初めての冒険
過去の冒険はノーカン(トラウマ的な意味で)
試練の谷を進みながら俺はふと気付いた。
そういえばまともな冒険はコレが初めてなんじゃないか?
最初の冒険はカインに殺されかけたし古城の周辺での狩りは冒険じゃない、王都までの旅も浮島を見つけはしたけど急ぎだった上に中で書類に判子を押すだけの社畜状態だった。
王都に着いてからは王城と城下町の往復で森に行ったのもカインを退治するため。
冒険者ってなんだ?って突っ込みたくなるようなハイペースだ、ツアー旅行じゃねぇんだぞ。
幸いこの試練の谷は生きて門から外に出ることが合格条件、たっぷり冒険を満喫しよう。
たまに見つかる薬草を採取してタールに渡す、タールは採取した薬草を樽内側の薬草スペースに仕舞う。
クリエイトゴーレムの魔法は構造の基礎が同じならどんな形状でも良い。
魔法等級も無く単純にプログラムの精度が物を言う。
コル師匠から教わったのは胴体に頭と手足がついた人間型ゴーレムの動作プログラム。
AIに当たるプログラムは古代帝国から連綿と続く無感情従者タイプが組み込まれている。
こいつは単純な命令に従う人形だ、高性能なプログラムになると擬似感情を搭載できるらしい。
特殊な機能でも積み込まない限りたいていのゴーレムはこのAIで対応できるそうだ。
なのでタールには申し訳程度の四角い頭がついている。
しばらく進むと領域スキルで発動した頭の中のマップに異変が起きる。
自分に位置を示す光点に近くで固まっていた赤い光点が近づきだしたのだ。
こっちの匂いでも悟られたかな?
念のため岩陰に隠れて武器を構えるが赤い光点は確実に隠れている俺に近づいてくる。
これは確定だな、数は3体、さっさと片付けるか。
空中跳躍スキルを使用し岩影から大ジャンプ、上から見ると硬い鱗に覆われた1mほどの大トカゲだった。
体をゼンマイの様に捻って一番右の固体に向かって一気に七天夜杖を振り下ろす、上空から勢いの乗った斧を叩きつけられ胴体が真っ二つになる大トカゲ。
真ん中の固体があわてて尻尾を振り回して攻撃をして来たのを七天夜杖でガードして弾かれる勢いで間合いを取る、左の固体は方向転換中でのたのたしている。
七天夜杖をランスモードにして真ん中の固体に突き込む、先端の刃が大トカゲの額に吸い込まれ…なかった。
キィンと良い音がして大トカゲは七天夜杖の攻撃を弾いてしまった、相当硬い鱗なのか?
2番目に威力の有るランスモードがダメとなると他のモードでもダメか、七天夜杖をアックスモードに切り替える。
攻撃を弾いた大トカゲは気を良くしたのかこっちに突進してくる、サイドステップで突進を避け七天夜杖を叩き込む。
コレで2匹目!!
と思ったら再び甲高い音と共に弾かれてしまった。
どういうことだ?
よくよく考えると俺の筋力は6、この世界の人間では天分の才レベルの結構な力だ。
ダメージを通すのに何か条件があるのだろうか?
そんなことを考えていたらトカゲ達が再び突進してくる。
サイドステップで攻撃を避け1匹目と同じ場所をねらってみるがコレも失敗。
場所は関係ないか。
最初の手ごたえを考えるとそんなに強くないんだよなコイツラ。
それならとファイアダガーを唱えぶち込むと炎の短刀は難なくトカゲに突き刺さる。
魔法は効くのか、俺は苦しみ悶えるトカゲに七天夜杖を叩き込むとサックリと切断できた。
どうなってるんだ?
残る一体にもファイヤダガーをぶつけて七天夜杖ランスモードを突き込む。
こちらもあっさりと貫いた。
よくわからないがコレで全部倒したな。
ちょっと焼けて良い匂いのするトカゲの鱗を剥いで鑑定をしてみる。
『アーマーリザードの鱗
魔力を通す事で若干硬度が増す防具用の素材。』
なるほどアーマーリザードって名前なのか、俺の読んだ冒険の本には載っていなかったからこの辺の固有種かな。
今度は焼けた部分の肉を削いで鑑定してみる。
『アーマーリザードの肉
焼くと美味しい、生食には不向き』
美味いのか、魔法で焼けた部分を軽く頂いてみる。
あ、結構美味い。
アーマーリザードの鱗を幾つか剥いでタールに放り込んで移動を再開する。
回避できる魔物は無視して戦わないと進めない魔物のみ戦っていく。
基本的にアーマーリザードがメインみたいで、たまにビッグセンティピードと言う大ムカデに遭遇した。
ビッグセンティピードは毒の牙にさえ気をつければそれほどたいした事の無い魔物だ。
コイツは背中の殻が防具になるみたいなので殻を数枚タールに放り込む。
しばらく進むとマップに属性石と同じ緑の光点が表われる、さっきより光点がハッキリしている気がする。
ただその光点の周囲に数体の赤い光点がある、魔物がいるみたいだ。
どうするかな?光点の数は5、余り近づきたくないが強い光点がちょっと気になるな。
気配遮断もまだ効いているし遠巻きに見てみるか。
そっと光点に近づくと黒い獣形の魔物が何かを囲んで寝ている、
これ以上近づくと気付かせるかもしれないな、これは無視するべきか。
だが魔物に一体が寝返りを打ったのを見て気が変わった。
魔物の群れの中に人が倒れていたからだ。
見えるのは茶色い鎧、さすがに死んでるよなあれ。
死体なら放置決定かなと思っていたら獣の魔物がこっち見た。
ちょうど身を乗り出した所なので獣の魔物から丸見えだ。
獣の魔物が短くほえると仲間がこちらを向いて立ち上がる。
戦闘開始か。




