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竣工式

今日は朝からテンションが高かった。


まず護衛用の動物ゴーレムが壊されてしまったアルマの新装備が完成した。

その名も「服ゴーレム」、アルマに危機が及んだときにアルマの替わりに体を動かして身を守ってくれる護身装備だ。

普通にゴーレムを造ると人間の肉体の稼動範囲を超えて動いてしまい大変恐ろしいことになるので、

アルマにゴーレム服を着てもらってから体を限界まで曲げたり伸ばしたり腕を振り回したりしてもらった、

こうすることでゴーレムにここまでは動けるという可動範囲を勉強してもらったのだ。

いわばゴーレム版のモーションキャプチャーだ。


他にもアルマの肉体の限界を超えないようにリミッターを2段階で設定してある、肉体に影響の無い通常モードと緊急時のブーストモードだ。

通常モードは本来のアルマの1.3倍の出力を発揮できブーストモードは1.7倍の出力を発揮する。

それ以上は筋肉痛では済まなくなるので封印してある。


これが上手く機能するようなら医療用や作業用に部下に貸し与えようと考えている。

余談だがこの服ゴーレムの実験体は山で捕まえたスパイの皆さんだ。

服ゴーレムの力を悪用して逃げようとしても、服ゴーレムは俺の命令に絶対服従なので逃げようとしたら服が動かなくなる。

それを活用して色々と無茶な機動をして貰った。

その後は鉱山に逃走防止首輪をつけてリリースだ。


他にも新しいオリジナル魔法に動物型偵察用ゴーレムも完成した。

だが本命はそれ以上に大きなモノだ、


イージガン平原に建設していたアンデッドと水の街が完成したのだ。

その名も「アクアモルト」

多分死に水と言う意味のイタリア語で合っているはず。

昔エキサイトな翻訳で調べたのでかなり間違ってるくさいがまあいいや。


夕方になったら竣工式を兼ねた祭りをアクアモルトで行う、アンデッド達がいるから夕方からが丁度いいのだ。

招待状を送った貴族からは隣接領地の貴族達と陛下の代理人が祝いに来てくれる事になっている。

クスジンの街からはグアジュ達建設関係者が来る。


俺達はその前に街のチェックと会場の最終打ち合わせを行うために一足先にアクアモルトに来ていた。

といっても大半は部下任せで俺達は本当に最後のチェックをするだけなんだけどね。


俺たちがゴーレム馬車に乗って街の入り口までくるとミヤを初めとした数人の家臣が出迎えてくれる。


「お待ちしておりましたお館様、竣工式の最終チェックは滞りなく進んでおります。」


「ご主人様、チェック項目一覧を用意しておきました。不具合の有ったゴーレムは交換機と交代して工房でメンテ中です」


機械的なシステムのチェックの為に先に到着していたミヤが書類を渡してくる。


「ご苦労様、このまま街を見て回るから馬車をよろしく」


「承知いたしました」



完成した街を新たな街の住民たちに先駆けて散策する。

本来の先住民であるアンデッド達はこの時間寝ているので竣工式の最終チェックの為に走り回っている家臣たちを除けば町にいるのは俺達だけだ。


「クラフタ様、この街は水路がいっぱいなのですね」


「確かにこれほど水路が多い、と言いますか街と一体化しているのは他に見たことがありません」


アルマとラヴィリアがアクアモルトの街について感想をもらす。

二人の言うとおりこの街は水路と街が1:2の割合で混在している水の街なのだ。


この街は各区画ごとに水路で陸地が分割され橋で繋がっている。

水路は人工湖から流れてきて近くを流れる河に繋がる、その関係で水路には魚もやって来ている。

この街の水路は洗濯や物資の搬送と火事の際の消火水および火事が広がらないようにする物理的な分断、そして戦争時の堀の役目を目的に作られている、

本当はもう一つ理由があるのだがそれはもう少し後まで待って貰おう。


街はアンデッドの住む夜の区画と人間の住む昼の区画、そして両者が交流する夕日の区画の3つに分かれていて、更にそれが水路で細かく分かれている。

人と死者の共存の為の町だがイキナリ一緒にしたらトラブルは避けられない、そのために最初は分けたのだ。

交流が上手くいったら増設する区画は共存用の区画にする予定だ。


そして共存区である夕日の区画には正式な領主の館が完成しており今後はここで暮らしていくことになる。


街を歩いているとポテポテとコミカルな姿をしたゴーレムが歩いて掃除をしている姿を確認できる、ゴーレムは街のいたるところにおりさまざまな雑用をしてくれるのだ。


