陰謀ただし企むのは俺
救助活動が一段落した俺達は残る問題の後始末をする事にした。
だがその前に。
「宝物庫の具合が悪い、ですか?」
「何か出し入れのときに引っ掛かって美味く取り出せない時があるんだ」
「ご主人様、宝物庫を確認させて頂いて宜しいでしょうか?」
ミヤに宝物庫を渡す、見た目は只の皮袋だ、ミヤはそれを様々な角度からじっくりと見る。
「ご主人様、宝物庫の口がほつれています、これが原因で亜空間接続がうまくいかなくなっています」
糸がほつれただけで 使えなくなるのかよ!!
ミヤの説明によると宝物庫は糸の一本にいたるまで魔法的な仕込みがされているらしく、
それがほつれると言う事は部品が劣化している状態と同じらしい。
ゲーム機の電源スイッチだけが壊れてゲームを起動できないような感じかな?
魔法の袋は亜空間と袋を連結して、連結した空間にコアを置く。
そのコアの周辺だけ結界が発動し荷物がどこかに流れて行かないように纏めている、イメージとしては漁で使う網か。
宝物庫が船、魔法の袋が網、網が破れれば中身も亜空間と言う名の海にあふれてしまう。
「このままですと亜空間の荷物が亜空間漂流を起こし永遠に取り出すことが出来なくなります、
急ぎ荷物の移し替えを提案いたします」
「つっても予備なんて無いしな、ミヤは持ってる?」
「書類を入れるためのものはありますが大した容量はありませんよ」
「とりあえず重要な物だけ頼む」
一端飛翔船に戻り荷物をぶちまける、捕獲したギラードの半身はミヤの袋には入りきらないので甲板に分割して置くことにした。
なんでも大きすぎる物を入れるのも良くないらしい、ちゃんと説明書に記載されたサイズまでにしないと保証が効かないとか。
で、予想通り全ての荷物は入りきらなかったのでストームドラゴンの巣で発見したお宝の中で貴重な物とオリハルコンの結晶、
それにドラゴンドロップを入れてもらい残りは船倉に入れておいた。
次は資料だが、これは王城の研究施設にある程度あった、ある程度と言うのは連中が王族と一緒に逃げ出す際に大半を持ち出していたからだ。
といっても転移施設を初めとした巨大な装置はそのままだったし重要度の低い資料はそのまま残されていた。
装置の簡単な操作方法が纏められた冊子があったのでそれを見ながら施設を封印する。
こんな重要なものが無造作に装置の傍に置かれていた辺り完全に危機意識が弛緩して安全性を無視していたようだ。
それに重要度が低いといっても俺からすれば宝の山だ、さらに研究者の私室からも資料が見つかった。
内容を確認するに個人的な研究から転移装置を独自に調べた資料まであった、転移装置の資料を書いた研究者は別の場所で同じものを作るつもりだったらしい、亡命かスパイだったのだろうか?
流石に私室の資料も重要度の高いものは回収されていたが、持ち出しの間に合わなかった資料もあったらしくかなり興味を引かれる研究も多かった。
あらかた調べつくした所でミヤから連絡が入る、逃げ出した王族と貴族達の行方が分かったとの連絡が入ったのだ。
彼等は王妃の故国であるマレディア皇国の方角に向かっているらしい。
急ぎ陛下に通信機で指示を仰ごうとするがふと考える。
これで王族が何らかの事故、たとえば異世界人に襲われたとしたら?
そうなった場合この国から王族が居なくなり更に取り巻きの上級貴族もついでに抹殺できる、
開いた上級貴族枠は利権からハブられた貴族達に譲り渡せば彼等も率先して協力してくれるだろう。
まぁ流石にそんな危険な真似は出来ないが民を捨てて逃げ出した連中だ、
何かしらの事故にでもあってしまえって言う気持ちにはなる。
後は最後のピースが揃えば。
「マエスタ侯爵」
思考に耽る俺を現実に引き戻したのはシャトリアの下級貴族であるギストール子爵だった。
「お探しの子猫が見つかりました」
来たか!
