血戦!サンタクロース
「いらっしゃいませお客様!」
大量に入ってきた観光客に素早く十分な食事を提供するために開店した新店舗マエスタバーガーは大盛況だった。
名前の通りハンバーガーを売りにしたファーストフードだ、
中世ファンタジー世界のアルケルティアではよほど大きい街でなければ薄利多売はきついが観光地でありまた24時間生者と死者が入れ替わり生活するこの町でなら利益が期待できるだろう。
「バジリスクバーガーセット入りましたー」
「ジャイアントクラブバーガーセット入りました!」
「三日月魚バーガーセット入りましたー!」
物珍しさから飛ぶように商品が捌けている。
観光客が多いがその中でも日本人客の比率が多い。
「まさか異世界でハンバーガーが食えるとはなー」
「ああ、懐かしいジャンク味、日本が懐かしいなぁ」
どうやら異世界永住組の琴線に触れたらしい、リピーター様一丁。
とはいえこのままでは食材が足りなくなってしまう、近隣の猟師と漁師の皆さんに頑張って貰わねば。
店の裏口に回ると水路から水棲種のおじさんが上がってくる。
「三日月魚の補充持ってきました」
「お疲れさん、30匹だと銀貨10枚だね」
「ありがとよ、まだ要るかい?」
「ああ、頼む、けど小さいのしか居なくなると困るから取りすぎに注意な、領主様が怒るからな」
「分かってるって、けど偉いよな、あんな子供なのにちゃんと小魚は取るなとか後のことまで考えてるなんてよ」
「領主様は見た目より年上に見ておかないとな」
「確かに」
ははははと笑う店員と水棲種の漁師、水路を利用して湖から一気に捕らえた魚を運んでくるので下手をすると馬で来るより早かったりする。
しかし連中には俺はどう見えているんだろうか?
とりあえず商品在庫は問題なさそうなので次行くか。
水路沿いに町を歩いていると湖側から人が大勢やってくる。
彼等は妙にはしゃいで会話を楽しんでいた。
「すげーのなあれ!」
「キャッスルトータスってほんとにお城みたいに大きかったー」
「ありがたやありがたや」
「死ぬ前に良い物が見れましたねぇ」
「カメおっきかったー」
「そうね、カメさん大きかったわね」
どうやらキャッスルトータスのドゥーロを見に行っていた見物客の様だ。
あいつどんどんでかくなって下手な塔よりデカくなってるからなー。
いったい何処まででかくなるんだろうか。
念の為、街の恥部であるあの壁の様子を見に行っておく、何かあったら街の恥だからな。
だが俺の心配とは裏腹に壁殴り場は不気味なほど静かだった。
虚しくなって止めたのだろうか、だったら良いんだが。
見るものも無いのできびすを返して街の中心に戻る俺だったがそこはかとない不安が胸中をよぎるのだった。
昼も近いので一端領主の館に戻ろう。
「お帰りなさいませお館様」
ラヴィリアの用意してくれた昼食をアルマと一緒に頂く。
昼は普通の食事だが夜は腕によりをかけたご馳走を用意してくれるらしい、これは楽しみだ。
バイア茶を呑みながらまったりしていると書類を持ったミヤがやってくる。
「御主人様、クスジンの街の病院から報告です。
御主人様のお作りになった足湯は患者さん達に好評だそうです」
ああ、患者へのクリスマスプレゼントに作った足湯施設の件か、
クリスマスプレゼントを兼ねて治療とストレス解消の為に作ったものだったがなかなか好評の様だ。
「また鉱山街からクリスマス用に製作している装飾品が完成したので取りに来て欲しいとのことです」
実は各街の責任者と一部の重役には通信機を渡してある。
こういった大規模イベントで連絡を密にするためと通信機を使用しての運営のサンプルとしてデータを集めるためである。
「空いてる人員を受け取りに向かわせてくれ、ゴーレムの使用を許可する」
「承知しいたしました。」
「サンタは?」
「問題ありません、近隣の武術経験者の老人をスカウトしてサンタクロースに扮してもらう予定です」
「トナカイは?」
「人数分の偽装は完了いたしましたが操縦性を考えますと訓練時間が足りません」
「演出だから操縦は外部からの遠隔でいいだろう」
「では私が操縦を行わせていただきます」
「ん」
「それと例の物は夕方には届くそうです」
「そか」
最後の報告だけこっそりとしてくれるミヤはやはり有能だ。
夕方になると大分町が混雑して来た、警備兵や自警団にはすりに注意するように言い含めておく。
頼んでおいた品を無事受け取ってからアルマと街の散策に出かける。
