異世界にクリスマスなんてありません
朝日を感じて目が覚める。
目の前にアルマの寝顔を見て心が温かくなる。
布団から露出した顔が冷気に触れる、寒さをしのぐ為にアルマの頬に自分の頬を寄せる。
子供の高い体温が心地よい、思わず頬ずりしてしまい自分が猫になった気分になる。
シャトリアから帰ってから2週間、アルマの温もりを感じるたびに幸せを感じる。
ほっこりしながらまどろみを楽しんでいたのだがそれを邪魔するようにドアがノックされる。
「お早うございますお館様、お食事の用意が出来ました」
侍女ラヴィリアの声だ、彼女の朝は本当に早い。
会社に出勤するギリギリまで惰眠をむさぼっていた自分とは大違いだ。
「お早うラヴィリア、すぐに着替えて食堂にいくよ」
「承知いたしました」
さて、それじゃあアルマさんを起こしますか。
「アルマ、朝だよ、あさー」
「みゅ?」
可愛い生き物が可愛い声で鳴いた、よし、ビデオカメラを造ろう。
「ご飯出来てるよ、さぁさ着替えなさいな」
「はーい、むみゅうぅ」
今日は寝ぼけモードが強いな、仕方が無いので着替えを手伝おう。
邪な意図はないよ。
「はいバンザイしてー」
「バンザーイ」
バンザイしたアルマの寝巻きを脱がせて服を着せる。
「寒い・・・」
確かに、もう冬に入っているから暖房が無いとキツイな。
薪を燃やせて温まる暖炉はあるけどアレはすぐ温ったまらないからな。
・・・ふむ、暖房を造るのもありだな、ウチで使う様のハイエンド機を何台か作って、
それを簡易化した量産型を売りに出そう。
でもそれだったら夏暑く冬寒いこの国にはエアコンの方が便利だな。
貴族向けに作ってみるか。
アルマの手を引いて食堂に向かう。
やっぱり寒いな、使用人たちのためにも暖房はあったほうがよさそうだ。
朝食を食べ終わる頃にはアルマの目も覚めていた。
応接間のソファーで食後のお茶を飲みながらアルマを抱き寄せて髪を撫でる。
最近の日課だ。
「ご主人様、そろそろお仕事の時間です」
「んー」
アルマの腰に手を回して執務室に向かう、ぴったりと密着した状態だ。
「・・・ご主人様、そろそろアルマ様を放して差し上げた方がよろしいのでは?」
「アルマ分が不足していてなー」
「そんな事言ってもう2週間じゃないですか」
シャトリアから帰ってきて2週間、俺はずっとこんな感じでアルマとベッタリだった。
なんというか向こうに行ってからアルマと離れたくなくて仕方が無いのだ。
「アルマ様にも習い事があるのですよ」
「はいはい」
後ろ髪を固定される気分でアルマから手を離す。
「私は独占されて嬉しいですが」
「限度があります、愛し合う分には文句もありませんが依存はいけません」
ミヤのロジカルな思考は俺にとって良いストッパーだなぁ。
そしてミヤが持ってきた白亜の山を絶望的な気持ちで眺めながら心から判子押しマシーンになって判子を押していく。
昼食の時間が来るまで俺は人間をやめ領主をやめ判子を押す歯車となるのだ。
「飯ウマ・・・」
延々と続く地獄のような紙の山を裁いた俺はちょっと遅い昼食のサンドイッチを食べながら視察と言う名の散策を開始した。
「サンドイッチもいいけどハンバーガーが食べたいな」
ジャンクフード大好きな自分としてはそういった雑な食事が懐かしい。
屋根の有る場所で出来立てのあったかい食事がすぐ出るってのは商売において利点だよなぁ。
これも草案を出しておくか、アイデアをある程度形にしておけばミヤがそれを書類の束に練成してくれる。
しかし寒いな、もう年末が近いのだから寒いのは当然なんだが。
「年末といえばクリスマスが近いな」
皆すまない、今年はサンタ狩りに参加できそうも無い。
だって俺はリア充になっちまったから。
「さーむくなっるとークリスマスがやって来るー恋人居ないオイラたちゃぁ嫉妬を募らせ壁殴りぃーサンタの頭を狙い打てートナカイ襲ってナッベにしろーこーとしーのクリスマスちゅーうーしーですーイェアァ!!」
リア充撲滅の歌、作詞俺
「クリスマスって何ですか?」
「おわぁ!!!」
き、聞かれたー!!!
しかも間の悪いことに聞いていたのはアルマだった。
「クリスマスって何ですか?」
「あー、いやなんというか皆でパーティしてプレゼントをあげる日?」
「プレゼントですか!!」
「そう、プレゼントが貰えるのは良い子だけだよ」
「私良い子にします!!」
微笑ましいなぁ。
「クリスマスやってみる?」
「はい!!」
ふむ、折角だから大々的に開催してみるか。
周辺の街の商工会メンバーに召集をかけてクリスマスイベントについて説明をする。
「なるほど、異国の季節の祝日を商売に取り入れるわけですな」
「そんなに上手く行くかしら?」
「もともと観光の町として作られたんだからいけると思うな」
「客足の鈍りやすい時期に祭りの日を追加すると思えばいいんじゃないか?」
「クリスマスにあわせて特性のアレンジをした宝石を売るというのは面白いですな」
「旅行客が気軽に買えるように安物を主力にした方が良いだろう」
「いや、恋人同士なら貴族が奮発することも考えて良い物も少数用意したほうが良いだろう」
「クリスマス限定メニューも考えましょう」
商売に絡むと聞いて商売人としての本能が刺激されたらしい、互いに意見を出しあって話が膨らんでいく。
結論としては、クリスマス専用のケーキに料理セットと安物と高級品の宝石を売り出す、エメラルドとルビーでクリスマスカラーだ。
幸いクズ石は良く出るのでそれを活用する形だ。
他にはプレゼント用のお菓子に少し高めのアクセサリなど普段売れないモノを積極的に売りに行くつもりだ。
祭りの日は皆財布の紐が緩くなるからだろう。
後はゴーレムをクリスマスコーディネートして歩くクリスマスツリーにしてと、
街のネオンもクリスマス仕様に変えておくか。
ただ一つ問題が発生した。
「さーむくなっるとークリスマスがやって来るー」
「恋人居ないオイラたちゃぁ嫉妬を募らせ壁殴りぃー」
「サンタの頭を狙い打てートナカイ襲ってナッベにしろー」
「こーとしーのクリスマスちゅーうーしーですー」
「「「イェアァ!!」」」
どこかで聞かれたのか俺の替え歌が子供達の間で流行ってしまったことだ。




