につけて、学校に来てね!じゃ、クレープかパンケーキ食べに行こう!」
有無を言わせぬ迫力でまくしたて、お店を出る。
それから3時間パンケーキを食べながら話し、最終的には梓の家に泊まることに。なかなか寝させてくれない梓は、彼氏の不満を言いながら、私の話を深くまで聞こうとする。とはいえ、気持ちを自覚したばかりで話すことはない。結局、「明日の反応が楽しみね」と微睡みながら梓が言ったのを最後に、寝てしまった。
「うん、やっぱり似合う」
「…似合ってないよ」
梓が知らぬ間に買った服はカシュクールワンピース。上から下に段々濃い青にグラデーションになっている。靴は白のオープントゥサンダル。
「あと、このイヤリングとー、ネックレスつけて。で、完成!」
慣れない服にそわそわしながら学校に向かう。
「昨日、ユキちゃんと白河さん一緒に買い物してたの見てさー、いい雰囲気だったんだよね」
「え、あの2人付き合ってるの?」
「さあ?でもまあ、ユキちゃんいい彼氏になりそうだよねー」
「…気にすることないんじゃない?」
「うん…、大丈夫」
大丈夫じゃないけど、梓を心配させないためにも嘘をつく。他愛もない話をしながら教室に向かっていると、名前を呼ばれた。
「律…?」
聞きなれた声に振り向くと、女装じゃなくて、男装の(というのも変だけど)雪弥がいた。隣には白のふわふわしたワンピースを着た白河さん。
「律、来て」
見たくない、と思ってしまう嫌な心。それを知ってか知らずか、雪弥は私の腕を引く。連れていかれた先は空き教室。
「…何」
「…誰が選んだの」
「梓。雪弥、男の格好って珍し」
「ばーか」
…なんで馬鹿って言われたんだろう。
「…律、大事なこと言うよ」
「うん…?」
はぁー、と深くて長いため息をついて
「律が好きだ。…友達としてじゃなくて、一人の女性として」
「…嘘だ」
「嘘じゃねーよ。ずっと好きだった。多分、出会った時から、ずっと」
いつもの雪弥と違う、甘くて掠れた声。こんなの、ドキドキしないわけがない。
好きって自覚してすぐに、こんな奇跡、有り得ない。そう思って頬をつねるけど、痛いだけで。
「…ね、俺、律の気持ち聞いてない」
「え、」
頑張って告白したのに、なんて拗ねる仕草は少し可愛い。
「…」
「…俺は待つよ。律が言うまで、ずっと」
「………好き。雪弥が好き。女子力が高いところも、甘いものが好きなところも、」
全部が、好き。
そう言うと雪弥に腕を引かれ、抱きしめられる。力強いけど、加減していると分かって、その優しさで一層好きになる。
「律、なんでそんな可愛いんだよ…」
「……ちょっと待って」
雪弥の胸を押し返す。ぐぇ、とカエルが潰れたみたいな音が聞こえたけど、気にしない。
「白河さんは?告白じゃなかったの?」
「違うよ。ただの相談」
雪弥曰く、白河さんには好きな人がいるらしく、「一番可愛く見える服と髪形とメイクを教えて」と頼まれたらしい。
ほら、と雪弥が窓の外を指さすと、先輩らしき人と楽しそうに笑ってる白河さん。少し頬を染めていて、可愛らしい。
「ほんとだ…」
「りーつ。俺を見ろよ」
急に向きを変えられ、変な声がでる。絶対にさっきの仕返しだ。
「律、その服似合ってる」
「ありがとう。雪弥も、似合ってる」
「梓ちゃんが選んだってのが気に入らない。………小さいな、俺」
ごめん、なんて。
「ううん。しょげてる雪弥、面白い」
可愛いと思ってしまったのは内緒だ。
全然面白くない、と拗ねる雪弥。
「んー、お取り込み中ごめんね」
「梓」
「梓ちゃん」
謝ってるけど、多分悪いとは思ってなさそう。でも、気持ちに気付けたのは梓のお陰だから、見逃そうか。
「あと2分でSHL始まるんだよね。行かないの?」
それともサボる?、なんて、悪い笑みを浮かべながら聞いた梓。
「律、このままサボらない?今は、2人でいたいんだけど」
雪弥のキラキラした目はずるい。抗えない何かがあって、頷いてしまう。
「梓ちゃん、お願いね」
「はいはい、じゃあ、また明日ね」
苦笑する梓に見送られながら、走って玄関へ向かう。何人かの先生とすれ違ったけど、止められることなく正門を出る。
というか…
「雪弥、口調戻ってる」
「ふふ、こんな私は嫌い?」
「まさか」
小さく笑いあい、どちらともなく口付ける。
手を繋ぎながら幸せを感じるのだった。
お久しぶりです、Transparenzの相良亜貴です。
ユキちゃんのような友達が欲しいなあ、なんて思います。絶対楽しいですよね。
友達は同じ感じの人が沢山より、違うタイプの人が沢山派です。
さて、ユキちゃんは相方の梨琥の作品にも出ています。ぜひ、探してみてください。大人になっていますよ!大人になったユキちゃんは………。
では、またお会い出来るのを楽しみにして。
*2017/02/12 加筆修正しました。