捨てる神あれば
拾う神あり
声が聞こえる
誰だ?
もしかして皆が助けに来てくれたのか?
だとしたらカインが裏切ったことを早く伝えないと、いや最初から騙していたって言うべきか。
おぼろげにそんなを思いながら意識が覚醒していく。
「あ、旦那様。お客様がお気付きに成られましたよ」
「おお、ソレはよかった、君、具合はどうだい」
目を開いた先には意識を取り戻した俺を気遣う首の無いメイドさんがいた、切断面から血があふれ出ているのがよく見える。
大変グロ画像です。
そうして俺は本日三回目の気絶をした。
「大変申し訳ございませんでした!!」
首の無いメイドさんが90度の角度で頭を下げて謝罪してくる、頭無いけど。
勢い良く頭を下げるので溢れる血が掛かる。
うん、さすがに連続で気絶オチは無いよな。
本日の気絶回数をカウントしながら現実を直視しないように勤める。正直、実質今日が冒険者デビューのLv1には荷が重いわ。
「はっはっは、さすがにヴィクトリカの姿が目の前にあったら驚くよなぁ」
豪勢な服を着た骸骨が笑う。あ、リッチだ。
「いやいやソレを言ったら君も同じようなものだろうパルディノ」
白衣を着たミイラが嗜める。
「こらこら、お客さんが置いてけぼりだぞ」
やっと人間が現れる、びっくりするぐらい肌が白いけど。あと目が赤い。
たしかこの世界では目が赤いって吸血鬼の特徴じゃなかったっけ、この1週間セントラルの町の図書館で冒険の為に魔物の本なんかを読み漁った有名どころの知識はすでにある。
初級読解のスペルって便利だわ。
「吸血鬼、リッチにミイラと、レイス?」
「そうだよ」
やっぱり吸血鬼なのか。
「私は吸血鬼のクアドリカ=ベルフェリオ=ロンブル、よろしく」
「あ、俺はクラフタ=クレイ=マエスタ・・・です」
「ほう、上位貴種か」
なぜばれた。
「僕はミイラのコル=フィノよろしくね」
「俺はリッチのパルディノ=メッカーノだ」
「わ、私はレイスのヴィクトリカと申しますお客様」
こちらの挨拶に答えて彼らも挨拶をしてくる
「え・・・と・・・」
「なんだい?ここは何処か?それとも僕たちがなぜ君を助けたかかい?」
「いや、それもあるんですが」
「久しぶりのお客様だ、何でも聞いてくれ」
クアドリカと名乗った吸血鬼が朗らかに言ってくる。
「えっと、ヴィクトリカさん?」
「はいっ、私に御用でしょうか?」
意を決して俺は聞いた。
「どうやって喋っているんですか?」
「え?・・・・・・」
賑やかだった場が沈黙する。
大変いたたまれない、女の子に失礼だったかな。
「「「ははははははははは!」」」
急に笑い出すアンデッド達。
「き、聞いたか、オイ!」
「ああ、どうやって喋っているんですかときたもんだ」
「ククッ、目の付け所が違いますね」
「ヴィクトリカに目は無ぇけどな!」
「「「ハハハハハ!!!」」」
こちらの質問がツボに嵌ったのか笑い転げている。
「あ、あの私は死体に霊体が憑依しておりますので肉体が無くとも霊体で認識が可能なのです。」
律儀にもヴィクトリカさんが解説してくれる、断面がかなり怖い。
「えと、ご丁寧にありがとうございます」
「いえ」
「あともうひとつ良いですか?」
「はい!どうぞ」
「血が溢れてますけど無くならないんですか?」
「・・・・・・」
更に追加で聞いた質問にアンデッド達が再び無言になる。
そして次の瞬間更に大音量の爆笑が響いた。
陽気に爆笑するアンデッド達、見た目シュールだけどすごくリアクションがとりづらい。
十分ほど爆笑したあとようやく落ち着いてきたのか笑い声が収まってくる。