子猫と言うのはシャトリアの王位継承権を持った姫のことを指す。
王位継承権争いに敗れて辺境に飛ばされたかどこかに幽閉された王族が居ないか彼に調べて貰っていたのである。
情報通の彼はその存在を既に知っていたらしく現在地の確認に奔走していたらしい。
件の姫はヴィシャーナ=ロンド=シャトリアと言い王城の隔離された塔に病気療養の名目で拘束されていた。
元は第5王位継承者だったのだが第2王位継承者の母親と自身の親の仲が険悪で毒を盛られたらしい。
辛うじて一命を取り留めたが病気と言う名目で王位継承権を剥奪されたということだ。
本当にうってつけの人材だ。
彼女を表舞台に出して今回の事件を公表すれば今の王族の立場は最悪になる。
そうすれば俺達の保護する第5王位継承者である姫が未来の女王になるだろう。
姫が王位に立てば今後何かあったとき色々便宜を図ってくれるだろう。
急ぎ2つの指示を出す、一つは王族と上級貴族の確保。
もう一つは第5王位継承者である姫の下への案内だ。
倉庫から幾つかの薬の素材を頂き書庫にある薬と毒の本をあるだけ用意させ件の姫の下に向かう。
姫の幽閉されている塔はもぬけの殻だった、それどころか姫の世話をする侍女の姿すらなかった、ただ一つ仄かに香る花の香り以外は。
どうやらこの塔にいたのは第2王位継承者の息がかかった人材だけだったようである。
姫の幽閉されている部屋のドアを開けると部屋の中から凄まじい異臭がした。
なんて匂いだクラクラする、頭がボーっとしてきた。
「うっぷ、換気、だれか換気しろ」
ミヤが慌てて窓を開け換気をする。
あれ?ミヤは逃げた王族の追跡をしていたんじゃ?いつの間に帰ってきたんだ?
身の回りの世話をする侍女達が第2王位継承者と共に逃げ出した為この塔にいるのは目の前の、
ベッドのうえで寝たきりのお姫様だけと言うわけだ。
この異臭もそれが原因の様だ。
ヴィシャーナ姫が顔を真っ赤にしてウーと呻く、どうやら喋ることもままならないようだ。
「ミヤ、侍女達が逃げ出した所為で姫は汗をかかれてしまったようだ、体を拭いて差し上げろ。俺は外で待つ」
「承知いたしました、失礼いたします姫様」
姫の下の世話をミヤに任せて俺達は部屋から逃げ出した。
暫く待つとミヤから声がかかり俺達は部屋に戻った。
ほんのりと香水の匂いがする、ミヤが気を使ったのだろう。
甘い匂いの香水だ、さっきのひどい匂いを考えれば心が安らぐ。
本当に気持ちが安らぐ。
『とても美しい姫だ』
「初めまして、ヴィシャーナ姫、俺はクラフタ=クレイ=マエスタと申します、隣国ルジウスの侯爵などやっております」
俺の言葉を聴く姫の顔は赤い、まぁついさっきのことだしな。
だが俺は無視して言葉を続ける。
「貴方の体を治しにきました」
姫の表情がこわばる、どうやら警戒されたようだ。
周囲にいた監視役の侍女が突然いなくなり外から轟音が鳴り響いたのだ、なにか大変な事態が発生し自分は見捨てられたと気付いただろう。
そこへ隣国の貴族が現れ毒を盛られた自分を治すと言った、そりゃ不安になるわな。
「あー」
まともに喋ることもできない彼女の恐怖はいかほどのものだろう、だが喋れないからこそいままで生きて来られたのかもしれない。
「貴方を救う前に幾つか聞きたいことがあります、返事はイエスなら瞬きを1回、ノーなら瞬きを2回お願いします、いいですか?」
ヴィシャーナ姫が瞬きを1回する、どうやら知能は正常の様だ。
「貴方は毒を盛られてここに幽閉されましたね」
瞬きは1回
「貴方は犯人を知っていますか?」
瞬きは1回
「それは第2王位継承者もしくはその親族ですか?」
瞬きは1回
「彼等に不幸な事故があったら自業自得だと思いますか?」
強い眼差しで瞬きを1回する、大変宜しい。
『この姫を自分の物にしたい』
「貴方を救う代償を戴きたい、貴方の全てを、貴方の人生を俺に差し出してくれますか?」
少し考え込むように視線を泳がせるがやがて決心したのか瞬きを1回する。
「有難うございます、ちなみに言っておきますと断られても治療はする予定でした。
