黒幕発見
読者の皆さんから伏線が分かりずらいと多くのご指摘がありましたので77話から83話までの伏線に関する演出を強化して再投稿いたしました。
やや露骨になった気がしますが主人公が洗脳されているのが分かりやすくなっていると思います。
一応読まなくても大筋は変わっていないのでまた読むのが面倒と言う方は読まなくても大丈夫です。
俺を邪魔した男、それはギストール子爵だった。
ギストール子爵は口元を覆うごついマスクを付けて立っている、恐らく香を自分で吸わない為だろう。
つまりコイツもグルか。
「でかしたわギストール! さぁコレで私に従いなさい」
そう言って香に火を灯すヴィシャーナ、部屋に匂いが充満していく。
マズイ!!
「くっ!」
「クラフタ様、私が貴方の妻、そして貴方の主なのです、ですから私に跪きなさい」
ヴィシャーナがそう宣言し俺を操ろうとする。
だが
「断る」
香の匂いは俺に何の効果ももたらさなかった。
「嘘! 貴重な高級洗脳薬なのに、なんで効かないの!?」
どうやらさっき飲んだ魔法の気付け薬が効果を発揮しているようだ。
「ストームウォール!」
俺の魔法でギストール子爵の前に嵐の壁が立つ。
「うぉ!」
『拡散! 操作! ウォーターボール!!』
更に拡散スキルで3つに増えた水の球がヴィシャーナの香目掛けて飛んでゆく。
邪魔をしようと構えたギストール子爵だが目の前に立ちふさがる嵐の壁の前にはどうしようもない、密室ではウォール系の魔法は存外優秀だな。
3つの水の球はヴィシャーナ目掛けて飛んでゆく、辛うじて避けるヴィシャーナだったが操作スキルで1つだけ操られた水の球に当たりびしょ濡れになる。
「なんで直進しかしない魔法が曲がるのよー」
「コレはスキルですかな」
「コレで洗脳は出来なくなったぞ」
『やっと調子が戻ってきたか未熟者』
アルテア様の声が響く、そうか俺を起こしてくれたのはアルテア様だったのか。
意識がハッキリしてきた今ようやく理解した。
「すみません」
『次は助けんぞ』
「今まで貴重な洗脳薬をたくさん使ってきたのになんで正気に戻ちゃったのー?」
「それはやはりシナリオに無理があったからでは?」
ギストール子爵がダメ出しを始める。
「拒否反応が出る度につじつまを合わせるから無理が出たんですよ。
だいたい王様にするなんていうのが無理がだったんじゃないですか?
マエスタ侯爵は第2王女の夫ですよ、それを無理に婚約者になんてするから破綻が始まったんですよ」
「だってこの子面倒事を押し付けられてるし流されまくってるじゃない?
だからきっと内心じゃストレス溜まってると思ったのよ、
で、支配欲とかのきっかけを与えれば爆発するかなーって」
大きなお世話ある。
しかしこの二人がグルだったとは、俺はギストール子爵から距離を取りつつヴィシャーナにも警戒する。
コイツ等は俺を洗脳しようとした、とすれば洗脳に優れたスキルを持っているかもしれない、
検索でヴィシャーナのステータスを確認する、この女の持つ能力は
『アンノウン』
ヴィシャーナのステータスは存在しなかった。
「は?」
「あらぁ?どうしたの?私のほうを見て変な顔をしちゃって?」
ヴィシャーナはにこやかに笑いながら俺を見つめる。
「私のステータスが見えなくて驚いた?」
コイツは俺がステータスを見たことが分かったのか?
「だって私貴方のステータスを知っているもの」
「なっ!!」
俺のステータスがわかるということはこの女もステータスを見ることの出来るスキル持ちか?
バキュラーゼの黄色といいステータスを見れる奴が連続で来るのかよ。
「それにステータスを見る子って癖があるのよね、急に黙ってじっと凝視してくるの」
う、確かにやってる。
い、いや今はそんな話をしている時じゃない!
