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踊る阿呆

順調な時と言うのは災厄が訪れる前兆とも言えます

早朝5時


時計を見ながら待つ。

異世界からの物品の持込は基本禁止されているが例外的に許されているものもある。

そのひとつが時計だ、時間が分からないと仕事や学業に影響があるため個人使用に限り時計は例外扱いになっている。


そうやって待っているのは4人、俺、カイン、メリー、セリカの4人だ。

つまり来ていないのはおっちゃんだ。

前日に時間厳守だとか言った張本人である。


「おー、悪い遅くなった」

「30分遅刻ですよマックスさん」

「そういう時は今来たところだよって言えよ」

「マックスさん以外なら」

「かーっこれだ」


到着早々漫才を始めないでもらいたい。


「さーバカが来たから早速行くわよ。」

「バーカー」

「目的地のは吸血鬼の古城でしたっけ」

「そ-だよー」


名称からして吸血鬼が出そうだな。


「吸血鬼は出ないわよ」


こちらの考えを呼んだのかセリカさんが告げる。


「城の主だった吸血鬼は数百年前に滅ぼされており城は既に廃墟と化しています。」


ウィキペディアカインくんが説明してくれる。


「廃墟なのに行くんですか?」

「数百年を過ごした吸血鬼が残した魔力の残り香はいまだに周辺から魔物を呼ぶのよ、そのおかげで廃墟の城はちょっとしたダンジョンって訳」

「素材ゲットなのだよクーちゃん」

「吸血鬼の魔力に惹かれてきた魔物を狩る事で魔物の素材を手に入れるわけです」

「狩りゲーですね。」


魔物ハンターな感じのゲームみたいだ。


話しながら俺たちは目的の古城へと向かう。


「目的地まではどれくらいかかるんですか?」

「大体徒歩で2時間くらいね」

「馬車とかは使わないんですか?」

「コストが掛かるから使わないわね、遺跡の近くに止めたとして戻ってきたら魔物に馬を食べられていましたってなる可能性もあるしね」


どうやら過去にそういう事例が合ったらしい。


「違約金を払うことを考えたら徒歩になるのが必然です、軍馬ならレベルの低い魔物が相手でも問題無いんですが」

「なーに、2時間なんてすぐだすぐ!」

「すぐー!」



なんてことはありませんでした。

ろくに舗装されていない道を徒歩で歩くのはかなりきつい、舗装されたアスファルトの道路がデフォルトの現代日本人には大変困難です。


「情けないぞクー」


最近まともに名前を呼んでもらえていません、せっかく真面目に考えたのに。


「そろそろ一服しますか」


こちらの様子を見かねてカインが提案する、すばらしい心遣いだ。


「ん、いいんじゃない?」

「ごっはん!ごっはん!」

「よーし!朝飯にするか!」


休憩のついでに朝食をとることになった、事前に買っていたこちらの世界の食糧をカインの火魔法で焼いて食べる。

ただそれだけの食事だがやはりあたたかい食事というのはありがたい。

空が明るくなってきて周囲が見えるようになってきた俺はあるものを発見する。


「薬草か」


それはポーションの原料になる薬草だった。


「分かるの?」

「ええポーションの材料になる薬草です、こっちは毒消しの材料です」

「もう薬草の種類を覚えたんですか?」


カイン達が妙に大げさに驚いている、普通に分かると思うのだがひとつ失念していたことに気付く。


「ああ、俺鑑定スキルがあるんですよ」

「「「鑑定スキル!?」」」

「あーそんなん持ってたな兄ちゃん」

「ク、クラフタさんスキル持ちなんですか!?」


カインがやたら喰いついてくる、クラスだけでなくスキルにも劣等感が有るのかこやつは。


「ああ一応」

「階級はあるんですか?」

「物品限定で上級が」

「上級!!!」


いや怖いよカイン君。


「へースキル持ちか、いいなぁ」

「おおー」

「そんなに珍しいんですか?」

「スキル持ちはあんまりいないからね、それに上級だろ」

「ええ」


うーんこの反応を見るとやっぱり言わない方が良かったのかな?いちいち反応が大げさだ。


「ねーねー、鑑定ってどうやるの?」

「えーと鑑定したいものを見ると、自然に名前や使い方が分かる感じかな。」

「魔力消費は無いの?」

「スキルですから」

「便利だねー」

「皆さんは無いんですか?」

「私らは無いね、っていうか」

「あっても言わないと思うよー」


これからは広言しない方がよさそうだ


「やはり苗字が・・・いや統計では・・・」


カインがブツブツとつぶやきながら自分の世界に没頭している、そっとしておこう。

その隙に薬になる草を幾つか袋に詰める。


その後食事が終わり一服してから移動を再開する、この時間になると完全に日は昇っていたので移動も楽になった。

時計が7時になるころに俺たちは目的の古城に到着した。



「廃墟ですねぇ」

「廃墟だろう」


なんというか結構崩壊している、一応城の形をしているのだが中を歩くのはかなり危ないんじゃないだろうか?


「この中に入るんですか?」

「入りたい?」

「いえ」


入った瞬間に天井が崩れ落ちそうな気がする、しかしそうなるとここで何をするんだろう?


「この城の周辺に集まる魔物を狩るんですよ。」


やはり入らないらしい。


「城の主だった吸血鬼を倒した際にあふれ出た瘴気が城に染み付いてその瘴気が土地を穢れさせたんだ、だから中に入らなくても城の周辺だけでも十分魔物は集まるってこと。魔物たちにとってはここら一帯が過ごし易い優良物件って訳ね」


なるほどこの土地自体がハエ取り紙みたいなモノか、そこに集まってくる魔物を冒険者が狩ると。

むしろ冒険者のほうが悪質だな。


「まずは浅い場所で狩りますか」

「浅い場所?」


専門用語かな?


