4人寄れば死者の知恵
現在イージガン平原はゴーレム達に命じて新しい街を造る為の基礎工事をしている最中だ。
イージガン平原で勧誘したアンデッド達の内、成仏組は無事天に召された。
家族の下に帰りたい帰還組は現在スケジュールを調整中だ。
というのも最後にここで戦争があったのは百年以上前で彼等の家族はエルフなどの長寿の種族以外皆死んでいる。
なので帰還組は故郷の家族が生きているかの確認とその土地を治める国家及び領主に子孫との面会もしくは埋葬の許可を取る必要があった。
そうなるとこの国だけの問題ではないので通信機で陛下に連絡を取り計画の概要を説明する事となった。
「イージガン平原の開放と死者の帰還か、厄介だな」
「厄介ですか?」
俺の話を聞いた陛下は何とも困った声で答えた。
「わが国だけならば良いが他国も関わるとな、最悪開発利権に群がって面倒なことになる」
「他国がイージガン平原の所有権の一部を要求してくると?」
「アンデッドの脅威が無くなれば当然来るだろうな」
最悪軍を動かして戦争もありえるということか。
少々うかつだった、アンデッド達をさくっと故郷に連れて行けばいいと思っていたんだが、
その中に貴族の人もいたからこちらも子孫の貴族に正式に許可をもらう必要ができたからだ。
その辺は滞在希望の貴族アンデッド様達に協力してもらえないか相談してみよう。
「他国のアンデッド達の中に貴族の方もいますので交渉できないか相談してみます」
「そうだなもしかしたら良い案が浮かぶかも知れぬ、国内の問題は余が何とかしよう、かの地が開発されればわが国にとって大きな利益となる」
帰還の話は一端アンデッド貴族様達に相談してから再開する事になった。
「ところで前に湖からオリハルコンが見つかったと言っておったが続報はあるか?」
「いえ、あれ以来見つかりません、現在も水中での探索を得意とする冒険者達に潜らせてはいるんですが魔物がいるのと底が深いので難航しているようです、
ただ気になるのは水棲種族が湖の底で海水の気配がする場所があると言っていました。」
「内陸のわが国でか?湖から水路を引いたそうだが海水が混ざっていても良いのか?海の水は塩辛いと聞くが」
「心配には及びません、以前ゴーレムに調査させましたが海水の成分は一部の場所のみで他は真水です、
話を戻しますがですが海水の気配は表れたり消えたりを繰り返すそうです。そして海水の気配がするとメガシャークのような海の魔物が現れると」
「お主の知識でなにか心当たりはないのか?」
「最初は湖の底に開いている穴が海に繋がっているのかと思ったのですが違うようです。
ゴーレムに命じてそれとおぼしき穴を埋めたのですが詳細な調査を依頼した冒険者いわく内側からこじ開けられていたそうです。
またそのパーティの水棲種族の話では洞窟の水は普通の真水で海水ではなかったと言っていました」
俺は一息ついてから結論を言った。
「恐らく洞窟の奥には古代の召喚施設が有るのではないかと、そしてそれが最近になって起動し海の魔物を召喚したのでしょう、
海水は魔物の召喚と共に少量流れ込んできたものかと」
「・・・・・・遺跡の存在は確認できておらんのか?」
「調査をしていた冒険者達がメガシャークに襲われ負傷した為洞窟の中には入っていません、後日改めて複数の調査隊を派遣する予定です」
「そちらも結果待ちか、キャッスルトータスの幼生は元気か?」
「今は10mを越える大きさに成長しているので生半可な連中では返り討ちに会いますよ、ゴーレムも待機させていますのでまず問題はないかと」
「ふむ、では鉱山の方はどうか?」
「採掘は順調です、ふもとの街にドワーフの細工職人も来ているので採掘したエメラルドを加工してアクセサリを作らせています、
また風の属性石が多く取れますので別の山で採掘される鉄鉱石と掛け合わせて風属性の武具を目玉にするつもりのようです、ただ・・・」
「何か問題がでもあるのか?」
「はい、先の報告でも述べましたが山越えを行う者が増えたことで犯罪者やスパイ容疑のある者も増えた事です」
「ドラゴン退治の弊害か」
「恐らく山から来るのは囮ではないかと」
「本命は別か・・・」
「目的は分かりませんが」
