寒色系女子×カフェ系男子。 後篇
「莉紗ちゃん、ドアのプレート、“Close”に変えてきてくれる?」
「分かりました」
9時を過ぎ、閉店した【Kaleidoscope】の店内は、いつも広く感じる。
「莉紗ちゃん、今日も迎え?」
「いえ。2人とも出張なので、歩いて帰ります」
「それなら、僕が送っていくよ。着替えたら店の中で待っていて」
そう言って階段を上がっていった雅臣さん。自宅兼カフェとなっていて、2階が自宅らしい。
着替え終ってフロアに出ると、雅臣さんが待っていた。
「待たせてしまってすみません」
「ううん。じゃあ、行こうか」
互いに無言のまま、徒歩7分の私の家に向かう。会話もないし、ましてや手を繋ぐ、なんてこともない。
やっぱり、なんて思っていると、不意に陣内さんの言葉を思い出した。
「あの、」
「ん?」
私達は、付き合っているんですか
口を衝いて出た言葉は、雅臣さんに届いたかどうか、なんか分からない。何も言わないし、何の反応もない、なんて。
「――莉紗ちゃん、なんでそう思ったのかとか、色々聞きたいことがあるから、お邪魔してもいいかな」
「あ、はい」
いつの間にか家に着いていたようで、鍵を開けて雅臣さんを迎え入れる。雅臣さんには敵わないけど、と思いつつ、彼の好きなコーヒーを用意して、ソファに並んで座った。
「それで?どうしてそう思ったの?」
「雅臣さんが、その、手を出さないから、」
「それと、あの男の子は誰?」
「男の子?……ああ、親友の彼氏です。けど、それが何か、」
「補講は?誰とだったの?」
「先生と、クラスの子です」
「男子も、女子も?」
「はい」
質問攻めにした後、彼は深いため息をついた。
「今から凄いかっこ悪いこと言うね」
「あ、はい」
「凄く、嫉妬した」
「…」
驚きで、言葉が出ない。顔も多分、間抜け面。
「補講って聞いて、男子と、なんて考えちゃったし、君の親友の彼氏と話しているのを見て、余裕なくなったし」
それに、
「手を出さない、じゃなくて、出せないんだ。きっと、一度触れたら理性なんかなくなる。それほど君が好きなのに、君は俺が好きじゃないの?」
「…好き、です」
「うん、知ってる」
ふわりと笑った雅臣さん。
「何回も手を出そうとしたけど、君を傷つけるんじゃないか、って怖かったんだ。俺のせいで君が余計な傷を負わないように、って思ってたけど、それが逆に君を不安にさせてたみたいだね」
「…全然知りませんでした」
「かっこ悪いからね」
君の前ではかっこよくいたいから、なんて。困ったように苦笑して、コーヒーを飲んだ。
「あの、」
「ん?」
「私は、雅臣さんに手を出して欲しいです…」
「…始めて見たなあ、莉紗ちゃんが顔を赤くするところ」
きゅ、と雅臣さんに手を握られる。
不意の行動に、どきりとした。
「ごめんね、止められないかも」
「はい」
ふわり、重なった唇は、苦くて甘い。
どうも、Transparenzの相良亜貴です。
今回、前篇後編に分ける予定はありませんでした。まさか、こんなに話が長くなるとは。といってもそんなですけど。
ちょこっと裏話。実は、雅臣さんは初期設定では年下でした。あざとい系にしようかと思いましたが、無理でした。まず、莉紗との話が弾んでくれない。ということで、年上にしてみたらスラスラやっちゃって。ありがたかったですね。
そして、寒色系、の意味ですが、まあ、クール系ってことです。イコールで考えてもらっても構いません。ちなみに、この「寒色系」っていうのは、友達と話してて思いつきました。
次回は年の差か、オネエのつもりです。
では、またお会いできる日を楽しみにして。