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魔王拾いました

「ししょー魔王拾ってきたー」


「元の所に戻してきなさい」


俺のボケに反応したのは意外にもクアドリカ師匠だった。

というかパル師匠は相変わらず壁を殴ってる、研究しろよ。


「あ、クーくんいらっしゃーぃ・・・・・・・」


ヴィクトリカ姉さんの声が小さくなって消える。


「クーくん・・・・」


「何?姉さん」


「後ろの子達は何?」


やはりそれを聞かれたか、姉さんの顔(存在していないが)が強張っているのを感じる、感じるんだ。

俺は極力平静に勤めながら答える。


「拾ってきた」


「どうしてその子達はタオルを巻いただけの姿なの?」


「服を着てなかったからタオルを貸したんだ、悪いけど二人に着る物を貸してあげてくれないかな?」


「お姉ちゃん信じていいのね?」


何をですか?


「クーくんがアルマちゃんだけでは飽き足らず通りすがりの女の子を襲ったわけじゃないってお姉ちゃん信じていいのよね!?」


うっわ、信用ねー。


「まぁ!なんて事をしでかしたのかしらこの子は!本当アンタはあの男にそっくりだわよ!!!」


今まで壁を殴っていたパル師匠が食いついてくる、どの男だよ。

いいから貴方は壁でも殴っててください。


「そんな事よりも二人が風邪をひくから服をお願いできます?」


「そ、そうね、こんな格好じゃ恥ずかしいものね。二人ともこっちに来て」


「ちょ、ちょっと君!あの人首が無いんだけど!!」


今まで黙っていたアリスがオレの肩を掴んで質問してくる。

ああ、静かだと思ったら驚いていたのか。


「アンデッドだからね、首が無いくらい当然だよ」


「当然なの!?」


「いい人だから心配しなくていいよ、それともあっちで壁を殴ってる人の方がいい?」


俺が指を指した方向にはパル師匠がカモーンと両腕を引き寄せてこっちゃこーいとジェスチャーをしている、船幽霊みたいだ。


「首の無い人でいいです」


「しどい!」


姉さんに案内されて二人は奥の部屋へと消えていく。




「さてクラフタ君、魔王を拾って来たとの事だが?」


俺は師匠達に魔王を拾うに至った経緯を説明する、しかし師匠達はなんというか疲れたような顔をして唸っている。


「何かマズかったですか?」


「君は透明な石と混沌の神話は覚えているかい?」


「和解して許されたんですよね」


「そう、創造神である透明な石に許された混沌は神々と共に世界の運営に加わることとなった。

その際混沌の生み出した魔物、そして魔王という存在が注目されることとなったんだ。

魔王は元々世界に満ちる力を混沌に送る役目を持っていたんだが、

混沌と神との和解後はその価値を認められ仕様を変えて世界中の魔力の澱みをこすフィルターとしての役目を負うことになったんだ。

魔物が澱みを溜めて魔脈に流し魔王がそれを受け取り澱みをこして綺麗になった魔力を地脈を通して世界に再循環する。

そして溜まった澱みは魔王から分離する際に魔物と言う形で生み出される様になった」


「師匠、地脈や魔脈っていうのは何ですか?」


「あれじゃないゲームでよくある世界にエネルギーを循環するってヤツじゃないの?」


着替えを終えて帰ってきたアリスが話に加わる。

ドゥーロはヴィクトリカ姉さんにあやされている。

二人は姉さんのメイド服を着ていた、だが何故か二人共服のサイズがあつらえたようにぴったりだ。

ドゥーロに至っては背中の甲羅が邪魔にならないように背が大きく開いている。

しかもフリルが付いているので甲羅からフリルが生えているように見える。


「ひらひらなのー」


「良かったな」


「のー」


と言うか、何故ドゥーロに合う幼女サイズの服を持っていたのかが不思議だが、

それはきっと聞いてはいけないことなのだろう、疑問はそっと心の中にしまっておく。


話がそれた。


「地脈はそれで通じるけど魔脈は初耳だからさ」


「そういえばそうね」


「基本的にはどちらも同じものだよ、人間でいう動脈と静脈と思えばいい、魔王は悪くなった血液をろ過する腎臓に相当するんだ」


「んで、ろ過して出てきた魔物は魔王のおしっこってわけだ」


無駄に絶妙なタイミングでパル師匠が合いの手を入れてくる。


「わ、私おしっこしながら魔物を産むの!?」


「マニアック」


「ちょ!聞いてないわよそんなの!!」


「いや、別におしっこしながら産みだすわけじゃないから、あくまで人間の体の働きで考えたらという話だよ」


なるほど、魔王といっても悪の親玉とかいう訳じゃないんだな。

となればこの世界にいても特に問題ないわけか、だとしたらなんで元獣はナスこと魔卵獣を襲うんだろう?


