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卒業と出発と帰還

新章開幕です。


この章では気分を害される展開がございますので、

いつもののんびりストーリーをご希望の方は次の章までお話を飛ばすことを強くお勧めいたします。

夜にふと小腹が空いて街に出る。

使用人に軽い物を作らせてもいいんだがこんな時間に働かせるのも気分が悪い。

貴族なんだから好きにすればいいんだろうがあいにく俺は小市民の日本人だ 。

それに今は屋台の気分だ、最近のお気に入りは、アンデッド達のいる夜の区画にあるおでん風屋台だ。


味噌や醤油といった日本風調味料が無い為おでんそのものを作れなかったので、

料理人におでんのおおよそのイメージを伝えたことで出来上がったのがこのおでんもどきだ


魚介類のだしで煮込んだ具だけを出す料理を屋台で売るのは手間がかからなくて良いと料理人達には好評だった、どちらかといえば移動できる屋台の概念の方が受けたみたいだ。


おかげで店を出せるほどの資金のない料理上手がそこらじゅうで屋台を引いてさまざまな創作料理を作っている有様だ。


一応路上販売権を1日単位で販売して交代で店を出させるように指導してある。

権利は一日銀貨一枚で屋台はレンタル制、トラブルを起こしたり屋台を破損させたら罰金だ。

おかげでアクアモルトの街ではB級グルメブームが来ていたりする、観光地としてはある意味正解だ。


美味い店は生き残り不味い店は消えてゆく、最小限の資金で出店できるので失敗した者達の中でやる気のあるものは再出店の為の資金を集めつつ料理の修行をする者も多い。


出店希望者数が多いので昼と夜で屋台の数が大きく変わらない所も旅行客から好評だ。

屋台システムは鉱山街でも採用されていて鉱山で働いている者や山で採集や不審者狩りをしている者達が好んで食べに来るそうだ。


「お、領主さまじゃねぇの、チーッス!」


「こんばんわパルディノ師匠」


「おいおい、もう師匠じゃないんだから肩っ苦しいのは止めろよ」


「それは失礼しましたパル師匠」


「そーゆうヤツだよなお前」


「師匠は師匠ですから」


そう、俺はもう師匠達の弟子ではない、クラフタ=クレイ=マエスタは3人のアンデッドアルケミスト達の弟子を卒業したのだ。


それは数日前のこと。


「クラフタくん、君は卒業だ」


「はい?」


アクアモルトの街で暮らす為にやって来たクアドリカ師匠が、再会の挨拶の後唐突に宣言してきた。


「私達が君を弟子にして1年ほど経った。

君は素晴らしい成長を遂げた、私達から教えることはもう無い、免許皆伝だよ」


「おめっとさーん」


「おめでとう」


続いてパルディノ師匠やコル師匠もオレを祝福してくる。

いやいや1年で卒業って通信教育じゃないんだから早すぎでしょう。

まだまだ学び足りないのに、いったい師匠達は何を考えているんだ?


「私達が君に教えたのは基礎だ。

そして君は私達の教えた基礎を活用してこの国で確固たる成果を挙げた。

学んだ知識を自分の物として生かすことが出来ればそれは一人前と言うことだ。

これ以後は我々に頼らず己の力で研鑽したまえ」


「師匠」


何から何まで師匠達にすがるのではなく最低限の知識のみを与えて俺自身で研究をしろと言う事か。


「それにそろそろ私達も新しい研究に没頭したいしね」


後ろで頷くパルディノ師匠とコル師匠の二人。


台無しです師匠方。


「君が作り出したこの街は素晴らしい、この街の在り方は我々では考え付かなかった発想だ。

退治では無く共存、切り捨てるのではなく己のうちに取り込んだ、途中の手段に思うところはあったがね」


「お前はもう独り立ちして良いぜ、俺達が認める。作りたいモンを作っちまえるのが真のクリエイターだぜ。所で下着型ゴーレムとか作った?」


「君には魔法プログラムの基礎を伝えた、これからはその想像力の限りに楽しんで魔法を創造すると良い。ホーミング落とし穴はどうかと思ったけど」


そんなに落とし穴に落とすのダメかなぁ?相手を無力化するのにすごく良いんだけど。

あと下着型ゴーレムとかあなたは天才ですか?


