姫の告白
ヴィシャーナ姫が登場した事で更なる混沌の気配を感じ頭が痛くなってきた。
なんだか耳鳴りもしてキンキンする。
「クラフタ様と貴方達のやり取りは聞いています、クラフタ様は貴方達を救う為に薬を飲ませたのですよ。
本来なら全員切り殺したほうが楽だったでしょうに、ですが安易な方法を選ばず困難な道を選んだことで貴方達は生きながらえたのです。
その上クラフタ様につらい答えを求める貴方達は何様のつもりですか?
命の恩人に感謝するのなら感謝だけしていれば良いのです、そのうえ何かを求めるのは我侭にもほどが有ると言うものでは?」
「じ、自分はしっかり婚約者の座に収まっておきながら抜け抜けと」
「ええ、婚約者ですよ、奥方が居ることには驚きましたが私は別に構いません」
「か。構わないってなんで?」
「私達はあくまで利害の一致で手を組んだからです、だからクラフタ様に心から愛する女性が居ても構いません。
もっとも世継ぎは生ませて貰いますが」
ノウレッジマリーの追求をあっさりかわして、ついでにとんでもないことをさらっと言った。
しかもその言葉にアルマが反応を見せてしまった。
「只の利害の一致で世継ぎを求めるのですか?」
「ええ、婚約者なのですからいずれは結婚して子を生むのは当然でしょう?」
「愛情が無いのでしたら形だけの結婚で別の方の子供を生んでも宜しいのでは?」
「クラフタ様が私に対して愛情を持って居なくても構いません。
ですが私はクラフタ様を愛しているので子供が欲しいのです」
「「「「!?」」」」
衝撃の告白にこの場に居る全員が動揺させられた。
「あ、愛してるって!?」
「私は政敵によって食事に毒を盛られた結果、全身が麻痺し言葉を話すことも出来なくなりました。
そのうえ私の身柄は政敵に捕らえられ日夜屈辱を味合わされていたのです、
その屈辱たるや言葉で表し尽くせるものではなく早く気が狂って欲しいとさえ思ったほどです。
そんな中クラフタ様が私の元に表れ私を物言わぬ人形から人間に戻してくださったのです。
いえ、それだけではなく怨んでも怨みきれない憎き怨敵の身柄までも私に与えてくださったのです。
私は心から感謝いたしました、クラフタ様は私の恩人、クラフタ様は私の全て、
クラフタ様には制約の通り私の全て、いえこの国の全てを捧げる所存です!!!」
魔法少女達はヴィシャーナ姫の言葉に唖然としていた、アルマですら言葉も出ないようだ。
ヴィシャーナ姫は楽しそうにドレスを翻しながらクルクルと回り言葉を続ける。
「クラフタ様、私は貴方を愛しています、貴方が私を愛してくださらなくても私の愛は不滅です。
貴方に頂いたこの命、燃え尽きるまで捧げますわ」
そういってヴィシャーナ姫は満開の花のような笑顔を俺に向ける。
ヴィシャーナ姫から香る香水の匂いにくらりと来る。
アルマは複雑そうな表情でヴィシャーナ姫を見つめている。
おそらく自分と被る所のある彼女の境遇に思う所があるのだろう。
生まれつき早い死が定められた自分とある日突然何もかも失った彼女、
むしろ言葉を話すことも自害することも出来ないその境遇には、
自分以上の絶望があったのではないかと考えているのだろう。
「ですので私は愛を頂けなくても構いません、ですが政治的な利害の為に世継ぎを希望します。
世継ぎが生まれたらそれ以上は求めません」
ヴィシャーナ姫は魔法少女達を一瞥する、貴方達はどうなの?と問うているのだ。
「も!もちろん私達も救われたことに感謝しているわよ!!見返りも責任も求めないわ!!わ、私は自分を救ってくれたダーリンを愛してる!」
「私もマエスタ様をお慕いしております、側室でも構いません」
「わ、私は愛人でもいいです!むしろその方が興奮します」
