マエスタ領運営開始
内政編スタートです
俺は悩んでいた。
俺が治めることになったターゼの地マエスタ領の現状についてだ。
この領地は意外と広い、北海道くらい広さが有る。ただしそれはあくまで地図上の面積の話、実際に人が住めるのはこの半分くらいか。
マエスタ領は四方を囲むように4つの面倒な土地が広がっている、モネ湖、ガンジェの森、オーリー山、イージガン平原の4つ、更に言うとお隣の領地にはシャトリア王国との国境がある。
この4つの問題があるためにターゼの地は長らく発展が滞っていた。
俺がその事実を知ったのはターゼの地で最も大きい街クスジンに到着してからだった。
「男爵様、間もなくクスジンに到着いたします」
王都を発って2週間、特にトラブルも無い旅路の終わりを御者が報告をしてくる。
「ああ、ありがとう。やっと着いたみたいだね」
「王都以外の街は初めてなので楽しみです!」
「そうだね」
俺もセントラルの街を少し知っているくらいだから同じようなもんか。
「そんないいもんじゃないですよ」
「クスジンの街について何か知っているんですか?」
「仕事の途中で寄ったことがありますがホント何にも無いところですよ」
「それは退屈しそうですね、街に着いたらマウさんはどうするんですか?」
「国から派遣されていた代官様が男爵様に引継ぎをしますのでそれが終わったらその方を乗せて王都に帰りますよ」
「だったらそれまでゆっくり羽を伸ばして行ってください」
「はは、そうさせて貰いますよ」
御者のマウさんは王城で働いている、俺達を送り届けたら王都に帰ることになっている。
俺とアルマに付いてきたのはアルマ付きの侍女のラヴィリアと俺の従者と言う設定のミヤの二人だ。
護衛の騎士が数人付いてきているが王宮の騎士の為あらかじめこの街で用意された護衛と交代で帰ることになっている。
それ以外の人材は自分で用意しろと言う事らしい。
まぁ書類仕事はミヤに任せればいいとしてメイドは何人か募集してラヴィリアに教育させよう。
あと心配なのは護衛だな、コレばかりは自分で信頼できる人材を探さないといけない。
それとキャッスルトータスのドゥーロは現在王城にいる。
おそらくだが領地運営が落ち着いたらこっちに連れて来る事になるかも知れない。
マウさんと話している間に馬車は街に入っていた。
アルマは馬車の窓から興味深そうに街の中を見つめている。
「王都の街とはずいぶん街の様子が違うのですね」
確かにアルマの言うとおりだった、何というか寂れているというのもあるが全体的に古臭いんだよな。
「このあたりの建物が古いのもあるんだろう、あまり古い建物ばかりだと安全性に問題があるしそこら辺も何とかしないといけないな」
その辺りは考えがあるので何とかなるだろう。
馬車は街の中を進んでいく。
すると近くで馬の鳴き声が響く、マウさんが誰かと話をしているようだ。
少ししてからマウさんが報告してくる。
「男爵様、代官様の使いの方がいらっしゃいました、代官様の所まで案内してくださるそうです」
この国では貴族が治めていない土地は国の直轄領となる、その場合領主の変わりに代官が領地を治める。
領主が正社員なら代官は雇われ店長のようなものである。
一応国家公務員だが不正が無いように数年おきに交代することになっているそうな。
中からだと見えないが迎えの人たちが先導しているんだろう。
暫くすると馬車が止まる。
「男爵様到着しました。」
「ご苦労様」
馬車を降り続いて出てくるアルマの手をとって降ろす。
「クスジンの街にようこそ、クラフタ=クレイ=マエスタ男爵様」
突然の声に顔を向けるとそこにはヒョロッとした体格の背の高い男がいた。
「ターゼの地の代官殿ですか」
「インザムと申します。長旅でお疲れでしょう、中でおもてなしの用意が出来ております」
「クラフタ=クレイ=マエスタです、よろしくお願いします」
インザムに案内されて代官の屋敷に入る。
