魔王のご飯
アリスのまおう食堂を作る為には2つの問題がある。
一つ目はアリスの料理スキルが高すぎる事。
二つ目は魔王のシステム、澱みから生まれる魔物を隔離する事。
一つ目の問題については営業方法を切り替えることで対処する。
後日判明したことなのだがアリスはスキルを使用しなくてもかなりの料理の腕前を持っていた。
本人曰くそんな大した腕では無いと言っていたが十分すぎる腕前だ。
もしかしたら魔王に転生したことである程度料理スキルがパッシブ化されているのかもしれない、
なにしろ魔王についての情報は少ない、まぁ魔王を調べようなんて命知らずが居なかったのだから仕方が無いが。
なので平時は一般人でも食べれるスキルを使わない料理屋『まおう食堂』を経営し、
週に一度スキルを解禁した予約制の店、魔王亭を開く事にした。
魔王亭に来ることの出来る人間は食の欲望に呑まれひたすらに美味いモノを望む業の深い人間に絞っている。
アリスが自分のスキルを微調整が出来るまでに慣れないと魔王の料理に依存する人が出来てしまいそうだからだ。
経験者は語るのですよ。
二つ目の問題は魔王の迷宮を造る事で生まれた魔物を隔離する事にする。
隔離された魔物は素材と名声を求める冒険者に狩らせる事で個体数を調整する。
また狩った素材は鉱山街から引っ越してきた職人達が武器や防具に加工する仕事を請け負う。
余った素材も買取レートを設定して買い取る、買取レートに関しては冒険者協会にお任せでオレの元には税金として1割が入る、税金として受け取った金は迷宮のメンテナンスと冒険者の救助に使われる。
どうせ一から作るので魔王迷宮は冒険者を保護する救済システムを採用しており見栄を張ったり無理をしなければそうそう死なないようになっている。
迷宮の運営には冒険者協会も噛んでいてダンジョンにもぐる際は冒険者のレベルに合った階層までしかもぐれないようになっている。
それぞれの階層には下の階層に下りる階段のある部屋がある、その部屋の中は魔物が入れないように結界が張られており、そこに階段が隠されている。
部屋にはステータスカードを認識するスキャン機能があり一定のレベル以下の冒険者には階段が現れない様になっている。
ついでなので迷宮内にはゴーレムを派遣してポーションなどのアイテム売りをさせる事にする。
なんと言うマッチポンプダンジョン。
冒険者が迷宮に入る際には入り口で救助要請の為の魔法具を貸し出し危険を感じたらこの魔道具を使う事で救助して貰えるようにする。
魔導具の作成についてはこの街に住み着いた転移魔法の権威イザーの力を借りる事にした。
だが彼女に協力を要請しに行った俺はそこで大変衝撃的な光景を見る事になった。
◆
ピンポーン、呼び鈴を鳴らして1分ほどまった後ドアが開く。
「あら領主様じゃないの」
ドアを開けたイザーの姿を見て俺は動揺してしまった、彼女はえらくラフな格好をしていたからだ。
具体的に言うと薄着過ぎるというか慌てて服を着たというか、ボタンがちゃんと閉まってなくて所々はだけていたのだ。
つまり肌色分大目である。
「えーと、仕事を頼みたいんだけど今良いかな?」
「良いわよ、上がって」
イザーの許可を得て中に入った俺は意外な人物に出会った。
「おや?クラフタ君じゃないか」
「コル師匠?」
そう、そこに居たのは俺の3人の師匠の一人コル師匠だった。
なぜかコルがイザーの家にいる、初めは遊びに来ていたのかと思ったがよくよく考えるとアリスの料理を食べた日にはコル師匠は居なかった。
そしていまのコル師匠はおかしな格好をしていた、コル師匠はミイラである。
だがその体に巻かれた包帯はよれよれで急いで巻きなおした感が凄い、その隣にははだけた格好のイザー。
なるほど、つまりそう言うことか。
エルフの美女とミイラ男のカップル、なかなか衝撃的な光景だ、
「いや、なんと言うか、ほら、長い付き合いだからこうやって二人であって議論を交わすこともあるんだよ」
コル師匠はしどろもどろになって聞いてもいないのに弁解をしてくる。
なるほど、肌色の議論ですか、いやピンク色かもしれませんなぁ。
「そう言うことですか、よくわかりました」
弟子は師匠を立てるもの、そっとしておこう。
「そ、そうなんだ!!」
「ふふ、そうね、昨夜はベッドの中でたくさん議論を繰り広げたわね」
「ちょっ!!」
おっと、背後からのフレンドリーファイアですか?