実はこの街全てがゴーレムで出来ていたりする、誇張ではなく文字通り全てがゴーレムなのだ。

建物や馬車、街灯、果ては道に至るまでゴーレムで出来ている。

もっとも普段は擬態しているが。


たとえば街灯だがゴーレムと一体化しているので、街灯の発光部が故障した場合ゴーレムが自分で修理工房にやって来て部品を交換する。

その間は予備ゴーレムが変わりに街を照らす、予備部品さえあればメンテナンスフリーなのだ。


ゴーレム作りが面白くなってきた所為でうっかり作り貯めたゴーレム魔法を、

ストームドラゴンの財宝の財力で実現して出来た、無駄な技術の粋を極めたのがこのアクアモルトの街の正体である。


ようするに面白いものが造れそうだから造ってみたという手段の為に目的を探して出来た街と言う事である。

よくある話だよね。


「お館様ー!」


若手家臣のクザが息を切らせて走ってくる、彼ともう一人の若手家臣ストレイアには飛翔船を初めとしたハイテク技術の操作を教える為にミヤの助手に付けている。

おそらくミヤに言われて俺を迎えによこしたのだろう。


「はぁ、はぁ、ミヤ様から伝言です。竣工式の準備が出来たので控え室にいらして下さいとの事です」


「おつかれ様」


クザに案内されて俺達は夕日の区画にある多目的イベントホール(これもゴーレムだ)に向かう。

夕方が近づいて来ているので気の早いアンデッド達は既に起きてダベりながら多目的イベントホールの近くをウロウロしていた。

ちなみに全てのアンデッドが日の光が苦手なわけではないらしい、

どっちかと言うと食わず嫌いレベルなんだとか。


「お、領主様チーッス」


「お早うございます領主様」


「いやこんばんわじゃねぇ?」


「あ、そうか」


アンデッド達に軽く挨拶をして多目的イベントホールに入る。

ホールの中でも家臣たちスタッフがあわただしく働いていた。


「ご主人様、こちらでございます」


ホールの入り口で待っていたミヤが俺を迎えてくれる。


「あと一時間もすればお客様が到着されます」


ミヤの言葉は予定や予想ではなく今現在客人が何処にいるのか知っているからだ。

マエスタ領には試作で造った偵察用動物型ゴーレムが複数放されている。

アクアモルトに近づく馬車がいたら報告にくるよう指示を出しているのだ。


多目的イベントホールの控え室で手順を確認していた俺達は家臣に呼ばれる、

どうやら招待客が揃ったらしい。


「じゃあ行きますか」


アルマとミヤ、そしてアルテア様を引きつれてイベントホールに入っていく。

既に集まっていた招待客達は入ってきた俺達に注目する。


俺は落ち着いた黒のスーツに精霊石のペンダントを、アルマは緑のゴーレムドレスに青のリボンを髪に結んでいる。

ミヤは白のドレスに赤のスカーフ、アルテア様は黒のドレスに金のイヤリングで飾っている。

最初予定していたドレスは地球人の俺から見ればクラシカルなドレスで面白みに欠けていたので、

ためしに記憶にあるアニメや漫画のドレスのイラストを描いて皆に見せてみたらみんな面白がって実際にドレスを作る事になった。


アルマのドレスは腰に大きなリボンを付け要所をリボンで絞っているのでシルエット的にメリハリができて面白い、なお肩が大胆に見えるデザインなので俺的に大満足だ。

ミヤのドレスはレース生地をふんだんに使っていて、アルマのドレスとは対照的に流れるようなラインを作っている。

ただし胸部が大変自己主張しているので流れるようなドレスのデザインが更に強調する形になっている、さらに胸元が大胆に開いているデザインなので良く揺れて以下略、

アルテア様は一風変わって軍服調のドレスだ、ただノースリーブなので肌色分は割りと多い。


美女と美少女が一風変わったドレスを着て現れた事で会場が沸く、掴みはOK。


「皆さん、我がマエスタ領の新たな街アクアモルトと領主の館の竣工式にようこそおいでくださいました」


あらかじめ準備されていた挨拶の言葉を終えたら進行役の家臣が司会を引き継ぐ。


とはいえそれで楽できるわけではなく客の接待が始まるわけだ、貴族達と会話なんて面倒だがこれも貴族の役目と割り切って応対する。


『クラフタ様その方はムドの街の領主様の奥方様です』


通信機越しにラヴィリアがアドバイスをくれる、貴族の世界に疎い俺の為にラヴィリアは影に徹して俺達のサポートに回ってくれているのだ。

これでうっかり礼を失する危険が減った、ただ今後も色々と貴族の付き合いはあるのでこれからはみっちり宮廷マナーを学ばせるといわれてしまった。


だがそのお陰で竣工式は滞りなく進み、残るイベントは領主の館の見学を残すのみとなった。