かくいう俺はヴィクトリカさんが入れてくれたハーブティーを飲んでくつろいでいた、美味いわコレ。
「すごく美味しいですヴィクトリカさん」
「っ!ありがとうございます、こちらのクッキーもどうぞ」
「いただきます」
うん断面も慣れてきた、どうやら彼女感情が高ぶると首の断面から溢れる血の勢いが変わるらしい。
あと首から溢れる血は霊的な現象らしく魔力が血液状の物質に変換されているらしい。
ホラーモノの窓に血文字が!みたいな現象と思われる。
「ククク、いや素晴らしい、数百年ぶりの来客がコレとは」
「フヒヒ、いやー300年分くらい笑ったわ」
「はは、貴方はいつも笑っているじゃないですか?」
まだ余韻が残っているらしい。
「改めまして、ようこそお客人。吸血貴族の治めるロンブル城へ」
「ゆっくりしてけや坊主」
「傷は痛みませんか?」
そうだ、俺は彼らに救われたのだ、カインの魔法で負った傷を、命を失う筈の傷から、救われたのだ。
命を救われた。
だから言わねばならない、義に対しては礼を持って答えよとは祖父ちゃんの教えだ。
「こちらこそ、命を救って頂き誠にありがとうございます」
自分に出来る精一杯の礼儀で感謝を述べる。
「うん、いいね。クラフタ君と呼んで良いかな」
「はいクアドリカさん」
「それで体の具合はどうだい?」
「ええ少々虚脱感がありますが痛みはありません」
「虚脱感?薬の処方は完璧だったと思うがおかしいな?」
確かに傷の治療は完璧だったのだろう、だがこの体を苛む虚脱感は違う、理由が違うのだ。
「いえ、この不調は違う理由ですので」
「ほう、面白そうだな。ちょっと話してみろ」
俺の言葉にパルディノの、いやアンデッド達の興味を引いたようだ。
俺はコレまでの事を詳細に説明した。命を助けてもらったのだ、秘密にすることも無いだろう。
「ほう、異世界人か、今の時代でも異世界人とコンタクトが取れるとはな」
「それよりも彼のスキルを奪った接収というスキルが気になりますね」
「俺もだな、聞いたことの無いスキルだ」
「そんなことをされてお体は大丈夫なのですか?」
「正直大丈夫じゃないです、体が欠けたような感じです」
「スキルは生まれたときから与えられたモノ、自分の一部といって間違いではない」
「だがどうするんだお前さん」
一通り事情を説明した後、唐突にパルディノが聞いてくる。
「何がですか?」
「そのカインってヤツに殺されかけたんだろ、だったら町に戻ったら同じ目にあうんじゃねぇのか?」
「う・・・」
確かに。
「ですがパルディノ様、クラフタ様がお仲間の方々に事の仔細をお話になれば」
「あまりお勧めできませんね」
「うん、私もそう思うよ」
ヴィクトリカの言葉をコルとクアドリカが否定する。
「彼の接収のスキルを証明する方法が無いさらに言えば仲間にとっては彼は古参の仲間、クラフタ君は入ったばかりの新人。信用が違う」
「ですがもっとも問題なのは彼は貴方を殺すことに躊躇いが無いと言う事です。」
「そうですね」
そうなのだ、俺が鑑定のスキルを持っていた事の証明は困難だ。知識として知っていれば幾らでもごまかせる為スキルを持っていたこと自体が狂言と断定される可能性もある。
しかもカインの方は問い詰めても知らぬ存ぜぬを通せばいいのだからどうしようもない、これは時間と言う名の信頼の差だ。
「ではどうすれば」
ヴィクトリカが悲しそうな顔をする、顔は無いが。
「ふむ、クラフタ君」
「はい」
クアドリカが少しの思案の後話しかけてくる。
「君、私達の弟子にならないか?」
そうクアドリカは提案してきた。
「はい?」
コレが俺の人生の本当の転機だった。