「それは魔卵獣が魔力でできた卵だからだよ」


俺の疑問に師匠はざっくりと答えてくれた。


「元獣は元素を食うからな、魔力も好物なんだよ」


「もっとも異世界から魔王にふさわしい魂を呼び込む件については世界の分身である元獣にとって面白い話ではないだろうからそういう側面もあるんだろうね」


「自分の体にピンポンダッシュ&不法侵入されるような気分なんだろう」


この世界にもピンポンダッシュあるのか、新発見。


「とりあえず役目的には魔王がいても問題ないんですよね」


「……そうだね、魔王が定期的に現れないと世界に溜まった澱みが害をなすからね」


「具体的にはどんな害があるの?」


自分が関係することだからだろう、アリスも質問を始める。


「たとえばだけどある土地にお店を建てると必ず数か月で廃業する土地ってあるよね」


「あるある、後から入った新しいお店も潰れちゃうのよねー」


「大体そういう店のある所は良くない土地っていいますね」


「そう、そのお店の建った土地は魔脈から溢れた澱みに塗れた良くない土地なんだ、だから魔王は定期的に表れてくれないと困る」


「そっか、私は必要な存在なんだ」


アリスはなんだか嬉しそうに微笑んでいた、なにか向こうの世界であったんだろうか?


「けどそう良い事ばかりでもないんだよなー」


クギを刺す様にパル師匠が言葉を続ける。


「澱みをろ過した時に生まれる魔物っていうのは決して善良なもんじゃねぇ、人間に馴れる奴もいるがたいていは危険な存在だ。

魔王が表れると魔物の発生率が上がる、特に魔王の近くには強い魔物が生まれやすくなる。

だから魔王の存在が疎まれるのも事実だ」


「それって」


「魔王による被害が増えるってことだ」


被害という言葉にアリスが息を飲む。


「魔物が増えるということは襲われる人も増えるっていう事だからね、それが原因で魔王を恨む人もいるわけだよ」


「そんな……」


あー昔見た漫画でもそういうのあったな、魔王と仲良くなりたいけどその性質のせいで戦わなけりゃいけないってヤツ。

その作品では最後どうなったんだっけ?


とりあえず魔王のそばで生まれる強い奴は生まれた瞬間どこかに隔離すればいいんじゃ良いんじゃないだろうか?