「どうぞ、この地で栽培しているバイア茶と冷やしたマシアの実です、お召し上がり下さい」
屋敷のメイドさんに出されたのは紅茶と梨っぽい果物だった。
早速鑑定をしてみる、
『バイア茶
ターゼの地で栽培されているお茶、苦味が少なく子供も好んで飲む。
カテキンが豊富で健康に良い。虫歯予防の薬の材料になる』
『マシアの実
マシアの木に生る水分量が多い果実。
糖分が多いのでジャムとして使用されることも有る」
この地で栽培しているということは名物として活用できるかもしれない、ぜひ味を確かめる必要があるだろう。
「では遠慮なく」
バイア茶のほうは苦味が薄く紅茶と言うよりほうじ茶に近い感じだっだ、マシアの実は見た目どおり梨に近い、水分が多くて暑い土地で氷魔法を使って冷やした物を出せば受けそうだ。
とりあえず食事が合わずに困ることはなさそうでよかった。
「コレは美味い」
「はい、とっても美味しいです」
「喜んでいただけて何よりです、この街の数少ない取り柄ですから」
長旅の後の冷たい飲み物と甘い果物は効くなぁ。
「男爵様、引継ぎの件なのですが」
お茶を頂いて一服しているとインザムが話を再開する。
長旅をして来たこちらに気を使って一服できるまで待っててくれたようだ。
「そうですね、そろそろ始めましょうか。
「クラフタ様、私達はどうすれば宜しいですか?」
アルマ達が聞いてくる、ふむ、アルマは長旅で疲れているだろうしな。
「長旅で疲れているだろう、アルマとラヴィリアはゆっくりして体を休めてくれ、事務仕事はミヤが引継ぎを頼む」
「宜しいのですか?」
「体を休めることも仕事ですよ奥様」
「承知しましたご主人様」
三者三様の返事だ、そしてラヴィリア、ナイスフォローだ。
アルマが赤い顔で「・・・奥様・・・」と言葉を反芻している。
健康になったアルマは今までの反動でアグレッシブになったからなぁ、
何処に行くか判らないから対策を練っておかないとな。
「奥方をお部屋にご案内しろ。
マエスタ男爵、そちらの方には業務の引継ぎとの事ですが他の方は」
メイドにアルマ達を案内させたインザムはミヤを見てこちらの反応を伺う。
「ミヤは10人分の仕事ができるので心配は無用です」
「そ、そうなのですか?・・・おい、こちらの女性に業務の引継ぎを」
ミヤは文官らしき男性に連れられて別の部屋に行く、
この部屋にいるのは俺とインザムと護衛の騎士2名になった。
「業務については後ほどミヤに聞きますのでインザム殿にはこのターゼの地に付いてご教授いただきたい」
「ええ、私もそのつもりでした。そうですね見てほしい所もありますので移動がてらお話をさせていただきます」
「よろしくお願いいたします」
インザムに連れられて俺は再び馬車に乗った、御者はこの街の住人だ。
「今から行くのはこの街の近くに有るモネ湖です。モネ湖は魚も多くこの湖を活用できれば水の心配も要らなくなります」
「活用できないんですか?」
水は生活する上で最も必要なものだ、現代日本なら心配ないが治水や貯水といった概念が中世レベルのこの世界においてはことさら湖は利用価値があるだろう。
そんな湖を活用できないという理由とはいったいなんだろうか?
「その理由は男爵様が直接確認されたほうがご理解も早いかと」
「百聞は一見にしかずと言う奴ですか」
「は?」
おっとことわざは世界では通じないか。
「実際に見ればわかるって意味です」
「なるほど、ええその通りです、アレは直接見たほうが実感できます」
そこまで言うほどの何かがあるのか。
「このターゼの地、いえマエスタ領は領内に4つの土地的問題があります、モネ湖、ガンジェの森、オーリー山、イージガン平原の4つです」
「問題ですか?」
「はい、モネ湖は今から行きますので置いておきますがまずガンジェの森、この森は古代エルフに支配された人を拒絶する森です」
「古代エルフ?」
聞いた事の無い名前だ、ゲームで言うハイエルフと言う奴だろうか?