夕方でも冬なので日はすぐに落ちる、クリスマス仕様のイルミネーションが輝きを放ち祭りを楽しむ者達の目を楽しませる。
クリスマス限定メニューを売り出す屋台に多くの人が列を作り食事をする。
皆がお祭りの空気に酔いしれていると遠くからどよめきが聞こえてくる、どうやら来たようだ。
声のする方から音が聞こえてくる、しゃんしゃんと音が響き空を赤い影が走る。
「クラフタ様!空から何か飛んできますよ!!もしかしてアレが?」
「ああ、サンタクロースだよ」
トナカイとソリ型の飛翔機に乗ってやってきた何人ものサンタクロースがやってくる。
ミヤに操縦されたソリはゆっくりと地上に滑空するとサンタ達は大きく真っ白な袋を担いで大地に立つ。
「メリークリスマス!!」
「めりーくりすますー」
「くりすますー」
俺の雇ったサンタ役の老人達がみんなに挨拶をすると子供達が大喜びで返事をする。
ヒーローショーの司会のお姉さんとの掛け合いを思い出すなぁ。
「良い子の皆にプレゼントだよー」
サンタ達は子供達にプレゼントを配り始める、もちろん出資者は俺だ。
たまには市民に利益を還元するのも良いだろう。
だがそんな微笑えましい一時を邪魔するろくでなし共が表れた。
「待てい!!!」
何事かと人々が声のする方向を見ればいかにも怪しげな格好をした馬鹿共が腕組みをしてやって来るではないか。
先頭にいるリッチなど知らん。
「何がクリスマスだ!何が恋人達の夜だ!!俺達に恋人なんていねぇ!!!!」
「「「「一人!一人!一人!!!!」」」」
「クリスマスは・・・俺達がぶっ潰す!!!!」
「「「オオオオオオ!!!!!!!」」」
後ろの連中が呼応する様に叫びだす。
なんというか凄い世紀末な格好をしているのでチンピラ臭が半端無い。
どう考えても警察に厄介になる光景しか見えない。
朝のうち大人しかったのこの為か、なんて後向きな努力だ。
流石にこれは止めるべきかと思ったのだが俺が動く前にサンタが動いた。
「坊や達、良い子にしないとプレゼントはあげないよ」
「プレゼントゥ?そんなモンはなぁ!奪えばいいんだよぉぉぉぉう!!!」
「ヒャッハー!!!」
「イェアァァァァァ!!!」
馬鹿共がサンタ達に殺到する。
これは不味い、チンピラ対策に武道経験者を雇ったが幾ら経験者と言えどこれだけの数を相手にする事は想定していなかった。
サンタ達を援護しようと魔法を唱えようとしたがサンタの一人がこちらを向いて首を横に振った。
手を出すなと言うことか、おれが躊躇った一瞬の隙を付いてバカ一号がサンタに襲い掛かる。
「死ぃぃぃぃねやぁぁぁぁぁ!!!!!」
凄まじい勢いで突きを放つバカ一号、まさか壁を殴り続けただけでこれほど能力が上がるとは。
だがサンタはもっと凄かった。
「ホイホイホホイ」
軽く声に出しながらバカ一号の攻撃をその腕で、手の甲で逸らして行く。
そしてサンタはハリウッド映画張りのリアクションで言った。
「良い子は寝る時間だ」
か、かっこいい良いぃぃ!!!
おおおおお、と観客達が盛り上がる。
「く、か、カッコいい事いってんじゃねぇぞぉぉぉぉ!!!」
残ったチンピラ共が誘蛾灯に群がる虫のように突っ込んでいく。
サンタ達は好都合といわんばかりにチンピラ共を喰らっていく。
相手の拳をいなしつつ半回転して体勢を崩した相手の股間と肩に腕を回して担ぎ上げながら回転を続ける。
そしてその体は大地から離れ天へと昇って行く。
「ふはは!人コプタァァァァァ!!!」
「ふぁ!?」
思わず変な声が出た。
まさしく人間タケトンボとなったサンタが回りながら空を飛び
「そぅら、空を自在に飛ぶが良い!!」
そう言い放ち哀れな犠牲者をぶん投げる。
投げられた犠牲者はまッすぐに用水路に突っ込んで行き水柱が立ち上がる。
それは地獄の光景だった、
サンタの格好をした老人達が襲いくる世紀末ルックなチンピラを片っ端から返り討ちにしている。
一人のチンピラがサンタのカウンターパンチを受けて崩れ落ちる。
また別のチンピラがアゴを打たれ脳震盪を起こす。
魔法を使って遠距離攻撃をして来たチンピラに対して拳に魔力を乗せたサンタが魔法を弾き返す。
その隙を突いて襲ってきたチンピラの懐に逆に飛び込み膝蹴りを食らわす。
サンタの衣装はアルマのゴーレムドレスと同じパワーアシスト効果があるがそれだけだ。
正直に言ってサンタ達の動きは現役のソレだった。
街の中がチンピラの悲鳴で溢れる、だがその中でも気骨の有る奴がいるようだ。
「捕まえたぞ!!これで妙な技は使えないだろう!!」
