打算まみれの事後処理
この数日、ヴィシャーナ姫にこれまでの経緯を話し、かつ俺の個人的な事情を伝えた。
俺が異世界人で若返った事や半不死になっている事は言っていないが、俺が転移技術を初めとした古代の技術を求めていること、
異世界の侵略者とそれを呼び寄せた存在を良く思っていない事をわったらしい。
俺がこの国に求める事を正しく理解した彼女は俺に全面的に協力してくれる事を約束してくれた。
「マエスタ侯爵、わらしからもお願ひがありまふ」
代償に彼女が求めたのはシャトリア王国を周辺国から守ることと身の安全、
そして最後に第2王位継承者を初めとした王族を自分の手で処刑したいというものだった。
当然の要求だろうな、自分を置いて逃げ出した連中だ、家族の情よりも恨みの方が強いだろう。
特に第2王位継承者は口一つ利けなくなった彼女の元に毎日の様にやって来ては、
優越感に満ちた瞳で一方的に罵られ続けたらしい。
向こうにとっては身動きの出来ない彼女は格好のおもちゃだったようだ。
不幸中の幸いは第2王位継承者は肉体的にヴィシャーナ姫を傷つけることはしなかったと言う事か。
もしも怪我をさせたことがシャトリア王や他の王位継承権を持った王族に知られたら、
今度は自分が王位継承権争いから転落する危険があると分かっていたからだろう。
だがそれだったらなんでヴィシャーナ姫を置いていったんだろう?
そんなことをしたら・・・
「それれ、マエスタ侯爵の望みは何れふか?」
俺からヴィシャーナ姫への要求はシャトリア王国における俺の居場所と魔法少女達の洗脳の完全除去及びその処遇、
そしてアンデッド達の帰郷とこの国における様々な知識の蒐集の全面許可である。
その知識とは一般に存在を知られている機密から存在すら秘匿されている知識にいたるまで、
あらゆる知識をこの国で唯一の生き残った王族であるヴィシャーナ姫の名の下に知ることを許される。
普通ならそんな事をすれば貴族達から猛反発されるがその貴族達も鼻薬を嗅がせてあるので安心だ。
更なる上の爵位と役職、そして領地と言う名の褒美で彼等は全面的に協力を約束してくれている、
彼等としても王都が滅茶苦茶になるような危険な研究が、利権からハブられて本当に全く関わりの無い自分達の責任にされることを恐れたのだ。
周辺国からしたら誰が当事者かはどうでもいい、重要なのは異世界から危険な侵略者を呼び寄せ世界を危険に晒した国があるという事実だ。
だから貴族達は全ての元凶は一部の王族と貴族の暴走と言うことにして処刑と言う名の口封じを選んだ訳だ。
もちろんそれに関してはヴィシャーナ姫も受け入れてくれた、どちらにしろ彼等の研究は処分してしまいたいし、
それが第2王位継承者が関わっていたものなら尚更だろう。
その事についてヴィシャーナ姫はこう語っていた。
「それだへではありましぇん、自りゃが招いた災ひを前にしゅてしぇきにんを取りゅどころか民をしゅてて逃げらしたのれす。
しょのような者はもはや王れも王族れもありましぇん、同ひ王族としちぇ私には彼りゃを罰しゅる義務と責任があるのれす!!」
まだまだ呂律が回っていないがそれでもずいぶんと喋れるようになって来たな。
ここ数日ヴィシャーナ姫はリハビリの為ずっと誰かと話すか発声練習をしていた、表舞台に戻る為に一刻も早く言葉だけでもまともに戻したいらしい。
ここでは女性アンデッドの方々が役に立ってくれた、眠らない彼女達はヴィシャーナ姫の話し相手としても護衛としても非常に有能だったからである。
既にヴィシャーナ姫から専属の護衛にならないかとスカウトされたらしい。だがなぜか俺の許可が無いと受けられないと断わってしまったらしい。
別に俺の部下じゃないんだがなぁ?後日ヴィシャーナ姫からそのことについて俺の許可が欲しいと言われたので本人たちが望むのなら構わないと言っておいた。
更に数日後ヴィシャーナ姫は驚異的な努力と集中力で日常会話が出来るまでに回復した。
俺の作った万能薬を毎日服用していたとはいえそれでも驚きの回復だ。
薬の効果が微妙だった割りに変に回復が早い。
彼女が滞りなく会話が出来る様になったのを見計らって俺達は王都にこの国に残った貴族達と魔法少女達を招集した。
流石に27人の魔法少女達は人数が多いので人数を絞って呼んである。
ここは玉座、謁見の間である。
そこに座るのは誰あろう第2王位継承者ヴィシャーナ姫。
玉座の両脇に立つのは俺とルジャ伯爵、そして王都の貴族とアンデッド貴族たちが控えている、
その更に外側が今回の事件に関わらなかった領地持ちの貴族達だ。
いきなり王都に呼ばれたと思ったらこれだから彼等も驚いていることだろう。