たとえばダンジョン……


「それだ」


「「「え?」」」


急に声を上げた俺に皆の視線が集まる。


「何がそれなんだい?」


「ダンジョンを創ります」


「ダンジョン?」


「ダンジョンの最下層に魔王の住む家を作って魔王の近くに生まれる魔物を迷宮内に住まわせれば被害は最小限で済みます」


「ほう」


「私ダンジョンに住むの?」


「大丈夫、良い家を建てるから、それに冒険者に告知をして魔王ダンジョンを観光地を兼ねた冒険の場にしよう」


「え?私攻められるの?」


「魔王の迷宮にいる高レベルモンスターから採れる素材ならお宝として申し分ない、利益になるとわかれば魔王を排除しようという動きも牽制されるだろうさ」


「あっ」


「なるほど、人間デメリットよりもメリットが大きければ目をつぶるものだからね」


「その際領地の巡回を行う警備隊の人材を追加募集して、あと素材を加工する職人と魔物の食材を調理する料理人も集めよう、人が増えれば経済も回る、つまり儲かります。

ああそうだ、近隣の町と水路を繋げて船やボートで行き来できるようにしよう、公共事業で職人が潤う」


「お姉ちゃんお金儲けを考えている時のクーくんが凄く輝いてるって言うか遠い所の人の様に見えるの」


「領主というより商人だよね」


「魔物も商売に組込む弟子、いい感じに発酵してきたなぁ」


「気が付いたら私迷宮で住むことが決まってるの?」


「ああ、大丈夫、直通のエレベーターとか作るから。

それと食堂とか作るか?魔王食堂とか言ってさ」


「もうちょっと素敵な名前がいいわ、でも食堂は良いわね」


「ご主人、ごはん食べたいの」


食堂という単語にドゥーロが反応する、そうかお前は食いしん坊キャラだったのか。


「じゃあお夜食作ってあげるわね」


「ちょい待った!」


「なぁにクーくん?」


夜食を作ろうとするヴィクトリカ姉さんに待ったをかける。


「ここはアリスに作ってもらいましょう」


「え?私?」


「そう、魔王の料理スキルの力を味あわせて貰おうか」


そう、魔王級のスキルの力というものがどれほどのものなのか、ぜひとも確認しておきたいのだ。

幸い魔王のスキルは非戦闘系、料理で死人ができることはないだろう。


そう思っていた浅はかな俺がいました。



「美っ味ぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」


「美味しい美味しい美味しい」


ヴィクトリカ姉さんの首から大量の血が噴水のようにリズミカルに噴出し、

噴出した血液が星や水玉の模様になって踊っている。


「これはさっぱりとした口あたりだがしかし決して薄くないハッキリとした印象を舌に残す(以下略)」


普段冷静…冷静なクアドリカ師匠が目を物理的に光らせながら食通の人みたいなセリフを言いつつそれでも料理を口に運び続ける。


「モフモフモフモフモフの」


ドゥーロはその体を遥かに超える量の食事をまるで水を飲むような勢いで食べていく、口の中に料理が入る度に背中の甲羅から亀甲模様型の破片が金太郎飴の様に生産されていく。

目からウロコならぬ甲羅からウロコと言いたいのだろうか?


「ウヒョォォォォォォ、よだれが止まらねぇじぇぇぇぇぇ!!!」


もうこの人に至っては全身の穴と言う穴から魔力を噴出しながら料理を食べている、玩具の発光ギミックかよ。

ああ、クアドリカ師匠の目が光っているのは魔力だったのか。


え?俺?俺は別に特別なリアクションなんてしていないよ。

ただ普通に全身から凄まじい勢いで魔力が溢れて、

体が勝手にブレイクダンスでもしているかのように動いているだけだよ。

どうやら魔王の料理を食べると魔力が溢れその反動で過剰なリアクションを取ってしまうらしい。


さらに屋敷の外から大勢の人の声がする。


「おおおおおぉ、何だこの匂いは?涎が止まらねぇ!」


「飯!飯だ!!」


「さっき食ったけどまた食事がしたくなって来たー!」


外は外で大惨事である、正に飯テロ。

魔王の料理が料理を作り始めた後、完成に近づくにつれてその匂いで涎が止まらなくなり完成した料理を見た瞬間食べることしか考えれなくなった。

そして気が付いたら妙なリアクションを取ながら夢中で食事を貪ってる自分が居てあっという間に料理を完食してしまった次第である。


「どうだった?私の魔王料理」


「「「「「美味しかったです!!」」」」」


疑う余地のない味だった、これは間違いなく売れる、売れすぎる。

だが拙い、この料理は危険だ、これを口にしてしまったが最後、他の料理が不味く感じてしまうだろう。

魔王料理で一儲けとか無理だわこれ、この料理を食べるために人生破滅する人が出るかもしれん。

本当に食で世界征服できてしまうかも。


「魔王食堂は予約制の超高級料理店として一般人の口には入らないようにしないといけないな」


「お姉ちゃんもそう思うの」


「同意だね」


「お代わり」


「お代わりの」


「はいはい」


ウチの欠食児童達に急かされてアリスは再び厨房に向かう。


「黒いの見直したの!退治するのは止めてあげるの!」


「それはどーも」


すっかりアリスの料理のトリコになったドゥーロが元獣の使命とか放り出して懐いてしまった、それで良いのか尊き存在。


「ドゥーロはオレとアリスのどっちの味方なんだい?」


ちょっと意地悪な質問をしてみる。

ドゥーロはオレとアリスを何度も往復しながらウンウンうなり始めた。


「ご、ご主・・・ごご、ご飯!!!!」


コ、コイツ飯に目が眩みよった。


こうして魔王はダンジョン内に2重の意味で隔離することが決定した、好きな時に出てこれるけどね。

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