ともあれ師匠達は考えを変える気はなさそうだ、認めてもらえた事を喜ぶべきかもう教わることが出来ないのを悲しむべきか。


だがこれだけは言わなければならない。


「クアドリカ師匠、パルディノ師匠、コル師匠。

死に掛けていた俺を助けてくれただけでなくこの世界で活きる為の知恵まで与えてもらって、本当に感謝しています。」


寂しさが胸にこみ上げるが意を決して最後の言葉を口にする。


「いままで有難うございました」


言った、これで俺は師匠達の庇護から外れ、独立独歩自分の力と決断で生きていかなければならなくなった。

だがそれは当たり前のこと、寧ろ本当の俺は親の庇護などとっくに受けられない年齢だ。

今までが幸運すぎたのだ。


「クーくぅぅぅぅぅぅん!!!やだやだやだ!!久しぶりに会えたのにまたお別れなんてお姉ちゃん寂しい!!」


あっやわらかいものが顔面に押し付けられる、スゴイ当たる、あと上からすごい勢いで生暖かい血液がかかる。


「ヴィクトリカ落ち着きなさい、クラフタ君も困っているよ」


「男としては本望だろうけどな」


「ヴィクトリカはずっと寂しがっていたからね」


「でもクアドリカさまぁー」


更にぎゅーっと抱きしめられる、姉さんって結構スタイル良いんだよなぁ、首から上が無い所為で気付きづらいがわりとボンキュッボンだったりする。


「同じ街に住んでいるんだからいつでも会えるだろう?」


「あっ!それもそうですね」


納得した姉さんはオレを解放する。


「なんならいつ遊びに来てくれても構いませんよ」


「うん!絶対行くね!!」


喜びの余り首から血液が噴水みたいに溢れてます、でも霊的な血液なので地面には零れない不思議仕様。

余談だが後日、頭が無く首の切断面から血液を溢れさせるメイドが現れ領主の館はパニックに陥る。



そして今は屋台でおでんもどきを一緒につついているわけだ。


「新しい街での暮らしはどうですかパル師匠」


「いいねー、サイコー。そこらじゅうアンデッドだらけだから気兼ねなく美味いモンを喰いにいけるし遊び相手も増えた。こういうのも良いもんだ」


「それは何より」


「そっちはどうよ領主の仕事」


「国内の帰還事業は今の所スムーズに行われています。

故郷に帰って家族の墓の前にたどり着いた途端、未練が無くなって成仏した人もいましたよ。

中にはこっちに戻ってきて今までの分遊んでから成仏するって言っている人もいましたけど」


「ククッ、死んでも人生満喫してやがるな」


「楽しそうで何よりです、

来週あたりシャトリアに入り向こうにアンデッド達を送り届けます。

場合によっては何か厄介事が起こる可能性がありますが」


「起こると思ってんだろ」


「ええ、絶対に起こりますね」


異世界人と繋がっているシャトリアだ、オレが来るとなれば何らかのアクションを起こす可能性がある。

前回の王城襲撃事件で敵の主力を追い返したのは俺で、逃げたバギャンから俺のことを聞いているはずである。

何も無いと思うほうがおかしい。


「気を付けろよ、タマゴウメー」


「はい、味噌欲しい」


その後はくだらないことをダベりながら食事を楽しんでお開きとなった。


その1週間後、シャトリアの使者がオレの所までやって来て、死者達の故郷に案内してくれることになった。

死者の帰還事業が終わったらオレの作った通信機をシャトリア王に進呈する為に、シャトリア王都に出向くことになっている。


各国に通信機を融通することで国際ホットラインを築くことが陛下の狙いだ。

表向きの理由として、この件で周辺国に死者達の国内受け入れとイージガン平原の所有を認めさせたらしい。

周辺国としても各国が即座の連携を取れる通信網から、自分達だけが取り残されることの危険性を感じたのか全ての国が協力を約束してくれた。


シャトリアに帰還希望のアンデッドは247名、歩きでは目立つので大型の飛翔船1隻と中型の飛翔船1隻を浮島から持ち出して夕方に出発する、甲板と船内はアンデッドでスシ詰め状態だが立ちっぱなしでも疲れないアンデッドならではの利点で何とかなった。

