古城を目指す
仲間を探して
ふと気がつくと地面が見える、なんで倒れてるんだ?
ぼんやりしていた意識がはっきりとして来る。
そうだ俺たちはドラゴンのブレスで攻撃されたんだ。
直撃は受けなかったものの余波で吹き飛ばされてしまった。
仲間と合流しようと体を動かすと激痛が走る、よく見ると体中血だらけだ。
ステータスを確認する。
生命力:4/14
魔力:25/25
やばい余波だけで瀕死じゃないか、あわててポーションを取り出そうとリュックをあさる。
だがリュックを確認すると飲み薬のポーションは全て割れていた、仕方ないので丸薬のポーションを飲む。
生命力:14/14
魔力:25/25
ふぅ、助かった。
落ち着いてきたので周囲を見回すが遠い場所でドラゴンの声が聞こえる、コレは迂闊に近づかないほうが良いな。
「迂闊に近づくのは危険ですね」
急に足元から声がしたのであわてて飛びのく。
「僕ですよ」
そこには土砂に埋もれたカインが居た。
「大丈夫か?」
あわててカインを掘り起こす。
「ええ、ありがとうございます。ところでポーションとマジックポーションをいた
だけますか?」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
リュックをあさり丸薬のポーションを取り出す。
「飲み薬は全滅だから丸薬で我慢してくれ」
「わかりました」
丸薬を手にして少し眉をひそめるカイン、やがて観念したように一気に飲み込み皮袋に入った水をあおる。
丸薬のポーションって苦いんだよなぁ。
「ふぅ」
水で流し込んで一息ついたカインが地面に座り込む。
「これからどうする?」
「迂闊に動くとランドドラゴンに鉢合わせします。ランドドラゴンは下級の竜ですが体験したとおりの実力の持ち主です」
さっきの台詞の通り迂闊に動くなってことだね。
「皆は?」
「ブレスの射線にはいなかったはずです、無事だと仮定しておきましょう。
これからの方針はしばらく身を隠してから身を隠しつつ仲間と合流ですね」
「了解」
装備を再確認してステータスで体調を確認した後行動を開始する。
古城の位置から逆算して戦闘していた場所まで戻るが誰も居なかった。
「どうする?」
「移動しましょう、死体がないのなら向こうも仲間を探しているはずです」
「集合場所を決めておけば良かったな」
有事の際は目印となる場所で集合というのが迷子対策の鉄板だ、それを怠ったのが痛いな。
「それはありかもしれませんね」
カインが城を見ながら言ってくる。
「合流するために目立つになる場所に集まる可能性は高いです、そしてここで唯一目立つものといえば」
「古城か」
俺達の視線の先には今にも崩れ落ちそうな廃墟となった古城があった。
古城を目指して進む途中地面に何か光る物が落ちていることに気付く。
「あれ?」
「どうしました?」
「いやあれ」
「何か光っていますね」
「ちょっといってみるか?」
「気をつけてくださいね」
ドラゴンを警戒しながら光る物に近づく。
「ウロコ?」
それはやたらとでかいウロコだった。
「ランドドラゴンのウロコですね、コレは貴重ですよ」
「貴重なんだ」
「ええ下級でもドラゴンは素材として優秀です、ランドドラゴンは地属性なので防御力の高い装備が作れます、少々重いですがウロコを一枚でも
ローブに貼り付けておけば地属性ダメージの減少ボーナスが付きます、ウロコその物の防御力も十分に期待できます。」
「なるほど、拾っておくか」
「ええ」
折角だから鑑定をしておこう。
『名称:ランドドラゴンのウロコ
非常に硬く重い、防具の材料として重用される。
粉末にする事で剛体薬の材料になる。』
薬の材料にもなるのか。
用途が分かったら二人してもくもくと落ちているウロコを拾う。
「傷付いてるやつや割れてるのがあるな」
「戦闘で割れたものでしょう」
「誰がやったんだ?」
カインと二人顔を合わせる。
「たぶんマックスさんです」
「おっちゃんが?」
「あの人はいつもあんな感じですが戦闘能力だけは一流です、セントラルの町では5指に入る攻撃力の持ち主ですよ」
「攻撃力にステ極振り?」
無言でうなずくカイン、すごく納得した。
