海開き
夏である。
もう一度言おう夏である。
夏は暑い、暑いと汗が出る、汗が出るなら出ないようにすれば良い。
そのためには涼を取る、具体的には肌色だ。
「海開きを行う」
「「「海開き?」」」
唐突に宣言した俺に周囲にいた家臣達が思わず聞き返す。
「暑いから涼を取るイベントを行う」
「涼・・・ですか?」
涼を取るという言葉になじみが無いのだろう、皆不思議そうな顔をしている。
「涼を取る為の準備は既に完了している」
「準備万端ですね」
「領民達へのデモンストレーション用に君たちの衣装も用意してある」
「デモンストレーション・・・ですか?」
「ふふふふふ、明日、歴史が動くぞ・・・・」
「そんな大げさな」
そして翌日
人工湖に集められた住民達はその光景に唖然としていた。
「お、おい。あれって代官の館で働いてるラヴィリアさんだよな?」
「あっちはラッサさん家のナタリアちゃんじゃねえか。」
「他の子たちも・・・」
「「「皆裸みたいな薄着だ・・・」」」
地球式の水着、この世界ではありえないほどの薄着をした女性達を見て男達が生唾を飲み込む。
「ゴーラさんの筋肉凄い」
「男の人の体・・・」
「ガルスさんの・・・キャー!!」
男たちの水着姿も女性陣に好評のようだ。
「なぁ、あれなんだろ?」
「山みたい」
子供達は人口湖に増設した遊具に興味津々だ。
「全員注目!!」
俺の声にクスジンの街の領民達が俺に注目する。
ゴーレムの手の上に乗った俺とアルマも特注の水着姿だ、俺は普通に半ズボン型の水着。
アルマはフリルとリボンをあしらった白のビキニだ。
「コレより海開きを開催する」
「海開き?」
「知ってるか?」
「さぁ」
「領主さまー、海開きってなんですか?」
「海開きとは遠い東の国の行事で暑さを楽しむ為に河や海で遊ぶ日のことだ」
ざっくりとした説明だがまぁそんな間違ってはいないだろう。
「僕達今でも河で遊んだりしますよ領主様」
「子供だけでなく大人も含めた大勢の人たちが遊ぶ為の理由付けだな、寒くなってくる締めの日までは人口湖の区分けされた遊泳区を遊びのために使うことを許可する」
「領主さまーあれなーに?」
子供たちの一人が我慢できなくなって遊具の事を聞いてくる。
習うより慣れろだ、俺はアルマをウォータースライダーに連れて行き滑り台の頂上で座らせる。
「座ったらどうすればいいのですか?」
「座ったまま体を前にずらしてこの坂をすべり落ちるんだ」
「なんだか怖いです」
「大丈夫すぐ楽しくなる」
ためらうアルマだったが俺の言葉に意を決し体を滑らせる。
「・・・い、行きま、キャァァァアァァ!!」
悲鳴を上げながら滑り落ちていくアルマ、その後ザパーンという音と共に人口湖の水深の浅い部分に流れ着く。
「どうだった?」
「ビ、ビックリしました。でも、ちょっと面白かったです、もう一回やってもいいですか?」
「なんか怖そう」
「俺やってみたい」
「僕も!」
子供達が我先にとやって来るがラヴィリア達が子供達を止める。
「お待ちなさい、水遊びをするときはこの水着を着なさい」
「子供達には無料で水着をあげますからこちらで着替えてから遊びに行ってください」
「なんか面白そうだな」
「俺等もちょっと位はいいんじゃね?」
「俺等にも水着はもらえないんですか?」
「子供は無料、大人は銅貨10枚でこちらの水着を販売しています」
「これに銅10枚は高くね?」
「頑丈で水に強い布を使っています、漁の時水に潜るのにも適していますよ」
「漁に使えるのは良いな、一枚くれ」
「ありがとうございます、お着替えはあちらでどうぞ」
「王都の服飾師が作られたブランド水着もございますよ」
「うわぁ、こんなの着るの?、肌が見えちゃう」
「気になる男の人にアピールするチャンスですよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「この綺麗な水着ください!!」
「ええ?着るの!?」
「コレを着ればガルスさんも私の事見てくれるかも!」
「あ、ずるい、私はコレを!!」
「女の子もアレを着るのか・・・」
「俺等も買うか」
「だな」
純粋な遊戯欲と煩悩に後押しされて領民達が水着を買っていく。
男はどうでもいいが女子の水着は眼福である。
「・・・・・・浮気ダメです」
「はい」
アルマがビキニで抱きついてくる、静まれ俺の体の一部分!!
姉と比べて発育が良いので薄着のときは大変危険だ、大変すばらしいです。
領民達が人工湖の遊具で楽しんでいるのを見て俺はほくそ笑んだ。
こうやって水に慣れさせることで領民達の泳げる人数を増やすのが目的だ。
領地開発で水路を作ったり湖の魔物を減らしたことで領民達は水に接する機会が増える。
それは逆に考えれば水場での事故が起こる可能性が増えるということだ。
だから水に慣れる機会を与えることで事故が起きても冷静に対処出来るようにしているのだ。
いざと言うときは巡回しているゴーレムが助けてくれるが念には念を入れたほうが良い。
そして泳ぐ人が増えると水着の比率が高まるので目の保養、いや避暑地や観光地としての需要が高まるのだ。
キャッスルトータスのドゥーロが来たことで更にその傾向が高まっている今こそ我がマエスタ領は水の都として栄えさせる機運が高まったといえる。
現在構想している新しい街のコンセプトも水が関係している、それにあわせて屋台では新商品もカメ焼きの販売を開始したのだ。
具体的に言うといろんな具の入ったカメ型のタイヤキなんだがそういった菓子のアイデアがこの世界ではまだ出てきていないので名物としてはやらせる予定だ。
あんこが無いのでジャムで代用している、料理の得意な女性達や料理人経験の多い仕官希望者を雇って新しい味を日夜研究中だ。
鉱山街の商品と合わせて観光地としてのマエスタ領は準備万端だ。