そして


多目的ホールから出た客人たちは目の前に広がった光景に驚くことになる。


既に日が沈んでいるにも関わらず街は光に包まれていたからだ。

ランタンの明かりではない光は魔法によるものだ、だが魔法の明かりはそれほど珍しくもない。

珍しいのはその規模だ、建物も街灯も道を歩くゴーレムもそして水路すら光っている、その輝きは不夜城といって差し支え無い。

さらに目を引くのはそんな街の中で楽しそうに笑っているアンデッド達だ。

酒を飲んだりゲームをしたり、商売をしている者もいる。

恐怖と死の体現者であるアンデッドと言う言葉からは想像もできない光景だ。


「本当にアンデッドが住んでいるんですな」


「襲われる心配は無いのですか?」


流石に触れ合うほど近くにいるアンデッドは怖いようだ。


「人間の強盗に合う可能性と同じくらいですね」


「それにしても町中が輝くとはこれだけの魔力をいったい何処から用意しているのですか?」


「属性石を加工した充魔石ですよ」


充魔石とは魔力を貯める電池のことだ、もともと魔力を貯める電池の概念は存在しており不完全ながらその技術は確かにあった。

だが不完全の名の通り溜め込める魔力の量、輸送性、重量、変換効率など様々な面から量産にはとても向かないシロモノだったのだ。

その理由は魔法回路のプログラムがいい加減だったからだ、不完全な知識で作られた所為だ。

だが俺にはコルフィノ知識から学んだ魔法プログラムとパルディノ師匠から教わった魔道具の知識がある。

お陰で不完全な充魔石を解析した俺は正しいプログラムを書き込み純度の高い属性石を核に入れることで従来の充魔石の数十倍の性能となった充魔石を完成させることに成功した。

これにより充電量、保存期間、サイズ全てにおいて上となった、というかコレまでの充魔石の性能が悪すぎたのだ。


あとは魔法を使える人間に対価を払うことで充電して貰う日雇いの仕事を用意して、

雇用を増やし住民の小遣い稼ぎと充魔石の販売益で街の経済が活発化する。

貴族達は新型充魔石に興味津々の様だ。



客人たちは色とりどりのネオンを楽しみながら街を歩く。

アンデッド達に慣れて余裕が出来たようだ。


水路が色とりどりのネオンによって幻想的に輝く、水路の最後の役割は観光地だ。

この夜の光景を楽しんで貰う為の仕掛けとして大量に作った魚型ゴーレムは自ら光を放ち水路を舞い踊る。

ネオンのエネルギー源が電気で無いから出来る遊びだ、魔力が動力なら壊れても感電する心配もない。

だが本当の本番はこれからだ。


それは街の中央3つの区画の交差する場所にあった、街の中央は3つの区画に繋がる大きな池が配置されている、勿論ネオンもいっそう派手だ。


そして池の奥、やや夕日の区画よりの場所には領主の館が浮いていた、

大地から解放された屋敷は空中を漂っていたのだ。

それを見た客人たちが驚きに口を開く。


「屋敷が宙に浮いている!?」


「何だあの屋敷は?」


「どういうからくりだ??」


「皆さんあれこそがこの私の屋敷、マエスタ邸です」


「アレが領主の館?」


ふっふっふっ、驚いてる驚いてる。

この屋敷を浮かせる為に使われているのは、浮島のドッグに死蔵されていた飛翔船のコアだ。

実はその飛翔船、設計ミスでまともに飛べない欠陥品だったのだ。

出力はあるものの推進システムに難がありほとんどただ浮いているだけで移動速度はとんでもなく遅いと言う欠陥船舶だったのだ。

当然そんなものは使い物にならないのでいつか誰かが問題を解決するのを待っていたらしい。


そこで俺は船を分解し必要なコアだけ抜き取って変わりに領主の屋敷を浮かせることにした。

理由としては観光地の終点として、そして裏の理由は防犯対策だ。

流石に空を飛んで盗みを働く奴は居ないだろう、あと面白そうだったというのも大きい。

なお館には庭と塀が付いているので外部から中を覗く事は出来ない、

プライバシー対策は万全だ。


領主の館は地上から5mほどの高さで浮かんでいてそのままでは入れない、そのため小型の飛翔機を使って移動する。


俺は客人達を飛翔機に乗せ屋敷につれて行くと食事会を開き感謝の言葉と共に労をねぎらった。

食事会が終われば各自に割り当てられた部屋で休んで貰うのだが予想通り客人達は皆街に繰り出した、幻想の町をもっと楽しみたいのだろう。


屋敷に残ったのは竣工式で疲れ果てた家臣達、俺は家臣達の労をねぎらいアルマを連れて初めて使う寝室へと姿を消した。


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