話している間に大きいウロコはあらかたリュックに入れたので残った割れたウロコを防具代わりに服のポケットに入れておく、映画のお守りのように身を守ってくれるかもしれないなんていうのは都合が良過ぎか。
「これだけあれば冒険の成果としては十分でしょう、後は皆さんと合流して協会に報告に戻ります。」
「報告?退治じゃなくて?」
アレを放置していくのかという言外の疑問に対しカインがこちらを見て思案し、そしてふと何かに気付いたのか説明してくる。
「クラフタさんはこちらに来て間もないのでご存じないでしょうがドラゴンというのは本来1パーティだけで相手できるものではないんです。」
「え、そうなの?」
Lv1の自分では無理だが町で5指に入るファイターの居るパーティならば戦えるのではないかと思ったんだが。
「あの人がイキナリあんなことを仕出かした所為で誤解されているでしょうが通常ドラゴンの相手は町に居る実力派冒険者達が総出で掛かって倒すものなんです。」
どうやらあの人の行動は常識外らしい。
「アレはコンシューマRPGのボス戦ではなく不特定多数が協力して戦うMMOのイベントボスに単身で挑む行為と考えていただければ理解できるかと。」
うっわ、すごい理解した。HP100万の敵に対して攻撃力10の戦士で挑むとかそんな感じか、そりゃ勝てんわ。
「最下級のランドドラゴンのブレスでもあの威力ですから」
「よーく分かった、さっさと皆と合流して戻ろう」
「ええ」
ふたたび古城に向かうが仲間達は一向に見つからない。
「影も形も無いな」
「他の魔物も居ませんね」
そういえば居ないな、初めてあったのがドラゴンとかもうね。
「おそらく戦うドラゴンの気配に魔物達がおびえて移動したんでしょう、非常に不味いですね」
「どう不味いんで?」
なんだか大事になってきた感じがする。
「他の魔物が居ないということは魔物以外の動物も居ないでしょう」
「まぁそうかも」
「するとドラゴンは食べるものが無くなり困ります」
「困るね」
俺が同じ状況でも困るな。
「そして食べるものの有る場所を探して移動します」
「自然な流れだな」
「ここから2時間ほどした所に大量の食べ物のある町が在ります」
「在るんだ」
「セントラルの町です」
ああなるほど。
「・・・」
・・・・
不味くね?
「それってさ」
「町が壊滅しますね」
ですよねー。
「どうすんの?」
「当初の予定通り仲間と合流します、2時までに見つからなければ僕達だけで戻り
即対策本部を立ち上げてもらいます」
「大事になってきたなぁ」
時計を見る、おおよそ12時か。ドラゴンを警戒しながら動いていたので結構時間がたっているな。
「古城に居なかったらどうする?」
「状況しだいですが後衛職だけで動き回るのは危険です、物陰に待機して時間まで待ちます。幸いドラゴンのお陰で下級の魔物が居ないのが救いですね」
「はは・・・はぁ」
ホント大事になってきました。
10分ほど歩くと城は目と鼻の先というところまで来た。
「でかいな」
「ええ高さ20メートル位ありそうですね」
「はじめから吸血鬼の城だったわけ?」
「なんでも古代の魔法使いが深い恨みでアンデッドになったという話らしいですよ」
「もとは人間だったのか、いったいどんな恨みがあったのやら」
「死後数百年も残る瘴気ですから相当な恨みだったのでは?」
「中には入りたくないなぁ」
「ですね」
すでに討伐済みというのがありがたいがコレだけ禍々しい気配がするのだから中に野良アンデッドが居てもおかしくない。
城のほうを警戒しつつ隠れることの出来る場所を探す、その時気になるものがあった。
「なぁカイン」
「なんですか」
「あれなんだと思う?」
「また何かあったんですか」
「ああ、あそこだ」
そこにあったのはウロコ等ではなく土の壁だった。
それは城壁のような壁とは程遠い大量の土を盛っただけの壁と言うのもおこがましいものだった。
その高さが5m以上なければ。
「でかいな」
「でかいですね」
「何だと思う?」
「何だと思いますか?」
二人とも分かっていた、分かっていながら答えを言えなかったからだ。
言ってしまえばとたんにソレは現実の脅威になってしまう。
だがソレを言ってしまうのがゲーマーの悲しい性だ。
ここはボス部屋だ、つまり、
「「ドラゴンの巣」」
ギュォォォォォ!!!
