赤面系女子×無表情系男子。
すぐに顔が赤くなる、なんていつも不利だ。
「…」
「…」
人と対面するだけで、自分の意志に関係なく赤くなる。
例えそれが、クラスで1番苦手な人に見られたとしても。
「ん」
「え」
「手」
「あ、はい」
何故、私がクラスで1番苦手とする高槻君と一緒に、手を繋ぎながら歩いているのかというと、話は数時間前に遡るーーーー。
「…」
しまった、と思った。昨日すぐに寝てしまって、和訳するのをすっかり忘れていた。
焦りでどんどん顔が赤くなっていくのが分かる。
『じゃあ次、咲野』
やばい、なんて思いながらそろそろと立ち上がる。その時、横から紙を渡された。もしかして、とそこに書いてあったことをそのまま読む。
『OK、次は…』
少し角ばった綺麗な字は、隣の席の高槻君の字だ。
授業後、かなり勇気を振り絞って声を掛ける。もう既に、顔は赤い。
「あの、ありがとうございました」
「…」
眼鏡の奥から射抜くような視線。彼のこの視線が怖くて、少し…嘘、かなり、苦手。
「礼はいらない。その代わり、頼みたい事があるんだけど」
「何でも言ってください。責任持ってやり遂げます」
そう言ったのが間違いだったと、数十秒後に気付く。彼の眼鏡の奥が、怪しく光った気がした。
「なら、俺の彼女役になって」
「え…?」
「責任持ってやるんでしょ。今日の放課後、勝手に帰らないように」
話はそれだけ、という風に次の授業の準備をし始める高槻君。誰も話しかけんなオーラが凄い。
でも、私の頭の中はかなり混乱している。
なんで、私。
結局、高槻君のオーラに負けて、拒否権を発動出来なかった私は、大人しく生徒玄関で彼を待った。そして、何故か会って早々「手」と要求された。
そして、話は冒頭に戻るーーー。
「付き合い始めたのは1ヶ月前。デートはまだ。キスもまだ。いい?」
「は、はい」
「それから、俺の名前は“壱”って呼ぶように」
「い、壱君…」
「……まあいいか。俺も“ひかり”って呼ぶから」
急に呼び捨てにされて赤くなる顔。
「…なんで赤くなるわけ」
「その、すぐに顔が赤くなってしまうので…。え、えっと、どこに向かっているんですか?」
「すぐそこの噴水広場」
高槻君……もとい、壱君曰く、「面倒な奴がいる」とのこと。なんでも、2週間ほど前から、断っても告白し続ける女の子がいるらしい。彼女がいる、と言えばもう告白してこないだろう、と思い、私に「彼女役を」と言ったらしい。
その女の子のメンタルが羨ましいなあ…。
「ふふ…」
「…何がおかしいんだよ」
「壱君って、意外といっぱい喋るんですね」
「…」
そう言うと、驚いたように目を丸くした壱君。
あ、表情が変わった、なんて考えていると、前方から『高槻さん…?』と呼ぶ声がした。声のした方を見ると、可愛らしい女の子。
『その方って、』
「ああ、彼女だけど」
彼女の手にはリードがあり、犬の散歩中らしい。
キッ、と彼女が私を睨む。
『あの!高槻さんのこと、本当に好きなんですか!?』
「す、…」
好き、の2文字が出てこない。これを言えば壱君は困ることがなくなるんだろうけど、恥ずかしさでどんどん顔が赤くなっていく。
「ひかり、行こう。悪いけど、俺はこいつが好きだから」
『…そうですか。ありがとうございました』
下を向いている彼女の横を、壱君に手を引かれて通り過ぎる。
「よくあのタイミングで赤くなったな」
「なんか、見つめられるのもダメなんです。恥ずかしくなっちゃって」
「…そう」
物凄く、微妙な空気。さっきまで沈黙がなんともなかったのに、今は、少し息苦しい。
「あの、私、駅なので、ここでいいです。ありがとうございました」
するり、壱君から離した手は、もう一度彼に取られた。
「さっきの言葉、嘘じゃないから」
「さっき…?」
「タイミングの話の、前」
「前、って」
再び赤くなっていく顔。でも、赤くなる意味はこれまでとは違っていて。
「それ、いつもの?それとも、俺が原因?」
「い、壱君のせい、だと思います…」
不意に耳に顔を近付けて囁いた壱君。その言葉に、更に真っ赤になる。
そんな私を見て、壱君は私の前で初めて、笑みを浮かべた。
ーーーーーー早く、俺を好きになって?
どうも、Transparenzの相良亜貴です。
ごめんなさい、嘘つきました。後篇は次回です。
もう少し待ってください。
さて、毎度お馴染み 裏話。
今回の話は、突発的に浮かんだものです。ヒロインのひかりちゃんは直ぐにキャラが定まりました。問題は高槻です。初期設定は、チャラ男。絶対ひかりちゃんがビビる、と思い、優しい系に。……なんかちょっとウザかった。そして、今のクール系に。好きな人が隣にいるのに、照れたりドキドキしたりが顔に出ない高槻。よって、無表情系に。
表情の現れ方が全く違う2人は、多分清らかなお付き合いをするんでしょう。高槻はああ見えて傷付けるのが怖い子なので、ひかりちゃんを大事にするでしょう。絶対に大雅みたいにはなりません。絶対。
登場人物が多くなれば、関係性をまとめる回があったりなかったりするかもです。
では、また会える日を楽しみにして。