イザーは艶かしくコル師匠を後ろから抱きしめる。
「イ、イザー」
「あら?抱きしめられるのはイヤ?」
「イ、イヤじゃないけどほ、ほら! 今は弟子が居るし!!」
「出直しますか?」
「気を使わなくても結構だよ!!」
師匠達の中で一番泰然としたコル師匠だったが今はイザーにてんてこ舞いだな、恋は人を弱くするなぁ。
「そう言う関係だったんですね」
「い、いや・・・」
「そうなの、私達付き合い始めたのよ」
攻めるなぁ、折角なので乗っておこう。
「いつからお付き合いを?」
「この街に来てからね」
おや意外と最近なんだな。
「貴方も知っている事だけど、あの国で自分の意思を奪われた事は私にとっても相当な衝撃だったわ。
アレを体験したらつまらない意地を張るのなんて馬鹿らしく思えてね、それで素直になる事にしたの」
ああ、リリスに操られていた時の事か、確かに他人に洗脳されて長い間自分を好き勝手されるなんていうのは相当な苦痛だったろうな、あの時は俺も操られかけたから人事じゃ無いんだよな。
それにしても二人は随分と勝手知ったる仲っぽいな。
そういえばコル師匠が以前事あるごとに張り合ってくる子がいたって言ってたな、なるほどそれがイザーのことだったのか。
ふむふむ、昔はプライドが邪魔をしてツンツンしていたけどこの前の件で見栄を張っても意味がないことに気づいてデレデレになったと、正しいツンデレですな。
いやデレデレか?
もしかして最近パル師匠がよく壁を殴っていたのは・・・・・・
「それはともかく、近くに迷宮を作るから協力して欲しいんだ」
どうでも良い事はおいておいて仕事の話を始める。
「・・・・・・魔王か、君も色々と面倒事に遭遇するね」
「いいんじゃない? 私は冒険者を強制送還させる魔法具を作れば良いんでしょう?」
「話が早くて助かる、頼めるか?」
「構わないわ、限定された範囲内の転移ならそれほど大変でも無いから」
「ありがとう、後で報酬なんかについての詳細を決める為の人を送るから」
こうして師匠達の爛れたアンデッド関係を目撃した俺は無事イザーの協力を得ることが出来た。
これで冒険者達の更なる安全が確保できる、何しろ冒険を終えて帰ってきた彼らはとても良いカネヅ・・・いやお客様だからな。
良い感じに懐が暖かくなった彼らにはぜひともウチの領地でお金を落としていって貰わねば。
◆
「遺跡にぶち当たった!?」
魔王のダンジョンを作る為、掘削用ドリルゴーレム達に穴を掘らせていたのだが、なんとその最中に未知の遺跡にぶち当たってしまったらしい。
「そうなんだよ領主様、遺跡からは魔物が出るし俺達の手には負えないんだよ」
グアツ達グアジュ組の大工に迷宮開発の細かい仕事を頼んだのだが流石の彼らも未知の迷宮には対処できなかった。
「とりあえずその遺跡は冒険者達に調べてもらうとして急いで遺跡を封鎖させよう、中の魔物が出てきたら大変だしな」
自警団と冒険者協会に指示を出して迷宮の入り口を封鎖、その後探索チームを結成して貰うとしよう。
それにしてもこんな所に遺跡があったとは・・・・・・もしかして湖の遺跡となにか関係あるのかな?
遺跡については結果が出るまで待つとして魔王が生む魔物を隔離する事は急務なので別の場所に暫定の深い穴を掘るとしよう。
全身から無駄にドリルの生えたドリルゴーレム達に命じて別の場所に深い大穴を掘るように指示を出す、まぁ使うのは両腕のドリルぐらいですが。
このゴーレムついつい興が乗ってドリルを付け過ぎてしまったが笑える位に使う機会が無い。
正直ミヤ達にも無駄なんじゃないかと突っ込まれてしまった。
・・・でも男受けは良いんだよね、つまりたとえ異世界であってもドリルは男の浪漫だという事だ。
数日後急場しのぎの深い穴が掘れたので早速魔王が生んだ強力な魔物を放り込む、幸い生まれたのは飛行能力の無い魔物だったので飛んで逃げる心配は無い。
とりあえずここを暫定の投棄エリアにして見たがこのままだと共食いなどの同士討ちをする危険があるな、さてどうしたもんか。
「モンスター触れ合いパークでも作る?」
アリスさんがグッドなアイデアを出してくれる、だが料金は客の命になりそうなので却下する。
とはいえ折角の高レベルの魔物だ、無駄にするのももったいない。
◆
と言うことで即興の闘技場を作ってみた。
古代ローマよろしく腕に自身のある騎士や冒険者を集めて戦わせてみよう。
勝利者には倒した魔物の素材を、連勝したら更に追加で賞金を出す事にしよう。
細かい調整は家臣と冒険者協会に放り投げるとして参加者からは参加費として銀貨1枚と別途治療費の請求、あと戦いを見に来る客は基本無料で会場内での飲み物や軽食を売る事で利益を得よう。
闘技場でお茶を濁している間に本格的に魔王のダンジョンを作っていけば良いだろう。
ところで魔王が魔物を生み出すシーンなんだがアリスがかたくなに嫌がって見せて貰えなかった。
一体どうやって魔物を生み出しているんだろうか?