「古代エルフとは神代の時代から生きているといわれる超長寿命の種族です、
本当にその頃から生きているのかは解りませんが兎に角プライドが高いのでガンジェの森で狩りや採集は不可能といえます。
密猟者も出るそうですが大半は古代エルフ達によって森の肥やしにされます。
裏では近くの村の住人と秘密の取引が行われていると言う噂もあります」
「交渉で希少な薬草などを取引できるといいんですが」
「過去にもそういった試みはあったようですが結果は芳しくなかったようです。
だよねー、うまく行ってりゃもっと豊かになってるよな。
「次にオーリー山ですがこちらは宝石や属性石の鉱山があることが確認されております。
ですが山頂がストームドラゴンの縄張りになっているので大々的な開発は不可能となっております」
ストームドラゴン、たしかドラゴンの中でも凶暴な部類で肉食、人でも魔物でも何でも食べるそうな。
かなり強いらしいので戦いたくは無いな、何よりストームドラゴンは空を飛ぶ。
戦い辛さはランドドラゴン以上だ、基本飛行種と水中種のドラゴンは地上種のドラゴンより強いといわれている。
接近戦が出来ない以上弓矢か魔法くらいしか攻撃手段が無いのがきついというわけだ、こちらはアイデアがあるのでもしかしたら上手くいくかもしれない。
「3つ目がイージガン平原ですがここが一番の問題です、
この平原は過去数度大戦争が起きた土地なのですがその戦争の中でネクロマンサーが戦に参加したことがあるそうです」
「またアンデッドかよ」
「どうかされましたか?」
「こちらの話です、続きをどうぞ」
最近アンデッドと縁が出来すぎている、これ以上アンデッドと縁は作りたくないものだ。
そういえば試練の谷でアルテア様の加護を得たことを話してから陛下の様子がおかしかったな。
妙に優しかったというか、ターゼの地へ出発するときも肩を叩きながら
「強く生きるのだぞ」
とか妙に優しい眼差しで言われたからな。
「ネクロマンサーが死者を呼び戦力としたことで戦況は一方的に有利になったそうです、ですがしばらくすると敵国もネクロマンサーを連れてきました。
両軍は死者を蘇らせて戦い、時に生者より死者の方が多かった事もあったそうです。
もちろんそんな異常な戦場が長続きする筈もありません、
最後には術者の力では従えきれないほどに数を増したアンデッド達は暴走し両軍は壊滅的な被害をこうむったそうです。
増えすぎたアンデッドは時間をかけて駆逐されましたがその怨念は土地に残り、
イージガン平原では夜になると死者が徘徊するようになったのです」
なんて厄介な、この様子だと神官による土地の浄化も失敗したと見える
「あの平原が使るようになれば更なる発展が見込めるというのに!!」
どっちを向いても問題の有る土地だな、こりゃ湖もろくでもないな。
そうこうしているうちに到着したようだ、馬車が止まり俺は外に出る。
「ここがモネ湖です」
モネ湖の感想は「ひたすらでかい」だった。
この湖の全長はおそらくだが5キロは有る、単純に水だけでも利用価値は十分だ。
「それでこの湖にはいったいどんな……」
その瞬間水が爆ぜた
否、正しくは湖の中から巨大な何かが飛び出したのだ。
その姿はさしずめ巨大なサメだった、ただし15mはある巨大なサメだ。
「なんだありゃ」
「メガシャークと言う海の魔物だそうです」
「なんで淡水の湖に海水で生きる海の魔物が居るわけ?」
「淡水と言うものは解りませんがこの地に立ち寄った冒険者が教えてくれました」
「冒険者?」
「はい、当時仕事でこの街に滞在していた冒険者が居たので討伐を依頼したのです。名前がわかったのもその時です」
「それで失敗したんですか?」
「ええ」
インザムは心なし沈んだ声で答える。
水中の敵を攻撃するとなると手段も限られるからな、中途半端なダメージだと逃げられるし。
「あいつが居るせいで漁師が船を出せないんです」
確かにあんなのが居たら皆怖いよな、・・・っと?
「漁師は昔は船を出してたんですか」
「ええ、メガシャークが出る前は漁も盛んだったそうです」
昔はいなくて今はいる、しかも海に生息する魔物が。
コレはもしかするとアレか?
落ち着いたら検証する必要があるな。
「どうかされましたか?」
「いえ気にしないでください」
色々ととんでもない領地だが一つだけ確信を持っていえることが有る、
俺は息を大きく吸う
「思いっきり詰み領地じゃねえか!!!!」
青い空と湖に俺の叫びが虚しく木霊した。