「お前は何者だ?」
「シャトリア王国第5王女ヴィシャーナ=ロンド=シャトリアよ」
「本当にお前が王女なのか?」
「ひどいわね、何で疑うのかしら?」
「お前の脚本がひどいからだ、なんで王女が一人だけ放置されてたんだよ、常識的に考えてありえんわ!」
よくよく考えてみればあんな所に王女が放置されて居たのもおかしい。
常識的に考えてありえない、正気に戻った今なら理解できる。
どうも王都に入ってからと言うもの意識がかき乱されて不快だったが今思うとそれも全て洗脳の為の道具が仕込んであったからだろう。
「ほらやっぱり」
横からギストール子爵があいずちをうってくる、仲悪いなーこいつ等。
だがギストール子爵の反応からやっぱりこの女は王女で無いと分かる。
「ちぇー、折角悲劇の王女として少年をドギマギさせてやろうと思ったのになー」
そういいながらクルリと回るとヴィシャーナの姿がピンク髪の猫耳から少し茶色の入った黒髪に変わりネコミミも無くなってしまう。
「ふざけんな!!!!」
「うぇっ!!な、何?一体?」
俺が急に怒り出して驚くヴィシャーナ、だが当たり前だろう!!
ピンクだぞ!ネコミミだぞ!
「ただの黒髪って何だ!!!
それじゃ日本人と一緒じゃねえか!!」
騙された!クソ騙された!!洗脳とかどうでも良いが、いや良くないがネコミミピンクが嘘だったなんて!
「許せん!!」
「ちょっとこの子何言ってるの?」
「いやー分かりますなー、言うなればドレスを脱がせたら魅惑の果実が蕾だった時のガッカリ感でしょうか?」
ギストール子爵は良く分かっている、この男とは美味い酒が呑めそうだ。
いや呑まんが。
「なんなのよ一体!もう!私は日本人なんだから黒くて当然でしょ!!」
日本人だからってやって良い事と悪い事が・・・・・・何?
「日本人?」
「あ・・・そうよー私は日本人、貴方と同じ日本人よ、
ここではリリス=イシュタ=マルモって名乗ってるわ、リリスって呼んでね!」
開き直った偽ヴィシャーナは胸を張りながら自分が日本人だと認める。
しかもミドルネーム持ち、スキル2つは確定か。
「何故俺が日本人だと?」
「カインから聞いたわ、鑑定スキル持ちのクラフタさん」
カインの知り合いか、この女何処まで知っているんだ?
「師匠と間違えてませんか?俺は10歳なんですけど、こんど11歳になりますが」
「それは魔法のアイテムの力か何かかしら?
貴方がカインの襲ったクラフタさんという事は分かっているわ、
だってカインの襲った人と同じ名前で同じクラスでさらに師弟関係なんて幾らなんでも怪しすぎるわよ。
それに10歳の男の子にしては知識も胆力もありすぎなのよ、幾ら英才教育したといっても限度があるでしょ」
うう、言い訳の言葉も無い。
「つまり貴方はクラフタ=クレイ=マエスタ本人よ、何事にも流される自己主張の少なさがいかにも日本風草食系を超えた日本生息型草系男子の特徴よ!!」
「ぐは!!」
草系って動物ですらないだと!!
