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やって来た姫

アリスの魔王ダンジョンの建設は難航を極めていた。

それというのも地下を掘るたびに新しいダンジョンにぶち当たるからだ。

恐らくは先日掘り当てたダンジョンに繋がっているのだろう、だとすれば地下に広がるダンジョンは相当な大きさということになる。

仕方がないので魔王ダンジョンの建設はいったん置いておいてこのダンジョンの調査を優先することにしたほうが良さそうだ。


今日の分の領主の仕事を終え、ダンジョンに潜って調査を進めていた冒険者達からのレポートを読み進めてると面白い事実が見つかった。

ダンジョンの中には一定の区画ごとに特徴的な広い空間があり区画ごとに森林や平原、沼地などの人工的なフィールドが作り出されていたようだ。


「まるでゲームのステージだな」


「んー何々?」


「何か進展があったのですか?」


アリスとアルマとドゥーロが連れだってやって来る、最近の三人は良く一緒に行動している。

なんでもアリスに料理を習っているそうだ。

習い事と言えば侍女のラヴィリアが黙っていなさそうだがアリスの料理を食べたら黙ったらしい、それどころか頭を下げてアリスに教えを乞うたらしい。

まぁアルマも俺だけにべったりでなく他の人ともコミュニケーションを取ろうとするのは好ましい事だ。

ちなみにドゥーロは味見専門らしい、すっかり懐柔されおって。


「ダンジョンの調査報告、見る?」


「アルマ読んで」


「はい」


翻訳魔法を持たないアリスはよくアルマに本を読んでもらっている、一応翻訳魔法のかかった魔法具を買おうかと聞いたんだが自分の金で買うから良いと断られた。

なかなか経済観念はしっかりしているようだ。

アルマの方も教わるだけでなく頼られるのが嬉しいらしく嬉々として読んでいる。

なんか仲のいい姉妹みたいだな。

あー、そういえば血のつながった方のアルマの姉は元気かな。


「ハッロー!!元気してたアルマー、あとクラフタ君!!」


そうそう、こんな感じのちょっとうざいテンションの姉が……


「……」


「誰?」


「姉様!?」


「アルマー!元気だった?ちょっと大きくなったんじゃない?」


「姉様どうしてこちらに?」


「ふっふーん、ちょっと父様に代わって視察に来たのよ。し、さ、つ」


「ねぇ、あの娘誰?随分アルマと親しいみたいだけど」


状況が呑み込めないアリスが俺に説明を求めてくる、むしろ聞きたいのはこっちも同じだ。


「アルマの姉のフィリッカだよ」


「アルマってお姉ちゃんが居たんだ」


ああ、知らなかったのか。

仲がいいとはいってもまだ出会って数日だから知らなくても仕方ないか。


「なんで姉妹で離ればなれなの?異世界的なしきたりとか?」


「いや単にアルマが俺の所に嫁入りして来たから」


「……今11歳だっけ?そんな歳で結婚なんてやっぱ異世界だわ」


まぁ、言いたい事は分かる、俺もまさか10歳の少女と結婚する事になるとは思ってもいなかったからだ。



「お父様も呆れていたわよ、今度は魔王かって、それでダンジョンを作ってそこに魔王を閉じ込めるんですって?」


いや、間違ってはいないが。


「それでなんでお前が来るんだよ?」


「しょうがないじゃない、国に魔王が居るのよ。

君が管理しているから大丈夫だって証明する為に私が行く必要があったのよ、次期王位継承者である第一王女が安心して行く事が出来るなら心配いらないだろうって示す為にね」


「マジかよ、良く行かせてくれたな、普通反対されるだろ?」


「反対されたわよ」


あっけらかんと言い放つフィリッカ。


されたのかよ。


「でも反対しなかった連中が大きな声で賛成してくれたのよ」


「そんな奴等がいたのか」


次期王位継承者だぞ?仮にアルマに継承させるにしても夫である俺がいるわけだし、それならまだ婚約者と結婚してないフィリッカの方が芽があるんじゃないか?