サンタに吹き飛ばされる仲間を囮にして一際ガタイの良いチンピラがサンタの体を羽交い絞めにする。
そのままサンタの両腕を破壊するつもりだ。
俺は慌てて魔法で援護をしようとするがサンタは涼しい顔をしている。
「ひゅぅぅぅぅぅぅぅう、ふん!!!」
瞬間、サンタの肉体が爆ぜた。
サンタの肉体がこれまでの老人のそれから筋骨隆々のたくましい体に変化しチンピラの拘束が弾かれる。
「なっ!」
「金剛体法、武術の頂に足を踏み入れた者なら誰でも使える技だ」
「お休み坊や」
サンタは子供をあやすような気軽さで目の前のチンピラの胸めがけて正券突きを繰り出す。
攻撃を受けたチンピラは錐揉み回転を死ながら用水路に飛び込んでいく。
水柱が上がるのを確認せずサンタは後ろを向いた。
「・・・メリー、クリスマス」
全てのチンピラが用水路に叩き込まれるとサンタ達は再び子供達にプレゼントを配り始めていた。
クールすぎる、子供達は物語のヒーローを見るような目でサンタを見ている。
暫くしてプレゼントを配り終わったサンタは別の場所にいる子供達を求めて去っていった。
子供達もサンタを追いかけて付いていってしまったのでここも随分と閑散としている。
「さびー」
「ガチガチガチ」
「へっくしゅん」
あー用水路に落ちた連中が凍えてるな、風邪を引かれても迷惑だ。
「あー、街のはずれのホテルの風呂を有料開放するから入ってけ、代金は街の清掃な、騒ぎを起こした罰だ」
「へーい」
チンピラ軍団は風呂に入りに去っていった。
騒動も一段落したので領主の館に帰る事にした。
「はーバカらしい騒ぎだった」
「でも楽しかったですね」
「・・・・・・楽しめたようで何より」
「はい!」
丁度いいタイミングだし渡しとくか。
「アルマ、コレ」
アルマに小さな箱を渡す。
「クラフタ様、これは?」
「開けてみると良いよ」
俺の言葉に従いアアルマは箱を開ける。
「クラフタ様、これは」
ソレはネックレスだった、エメラルドとルビーをあしらったささやかな品だ。
本当ならもっと豪奢な物にすれば良かったのだが折角のクリスマスなのだからソレに合わせた方がいいだろう。
「有難うございますクラフタ様!とっても嬉しいです」
アルマはネックレスを身に着けると嬉しそうに言ってきた。
「クラフタ様、これ、私からのプレゼントです」
そういって持っていた袋を俺に渡してくる。
「あけてみてください」
言われるままに袋の中を覗き見る。
中に入っていたもの、ソレはマフラーだった、
「へぇ、マフラーか」
アルマがくれたのは青色のマフラーだった。
「本当は手作りにしたかったんですが時間が無くて」
ソレは仕方が無い、今回は特にな。
俺はマフラーを巻くがよほど長いのを選んだのか首に巻いても垂れてしまいそうになる。
「ご、ごめんなさい長いほうがいいかなって思って・・・すみません」
俺は何も言わずマフラーをアルマにも巻いていく。
「こうすれば二人で温まれる」
カップル巻きだ。
「っ!はい!!」
俺達は身を寄せ合いながら家路に着いた。
翌朝
「よーう、侯爵さまぁ!」
なんか知らない人から挨拶された、だれだっけ?
プラチナブロンドの渋いナイスミドルなおじさんだが全く記憶に無い、どこかであったかな。
「俺だよ、オレオレ」
胡散臭い詐欺みたいな口調で話すその声には聞き覚えがあった。
「・・・・まさか」
「お前の師匠パルディノさんですよー」
「は?」
「いえーい」
その声は間違いなく俺の師匠、リッチのパルディノ師匠だった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁァ!!!?」
「いやー長湯したらふやけちゃったよ、はははははっ」
水に浸かるとふやけるのかー
「ちなみに僕はふやけないからね」
さりげなく風呂上りのコル師匠が捕捉する。
そっかーパルディノ師匠だけかー。
謎が増えた。
余談だが今回サンタとして雇った老人たちはクスジンの村の近くに有るサラメー村の住人達だった。
彼等は元軍人や元冒険者で引退して村でひっそりと暮らしていたらしい。
そこで俺はサラメーの村に大きな道場を作りマエスタ領の警備兵達の修行場として運営しその指導役として老人達を雇うことにした。
彼等への報酬は月当たり金貨4枚の給料と村に作る銭湯の無料入浴権だった、どうやら先日開放したホテルのフロや病院の足湯が気に入ったらしい。
そこで彼等のために銭湯を村に造る事にしたのだ。