「ヴィシャーナ姫、これはいったいどういうことですか?、それに姫は御病気で療養中だったのでは?」
「控えなさい、エアーズ伯爵。順を追って説明します」
流石は王族、堂に入っている。ヴィシャーナ姫は自分が暗殺されかけて幽閉されていた事、そして今回王都で起きた事件をそれに関わらなかった貴族達に説明した。
王城に残されていた資料から彼等が関わっていないのは確認済みだ。
王城を火事場泥棒のように漁ったのは危険な資料が他者に渡らないようにするのと隠れている協力者の存在を確認する為だ。
残された資料から判明した、王都に住んでいない協力者は日程をずらして来るように命じられている。
今ここにいる者は敵ではないと理解していると説明する為だ。
突然の告白に驚く貴族達、彼等にも異世界との交流について知っている者はいたようだが、
裏で異世界人を使って他国を侵略する為の謀略を練っていただけでなくそれが失敗して王都から逃げ出したと聞いては2重のショックだろう。
突拍子も無い話しだが実際に王都は滅茶苦茶になっていて更に俺が支配したギラードが復興作業を手伝っているのを見ては只の冗談とは思えないだろう。
「それで王達は今何処に?」
「先王は逃亡の際事故にあって他の王族及び家臣と共にお隠れになりました」
その言葉を受けて驚く貴族達、要は邪魔者を始末したということなのだから驚いて当然だ。
だがヴィシャーナ姫は彼等に反論を許さなかった。
「彼等は世界を危機に晒しただけでは飽き足らず守るべき民を捨て真っ先に自分達だけで逃げ出したのです。
私はこの国に残った最後の王族として彼等を罰する義務と責任があったのです。
もっとも私が手を下すまでもなく報いを受けたようですが」
「では、王位は」
「残された王位継承者である私が継ぐことになります、
なおこの件で王都の防衛と復興支援そして私の救助をしてくださったルジウス王国のクラフタ=クレイ=マエスタ侯爵には、
わが国の侯爵位を授け私の婚約者とするものとします。
また先のイージガン平原で戦死された後アンデッドとして蘇り、
わが国を守る為に尽力してくださったルジャ伯爵達を正式にわが国の貴族として復帰を認めます。
さらに異世界人を利用しての侵略行為を良しとせず彼等に反抗し復興支援に尽力した王城の貴族達には役職と爵位を反逆者から没収した上位の爵位と役職に昇格させます。」
「そ!それは幾らなんでも!!」
「控えなさい!順を追って説明すると言ったでしょう。
彼等を陞爵する際に王都の人員に空きが出来ます」
貴族達の表情が真剣なものになる、つまりは王都の役職に自分の身内を捻じ込めるかもしれないのだ、場合によっては爵位も。
ヴィシャーナ姫と打ち合わせをしていた時に姫のたっての望みで俺に自分の婚約者になって欲しいと頼まれた。
そんな重要な用件、本来なら陛下に相談しなければならないことなのだが何故か通信機の調子が悪く連絡が取れなかった。
流石にそんな状況で勝手にことを決めてはいけないと断ろうと思ったのだがふと傍に香水の匂いがする、
顔を向けるとすぐ傍にヴィシャーナ姫が居た。
「大丈夫ですクラフタ様、私がルジウス王を説得します。
それに私と貴方が将来夫婦になれば両国につながりが出来て交流が盛んになるでしょう。
そして私達の子を第一王女の子と婚約させて二つの国を一つの国にするのです。
ほら、そう考えればクラフタ様も誰はばかることなく私と婚約できるでしょう」
眼と鼻の先まで近づいたヴィシャーナ姫にドギマギする、余りにも近くて香水の匂いが香ってくるくらいだ。
・・・良い匂いだな。
「あ、ああ、そうかも知れませんね、両国が仲良くなるのなら陛下もお許しいただけるでしょう」
うん、ヴィシャーナ姫の言っていることは正しい気がする。
だから俺はその申し出を受けた。
ヴィシャーナ姫は続ける。
「それに反逆者から没収する領地の管理もある、領地は相応しい者に治めて欲しいと私は考えている。
その際には反逆者から没収した爵位も与えることになるだろうな」
こうなったらもうこちらの物だ、貴族達は自分達の利益になる反逆者の処刑と、爵位と領地の没収を反対する理由は無い。
ただ俺をヴィシャーナ姫の婚約者にする事については反対された、
彼らにしてみれば次の女王になることが確定しているヴィシャーナ姫の伴侶には自分の息子や甥を勧めたいのだろう。
だがそれは無理だ、すでにこの国で他国への侵略の為の研究が行われていた事とそれが失敗したことは他国にスパイに漏れている。
もちろん我がルジウス王国にもだ。
そしてそれに対抗するには味方が必要だ、国に対して発言力を持っていて、なおかつ無視できない力を持つ者の協力が。
そしてその人物がシャトリア王国と密接な関わりにあるとしたら?