この世界魔法があるので国境を抜けるのは簡単だったりする、山で捕まえた者達を犯罪者やスパイと断定する理由は、
ストームドラゴンの縄張りだった山々は領主である俺の直轄地となっていて許可の無い者の立ち入りを禁じているからだ。
鉱石や山菜等の採取を行う者はふもとの鉱山街で許可を取る必要がある、そしてそのためには身分証明の為にステータスカードが必要なので素性がはっきりと分かるのだ。
ステータスカードには表記される情報のほかに読み取ったカードの隠しデータを別室の機材で見ることが出来る様になっている。
これは俺が領主となった時にこの街の冒険者協会で教えられた知識だ。
さらにいうと異世界人について陛下に教えられた後、更に裏の情報も教わることとなった。
なので犯罪歴があるものや要注意人物も秘密の機材で確認できるそうだ。
つまりスパイが山の中をウロウロしている間に捕まったら、ステータスカードを見られて素性がばれる事を他国の偉いさんも織り込み済みだということだ。
だから山を超えて来るスパイはステータスカードを持たせず使い捨てにしている。
捕まえた連中でステータスカードを持っている者は仕事で頼まれた、進入禁止とは聞いて無かったと言ってシラを切っている、
恐らくスパイ用のダミーステータスカードだろう、来る連中が全員ステータスカードを持っていなかったら不審に思われるからと言う事だろう。
絶賛自白剤を飲ませて白状させているので他国のスパイなのは確定だが交渉材料に出来ないように犯罪者を使っていたので惚けられるのは確実だ。
しょうがないので鉱山の危険な場所でゴーレムといっしょに働いてもらっている。
「頭の痛い話であるな、そちらについては引き続き警備を厳重にして相手が飽きるまで待つしかない、実際のところは悪質な嫌がらせであろうからな」
「防衛に徹するしか無い様ですね」
「それとだな・・・」
話が一区切り付いてから陛下が言葉を発する。
「はい?」
「アルマは元気か?」
「はい、とても」
今日の真面目なお話は終了のようだ、陛下は通信の終わりにはアルマの様子を聞いてくる。
「ではこれからもよろしく頼むぞ」
「はっ!」
陛下への報告が終わり夜を待ってからイージガン平原へと向かう、そこには酒盛りをする陽気なアンデッド達がいた。
「領主様じゃないですか、こんな時間にどうしたんで?」
マエスタ領の土木工事を一手に引き受けるグアジュ達も酒盛りに混じっていた。
「いやーここを開発するなんて正気かと思ったモンですけど何とかなるモンですねぇ」
「無数の骸骨に囲まれたときは死を覚悟したもんだけど意外と気のいい連中だよな」
『最近の酒は昔と違って美味いな』
『ツマミもイケる』
すっかり打ち解けたようだ。
「貴族の人達は?」
『ああ、隊長さん達ならあっちでやってるぜ』
「ありがと」
スケルトンの人が指差した方を見ると立派な鎧を身にまとったアンデッド達が椅子に座って酒盛りをしていた。
何も無い平原でテーブルに酒とツマミを置いて椅子に座って酒盛りをするアンデッド達、これは怖い。
近づいてくる俺に気づいたのか顔をこちらに向け挨拶をしてくる。
『これはマエスタ男爵、御機嫌よう』
「こんばんわルジャ伯爵、ギンヤ子爵、ベドン男爵」
この三人はアンデッド化した各国の軍の中でもっとも位の高い貴族達だ。
『顔色が優れぬな、悩み事か』
「察しがいいですね、故郷への帰還の件ですが」
『大方この地の利権で難儀しているのであろう』
「仰るとおりで、まだ先方に伝えてはいないのですが私の上司が難色を示されましてね」
『それで我等に知恵を借りに来たか』
「はい」
貴族アンデッド達は顔を見合わせる。
『この地で戦死した我等の骨を故郷で供養すると言う事は遺族に対する配慮としては当然だが、当の遺族としては数百年前の祖先にこられても迷惑であろうな』
『私は兄と仲が悪かったのできっと祝杯を挙げたでしょうな』
『分かります、私も似たようなものですよ。ですがせめて妻と子の眠る墓で眠りたい』
『『分かる』』
死んでも大変な貴族家の家庭事情か。
『我が故郷シャトリアだがこちらは私が何とかしよう』
ルジャ伯爵には何か策があるようだ。
「何か良い方法が?」
『私の隠し財産の場所を子孫に教えよう、なに欲深い連中だ、諸手を挙げて迎えてくれるだろう』
