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死者と踊る

 求める者には導く者との出会いが

「クラフタ君、このフラスコの中身が緑色になったら教えてくれ」


「はい、分かりました」


クアドリカ師匠にいわれて青い液体の入ったフラスコを見張る。

結局おれはクアドリカ師匠達に弟子入りすることになった。

カインから身を守る為には知識と技術が必要だからだ。

外に出て魔物を狩って戦闘経験を積む事も重要だが、誰かに見られる危険があるし師匠達はアンデッドなので、狩りは夜に昼間は実験を手伝って技術を学ぶことになった。


「クアドリカ師匠、緑色になってきました」


「ああ、今行く」


「そっちが終わったら次はこっち手伝ってくれ」


パルディノ師匠がそう言って来る。


「はい、分かりました」


「クラフタ君、この瞬間を良く見ていたまえ」


そうクアドリカ師匠が言ったわずか後、緑色に変わりつつあった液体が一瞬で美しいエメラルドグリーンに変わった。


「どうだい面白いだろう」


「はい」


「このブルードラゴンの血液から生成した青血球は人間の赤血球に近い働きをする。通常青い液体は熱を加えると成分が分解され緑色に変わって行きある一定の温度になると完全に分解される、その瞬間が今の変化だ。

これ以上加熱すると成分が破壊されてしまうので色が変わったらすぐに火から離すこと」


「はい」


「ブルードラゴン青血球は人間の赤血球に近い働きをするがこの液体は人間の赤血球と近くない働きをする効能のみが抽出されている、ソレが水魔法耐性だ。この液体を飲むとしばらくの間水魔法を軽減してくれる、初級の魔法なら完全に無効化するだろう。」


「スキルで威力が底上げされていてもですか?」


「そう、魔力には格があって同じ属性の初級魔法と中級魔法の場合、熟練の使い手が初級魔法を使って格下の魔法使いが使う中級魔法以上の威力を発揮してもお互いの魔法をぶつけると威力の低い中級魔法が勝つんだ」


「威力のあるほうが強そうですけど」


「コレを魔格の共振と言う、魔法使い同士の戦いならより等級の高い魔法使いが勝てるといわれる所以だ。魔格の共振は魔法だけでなく等級の存在する魔力を扱うものには全て当てはまる。」


「共振理論はステータス魔法が実用化された事で理論が証明されたんですよ」


「ま、実戦ではお行儀良く交互に撃ち合ったりしないから実戦経験があるほうが有利だけどな」


師匠達が交互に解説してくる、こうやってこの1週間調合を実践しながら講義を受けている。

こうしていると学校の科学の実験を思い出す、学校の授業はつまらなかったが実験は好きだったので修行も結構楽しい、しかも現代以上の水準をはるかに上回る古代魔法使いの教えを受けることが出来るというのがさらに学習意欲を高める。

ノーベル賞を受賞した有名大学の教授の講義を受けるような感じだろうか。


「あとはこちらの冷蔵庫に入れ冷やされることで成分が落ち着くのを待つ。1日置いたら水晶の粉末と混ぜ合わせ丸薬にして完成だ。」


「んじゃこっちの手伝い頼むわ」


「はい!」


クアドリカ師匠の専門は魔法薬でパルディノ師匠の専門はマジックアイテム、コル師匠は魔法のプログラム製作。

それと


「クーくん、パルディノ様のお手伝いが終わったらお夕飯のお手伝いお願いできるかしら?」


「うん、分かったよヴィクトリカ姉さん」


ヴィクトリカ姉さんに家事も教わっている。


「いやぁ、二人が並ぶと仲の良い姉弟の様だなぁ」


「首は付いてるがな」


「ヴィクトリカも近い年頃の相手が出来て何よりです」


数百歳差ですよコル師匠。

とうに成人している俺がこんなことを言われているのにも理由がある。


実は俺の体はもう人間では無くなっていたのだ。



話をさかのぼること1週間前


「君、私達の弟子にならないか?」


「弟子、ですか?・・・」


「そう弟子」


相手の意図がつかめない、俺を弟子にして何のメリットが?

仲間に裏切られた俺に対する同情か、それとも自分達の存在を秘密にする為に内に取り込むつもりか。どちらかといえば後者の可能性が高いか。


「君は仲間に裏切られて町に戻るのも危険だ」


「転移して日本に帰るという手もありますが」


「あー。そりゃ無理だな」


パルディノさんがダメ出しをしてくる。


「お前さんの転移の腕輪だがな、コレ単体では使えんぞ。」


「え?」


どういうことだ?