日光が苦手なアンデッドは船内、平気なアンデッドは甲板で過ごさせている。

大型船はミヤが、中型線はストレイアとクザが操縦しており、俺とシャトリアの使者、そして我が国からの使者として王城で働いていたワイズとその部下達が乗り込んだ。


「これほどの飛翔船をお持ちであることを驚けば良いのか、それに満載されるアンデッドに驚けば良いのか・・・」


「もはやマエスタ侯爵のする事に驚くのも慣れてきましたな」


使者、チェヴァさんと言うらしい、とワイズがどことなく疲れた風に話をしている。

あの二人外交の仕事で会うことが多いので割と仲が良いらしい。


「もうじきシャトリアとの国境だな」


船の先頭でじっと仁王立ちしていたルジャ伯爵が俺の所にやってくる。


「久々の帰郷は緊張しますか?」


「多少はな」


「シャトリアに入りましたら、まずは近場から部下の方を故郷にお返しします」


「うむ、予定通りだな」


俺たちは一度国境で船を下ろし入国手続きを取ることになっていた。

飛翔船で来ることを知らなかった国境の兵士達が空からアンデッドを満載した船が下りてくるのを見て腰を抜かして幽霊船だと叫ばれたりした。

誰だムードたっぷりに国境の兵士に手招きしたり魔法の光で下から自分を照らしてゲラゲラ笑った連中は。

完全に中学生のノリである。

国境の責任者に何故か俺が謝罪した後再び空の旅に戻る。


途中街道沿いに花々の咲き乱れる花畑が所々に散見できた。


「アレは一体何と言う華ですか?」


近くなら鑑定のスキルで判別できるのだが空の上からでは流石に分からない。


「はて?見覚えの無い花だな? あんな花見た事もないぞ?」


ルジャ伯爵が知らないといい他のアンデッド達も見たことが無いと言う。


「アレはサーメンの花です、ああやって町や村から遠くて畑として使う当ての無い土地に花の種を植えて旅人達に美しい景観を演出しているのです。


ほう、それは面白い試みだな。

ふと気になって通信機でミヤにコッソリと聞いてみる。


『なぁミヤ、サーメンの花ってどんな植物なんだ?』


『どのような意図でそのような危険な植物の話題になったのかは分かりませんが、有り体に言って毒薬の原料です。複数の毒と掛け合わせることで人の自由意志を奪い思い通りに操る薬ができます』


いきなりブラックな真実が暴かれたぞ。


『下の花畑、サーメンの花だってさ』


『正気の沙汰とは思えません、この時代ではサーメンの花が危険植物として隔離さ

れていた事実が失われているのでしょうか?』


雲行きが怪しくなってきたなぁ。


その後は特に問題も無くアンデッド達は故郷に帰還して行った。

親族のおじいさんおばあさんには膝を突いて拝まれたがそのあたりは割愛しよう。

もっとも全員成仏したわけではなく帰郷したらまたアクアモルトの街にUターンする連中もそれなりに居た。

最終的にに103人が故郷で眠ることを選んだ。


ただ、かつてギンヤ子爵が治めていた領地に来た時気になる話を聞いた。

ギンヤ子爵が攻略しようと思っていた遺跡が去年何者かに攻略されていたという事実だ。

攻略した冒険者は自分達の偉業を語る事無く逃げるように去って行ったらしい。

面倒な事にならないと良いのだが。


シャトリアでの帰還事業も一段落したのでシャトリア王都に向かい通信機を譲り渡した後は今回の件でシャトリア国王からお褒めの言葉が頂けるらしい。

本音としては今更死んだ連中を連れてこられても困るのだろうが人道的な見地から認めないと政敵に足を引っ張られるので形だけ労おうという魂胆なわけだ。

まぁ、それをさしおいても通信機での情報交換は魅力的だろう。


チェヴァさんからもうじきシャトリアの王都が近づいているので指定されたポイントに飛翔船を着陸させるよう指示を受けた。


もっともその指示に従うことは無かったが。

最初にルジャ伯爵が異変に気付いた。


「空がおかしい」


ルジャ伯爵の指摘を受けシャトリア王都のある方角を見ると、そこにはいつか見た光景が広がっていた。


亀裂が入り割れた空と王都から立ち上る黒煙。

さらにそこには先の王城襲撃事件では存在しなかったモノが居た


それは王都から数キロ離れた場所からでもその姿が見えるほどに巨大な騎士の姿だった。

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