凄い気になる。
◆
「差し入れだよー」
ダンジョンを作っているグアジュ組の皆にアリスがまかない飯を作って来てくれたので俺もご相伴にあずかる事にした。
「こいつぁ美味い‼︎」
「こんな美味い飯なら毎日でも食べたいくらいだ‼︎!」
絶賛する工員達に満更でもない顔をするアリス、これなら魔王との共存も問題なさそうだ。
「この年になって魔王の作った料理を食べれるとは、長生きはするものじゃのう」
気が付くと見覚えのある人が食事に混ざっていた、最近喋らないと思ったらこの人は。
「何混ざって食べてるんですか」
ルジウス王国初代国王であるアルテア様がちゃっかり食事を戴いていた。
「うむ、実はお主に伝えておかねばならぬ事がいくつかあっての、そしたら美味そうな匂いがするじゃろ? これはぜひとも口にせねばと思っての」
アルテア様が分かるじゃろ? と言わんばかりのリアクションを取る、分かりたくねー。
「で、伝える事って何ですか?」
「うむ、実は我な、ちょっと冥界に里帰りしてくるのじゃ」
「里帰りですか?」
寧ろ何時になったらあの世に帰るんだろうこの人、里帰りって事は帰って来る気満々だよな。
「冥界の住人である我が現世に留まるには色々と制約があっての、お主に与えた精霊石の力で現世に留まれたが流石に何時までも居れる訳ではない。その為我は一端冥界で長期滞在許可をとってくる必要があるのじゃ」
滞在ビザの申請かよ、現世に比べて冥界進んでるな。
「そう言う訳じゃからしばらく我の知恵を貸してやれんが、なに少しの我慢じゃ」
「もしかして最近出てこなかったのはそう言う理由だったんですか?」
「うむ、この間ちょいっと魔力を使いすぎてな」
「この間?」
「お主がシャトリアで洗脳されかけた時じゃ、その時に手を貸してやったのが我なんじゃぞ」
何それ初耳。
「お主があの女に惑わされた時アルマが現れてお主を導いたじゃろ?」
そうか、あの時唐突に現れたアルマはアルテア様からのメッセージだったのか、これは感謝しないと・・・・・・
「あれな、若い頃の我じゃよ」
「アルテア様ありが・・・・・・」
はい?
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
どう言う事じゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!! アルテア様がアルマ!? アルマがアルテア様!? 一体どういう意味だ?
「驚いたかの? いや我も初めは驚いたんじゃよ、何せアルマの姿は若い頃の我にそっくりだったのじゃからの」
「な、な、な、な」
「つまりじゃ、元々霊体である我にとって年齢に合わせて自分の姿を変える事など造作もない事、
洗脳により意識を誘導されていたお主を正気に戻すために、より衝撃を与える事の出来る姿として若い頃の我の姿を見せ驚いたおぬしに呼びかけたのじゃ、実際目が覚めたろう?
とはいえ魔法的な力による意識への介入に無理やり割り込んだ所為で我も相当消耗してしまった訳じゃ、ついでに周囲の者にも我の姿を見えるようにした所為で尚更消耗して回復するまで時間がかかったわ」
何という事だ。
「アルマが年を取ったらアルテア様になるのか・・・・・・」
「いや、その驚き方は失礼じゃろ、我はこれでも生前は絶世の美女としてモテモテじゃったんじゃぞ、今では伝説となっておる勇者や英雄、大魔法使いとかも我にメロメロじゃったんじゃぞ」
「そりゃアルマが成長したら絶世の美女になるのは当たり前じゃないですか」
「お、お主の嫁至上主義もいい加減相当のモンじゃの」
当然です、オレの嫁は世界一ですよ。
「それで冥界にはどれくらい滞在するんですか?」
「そうじゃのう、手続きが完了するまでは滞在する必要があるがどれくらいかかるかはわからんの」
なるほど、それなら数ヶ月は居ないと思っていたほうがいいな。
とはいえ、居るとパル師匠と一緒になってウザイ事してくるけど居ないとなると・・・
「我がおらんと心細いかの?」
「いえ別に」
「即断か!!」
うん、大丈夫問題ない。
「まぁ良い、それでは我がいない間は色々と気を付けるんじゃぞ、それと毎日墓前にお供え物をするのじゃぞ、具体的には魔王の作った食事じゃ」
「ご飯食べたいならさっさと帰って用事終わらせた方が早いんじゃないスか?」
「墓前に供えた食事は冥界でも美味しく食べれるから問題ないのじゃ」
墓参りって本当に意味あったんだな、新発見。
こうしてアルテア様はあの世に帰っていった、また戻ってくるけど