「ご主人様に横恋慕する使用人、萌える・・・」
なんか危険な事を口走っているのがいるぞ。
「クラフタ様、ここはクラフタ様がはっきりさせないと収集が付かないかと」
アルマが俺をじっと見つめながら答えを促してくる、確かにそうだな。
ここでハッキリしないと後々響くだろうから俺の気持ちを全員に伝えよう。
「皆聞いてくれ」
俺の言葉に全員が口を閉じ目を向けてくる、うぉぉぉぉ怖ぇぇぇぇ。
「俺は妻のアルマを愛している、だから俺の妻はアルマを置いて他にない。
ヴィシャーナ姫の気持ちは正直予想外だったが。あくまで俺達の婚約はこの先の計画を行う為のクッションでしかない。
それは先日話し合ったとおりだ」
「それは残念です、今日は大人しく引きましょう」
香水の香りを振りまきながらヴィシャーナ姫が俺に告げる、今日はときたか。
『その言葉を受け入れるのが得策だ』
そうだな、下手に突っ込んでも面倒な事になるだけだ。
「で、魔法少女達だが」
一端言葉を区切る、魔法少女達が固唾を呑んで続きを待つ。
「キスに関しては全く気付かずにやったことだ、それについては申し訳ないと思う、そしてこう言おう、一度冷静になって考えて欲しい。
今回の事は吊り橋効果というか極限状態が生みだした感情である子も居るだろう。
だから一端時間を置いてゆっくと考えてほしい、君たちは本当に俺を愛しているかを。
俺からは以上だ」
正直吊り橋効果で恋と感謝を勘違いしている子は多いと思う。
それに成人を迎えるまでに俺に幻滅したり他の男に恋をする事も十分あるだろう。
だから魔法少女達には考える時間を持ってもらうことにする。
「私はクラフタ様が必ず私の元に戻って来て下さる事が分かっていましたよ」
嫁の信頼が半端ない。
もしかして俺が嫁を自分色に染めていると言うのは只の傲慢で本当は俺が嫁に調教されているのではないだろうか?
アルマが俺を全面的に受け入れ愛してくれるのは飴と鞭的な感じなのでは・・・・・・
あの侍女も言っていた「妻たるもの夫の欠点を全て受け入れる位の懐の深さも必要です」と。
それが真実だとすれば俺はあの侍女の手のひらの上なのではないか?陛下もマックスのおっちゃんも門を繋ぐ者イザーも足元に及ばない策士は彼女なのではないだろうか?
「ダーリン」
フィジカルカレンが、いや魔法少女達が真っ直ぐな視線を俺に向けてくる。
さっきまでの殺気だった空気は無い。
「あのね、ダーリンがキスの事を知らなかったのは分かってるの、
だって異世界の事なんだもん、分からなくて当たり前よ。
でもね、私達はとっっっっっっっっっっっっても嬉しかったの!!
敵だった私達を助けてくれたダーリンはね、御伽噺に出てくるような王子様だったの」
だから好き、と彼女は言った。
受け入れてもらえなくてもその気持ちを伝えたかったといって彼女は身を引き、
入れ替わりに後ろに控えていた魔法少女達が俺の元にやって来て俺に愛の告白をして来た。
だが彼女達は俺の返事を求めることは無くただ伝えて元いた場所に戻っていった。
やはり彼女達はリリカルな世界の住人だ、何処までもロマンチックな乙女達だ。
何はともあれ正直に答えてよかった。
勢いに任せてハーレムルートに突き進まなくて本当に良かった、正直29人は無理だ。
「ふふ、モテモテですね、彼女達諦めれるでしょうか?」
不吉なことを言いながらヴィシャーナ姫が俺に寄り添い腕を組む、傍らに寄り添うヴィシャーナ姫の香りが鼻孔をくすぐる。
「それで話は戻るけど、これからのことだ」
通信機でミヤを呼び戻してルジャ伯爵達を復元する。
皆俺が何を言おうとして言うのか気になっているようだ。
『この国をのっとる』
「この国をのっとる」
それが俺の決意だ。




