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出世と本音

「陞爵ですか?」


『うむ、今回のお主の功績を認め爵位を伯爵とする。

本来ならばもっと早く王族と婚姻を結ぶにふさわしい爵位を与える予定だったのだが邪魔が入っていたのでな』


アンデッド達が故郷へ帰還する目処が立ったことを陛下に報告した後、陛下は俺の爵位を上げると伝えて来た。


「邪魔ですか?」


『そうだ、オーリー山のドラゴン退治による鉱山の開放と近隣の住民達の安全の確保、大勢の難病患者の治療、十分功績というに相応しい働きだ。

それをあの馬鹿共が邪魔した所為で今までを遅れてしまったのだ』


衛生観念の薄い文明的に中世寄りのこの世界では病気は深刻な問題だ。

医療の発展も戦争に有用な回復魔法による怪我の治療ばかり発展したせいで病気の治療については後回しになっていた。

そんな時代に数々の難病を治療すればそれこそ地球におけるノーベル賞モノの活躍だ。

そう考えると領主になって数々の病気を治してきたのに今まで何も言われなかったのは不思議といえる。


「馬鹿共とは?」


『お主が出世するのが気に食わん役職無し共だ』


お約束の三下貴族さんですね。

領地も持たず王城での仕事も無いお気楽な連中のする事は足の引っ張り合いと言う訳か。


「あれ?でも血統派の人達はもう一掃された筈では?」


『今は英雄派から離反して別の名前を名乗っておるわ、邪魔な連中を血統派に集めて排除した後は自分達だけで美味い汁を独占するつもりなのだ、あ奴等事あるごとに余の邪魔をしおって』


「陛下に敵対するのは相当に不敬だと思うのですが」


『表向きは忠言の振りをしておる、クラフタが考え無しにドラゴンを倒した所為で犯罪者がなだれ込むようになったとな。

馬鹿共め!過去ドラゴンによって犠牲になった者達がどれほどいたか忘れたか!!

今は刺激しないようにしていたことで被害が少なくなっていたが、いずれは倒す必要のあった脅威であるわ。

本来は婚儀を執り行う前にキャッスルトータス保護の件で陞爵させる予定だったというのに』



ご立腹ですなー。

だが陛下は急に怒りを沈めると一転しておかしそうに笑い始めた。


『だがクラフタよよくやった。

お主がイージガン平原を開放したことでようやく七石神殿が動きおったわ、お陰で連中に圧力を掛けてくれた』


七石神殿と言うのは世界を造った創造神と7色の神を信奉する宗教だ。

最高神は力を分け与えた創造神だが語呂が良いから7色の神から名前を取って七石神殿と言うらしい。

ついでに言えば混沌も神の一角に数えられているが人間側では余り信仰している人達はおらず、もっぱら魔族の神と考えられている。


最高司祭として教皇を頂点に置きその下を枢機卿、次に7人の高司祭、以下中級神官、初級神官そして最後に一般信徒となっている。

一般人が神殿で働くと出世できて中級神官が限界、特別な才能が有れば高司祭、それ以上は高司祭以上の神殿関係者の子息達にしかなれないらしい。

つまり一般人お断りのコネと利権の世界だ、貴族と一緒だね。

また神官とは別に神殿騎士といわれる武装集団も存在している、頂点を無色の騎士団長、隊長格に7色の師団長、以下中隊長、小隊長、一般兵と分けられていて

師団長クラスはこれまた高司祭以上の師弟達の中の更にエリートにしかなれないらしい。

ここまで来ると国土を持たない小国といえる。


そんな連中がなぜか俺の爵位を上げるのに協力してくれたらしい。


『お主の解放したイージガン平原のアンデッド達は過去の七石神殿でもどうにもならなかったのだ、それをぽっと出のお主が開放したのだ、

神殿の面子は丸潰れよ。そこでお主の出世の邪魔をする者達を排除することでお主と繋がりを持って友好関係にある事を周囲に見せ付けたいのだ』


「話し合いで解決しただけなんですけどね」


落とし穴に落としたけど。


『まさにそこよ、武力でなく説得で事を治めたのは神殿の理念である平和を尊ぶ考えの体現だそうだ。

本音は武力で開放されたら自分達の霊体に対するアドバンテージが失われてしまうのを免れてよかったと言う所であろう』


神殿も大変だなぁ。


『ゆえにお主は伯爵の地位と共に高位司祭の位も授かることとなる。

陞爵の儀については後日使者を送る、またおぬしの爵位を王族の配偶者として相応しいものにする為にこれからも定期的に功績を挙げよ、期待しておるぞ』



そういって陛下はぷつんと通信を切った。

定期的に功績を挙げろとか言い逃げ感が凄い、それにしても面倒ごとがさらに増えた。


『お主が伯爵とは目出度いのー』


胸元のペンダントから声がする、このルジオス王国の初代国王のアルテア様だ。


「面倒事が増えただけですよ」


『出世するなら良いではないか』


「でもこんな面倒になるならなんで俺が出世してから結婚させなかったんでしょう?」


『それはアレじゃ、早く相手を見つけんと欲深い連中が自分達の息子を婚約者にと言ってくるからであろう』


「それでもぽっと出の男爵である俺をくっつける理由が分かりません」


これに尽きる、貴族なら喜んで有力貴族を婚約者にするべきだろう。

俺を婚約者にした真意が分からない。


『お主はほんっとーうに鈍いのう、そんなもん娘の恋路を応援したいからに決まっとるじゃろう』


「恋路?」


『普通に考えれば健康になった娘を政略結婚の道具にするのは貴族として当然じゃろ?