解決案が出たのになんか世知辛い、それにシャトリアは異世界人と繋がっている恐れのある国だからうまくいくか不安だな。
あとで確認してみるか。
『私は隠し財産なんて無いですからねぇ』
『私もです』
「取引材料になりうる情報とかは無いんですか?」
『『・・・情報・・・ううむ・・・』』
『私の領地の古代遺跡なんて今更発掘されつくしているでしょうしねぇ』
「古代遺跡?」
『ええ。私の領地には古代遺跡があったんですが余りに危険なので放置していたんですよ』
「それ、いまも開放されていないのなら交渉手段になるかも知れませんよ」
『え?どういうことです?』
俺の言っていることが分からなかったギンヤ子爵は興味深げに聞き返してくる。
「皆さんアンデッドになっているので浄化の魔法以外怖くないでしょう?」
『なるほど!そういうことですか、つまり不死の我々が遺跡探索をする事を交渉材料にするのですね!!』
『それなら俺の故郷に巣くう魔物の主を倒すことも交渉材料になるかもしれない!!』
ベドン男爵も交渉材料になりそうなネタが見つかったようだ。
後はこれを陛下に報告するだけか。
悩み事が無くなって酒盛りを再開する貴族アンデッド様達だったが、まだ聞きたいことがあったのでルジャ伯爵を人気の無い場所に呼ぶ、
まぁ平原なんで人気が無いも無いんだけどね。
「時にルジャ伯爵、少し聞きたいことがあるのですが」
『何かね?君の頼みなら大抵の事は答えよう』
「シャトリア王国は古代魔法文明の生き残りや異世界人と交流があったりしますか」
ストレートに聞いてみた、どうせ王都が襲撃されたことは現役のシャトリア軍人なら知ってるだろうし、故郷に帰ったこの人経由でバレても問題ない。
『・・・・・・だれに聞い・・・いや君も王族と関わりの深い貴族なら知っていて当然か、確かにわが国も古代魔法文明人および異世界人と交流がある』
いま「も」っていったな。
『しかしそれは各国の暗黙の了解だろう?これからは口にするのは気をつけたほうがいいぞ』
「俺はそこまで詳しくないので」
どうやら思った以上に古代人の生き残りと異世界人は多いらしい。
『ふむ、情報の開示は国によって違うのだな。まぁ答えるといった以上私の知っていることなら教えよう。
私の知っている古代魔法文明人は「門を繋ぐ者イザー」だ、名の通り門から門を移動する転移術の研究をしていると言っていた。
その研究の成果で異世界と交流を持つようになったのだ』
「その異世界の名前は?」
『たしかバキュラーゼとか言っていたな』
はい!犯人確定しました!!
それにしても
「聞いといて何ですがそこまで答えて良かったんですか?」
『私は先の戦で政敵に陥れられてね、それでイージガン平原制圧軍の司令官となったのだが、
我々の作戦内容がなぜか他国に漏れていて更に側面から別の国が攻撃を仕掛けてきたんだ。
その所為で私は友軍と引き離され、ごく少数の部下だけでの戦闘を余儀なくされたのだ、他の貴族達が率いる部隊も分断された私を救出にはこなかった。
事前工作は万全だったということだ』
ルジャ伯爵は地面を蹴りながら当時の事を教えてくれた、相当ご立腹のようだ。
つまりは
『更に言うと政敵は当時の陛下のお気に入りでね、ゆえに戦死した私としては今更国に筋を通す義理はないというわけだよ』
ああ、王様もグルだったんだな、伯爵様黒いオーラが漏れてます。
『話はそれだけかね?』
「え、ええ。すみません嫌な話をさせて」
『かまわんよ、国に帰ったら私が死んだ時の武勇伝を政敵の子孫の前でする予定だからね、ハハハハッ』
「おおぅ」
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いか。
『そう言う訳だから男爵も付き合いたまえ』
「え?どう言う訳?っていうか俺の帰りを妻が待ってますんで」
『いかんぞぅ、貴族たるもの妻を傅かせるくらいでないとな』
『たしか伯爵の奥方は相当な女傑でしたね』
『そ、そんなことは無い!!』
抵抗むなしくアンデッド貴族様達の宴会に付き合わされ明け方まで酒を飲むことになった。
翌朝、酒の匂いをさせて朝帰りした俺を待っていたのはベッドの上で恨めしそうな顔をしたアルマだった。