「浅い場所っていうのはLvの低い魔物の生息地域の事さ、新人君に戦闘のいろはを教えるためのね」


なるほど、弱いモンスターを狩ることでゲームでおなじみのチュートリアルをするって事か。


「お願いします」

「おねがいされます」


えらそうに無い胸を張ってメリーが言う。


「まずは索敵ー」

「ウチのパーティはメリーさんの精霊魔法で索敵を行います」

「メリーが索敵したら気づかれないように風下から接近して遠距離から攻撃、気づかれたら一気に近づいてしとめる。遅れないようにね。」

「はい!」


本格的に冒険の雰囲気がしてきたぞ。


「あれ?」

「どうしました?」

「何か異常があったの?」


いきなりキナ臭くなって来ました、嫌な予感が全速力で駆け寄って来ます。


「んー、精霊たちが危ないって言ってる」

「具体的には?」

「すごく怖いのが来るって」

「マズイですね」

「この辺りに上位の魔物が来ることは無いはずなんだけど」


トラブル発生ですか。

そういえばトラブルを発生させる人が静かだな、そう思い周囲を見回すとおっちゃんの姿が無い。

嫌な予感がする。


「周辺を警戒、マックス、カイン、メリー、クー陣形を組むよ」

「「「はい!」」」


即座に隊列を組んで周辺を警戒する。


「セリカさん」

「来たかい!」

「いえ」

「無駄話をする余裕なんか無いよ敵を警戒しな、メリー精霊の声は?」

「もうすぐあっちから来るって」

「セリカさん」

「なんだい!!」

「おっちゃんが居ません」

「は?!」


俺の声に皆が振り向く


「あ、来た」


ギュァァァァァァ!!!


メリーの声に釣られるように低い音が近づいてくる。

小さかった音はどんどん大きくなりその姿がハッキリと見えるようになる。


「マックスは後回しだ!今は敵を叩・・・」


魔物を迎撃しようと構えた俺たちは言葉を失った。


「いぃぃぃぃやっほぉぉぉぉぉ!!!大漁だぜぇぇぇぇぇ!!!」



おっちゃんが10mはあろうかと言う巨大なトカゲの上に乗って斧を振り下ろしていた。


「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

・・・・・


「「「「お前が元凶かぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」


何の打ち合わせも無く綺麗にツッコミがハモる。

静かだと思ったらこれだよ。



「ははははは、俺はずっと考えてたんだ、せっかく兄ちゃんの初冒険なんだから盛大なサプライズがいるってな!」


いりません。


「そしたらお前なんか強そうな気配がするじゃねぇの、行ってみたらランドドラゴンが居るじゃなぇか。その瞬間、俺はコイツだッて思ったね。」


思うな。


「あほかぁぁぁぁ!!」

「どこの世界にLv1の新人の歓迎にランドドラゴンと戦わせるやつが居るんだい」

「ここに居る!!」

「黙れ!」

「メリーさんレジストファイヤを」

「はーい、ブレス怖いモンね」


メリーが呪文を唱えると体の回りにほのかに赤く光る膜が現れる。


「精霊魔法の火炎防御です、ドラゴンのブレスには焼け石に水ですが無いよりはましです。」


目の前の非常識事態にまったく動じていない、クールだ。


「定期的にあるんですよ」


なにがあるのかは聞いてはいけない気がした。


「クーはメリーと一緒に下がりな、ブレスに注意して周辺の警戒と薬をすぐ出せるように待機」

「はい!」

「メリーはドラゴンの目を封じろ、カインはメリーの目くらましの直後に足を止めろ」

「わかりました」

「マックスは死ね」

「おぉーい、お前それ指示じゃなくて願望じゃね?ひどくね?」

「うるさい!責任を取って共倒れにでもなれ!兎に角振り落とされるな!!」

「任せろ!!」


「シャドウバンド!!」


メリーが叫ぶとドラゴンの頭に黒い塊が現れ視界を封じる。


「ファイアボム!!」


即座にカインが続く、ファイアボムの呪文でドラゴンの足元が爆発し大きな穴ができる。

視界を封じられたドラゴンが出来上がった穴に片足を突っ込みバランスを崩す。


ギュァァァァァ!!


そのままドラゴンは倒れこむが上のおっちゃんは器用にバランスを取って落ちない、むしろドラゴンの倒れこむ勢いを利用して斧を叩き込む。

そして、砕ける斧。


・・・・


「折れたぁぁぁぁぁ!!」


「おぉーい!」


どうなってんのコレ


「あちゃー、やっぱドラゴン硬いわ」

「ちっ、ドラゴン相手じゃやっぱり無理か。魔法で強化されたあいつの斧でアレなら槍も無理、メリーの魔法が効いているうちに逃げるよ」

「ファイアウォール!」


カインの呪文でドラゴンの周りに炎の壁ができる。


「今のうちに!!」


カインの声に従い俺たちは逃走を開始する。


そのときドラゴンの雄叫びが響いた。


キュィィィィィィィ


まるで超音波のようなうなり声が辺りを包む。


「まずい」


その音を聞いたセリカさん達が顔色を変える。


「逃げろ!!」



「ブレスが来る!!」



セリカさんの叫びが終わるのと時を同じくして



閃光と爆音が世界を支配した。

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