「お父様の子供は私とアルマだけだけど王族は他にもいるのよ」


ああ、そういう事か、フィリッカにもしもの事があったら他の王族を王に選出出来るって事か。

アルマは元々病弱だったこともあってそれを理由にすれば王位継承争いから遠ざけることも可能という考えだろう。


「それでも使いの者を出してそいつに判断させるモンじゃないのか?」


普通お姫様を来させないよなぁ。


「それはお父様の君への信頼とアルマの生の様子を確認したいって言う本音があるからよ」


ああ、後者ですね、絶対この世界にビデオカメラを普及させてはいけない、俺が大変になる。

きっと自分が来たかったんだろうな、でも家臣総出で止められそれで仕方なくフィリッカが来ることで妥協したか。


「それで魔王はどこに居るの?もう迷宮に閉じ込めたの?」


アリスが魔王である事を知らないらしいフィリッカはきょろきょろと魔王を探す、陛下はフィリッカに何も教えていなかったのか?…まぁ聞いてなかったんだろうな。


当の魔王はと言うと、口元に人差し指を当てて面白そうだから喋るなとサインを送ってくる。


「建設予定地から古いダンジョンが見つかって新しいダンジョンの建設が難航しているんだ、だから魔王はまだ街にいるよ」


「大丈夫なの?」


「問題ない、神話の時代じゃないし今の時代の魔王は魔物を産みだすことさえ気を付ければ危険は無いよ」


「で、結局調査結果がどうだったの?」


聞くだけに飽きたらしいアリスが会話に割って入る。


「ああ、ダンジョンの中に人工的な自然環境が作られているらしい」


「牧場?」


アリスがすごいボケをかましてくる。


「何を放牧するんだよ」


「食用の魔物とか」


「どんな需要だよ」


「確かに魔物の中には高級食材として重宝される種族も居るって聞いたことがあるわ」


まさかのフィリッカのフォロー。


「私も聞いたことがあります、大貴族の方に誘われたパーティーで出たことがあるんですよね姉様」


「ええ、パーティでは貴族が自分たちの権力を誇示するために珍しい食材を振る舞うことは珍しくないわ、冒険者の中には希少食材や危険な魔物食材を専門で狩る冒険者もいるくらいだもの」


美食冒険者か、お菓子の木とか出てきそうだな、いやいやまさか。


「まさかお菓子の木とか無いよな」


「あるわよ、葉っぱがクッキーで幹がパイ、木の実が飴のお菓子の木でしょ」



あるのっ!?


