王都帰還
お土産持って帰ってきました
試練の谷の門を出るとそこには。
兵士のおっさん達が飯を食っていた。
うーわ牧歌的。
「あのー」
「ん?なんだ坊主?看板を見なかったのか?此処は試練の谷だぞ、一般人は進入禁止だ」
「いえ、向こうから来たんですが」
「向こうってそっちは出口の門しかないぞ、その門からは試練を合格した奴しか出てこれないんだ。怒られる前にさっさと帰りなさい。」
「ふざけてませんよ」
いい加減このパターンも飽きたな。
「ほれ、黙っててやるからさっさと…」
「お、おい!その方は」
お、新パターンか?俺に気付いた同僚とおぼしき兵士がおっさんを止める。
「なんだお前等、ガキの悪戯を真に受けんなよ」
「聞いてなかったのか!?今回の試練を受けたのは噂の少年貴族様だぞ!!」
「え?」
おっさんがこっちを見る、俺は笑顔で返す。
「………」
「………」
次第に顔が青くなっていくおっさん。
「も!ももももも申し訳ありませんでした!!!!」
「いえいえ人間誰しも間違いはありますよ」
「は、はぃぃぃぃ!」
「ど、同僚が申し訳ありません、コイツは人の話を聞かない奴でして」
「お気になさらず、それよりも門から出てきましたので試練は無事終了と言うことで宜しいですか?」
「は、はい!それはもう!!すぐに王都にお送りするための馬車をご用意いたします。」
「ずいぶん寛いでいましたけど試練って結構時間が掛かるんですか?」
「はっ、我々は今回が初めての任務ですので何ともいえませんが、
代々の担当者の方の言葉ではすぐ出てくる時もあれば何日も出てこられないこともあるそうです」
「なるほど」
暫く待つと馬車が用意されたと兵士の一人が呼びに来る。
「馬車のご用意が出来ました、ささっお乗りください」
「ありがとうございます」
こうして試練の谷での冒険はアンデッドまみれで幕を閉じた。
そうして俺は馬車に揺られ2時間と掛からずに王都に帰ってきた。
着替える間も無く帰ってきて早々謁見の間へと案内され陛下が来るまで待つようにいいつけられる。
謁見の間には多くの貴族達が集まっていた、中には俺とアルマの婚約を反対した奴等もいる。
そいつ等は俺と視線が合うとを忌々しげな視線を向けてくる、露骨だねー。
謁見の間のど真ん中で一人だと誰かと世間話するわけにもいかないし完全にパンダ状態ですわコレ。
暫く待つとようやく陛下がやって来る。
「皆の者、面を上げよ」
陛下の声に傅いている家臣全員が顔を上げる。
「クラフタ=クレイ=マエスタ男爵よ、無事試練の谷をくぐり向けることが出来た様だな」
「はっ」
「うむ、コレで余も何の憂いも無くお主を王族に迎え入れることができるな」
「陛下お待ちを!」
おっと反対派のターンですか、たしか血統派のリーダーだっけ。
「何事だアグラム、クラフタは既に試練を終えておる、これ以上は余への背信とも取れるぞ」
さすがの陛下もそう何度も邪魔されたくは無いよなぁ、言葉の端々に不機嫌な感情がにじみ出ている。
「その試練の事でございます」
「ほう?」
「マエスタ男爵は試練を受けて居なかったとする証言をする者が居てございます」
「なんですと!」
「それは誠ですか!?」
うーわ仕込み臭いわー、サクラってバレバレだわ。
陛下も判っているんだろうあえて彼等の喋りたいように喋らせている。
「ええ、試練の谷の警備を行っている者からマエスタ男爵が警備の者を脅して試練の谷に入らず出口に案内させたと言う報告があったと配下の者が報告してまいりました」
「それは問題であるな」
「まったくで御座います、脅迫にも屈せず勇気を出して報告してくれた警備の者にはその働きを報いてやらねばなりませんな」
「そうだな、報いてやらねばならんな」
あ、これ因果応報の方の報いだ。
だが血統派のリーダー様はそんなことにも気付かず上機嫌だ、もうちっと周りを見ろよ。
向こうは証人という切り札で勝利するつもりのようだ、こっちが何を言ってきても良い様に色々パターンを考えてきてるんだろうな。
「それについてマエスタ男爵から弁解は御座いますかな?」
「弁解ですか?」
こっちがなにをいっても勝てると思ってるんだろうな。
「貴公が試練の門に入り試練を攻略した事を証明できますか?」
証明と来たか、試練の場に当事者以外は入れないのを判っていてよう言うわ。
そういえば証明の品はあったな。
俺は懐からネックレスを取り出す。
「コレを証明の証と出来ないでしょうか?」
「何かね、その小汚いネックレスは?」
「試練の谷の門の守護者から受け取った精霊石のネックレスです」
そういった瞬間ガタッという音がする。
音のした方向を見てみると陛下が玉座からずり落ちていた。
「どうなされましたか陛下?」
「今、試練の谷の門の守護者と申したか?」
「はい」
「そ、その門番の名は?」
「アル…」
「いや良い!……何と申しておられた?」
「歴代ルジオス王が味方になると」
「………左様か……」
「どうなされたのです陛下、確かに精霊石は希少ですが証拠となるような物では…」
「黙っておれ!!」
「ひっ!」
陛下のキツイお言葉に身を縮こませるアグラム公爵
初代国王様のお墨付きだからなー、試練を受けた人にだけわかる証拠だな。
「カムダよ、クラフタの持つソレは精霊石に相違ないな」
陛下に問われたローブの男性が俺の前まで来て精霊石を覗き込む、たしか宮廷魔術師の一人だったか。
「確かに、コレはまさしく精霊石ですな」
「むぅ…試練を突破すること知っておったが、まさか此処までの成果を挙げるとは」
ん?知っていた?
謎ワードが飛んできたな。
「ともかく、王の名においてクラフタ=クレイ=マエスタが試練の谷を攻略したことを保障する!!」
「なっ!」
「アグラムよ、貴様の申した証人については後ほどじっくりと聞かせてもらうぞ」
「は、はひ…」
哀れ血統派のリーダーは真っ青な顔で応える。
きっと根回しとか色々頑張ってたんだろうな、それがネックレス一つで覆るとかまるで某カードゲームアニメの大逆転コンボのようだ。
それとも印籠か?
「そんなことよりもだ、国民へのクラフタとアルマの婚約発表は取りやめだ」
おお?
此処まで来て何を考えてるんだ?
「婚約発表に替えて二人の婚儀を執り行う!!」
「は?」
結婚ですか?
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」