それをせんかったのは未来を見ることの出来る予知の力故じゃ、予知によって娘の死が避けられんと知ってしまったのだろう。

予知は未来を知ることで運命の道筋を固定してしまう危険がある、予知してしまったことで変えられない未来となった事を嘆いた者は多い。

愛する娘がその運命を克服したのなら今までの苦労の分好きにさせてやりたいのが人情と言うものじゃろ』


久しぶりにアルテア様の真面目な台詞を聞いた気がする、この人割と残念キャラだからな。


『それに我が精霊石を与えて王の祝福を手にした事も大きいな、寧ろそれが全てだ。

何しろ歴代王の魂が結婚を許可したのだからな、木っ端貴族共が反対したところで覆すことは出来ん、それこそお主が平民でも結婚できたぞ』


ホントこの世界死人の存在が大きいな、死人に口無しどころか良く喋る。

なんかアンデッドの人権がある程度保障されてる気がする、それは過去にこの国で師匠達が暮らしていたことからも明らかだ。

今は少し抉れてしまっているがまた近いうちに仲良くなれるだろう。


それに今作っているイージガン平原の街はそのための街だ。

人間とアンデッドが共存できる街が出来れば師匠達も隠れずに済むし、俺の正体がバレても問題なくなる。


正体、そう正体だ。

そろそろ俺の正体を明かさないといけない娘がいた。


俺は就寝前にアルマに大事な話がある事を告げ、浮島の研究所に連れて行く。

流石に屋敷の中では誰が聞いているのか分からないので確実に人のいない空の上に場所を移したのだ。


「大事なお話とはいったいなんですか?」


「俺の本当の姿に付いてだ」


そうして俺はこの世界に来てからアルマに出会うまで、そしてカインへの復讐など全てを話した。

全てを話した俺はアルマの言葉を待つ、アルマはただ俺の目をじっと見ていた。


「クラフタ様にはそのような大変な過去があったのですね。

異世界から来て裏切られて、先生達に出会ってお姉様とお会いしてそうして私の所に来てくださったんですね。

クラフタ様の苦労やお怒りは私では全てを理解する事は出来ません、その気持ちはクラフタ様が育んだクラフタ様だけの大切な心ですから。

ですがそれでも私はクラフタ様に会えた運命に感謝いたします。

私は本来なら疾うに死んでいるはずだった命です、クラフタ様が私の運命を変えてくださいました。

私の全てはクラフタ様の物です、そして未来永劫貴方に寄り添い添い遂げることが私の願いです」


くらくらする、どれだけこの少女は俺を肯定するのだろうか、いやきっとこの少女は俺の全てを肯定する。

俺がどんな醜い人間になっても必ず傍にいてくれるだろう、アルマは俺に己の全てを捧げてくれた。

俺はこの娘に何をしてやれるだろうか・・・


「でしたら世継ぎが欲しいです」


クール・・・

腐っても貴族、嫁を甘く見ていた。


「成人してからね」


「ぶー」


犯人は侍女だ、純粋な嫁を唆すのは止めて頂きたい、嫁を自分色に染めるのは俺の仕事なのだから。


「クラフタ様・・・ずっと一緒です・・・」


アルマはもうお眠の時間のようだ、帰ってベッドに寝かそうと思った俺はふと動く影に気付く。


「頭隠して尻動いてるぞミヤ」


「ひゃい!す、すみませんご主人様、盗み聞きするつもりでは無かったんですが・・・」


大方浮島に来た俺を迎えに来て出るに出られなくなったと言う所だろう。


「何処まで聞いた?」


「・・・・・・最初からです・・・すみません」


「いいよ、後で言うつもりだったから手間が省けた」


俺の言葉にミヤが驚きに目を見開く。


「私にも教えてくださるつもりだったのですか?」


「そりゃお前は俺の助手だし知っておいた方が色々便利だろ」


「~っ!感激です!!そこまで信頼して下さっていたなんて!!!」


喜びの余りぴょんぴょん跳ねるミヤ、胸部の軟質装甲が上下に凄い勢いでバウンドしている、すげぇ。

主から大切な情報を教えて貰えた事に対して喜びのあまり跳ね回っているミヤを落ち着かせる、至近距離は超凄いとだけ言っておく。


「すみませんご主人様、ちょっとはしゃいでしまいました。

こんなにはしゃいだのはご主人様と初めてお会いした時以来です」


「俺が王都に向っていた時だな」


「はい、あの時の私は何千年も続く待機任務で心が擦り切れていました。

どれだけ待っても帰ってこない職員の方達、状況を調べたくても研究所の機能の9割を封印された状態では地上の調査もままなりませんでした。

職員の皆さんのお手伝いと心のケアをする為に生まれた感情搭載型助手ホムンクルスなのに肝心のお仕えする方のいない日常、

ただただ感情の無いゴーレムたちに指示を出し書類を書くルーチンワークの日々。

なんで私にだけ感情が搭載されているのだろうと思うと涙が止まりませんでした、

希薄ですが擬似人格のあるゴーレム達と会話をする事で精神の均衡を保っていた日々、もう地上に人間はいないんじゃないかそう思い始めた頃に出会ったんです。

ご主人様・・・貴方に・・・

人間風に言うならこれって運命ですよね。

だからご主人様、私の機能の全てを貴方に捧げます」


「ありがとうミヤ。さっそく頼んでおきたいことがあるんだ」


「何なりと」


今まで隠してきたことを話したお陰で俺達の絆はまた少し深まった気がした。

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