「「!!」」
こちらの回答に正解といわんばかりにランドドラゴンの雄叫びが轟く。
彼方からこちらに向かってすさまじい速度で迫ってくる。
「マズイ!!早く逃げないと」
「無理ですね、ドラゴンは巣に近づく者を許しません。どこまでも追ってきますよ」
「じゃあどうするんだ」
ドラゴンが地響きを上げて走ってくる。
「あまり使いたくは無かったんですがしょうがありませんね」
言ってる間にも俺達までの距離が20m位を切った。
カインが杖を構える。
ドラゴンが前足を振る、凶悪な爪があらわになる。
『重唱』
ドラゴンの爪がカインを切り裂く瞬間
カインの声が響く
『エアダスト』
瞬間魔法が発動しドラゴンが吹き飛んだ、
まるでテレビ画面がぶれる様に風の魔法がブレて現れ次の瞬間にすさまじい衝撃波を発してランドドラゴンを吹き飛ばす。
10mはあろうかという巨体が宙を舞う、そのあまりに非現実的な光景にしばし見蕩れてしまう。
「今です!逃げますよ」
カインの声で我に返りすぐさまカインについて走り出す。
「城の中に逃げ込みます!」
「大丈夫なのか?」
なにせいつ倒壊するか分からない建物だ、入ったとたん衝撃で落石くらいありそうだ。
「大丈夫です、基本城の中に魔物は入ってきませんから」
「入ってこないって言うのは?」
俺の心配している内容に気付かず違う方向でカインは自信ありげに言う。
「なぜか外部から来た魔物は城に近づきたがらないんです、そのため有事の際は城の中に逃げるのもひとつの手なんです。」
「どっちにしろソレしかなさそうだよな」
「はい、吹き飛ばしたドラゴンが起き上がってこちらの姿を再度捕捉されたら終わりです、急ぎましょう」
幸いドラゴンに気付かれることなく俺達は城の中に避難した。
「何とか逃げ切れたようだな」
「ええ、ですが油断は出来ません、もう少し奥に隠れましょう」
たしかにドラゴンがどうやってこちらを捕捉するか分からない、目視だけでなく匂いや魔力の残滓を辿って来るかもしれない。
「上に上がってバルコニーから外を監視しましょう」
「崩れないか?」
「皆が思っているほど脆くないですよ、城の壁に使われている素材は風化に強い素材でできていますから」
「知っているのか?」
「入った人たちから聞いたんです、皆さん見た目で判断しますから」
コレは耳が痛い。
確かに見た目がボロボロだからそう思い込んでいた、コレは反省せねば。
城の入り口のダンスホールにある階段は崩れて使用が出来なくなっていた。
それというのも部屋中のそこかしこがえぐれており階段だけでなく壁や床も大きな穴が開いていたのだ。
「過去に行われた吸血鬼討伐の名残ですね」
「それだけ激しい戦いだったわけだ」
仕方が無いので別の階段を探すことにする。
別の階段を探していると声が聞こえてきた。
誰か居ますか・・・
「誰か居るのか!」
「クラフタさん!」
誰ですか・・・どこに居ますか?
「こっモガ」
「しっ!!」
カインが俺の口をふさぎ物陰に引きづる、何のつもりだ。
「静かに」
文句を言おうと思ったがカインの真剣な表情に気圧されてしまった。
物陰に隠れていると通路の角から人が現れる。
それはいわゆるメイドさんだった、流れる水のような赤いラインの入ったクラシカルなメイド衣装に透明な頭部
・・・ん?透明な頭部?
よくみるとメイドさんの首から上が無かった。
さらにいうと首からは血があふれている、模様と思ったのは血だ。
どなたかいらっしゃるのですか?