そう、俺とヴィシャーナ姫の婚約は完全なブラフでありフェイクだ、お互いの利益の為に見せ掛けの婚約を結んだのだ。
俺の持つ技術はルジウス王国だけでなく周辺国にとっても有力だ。
その良い例がこれから周辺国に送られる予定の通信機だ。
彼等は俺の技術は有用と認めた、だからこそアンデッド達の帰郷を認めた。
さらに言えば俺がいれば魔法少女達は俺の味方をしてくれる。
キスが彼女達にとってどれほど大切なことなのかは分からないが、
それでも命の恩人である俺に義理を感じていてくれている。
ヴィシャーナ姫との婚約は陛下に対する牽制でもある、あの人は俺を便利屋扱いしている所がある。
アルマとの出会いは感謝しているがそれでもこれ以上他人の思惑に巻き込まれるのはゴメンだ。
そしてその中で一番気になるのがマックスのおっちゃんの事だ、あの人は破天荒な行動をして場を動かす、
トランプゲームの大貧民で革命を起こすように場をしっちゃかめっちゃかにする。
ランドドラゴンが暴れた時、カインに止めを刺そうとした時、バキュラーゼが王城に襲撃をかけて来た時、なぜかおっちゃんは現れた。
流石にタイミングが良すぎる、そしておっちゃんは陛下の知己で神器を持っていた、だが最初の冒険では神器を持っていなかった。
陛下達は俺に何かをさせようとしている。
だがここまで危険を感じる不安要素がある以上、ルジウス王国以外の居場所が必要に思えてきた、いざと言うときに逃げ込める場所が。
ヴィシャーナ姫と話しこんでいた時についついそんな内心を話してしまった、
彼女と話していたら俺の仲のルジウス王国への不満が自分でも驚くくらい溢れてきたのだ。
ヴィシャーナ姫は優しく微笑んで俺を抱きしめ、だったら自分の国に住めば良いと言ってくれた。
突然の事に驚いたが彼女の柔らかな感触と共に香水の良い香りが俺を包みこみそれもありかもしれないと思ったのだ。
この件についてアルテア様は俺の好きにしろといった。
「我はもう王を引退しておるでな、元々我がお主を守護しておるのは子孫であるアルマとの婚姻を認める為で、お主達が幸せに過ごせればそれで良い、
その為に他国に逃げ場を作っておくのはそれはそれで有りであろう、正直お主は流されやすいからの。」
初代国王のお墨付きだ。
結局貴族達は目の前に釣られた餌の魅力には抗えず俺がヴィシャーナ姫の婚約者になることを認めることにしたようだ。
更に詳細を煮詰めた話し合いをした後、謁見の間で行われた会議は終了した。
会議が終わった頃にはミヤから逃亡した王族と反逆者達の確保が終わったと通信が入った。
もっとも実際に王族達を確保したのは王城の軍務系貴族達でミヤと同行させたアンデッド軍団の一部は持ち出された資料と機材の確保が任務だった。
この国の貴族である彼等に手柄を立てさせる必要があるとのヴィシャーナ姫の提案である。
そして今回の事件の真の元凶である転移装置の開発者『門を繋ぐ者イザー』は見つからなかった、おそらく王達を見限って自分だけ別れて逃げたんだろう。
民に対して今回の一件は一部の王族と一部の貴族によって引き起こされた事件だったと伝えられた。
王族が関わっている以上家族を失った怒りはヴィシャーナ姫にも及んだが王都を守り怪我人達の治療を行った俺がヴィシャーナ姫の婚約者になった事と、
英雄である俺とルジャ伯爵がヴィシャーナ姫は毒を飲まされ幽閉されていて、
ヴィシャーナ姫を救出し毒に侵された体を解毒したと証言したことで民の反応は一転してヴィシャーナ姫を同情する流れになった。
人間ドラマチックな展開には弱いのである、日本風にいえば判官贔屓と言うやつか。
あとはのこのことやって来た裏切り者と捕らえた王族に民の怒りをぶつけさせて処刑した。
こうしてシャトリアは新たな女王を迎え、ある意味国の中身は完全に別の国になるのだった。




