交渉ただし宴会に発展する
貨幣についての指摘が複数件ありましたので3話の貨幣の設定を修正いたしました。
『話し合いだと?』
『我等と何を話し合うというのだ』
『ここから出て行けというのか?』
『だったら無駄なことだ、我等はこの地に縛られ動くことは適わん』
『浄化も無理だぞ、何しろ土地に染み込んだ我等の怨念は楔となって我等を縛っている』
話し合いを提案した俺をアンデッド達は笑い出す、だが俺はそんな事考えてはいない。
「いや出て行けとは言わない、俺の治めるマエスタ領の領民となって俺達と一緒に暮らさないか?」
『『『・・・・・・』』』
『『『・・・・・・』』』
『『『・・・・・・』』』
『『『は?』』』
余りに予想外だった為にアンデッド達は思考が追いつかなかったようだ。
「ここに新しい街を作りたい、君達には街の住人として共に生きて欲しい」
『いや、我等は既に死んでいるが』
「大丈夫、死んでからが第2の人生だ」
『なにそれ!?』
「見ろ!あの人達を!!」
そういって師匠達を指差す。
「あの人達は死んでからも人生を満喫しているぞ、こんな所でクダ巻いているよりずっといいぞ」
『え?私達?』
『ああ、それで我等を呼んだのか』
『しかし我等はこの地に縛られてだな』
『そうだ、戦争で死んだ我等は生者を恨んでだな』
「それほんとに怨んでるんですか?」
『何?』
「貴方達は本当に今も怨んでいるんですか? 本当はもう怨みとかどうでもいいんじゃないですか」
『い、いや我等は怨んでいるぞ!!殺されたときの事をしっかりと覚えているぞ!!』
『そうだ!!恨みを晴らすまでは我等の怒りは収まらんぞ!!』
「これで収まりませんか?」
俺は宝物庫から酒を出す。
『そ!それはファープケンワイン!!しかも当たり年と名高い56年物!!』
意外に酒好きだったようだ、とりあえず美味い酒をたくさん買ってきたんだが正解だったようだ。
「後こんなのも」
『おお!我が故郷シャトリアの酒ではないか』
『そっちは我等の故郷の酒だ!』
「ツマミも有りますよ」
『『『おおー』』』
土魔法でレギオンホールで埋めたアンデッド達を押し出し自由にして酒を振舞う。
『くはー!500年ぶりの酒じゃあ』
『ん?400年振りじゃなかったか?』
『どっちでもいいわそんなん』
『そうだな、ハハハハ』
アンデッド達は地面に座って酒盛りを始める。
『くはー、効くぜぇぇぇぇ』
「どうです?怨みよりも酒の味のほうが重要でしょ」
『あー確かに』
『酒美味いわー』
「俺の作る街の住人になればまた飲めますよ」
『・・・・・・』
アンデッド達は黙り込む、迷っているようだ。
強めに押すか。
「皆さんは殺された恨みでこの地に縛られていると言いましたが、皆さんもう土地から開放されかかってますよ」
『何?どういうことだ?』
「長い年月が貴方達の怒りを風化させたんですよ」
『風化・・・だと・・・?』
「永遠なんてありません、それは死者も同じです。だから皆さんも過去の恨みに縛られる必要なんで無いんです」
だいたいと俺は言い
「皆さんが怨んだ相手はもうとっくに死んじゃってますから皆さんの勝ちですよ」
『なんで俺達が勝ったことになるんだ?俺達は負けて死んだんだぞ?』
そうだそうだと頷くアンデッド達。
「皆さん死んだ後にアンデッドになって生き返ったじゃないですか、
最後に立っていた者が勝ちというならもう死んだ連中より死んでも立っている貴方達の勝ちと考えるのが正しいでしょう」
更に俺は言葉を続ける。
「元々戦争の発端はこのイージガン平原の所有権の奪い合いです、
それを貴方達がアンデッドになって決起したことで全ての国がこの地に手を出せなくなったんです。
つまり貴方達がこの地の所有権を勝ち取ったのです」
最後の言葉を放つ。
「貴方達の復讐は既に終わっていたんです」
『『『・・・・・・』』』
アンデッド達はポカーンとした顔をしていた、骸骨でも意外と表情が分かるもんだな。
『『『ははははははははははははははははっ!!!!!!』』』
アンデッド達は突然大笑いを上げる、うん終わったな。
説得とは勢いとでっち上げが全てだ、酒に酔って思考力の落ちた彼等にお前の勝ちだとそれっぽい理屈をつけてやれば納得する、酔っ払いだから。
アンデッドがアルコールで酔うのかって?それはあれだ仏壇にお供え物を置いておけば仏様が美味しく頂くとか言う奴だ。
アルコールではなく酒という概念に酔うんだろう。
そして酔いが醒めた後シラフに戻ったら意味が無いんじゃないかという心配も無い。
アンデッドにとっての説得とは納得だ、何であれ一度納得させてしまえば魂を縛り付けていたモノが外れる。
そうなれば自縛霊は浮遊霊になる、怨霊は亡霊になる。
恨みの元を切り離せば、アンデッドの危険性はぐんと減る。