いらっしゃるのでしたらお返事ください
全身から嫌な汗が出た
間違いないアレは
アンデッドだ
メイドのアンデッドはしばらく周囲を見回した後去っていった。
完全に姿が見えなくなってからようやく俺達は息を吐くことが出来た。
「なぁ、アレって」
「レイスですね」
「死霊か」
レイス、それは強い未練を持った死者の霊が現世に留まるために人の生気を奪うようになった悪霊だ。
「城の主が倒された時期を考慮するとすでにリッチに成っているかも知れませんね」
「冗談きついよ」
リッチ、死後数百年が経ち強い執着から開放あるいは更に取り込まれた上位アンデッド、
魔法を使い協力なドレイン能力も持つ吸血鬼に並ぶ死者の王。
Lv1が相手をするには荷が重過ぎる。
「城の中で発生した奴かな」
「おそらく、城の外で発生した魔物は城の中に入りませんから」
それにメイドさんだからなぁ、間違いなくこの城の関係者だろう。
メイドさんの幽霊が動いた方向とは反対の方向に移動する、メイドさんの幽霊から逃げる意味もあるがもし仲間が居た場合精霊魔法の使い手であるメリー以外は対応できないからだ。
「カインはさっきのアレに勝てるか?」
「正直つらいですね、アンデッドの相手は基本神聖魔法の使い手か火の魔法の使い手です、僕の得意なのは風属性なので」
聖と火かアンデットのテンプレ弱点だな。
「さっき使ってた重唱ってのは?」
「アレを使えばあるいは」
「アレってスキルなのか?」
早速さっきの疑問をぶつけてみる。
「・・・ええ・・・」
「そうか・・・」
「・・・・」
なんか居心地の悪い雰囲気だな。
そして嫌な沈黙だ。
「僕のスキルは重唱、効果は複数のスペルをひとつに重ねて発動することです]
「強そうなスキルだな」
「その代わり一度に唱えたスペルのMPを持って行かれます、使いどころを誤ると一気にピンチになります」
「そうか」
「ですので広言しないようにお願いしますね」
「わかった」
強いスキルだが使いどころを選ぶって事か。
「パーティの仲間は知ってるのか?」
「いえ、誰にも言っていません。使うにしてもごまかしていましたから。」
しばらくすると上に上がる階段が見つかる。
「どうする?」
「上がりましょう、仲間が外にいる可能性は十分ありますので本来の目的を達成することも重要です」
「分かった」
ここはプロの意見を尊重しよう
慎重に階段を上がっていく。
階段を上がると長い通路に出る、その先にはいくつもの部屋がある。
「メリーさんの精霊魔法があれば敵が居ないか分かるんですが」
そうカインは小声でつぶやく、他のアンデッドが居る可能性を考慮して小声で話すことにしたからだ。
「どうする部屋を調べるか?」
「いえもし部屋の中に居たら危険です、予定通りバルコニーを目指しましょう」
「了解」
バルコニーはあっさりと見つかった。
メイド幽霊対策に隠れる場所を探す。
「そういえばクラフタさんのスキルは鑑定ですよね」
「ああ」
カインが俺のスキルについて聞いてくる。
「物品限定の上級スキルなんですよね」
「ああ」
「僕のスキルのように消費が激しくなるといった欠点とかはあるんですか?」
「いや魔力が消費するわけでも無いし物ならなんでも鑑定できる」
お互いに知ったスキルの情報交換をしておきたいというところか、まぁ鑑定なら話してもいいだろう戦闘で使うものでもないし。
「どうやって使うんですか?」
「前に言わなかったけ?心の中で鑑定したいと思うだけで鑑定できるよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「いえいえ。戦闘では役に立たないからな、そっちのスキルには期待させてもらうよ。」
「十分有用なスキルですよ、ぜひ欲しいスキルです」
「いやスキルはあげれないし」
「ええだから頂きます」
カインが変なことを言い出した。
「頂くって・・・」
何かが肩に触れる、おどろいて振り向くとカインの手が肩に置かれていた
『接収』
カインが放った一言で俺の中から何かが無くなった。
「ご馳走様クラフタさん」