「お前さんが寝ている間に調べたんだがその腕輪はマーカーの一種だ、その腕輪を使うことで転移装置本体に腕輪の空間座標が転送される。

そして座標情報を受け取った転移装置が転移ゲートを開くわけだ、腕輪自体は装着者の魔力で動くから送信に必要な魔力があれば良い。

だがゲートを開くには転移装置本体の近くにいる必要があるんだ。」


「?・・・でもそれだと異世界にゲートを開く事自体が不可能になりませんか?」


「つまりだな、転移装置のある世界をひとつの装置と考えろ、そして転移の腕輪のある異世界も別の装置だ。

それぞれ別の装置同士なら自分では無い別の存在と認識できる、だが同じ世界の中から座標を送ると自分に対して自分が連絡していると誤認してしまうんだ」


なるほど、自分の電話番号に電話するようなものか。


「パルディノ様、別の世界に移動する為に使うのでしたら異世界にも受信機ないとその説明は成り立たないのでは?」


「お、いい質問だヴィクトリカ、まさにソレが問題なんだ。おそらくその転移装置本体には腕輪に登録した異世界の座標と異世界側にある受信機を中継する機能があると考えられる。」


「つまりその中継器の性能があまり良くないと?」


俺の言葉にパルディノさんがうなずく。


「ああ、腕輪に登録できる情報量はあまり多くない、おそらく異世界に送ったマーカーから送られた魔力波形を読み取りそれをコード化し登録する、

そしてその世界の住人に装着させる腕輪にその転移コードを書き込むことで移動する世界間を固定させているんだろうな。

だが転移装置の設計者は本体から離れて異世界に転移することを想定していなかったんだろう、俺達の時代でも異世界への自由な移動は実現していなったからな。

多分その装置は実験用の試作品なんだろう、実験機なら中途半端な性能なのにも納得できる」


「それでその実験機があるのがセントラルの町ですか」


「俺はそう考えている、他にあっても数は少ないだろうな」


うーんコイツは参った、元の世界に返れるのなら最悪この世界で冒険できなくても良いかと考えたんだが帰るには町まで行く必要があるとは。


「更に言うと向こうの世界に帰っても危険はあります」

「え?」


コルさんが不吉なことを言う。


「ソレはまたどうしてですか?向こうの世界の俺についてカインは知りませんよ?」

「彼は知らなくても協会という組織と君の世界の国家組織は知っているだろう、それに君をこの世界に連れてきた人物もだ」

「あっ」


そういうことか、俺がこの世界で行方不明になれば向こうの協会員が俺の事を調べる。それで俺が家に居たり会社で働いている所を見られたら無事とばれてしまう。

そうなったらおっちゃんや協会員経由でカインに知られる、自分のスキルの正体を知っているカインは何が何でも俺を殺そうとするだろう。

これからも他人のスキルを奪い続ける為に。


まずい、非常にまずい、このままでは無断欠勤だ。それが続けば確実にクビだろう。

俺が頭を抱えてうなっているとクアドリカさんが止めを刺してきた。


「あー、このタイミングで言うのも非常に心苦しいんだが君が帰れない理由がもうひとつあってだね」

「え?まだ何かあるんですか・・・」


もういい加減にしてほしい、これ以上のトラブルは御免だ。


「実は君を見つけた時、君は瀕死の重傷だったんだよ。」

「ヴィクトリカが連れて来たときは血まみれの肉塊かと思うほどだったぜ」

「そ、そこまで酷くは無かったですよパルディノ様」

「ええ頭と手足の形状は認識できました」


逆に言うとそのくらいしか分からない状態だったのか。

ヴィクトリカさんが大きな鏡を持ってくる


「で、だね。君を救うために我々も必死の努力で君を治療したんだ」

「ありがとうございます」

「で、コレがその成果だ」


そういってヴィクトリカさんが持ってきた大きな鏡の前に俺を立たせる。



そこには10歳くらいの子供が居た


さらに言えば


それは10歳児の頃の俺だった


だから俺は叫んだ



「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」




「落ち着いたかい?」

「ええ、まぁ」

「つまりだね、我々が技術の粋を尽くして君を救おうと努力した結果我々すらも想定し得ない結果となったのだよ」

「具体的には?」

「僕達の開発した治療に有効そうな薬や道具を色々使ってみたら肉体が過剰に活性化しすぎて傷が直るのを通り過ぎて若返ってしまったんだ」

「まぁーこんな事態でもなけりゃアレやコレの道具なんかを使う機会も無ぇからなぁ、なんせ俺達死んでるから怪我しねぇし、うははははは」

「しても自己再生するからねぇ」

「「「あっはっはっはっ」」」


「つまり体のいい実験台だったと」


「・・・・・・」

「・・・・・・」


マジかよ、感謝して損した。


「実は話はソレだけには終わらなかったんだ!!」

「まだあんのか!!」

「君の肉体は超活性し傷の治療をしただけではとどまらずなんとその肉体を再構築したんだ、より強靭に!より優秀に!