これが昨日今日アンデッドになったばかりの死者なら恨みの念が強すぎて説得など無理なのだが、長い時間を経た彼等は死後の執念から開放されアンデッドとして自由意志を獲得し、人間としての精神性の箍が外れかけ精霊との中間のような存在になりかけている。
全部師匠達の受け売りだけどね。
死人も祭られたら神になる神道的な考えと言えるだろう。
だから彼等を新しい街の住人として再定義することで街の守護者になってもらいたいのだ。
「ちなみにご希望があれば可能な限り対処する次第です、成仏したいとか、家族の元に返りたいとか言うのもありですよ」
『出来るのか!?』
『家族か・・・・・』
「成仏と帰還をお望みの方は費用がかかりますので代金のお支払いをお願いしますね」
『『『は!?』』』
「慈善事業じゃないんで」
『いやいや俺達金なんて持ってないぞ』
「大丈夫です、換金可能な物でもかまいません、無いなら働いてください」
『おおぅ・・・』
『これが死者に鞭打つと言うヤツか』
「成仏希望の方には別のものでの支払いも受け付けますよ」
『別のものとは?』
「それはここでは、後ほど成仏希望の方は個別に面談いたしますのでそのときにお話します」
成仏希望のアンデッドに支払って欲しいのはズバリ!スキルである。
成仏する彼等に不要なスキルを譲ってもらうことで後腐れなく円満にスキルをゲットできる寸法だ。
アンデッドでもスキルが残っていればの話だがこれはダメ元なので成功したらラッキーと考えている。
アンデッド達にはシンキングタイムを与えて翌日の夜にまた来ると伝え酒とつまみを大量に置いていったん帰ることにした。
少なくともこれで夜この地に来てもアンデッドに襲われる危険は大幅に減ったのだ、それだけでも相当の成果である。
隣に剣を振り上げた人間がいたら誰だっておっかない、その剣を鞘に収めさせただけでもだいぶ違うと言うものだ。
そして翌日の夜に答えを聞きに行くと実に多くのアンデッド達が俺の作る街への移住を望んでくれた。
『どうせ成仏するならこの世を楽しんでからにしたいからな』
それが彼等の共通見解らしい。
帰還組も子孫の顔を覗いたら移住を希望している者が複数名いた。
そして成仏組だが所持しているマジックアイテムや装飾品を成仏代金にする者達を優先して成仏してもらう。
金にあかせて王都から強力な浄化の術を使える神官を呼んできたのだ。
長い年月を生き強力な力を持った数十名のアンデッドの集団に腰を抜かしそうに驚いていたが、彼等が成仏希望であることは事前に教えてあったので何とか気を取り直して昇華の儀式を始めた。
アンデッド達の力が強いので昇華に時間がかかったが無事儀式は終わりを告げた。
その間に俺はスキル持ちのアンデッドと交渉しスキルの委譲を認めてもらったので早速アンデッドからスキルを受け取れるのか試してみた。
一度死んだ時点でスキルがなくなっているかもしれないと考えたからだ。
結果は大成功、彼等のスキルは見事俺に委譲された。
接収スキルが強奪スキルになった事で上級スキルになったので回数制限が解除されたのも大きい。
そういえば前回の襲撃時に接収スキルは初級で一日一回だったはずなのに複数回使えた、普通に考えればおかしいのにあの時はなぜか使えると思ったんだよな。
ちょっと後で知ってそうな人に聞いてみるかな、これは後々重要な意味を持ってくると思うから。
委譲されたスキルは
『素材抽出(中級)
1日15回 半径100mまでの距離なら任意の成分を抽出できる、ただし生物からは抽出できない(死体からは抽出可能)』
『飛翔(初級)
1日3回 1時間の間空を飛べる、上空100mが高度限界、一度地面に体が触れると1回にカウントされる(壁に触れてもカウントされる)』
『植物育成(初級)
常時発動、育てている植物の成長速度が50%上昇する、ただしその分栄養を早く与える必要がある』
『切断(初級)
1日1回 スキルでの防御を除きあらゆるものを切断する、物質は言うに及ばず精神体、魔法、光や闇など現象といった概念も切断可能』
本来スキル持ちはそれほど多くないので4人でも儲け物だ。
地味に役に立つスキルが多いが持ち主にとっては素材抽出や植物育成は職業的な関係でうまみの無いスキルだったらしい、
使えると思うんだがなぁ。
素材抽出は俺の持つ初級が無くなって中級に吸収された様だ。
また飛翔と空中跳躍が統合されて空中機動になった。
『空中機動(初級)
1日3回 1時間の間空を飛べる、複雑な機動が可能で直進しているときに急に直角にがることも出来る、上空100mが高度限界、一度地面に体が触れると1回にカウントされる(壁に触れてもカウントされる)』
一回使ってみたらひどい目にあった、高速で直進しているときにそのままの姿勢で真横にスライドしたら骨が折れるかと思った、無理な姿勢での方向変換は負担が大きいと体で理解する羽目になった。
切断スキルはかなり強力だな、無闇に多用せず切り札として温存したほうがいいな。
これで成仏組は全員空に還った、次は帰還組だ。