体のバランスがおかしい、肉体ではない、そうそれはまるで魂を削り取られたみたいような感覚だ。
「・・・何を、した・・・」
「頂いたんですよ、あなたのスキルを」
とても嬉しそうにカインは言う、その顔は欲しいモノを手に入れた子供のように、コレクションを見せびらかす子供のようだった。
「僕のスキル接収は対象のスキルを自分のモノにするスキルです」
「他人のスキルを奪うスキルだと」
「奪うなんて乱暴な言い方ですね。接収ですよ、いわば権力者が己の領地で取れたものを税や年貢として納めさせるに等しい行為です、領主の領地にあるものは全て領主の物なんですよ」
接収の意味を履き違えてやがる、どっちかって言えば強奪じゃねぇか、接収も強奪みたいなもんだが。
文句を言ってやりたいが体がいうことを聞かない。
奴はスキルを奪ったと言っていた、その影響かまるで体が欠けたように感じて動きづらい。
「スキルを奪うスキルとは反則だろ」
「あれ?もしかして信じてないんですか?」
完全に上から目線で声をかけてくる、完全に調子に乗ってやがる。
「このスキル発動するの大変なんですよ、相手に接触して接収と声に出してスキルを発動しないといけませんし相手のスキルの正式な名前や用途、使用法も確認しないといけませんから、初めて接収した時に手に入れたスキルが名前以外使い方がまったく分からなくて困ったんですよね。」
「重唱も他人のスキルか」
「ええちょっと前にあった冒険者が自慢げに話してくれたので頂くのは簡単でしたよ、接収されたと気付いたときの顔は見物でした」
一切の後ろめたさも無い声でぺらぺらと話し続ける。
「そんな派手にやったらいつか後ろから刺されるぞ」
「その心配はご無用です、ぼくはコレまでも慎重でしてね、スキルを頂くためには時間をかけて対象を調査し邪魔の入らない状況でのみスキルを使ってきましたから」
気持ちよく喋るカインの目に狂気が灯る。
「本当なら貴方のスキルを頂くのはもっと先立ったんですが予想外のイレギュラーが発生し都合よく仲間達と分断されました。
とはいえ仲間の現在位置が分からない状況では貴方のスキルを頂く場面、とくに不要になった死体を処分するところを誰かに見られる危険がありました。
そこで更に都合が良かったのがドラゴンの巣が城のそばにあったことです、お陰であなたをこのアンデッドの巣に誘導できました。」
「アンデッドの巣?」
「ええ、実はこの城にすんでいたかつての従者は全員アンデッドと化しています、長い時間をかけてリッチのような強力なアンデッドを殲滅するのは大変困難ですが幸い彼らはこの城から出ようとしなかったため協会も討伐を重要視しませんでした。セントラルの町だけでは手が足りませんからね」
そこまで言うとカインはバルコニーの手すりに触れながら城の外を見回す。
「幸い今は誰も居ない、たとえ居たとしてもバルコニーの壁で死角になって見えない。・・・つまりここで僕が攻撃呪文を唱えて貴方を攻撃したとしても誰にもばれない」
始末する気満々だな、だがその案には欠点があるぞ
「おいおいこんなところで攻撃魔法を使ったら城中のアンデッド達が殺到するぞ」
そう、さすがに強力な魔法が使えても狂気の思考に蝕まれた死者達に数で押されたら逃げることは不可能だろう。
「ご心配なく、なぜバルコニーを探したと思いますか? 実は僕空を飛べるんですよ、つまり貴方を始末した後アンデットに囲まれても空を飛んで逃げれるんです」
スキルかスペルか分からないが脱出方法は用意していたということか。
万事休す
「ではクラフタ=クレイ=マエスタさん、コレでお別れです。折角しっかり名前を考えてスキルを手に入れたのに無駄になっちゃいましたね。ミドルネームまで考えちゃうガチな人僕初めてみましたよ。
じゃあ、あなたのスキルは僕が有効活用してあげますね。」
思うように動かない体に鞭打って必死で駆け出す。
だがカインは無慈悲に呪文を唱える。
『重唱』
『フレイムヘル』
火使えるじゃねぇか!
城ごと破壊せんとする地獄の炎のが炸裂し俺の意識は闇に沈んだ。