これから訪れることに対する貴方の覚悟を確認させていただきました」
これから俺がする事は彼女の人生の道筋を俺が決めてしまうかもしれないってことでもある、もっともフォローはするけどな。
ギストール子爵から聞いたヴィシャーナ姫の症状と書庫の本棚にあった資料を比較してそれとおぼしき薬を確認する。
恐らくは高山に生息する龍息草という毒草だろう、この毒草はドラゴンの生息する地域で見つかるものでドラゴンの毒の息を浴びて成長した草と信じられていた。
ドラゴンに対する恐怖から生まれた都市伝説だな、この毒は全身を弛緩させ心臓や呼吸器まで弛緩させることで心臓を止め息を出来なくさせる。
だが効果時間に難が有り量が足りないと完全に死亡する前に薬の効果が切れてしまうらしい。
ヴィシャーナ姫が生き残ったのは薬の量が足りなかったからだろう、だがそれでもギリギリだったらしく長時間の酸欠の所為で彼女は全身が麻痺してしまったわけだ。
正直毒薬としては確実性にかけるのだが、それでも使われたのは体内で毒が分解されるのが早い為。どの毒を使ったのか分かりづらいという利点からだろう。
体内に毒が残っているわけではないので治療は簡単だ、
カインとの戦いで使用した古代の魔法万能薬で彼女の体を正常な状態に戻す。
普通に飲ませようかと思ったがヴィシャーナ姫を見ていたら妙にムラムラとしてきた。
吸い込まれるように綺麗な瞳だ、そして凄く魅力的な唇だ、
『この唇にただ薬を流し込むのは勿体無い、ふと悪戯心が芽生える』
だから俺は、『自分』の心に従って、
魔法万能薬を口に含んでヴィシャーナ姫に口移しで飲ませる。
「っ!」
イキナリ唇を奪われた事で驚き抵抗しようと呻くのだが麻痺した体は俺のなすがままだ。
魔法万能薬が舌を伝って流し込まれていく。
昨日からキスしてばっかりだ。
「ぷぁっ、具合はいかがですか?」
「さ・・・最ぁ・・・ぅ…でしゅ・・わ!・・・・・・!」
ヴィシャーナ姫が驚きで目を見開く、自分が喋れた事に気付いたのだろう。
「あ、ああ・・・わりゃし・・・」
呂律が回っていない、ずっと麻痺していた所為で上手く喋れないんだろう。
「落ち着いて、体を動かしてみてください」
ベッドの中でもぞもぞと体を動かすヴィシャーナ姫、だが麻痺していた期間が長かったのだろう、筋肉もそうとう衰えていそうだ。
万能薬で病気や後遺症を治すことはできるが衰えた筋肉までは治しきれない、リハビリを頑張って貰おう。
んー?でもカインに飲ませた時にはスキルを奪い返すぐらいの効果を発揮したのに何で全快しないんだ?
ふと視線を感じて顔を向けるとヴィシャーナ姫が俺を見つめていることに気付いた。
「?」
「あ、あろ・・・ありふぁ・・ろう」
呂律が待っていないが有難うといわれたことはわかる。
「まだ体が万全ではないでしょう、表舞台に戻る前にしっかり治していきましょう」
「は・・・い!」
瞳に強い力が宿っている、リハビリも捗りそうだ。
「ところれ・・・」
「なんですか?」
「くしゅ・・・りを・・ろませ・・るのにゅ・・・らんれ・・・くちりゅえを・・・しりゃのれひゅふぁ・・・?」
真っ赤な顔をしてジト目でにらまれる。
薬を飲ませるのにキスをした理由、それは・・・
「この薬は大変高価で希少な素材を使用しておりますのでこぼしたら替えが無いのです」
ヴィシャーナ姫は納得がいってないようだったがとりあえず理解してくれたようだ。
さて、ここでヴィシャーナ姫について説明しておこう。
年の頃は15歳、髪の色はピンク、容姿は美少女、スタイルは布団の上からでも分かる2つの山脈。
絵に描いたようなお姫様である、だが彼女にはとんでもない特徴があったのだ。
それは『猫耳』が生えていることである!!!!!
シャトリア王国には獣人の上位貴族もいる、彼女はその血を引いているのだろう。
つまりあれだ、猫耳でピンク髪のナイスバディ美少女がベッドで寝ていたら口移しで薬を飲ませるよな。
つまりそういうことだ。