「高級お菓子の木は一流職人のお菓子に負けない素敵な優しさに包まれた味でしたね姉様」


アルマも食べたことがあるのか…


「異世界ヤバいわ…」


驚愕するアリス、大丈夫俺も驚いているから。


「じゃあ行ってみましょうか!!」


「どこへ!?」


フィリッカが主語を抜かして宣言する。


「もちろんその迷宮よ!!」


まーたこいつは行き当たりばったりでコースを決める、お前の人生ライブすぎんだろ。


「あー、私も気になるかも」


フィリッカに続いてアリスまで乗って来る、こいつら妙に相性良さそうなんだよな。


「わた…ダンジョン建設に影響を及ぼしているっていうダンジョンの存在は気になるしね」


お前戦えねーじゃん。


「ご主人!ダンジョンごはん一杯泳いでる?」


「泳いでいるかは分からないけど結構いるだろうね」


「行く!ドゥーロ食べるの!」


魔物イコール食材のドゥーロは未知のダンジョンに興味津々の様だ、まぁこいつなら早々不覚を取ることもないか。


「クラフタ様…私も行きたいです」


おいおい、アルマまで。


「ダンジョンは危ないんだぞ」


「大丈夫です!私も先生方に魔法を教わっているので自分の身を守ることぐらいは出来ます!!」


いつの間に…


「まぁ、師匠達がいいって言ったらついてきてもいいよ」


「ハイ!すぐに許可を頂いてきます」


アルマは矢のような勢いで飛び出していく。


「ほんと健康になったのねあの娘」


視線を向けるとフィリッカが感慨深そうにアルマの出ていった先を見ていた。


「もう完全に健康体だよ」


「みたいね、ほんと一年前からは想像もできなかったわ」


しんみりした空気が流れる。


「で、やったの?」


「何を?」


しんみりした空気など知らんとフィリッカが聞いて来る、だからお前主語を抜かすなよ。


「もちろんエッチな事よ、だって二人は夫婦なんですもの、だったら夜は当然ねぇ」


お前13歳だろ今、まぁファンタジー世界は15歳が成人だから興味心身なお年頃だろうが。


「アルマは11歳だぞ」


「もう11歳よ、あと4年で成人よ。それに夫婦なんだからそう珍しい話でもないじゃない」


ファンタジー世界ではもう手を出しても良いと!?なんと言う衝撃・・・


「手を出したらお父様にぶっ飛ばされるけどね」


ぶっ飛ばすぞお前。



なんか変な方向に話が脱線したが件のダンジョンには一度視察に行きたいと考えていたのは事実だ。

それと言うのもレポートの中にあった大型の水源とそこに繋がる大型水路が気になったからだ。

おそらくこれが湖の魔物の正体なんじゃないだろうか?

だとすればここを封鎖すれば湖にこれ以上魔物が増えることも無くなる、後は残った魔物を掃討すれば湖は安全になり猟師達も今まて以上に安心して漁ができるようになる。


だがそこにコイツ等を連れて行くかと言うとまた話は別なわけで。

まぁドゥーロはいい、コイツは元々魔物で湖の魔物を食っていた訳だから戦力としては十分だ。

だがフィリッカとアリスは完全に戦力外通知だ、アルマはいつの間にか師匠達に鍛えられていたらしいが危険なら許可はでないだろう。


「とりあえずお前等は留守番な、魔物がうようよいるダンジョンに連れて行けんからな」


「いーじゃなーい、ちゃんと護衛も居るのよ」


護衛とな?