「く、カ、カインと知り合いの様だけど、どういう関係何だお前等」
「昔パーティを組んだんだけどぉ、んー?養分?」
悪女確定。
「彼ねー、凄い凡人でね、才能の有る人間に嫉妬する駄目な秀才キャラだったのよ。
だからその劣等感を利用して好き放題に操ってたんだけど調子に乗りすぎて君にやられちゃった、てへ」
さらっと言ってるけどカインがあんなになったのはこの女が原因だったのか。
まさかとは思うが、もしその通りだったら・・・
「お前、カインを洗脳したのか?」
「あら分かった?そうよー、この自分に素直になるお薬を飲み物にまぜて、
異世界に来てまで現実に叩きのめされて自分の凡人っぷりを嘆いていた彼に言ってあげたの、「だったら特別な人間になればいいじゃない」ってね。
そしたら心の箍が外れちゃって使うのを躊躇っていた接収スキルをバンバン使い出したわ、あんなスキルを隠し持っていたことには驚いたけどね」
なるほど、現代社会で育ったカインが連続殺人を犯してまでスキル強盗をしたのはそういう理由があったのか。
つーかこの女マジで悪女だな、それにカインを操っていたって事は。
「魔法少女を洗脳したのもお前か」
「ええ、そうよ。可愛かったでしょ魔法少女、あの子達の衣装は全部私がデザインしたのよ」
27人全員分か、お疲れさん。
「でもあの設定はどうなんでしょうね?魔法なのに殴ってましたよ」
「判ってないわねぇ、最近は殴りあう魔法少女が基本よ」
何処の基本だ、って言うかなんかおかしくないか?
「おい、何で魔法少女の戦闘スタイルの話しになるんだ?それじゃまるで・・・」
「まるで魔法少女は私が造ったみたい?
そうよ、あの子達も私が洗脳した只の女の子よ」
「はぁ!?」
突然の暴露に驚きの声が出る。まさか魔法少女達が洗脳されていただけじゃなく只の女の子だって?
「どういう事だ?あの戦闘能力は普通じゃなかったぞ!」
「あの子達は私の洗脳で肉体の限界を超えていたのよ。
それに、あの子達のドレスを始めとした装備品は特別製よ、持ち主の限界を考えずに極限まで装備の力を発揮する仕様になっているの。
もっとも常時それだとすぐ壊れちゃうから私の命令か特定の状況にならないと使えないようにしてあるわ」
「特定の条件って言うのは?」
嫌な予感がする、リリスはいちいちポーズを取ってもったいぶりながら答える。
「こ・い・ご・こ・ろ
魔法少女達は恋をすると本当の限界を超えて自滅しながら恋した相手に尽くすのよ。
貴方に恋したあの子、フィジカルカレンちゃんのように。
もっともあの子は途中で治療されたから完全に壊れたりはしなかったけど」
素敵でしょといいながらリリスは楽しそうに嗤う。
「なんでそんな事をした、お前にとって何のメリットも無い暗示じゃないか」
むしろデメリットじゃないか。
「恋した相手の為に己の全てを捧げるなんてロマンティックじゃなぁい?」
つまり遊びで仕込んだ暗示ってか?
この女は危険だ、ここで始末しないと。
俺は大星剣を構えてリリスに向き直る。
「あら。私と戦うつもり?
でもいいのかしら?ここは貴方にとって鬼門よ」
唇に指をあてなぜならと言いながら驚愕の事実を口にする。
「ここには土が無いから貴方の得意な落とし穴魔法は使えないわ!!」
「な!何だと!!!」
こ、この女天才か!俺でさえ想定していなかった落とし穴魔法の弱点を見抜くとは・・・・
「な、なんて恐ろしい女なんだ」
「あれ?そこ恐れるところなんですか?」
緊迫した部屋でギストール子爵のツッコミが響き渡る。
「安心しなさい、私に戦うつもりはないから、今回は挨拶だけよ」
「洗脳の挨拶か?」
「そんな怖い顔しないの。洗脳は失敗したから今日はもうしないわ。
お詫びに次に私に会ったら貴方の知りたい事を教えて上・げ・る、じゃあね!」
「まて!」
逃げようとする彼女を捕獲しようと動いたが目の前に黒い球体が現れる。
球体はあっという間に消えてしまい、リリスも同様に姿を消していた。
見覚えの有るアレは確かに転移ゲートだった、
この国で転移技術を持っているのは・・・
「門を開く者イザー、あの女と手を組んでいるのか?」




