不良系男子とその許嫁。
親に決められた結婚。
玖珂組のトップになるなら仕方のないことだと知っているし、好きな奴がいるわけでもない。
ただ、相手に求める条件はある。それは―――――
「妹を優先することを承知して欲しい、ですか…?」
「ああ」
奈緒は俺の妹で、血の繋がった兄妹。困ったことがあれば助けてやりたいと思うのが、兄としての性分だと思う。
「兄妹ですから、もちろん、優先してください。私は気にしません」
「…いいのか」
「はい」
綺麗な微笑を浮かべる、婚約者の椿 侑美。椿組のトップの一人娘で、あからさまな政略結婚だが、こいつの不満顔は一度も見たことが無い。
「それと、俺と本当に結婚してもいいのか」
「というと?」
「親が勝手に決めた結婚だ。好きな奴とかいないのか」
「私は幼い頃から大河さんとお会いしていましたが、一度も貴方との結婚が嫌だったことはありません。それに、貴方との結婚がいいのです」
薄く頬を赤らめて話すこいつに、胸がきゅ、と締めつけられた。
「俺…」
「お兄ちゃん、侑美さん来てるの?」
「奈緒ちゃん」
扉を開けて入ってきた奈緒。慌てて言いかけた言葉を飲み込む。
「侑美さん、兄が変な事を言いませんでしたか?」
「何も言ってないわ。奈緒ちゃんが大事、って話をしていたところよ」
「お兄ちゃん、侑美さんが大変な時は侑美さんを優先してね。私は、豹君や夏稀さんがいるから大丈夫」
奈緒には見透かされている。こいつを優先させないと、雷が落ちるんだろう。
「奈緒ちゃんは妹の鑑ね」
「そんなことないです。式は1週間後ですよね。お兄ちゃんは馬鹿だけど一生懸命なので、支えてあげて下さい」
「もちろん」
言いたいことは全部言ったのか、部屋を出ていった奈緒。こいつは俺の方を向き、微笑む。
「大河さん、言いかけてたこと、教えて下さい」
「…は?」
「奈緒ちゃんが入ってくる前、何か言いかけてましたよね」
気が付いていたことに驚く。言いたくはないが、こいつが変なところで頑固なことは、知っている。観念して、口を開いた。
「俺もだ、って言いたかったんだよ」
「…」
「親が決めた相手がお前で良かったと思ってる」
「……大河さん、名前で呼んでください」
そう言ったこいつの顔は赤い。多分、俺の顔も同じようなものだろう。
「侑美」
「はい」
「俺と、結婚してくれ」
史上最高に赤い顔で伝えると、侑美は涙を浮かべ、頷いた――――――
+ + +
「大河さん、決められましたか?」
「いや…あと候補が3人残ってるんだ」
「どの子も良い子ですね…。でも、早く決めないといけませんよ」
「あいつには良い奴を婚約者にしてやりたいだろう、お前みたいな」
ぴたりと動きが止まった侑美を見る。
「…どうかしたか」
「いえ。何でもありません」
クスクスと笑う侑美。
「大河さん、一度作業を止めて、お花見しませんか?桜が満開になっているんです」
9年前に結婚式の日に植えた桜。
桜吹雪の中に立つ侑美の姿は、綺麗だった。
いかがだったでしょうか!Transparenzの相良亜貴です!
侑美さんめっちゃいい人だわー。心広いわー。美人だわー。と、思いながら書きました。
では、今回の裏話。実は、椿 侑美さん、元は19歳上のオジサマと結婚する予定でした。しかし、オジサマと侑美さんの恋は全く進展しません。ということで、チェンジしました。結果、初々しい夫婦の完成です。
今回のタイトル詐欺はしょうがないってことにしてください。
では、また会える日を楽しみにして。