つまり君は人間の一つ上の存在に進化したんだよ」


「な!なんだってー!!」

「具体的にはアンデッドよりにね」


ぽそっと付け加える。

いやまて聞き捨てなら無い事言ったぞ今。


「今なんと?」

「あーいや君は進化を」

「その後です」

「アンデッド寄りに」

「なんでアンデッドなんですか!!」


「良いかいクラフタ君」


俺の肩を掴みクアドリカさんが真面目な顔で言う。


「この城に住んでいるのはアンデッドだ」

「そうですね」

「それも数百年を生きた、分類上は上位アンデッドに属する」

「分かります」

「つまりそんな上位アンデッドの魔力に満ち溢れた場所で肉体が生存能力を高めるために急速に進化したらどうなるか。

そう、アンデッド側に存在が寄ってしまっても仕方が無い事なんだよ!!」


「仕方が無いわけあるかぁぁぁぁ!!」


理不尽な現実に俺は叫んだのだった。




「ー落ち着いたかい?」


俺が落ち着くのを待ってクアドリカさんが話しかける。


「元には戻れないんですか?」

「うーん、呪いや変身薬の効果じゃないからね、君は生きるためにそういう体になってしまったんだよ。

より早く走る為、より重い物を持つ為に体を鍛える事でそれに適した肉体になるように君はより生き抜ける体に成長したんだ」


薬や魔道具の影響も大きいけどねとクアドリカさんは付け加えた。


たしかに、本来なら死んでいた筈の怪我を治してもらったんだ、むしろこの程度の副作用でよかったと言えるだろう。

五体満足でいられるのだから。


「ところでアンデッド寄りって言ってましたけど具体的にはどうアンデッド寄りなんですか?」


そこはきっちり確認しておきたい、うっかり日の光を浴びて灰になるとか御免だからな。


「そうだね、自分の状態は把握しておいたほうが良いだろう。」


そう言ってパルディノさんを見る。


「ああ、お前の体が直ったときに余りにも面白い結果だったんでついでに調査しといたんだがな」


聞き捨てなら無いセリフのオンパレードです。


「まず生命力と魔力が激増してるな、生命力が上がるのは生きることに特化したからだろう。

魔力の上昇はアンデッド側に存在が振ってるからだな。つーかステータス見てみ」


いきなりぶっちゃけちゃったよこの人。

しょうがないのでステータスと念じる、すると。


名前:クラフタ=クレイ=マエスタ

Lv1

クラス:アルケミスト

種族:異世界人(人間半不死:上位貴種)


スキル

・中級術式強化(使用者限定)

・初級素材抽出

・上級ドレイン


スペル

・初級薬調合 :消費魔力2

・初級素材合成:消費魔力3

・初級属性付与:消費魔力5

・初級言語読解:消費魔力1

能力値

生命力:1400/1400

魔力:2500/2500

筋力:5

体力:10

知性:6

敏捷:5

運 :8


「うわっ」


思わず声が出た、びっくりするぐらい能力が上がっている。

生命力1400ってなんだよ10倍どころか100倍になってんじゃん、赤い人もビックリだよ。

それに種族が半不死になってるしスキルが追加されている。


「スキルに上級ドレインとか言うのが追加されてるんですけどもしかしてコレが?」

「ほうドレインか、なるほどな。

ソレがお前のアンデッドとしての能力、吸血、吸精、あらゆる力を己に取り込む能力を持った上位スキルだ」


『上級ドレイン:

接触した対象から生命力、魔力を吸収する。

また任意で能力値も奪うことも可能、一定量の能力値を奪うと自身の能力値として取り込める。

能力値を奪われた者は時間が経過しても回復することは無いが研鑽を積むことで能力値を上げることは可能。』



うわ強!

能力値も奪えるとか強すぎだな、だが使いどころを考えないとアンデッドに成りかけてる事がばれるかもしれない、気をつけないと。


「種族が人間の半不死に成ってますけど結局アンデッドに成ったって事なんですか?」

「しいて言えばすごい長生きになったっていう感じかなエルフみたいに。基本は人間だからドレイン能力がバレなければまぁ大丈夫だろう、聖魔法で気分悪くなるかも知れないけど」


「その能力を使いこなすためにも不死の先輩である僕達に学ぶと良いだろう」


クアドリカさんがこちらを見る。

なるほどもともとそのつもりで誘ってきたのか、カインの件を出したのもこちらが状況を理解し受け入れることが出来るように情報を小出しにしていたからか。


「改めて言うよ、僕達の弟子にならないかい?」


「ーっ」


一瞬の躊躇い、弟子になるということは元の世界を捨てるということだ。

迷う理由はない、もうこの体では元の世界で生きていくことは困難だ、この見た目では親すらも自分だと認識できないだろう。


なにより、ヤツをギャフンと言わせたい。


「お願いします!」



そうして俺は古城に住むアンデッド達の弟子になった。

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