「入ってきて」


フィリッカの声に従うようにドアが開く、そこに現れたのは随分と懐かしい顔だった。


「レノンさん」


そう、以前決闘したレノンだった。


「お久しぶりですマエスタ侯爵様、私のことは呼び捨てで結構です」


「レノンさんも来ていたんですね」


「外回りの任務が終わってからは王城の護衛任務に勤めていたのですがマエスタ侯爵様と面識もあったことからフィリッカ様の護衛に選ばれました」


それはご愁傷様、ここに来るまでさぞや苦労したことだろう。

外回りの任務と言うのはカインの件か、そういえばアイツどうなったんだろうな。

リリスの件でアイツにも情状酌量の余地が出てきたんだが。

あとでコッソリ聞いておこう。


「レノンがいるから私も行っても良いわよね」


「いけません姫様」


「ほらね・・・ってなんでよ!!」


「我々の任務は魔王のダンジョンの視察とその安全性です、決して未知のダンジョンの探索ではありません。

それで魔王と魔王の生み出す魔物はどうなっているのですか?」


フィリッカが遊ぶ機満々なので自分が率先して視察の手伝いをするつもりか、大変結構。

この二人相性良いんじゃないか? 陛下にはレノンをフィリッカの専属護衛とするのはどうか進言しておこう。


「魔王のダンジョンの建設は新たに発掘された未知のダンジョンに邪魔されて作業が止まっているんだ。

生まれた魔物は大穴を掘って簡易的なコロシアムを作り、そこで腕自慢の冒険者相手に戦っている」


「ほう、コロシアム」


少し興味を引かれたようだ、武勇を好む騎士の性と言う奴か。


「生まれた奴等を放り込むだけだと共食いするかもしれないから、素材を狩るためにも冒険者を使おうかなって」


「なんと言うか骨の髄まで無駄にしない姿勢と言うかまるで商売人だな」


呆れたような顔をされながら言われる、師匠達にも言われました。


「魔王本人は?」


「今代の魔王に戦闘能力は無い、俺が確認した。魔物にさえ気をつければ問題ないよ」


「そうですか・・・マエスタ侯爵、その魔王に会わせて頂けませんか?」


「あってどうするんですか?」


「戦闘能力が無くとも危険な思想を持っているやも知れません、直接会って見極めたいのです」


あくまで仕事で来たというわけか。


「いいですよ、面会を許可します」


「ありがとうございます、それで魔王は今どこに」


レノンはすぐさま立ち上がり魔王の所に連れて行ってくれとせがむ。


「まず後ろを振向いてください」


「はい」


言われえるままに後ろを振向くレノン。


「右斜め前に角の生えた女の子がいますね、その子の前にいって下さい」


「? はい」


理由が判らず混乱するものの素直に従いアリスの前に移動するレノン。


「この少女が案内してくださるのですか?」


「その子が今代の魔王『アリス=ササガワ』です」


「はぁ・・・・・・」


言われた事に理解が追いつかずポカーンとしているレノン、そのままポケーっとこっちを見ていたがようやく理解が追いついたのか顔色が変わりアリスに向き直る。


「は!?こ、この少女が魔王!?」


「はーい魔王でーす」


当の魔王は状況を楽しそうに見ていた。


「マ、マエスタ侯爵本当にこの少女が魔王なのですか!?」


さすがに前回の失敗を繰り返さない為かイキナリの否定はしてこないがレノンは信じられないといった顔をしている。


「まるで闘気を感じません、これが魔王なのですか?」


「いったでしょ魔王が魔王だったのは神話の時代、今の魔王は意図的に戦えない様にされているんだよ」


「はぁ・・・」


気が抜けたのかどっと疲れた様子のレノン、うん、まぁ気持ちは分かる。


「へぇーこの子が魔王なんだ、やっぱりこの角が魔王の証とか?」


「ふっ、魔王の証とは目に見えるものにあらず、全身からあふれ出る圧倒的な威厳こそが魔王たる証明よ!!」


無言でこっちを見るフィリッカ、こっち見んな。

アリスの残念っぷりを見ながらフィリッカとレノンはぼそぼそと話し合っている。「アレなら」とか「無害」とか聞こえるんで心配は要らないだろう。


「ご主人、ご飯食べに行くの」


フィリッカ達の小芝居を眺めていた俺だったが、気がつくとドゥーロが服の袖を引っ張りながらおなかを鳴らしていた。


「じゃあご飯にするか」


「の!ダンジョン行って食べ放題なの!!」


そっちかい。


「よっし!魔王の話も終わったしダンジョンに行きますか」


「ですからいけません姫様」


「クラフタ様!!先生方から許可を頂いてきました!!」


フィリッカ達が漫才を再会させている隙にアルマが帰ってくる、勝訴とか書いた紙でも抱えていそうな勢いだ。


「許可でたんだ」


「はい!!」


でちゃったかー、これでドゥーロとアルマが参加か、となるとコイツも黙っちゃいないよな。


「ほら、アルマも行くのよ!アンタはアルマも守るんでしょ?だったらアルマも守るために一緒に行くのが効率的だわ!!」


「そんな屁理屈を、マエスタ侯爵も何とか言ってください」


「いやさっき言ったし」


結局アルマの事を持ち出されてフィリッカとレノンも参加、強引にアリスも参加となった。

流石にメンバーのうち3人が王族や上位貴族では戦力的に色々マズイので、

サラメーの村で修行している武術家連中から口が堅くて信頼できるのを何人か護衛によこして貰う事にした。


「わ!私は格闘家のカ・・・レン!レンです、よ、よろしくお願いします領主様!!」


レンと名乗った少女はガッチガチに緊張しながら挨拶をしてきた。

見た目は14歳くらいだがなかなか発育は良い。

亜麻色の髪、そして短めに結んだツインお下げ、前髪は目を隠しているがちゃんと見えているんだろうか?

腰の後ろにでっかいリボンが付いたぴっちりとして動きやすそうなミニスカ武道家服、あれ動いたら見えるよな。

それにしてもなんか見覚えのある娘だな?どこかで会った事あったけ?


「どこかで会った事あったっけ?」


「え!・・・・・・え、あ、い、いえ!ありません!!」


「そう?」


まぁどこかの道端で視界に入っただけかもな。

続いて現れたのはアンデッドだった。


「どうも領主様、スケルトンのトラスーです、特技は刺突回避率50%です」


ウチの街に住んでいるアンデッドみたいだが大丈夫なんだろうか?

とても強そうには思えない。


「ご安心を、何度やられても復活できます」


不審そうな俺の視線に気づいたトラスーがフォローを入れてくる、なるほど骨の壁か。

これ以上増えてもダンジョン内で戦うのには邪魔になる、こんなもんだろう。

こうして不安感いっぱいのメンバーでダンジョンに挑む事になるのだった。


・・・・・・マジ大丈夫なのか?

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