試練
お祝いです
皆さんこんにちは、クラフタ=クレイ=マエスタ男爵です。
僕は今試練の谷にいます。
危険な魔物がいっぱいいる危険な場所です。
そんな危険な場所に何故いるかと言いますと話は5日前に遡ります。
「今宵は二つの目出度き事がある!」
陛下がグラスを片手に声を上げる。
パーティー会場は静謐を極め主の言葉を待つ。
「一つは我が娘アルマの病が完治したこと!」
「もう一つは魔力欠乏症が不治の病では無くなったことだ」
どよめきが走る、陛下よりの招待状に記載されていた内容だったが実際にその口から聞くと実感が違う。
古来より多くの病が魔法と薬師達によって駆逐されて来た。
だがそれでもなお人の知恵の及ばぬ病はあった、そしてそういった病は数百年もの長きにわたり人の無力をあざ笑ってきた。
現代において医学の進歩は停滞しており不治の病とされているものは治らぬものと諦められていた。
ごく一部の研究者達は研究を続けているが現在は下火気味だ。
そんなある日3大不治の病の一つといわれる魔力欠乏症の症状を緩和する薬が発明されるという大事件が起きる。
魔力欠乏症は発症件数は少ないものの原因不明で発症したものは只の一人も助からないことから非常に恐れられていた。
しかもそれを作り出したのはたった10歳の少年だというではないかその少年は功績を認められ貴族となり、
その数ヵ月後には完全な治療を成し遂げた。
今回のパーティーはアルマ姫の快気祝いと言うだけでなくその天才少年貴族のお披露目でもあるのだ。
……ってオクタン伯爵が教えてくれました。
お陰でまたパーティーです。
アルマの魔力欠乏症が完治した後すぐに陛下は国中の貴族に招待状を送った、理由はもちろんアルマの快気祝いである。
その声に応える様に多くの貴族たちが続々と王都入りしてくる、その様はまるで時代劇の大名行列の様だった。
招待した貴族が全て王都に入ったのを確認した1週間後にパーティーは始められた。
俺とアルマは呼ばれるまで別室で待機を言い渡される。
バクスターさんからパーティの開催を聞かされた俺は招待された貴族達が到着するまでの間みっちりと貴族のマナーを学ばされた。
王族の教育係が直々に俺に教えてくれたのだが時間が無いためそれはそれは素敵な過密なスケジュールを組まれた。
王家御用達ハイポーションを飲みながら1日の平均睡眠時間が2時間の素敵訓練を続け何とか及第点の宮廷マナーをマスターした。
アルマを見るとかなり緊張しているようだ、生まれてはじめてのパーティーなのだからしょうがないか。
「大丈夫だよ」
俺が手を握ってやるとアルマは赤い顔をしながら頷く、本当は頭を撫でてやりたいがヘアメイクが崩れるので頭はおさわり禁止だった。
しばらく待っているとメイドさんから呼ばれたので俺達は立ち上がる。
アルマはお姫様だし手を離したほうが良いかと思ったのだが、
メイドさんからエスコートは殿方の義務でございますと言われたのでそのままにした。
アルマがちょっと嬉しそうだ。
会場に近づくと陛下の声が聞こえてくる。
「この目出度き時を諸君らと祝えることを余はうれしく思う」
会場の入り口前で待機するよう案内のメイドさんが伝えてくる。
「我が娘アルマ、そして若き才能が王国に更なる繁栄をもたらしてくれるだろう」
「それでは二人の登場だ!!」
メイドさんが俺達を促しドアが開けられえる。
貴族達の拍手に迎えられながら会場に入る。
アルマをエスコートして予定通り陛下の前に行く、早すぎずややゆっくり気味に歩く。
陛下の前に着いたら手を離し臣下の礼を取る、アルマはスカートをつまんで無言で挨拶を行い俺達は陛下の横に並ぶ、
陛下側にアルマその横に俺。そして陛下の反対側はフィリッカだ。
「さあ二人とも挨拶をするがよい!」
陛下の言葉にアルマから挨拶が始まる、一歩前に出て淑女の礼を取り。
「皆様初めまして。アルマ=ハツカ=ルジオスと申します。今宵は私の為に遠路はるばるご足労いただきまして誠にありがとうございます」
挨拶を終えるとアルマはまた一歩下がる。
次は俺の番だ。
同じように一歩前に出る。
「皆様初めまして。クラフタ=クレイ=マエスタと申します、以後お見知りおきのほどを」
俺の挨拶はコレで終わりだ、家臣の俺が王族である姫よりも多く話すのはこの国では無礼に当たるらしい、一歩下がってアルマの隣に戻る。
その後全員にグラスが行き渡る。
陛下がグラスを掲げ乾杯の音頭を取る。
「王国の新たな未来に乾杯!!」
『『『乾杯!!!』』』
全員がグラスの酒を飲み干しパーティーが始まる。
「それでは宴を楽しんでくれ」
早速俺達の元に貴族達が群がって来る、男は俺女はアルマと囲まれる。
陛下が最初でないのは今日の主役が俺達だからだ。
正面の貴族が挨拶をしてくるので俺もそれに返す2、3言話したら次に変わる。
男と話し終えたら今度は女が来る、アルマは逆だ。
貴族との会話で明言することは厳禁、必ずぼかして応えるように言われていた。
言質を取られてしまうからだそうだ。
一通り挨拶が終わると陛下やフィリッカに人が集まる。それが終わると全員がバラけて思い思いの場所に散らばる。
俺はというとトライア伯爵を初めとした湖の派閥とオクタン伯爵を初めとした渓谷の派閥に囲まれていた。
不思議と派閥が違うのに仲が悪くないようだ。
「派閥が違うのに仲良しなんですね」
俺の言葉に貴族達が軽く笑う。
「今は英雄派と血統派ですからね」
「英雄派と血統派?」
「すぐに分かりますよ」
ふむ?
たわいない会話を交えながら時が進んでゆく、ちなみに城下町にも振舞い酒や料理が路地に並べられお祭りとなっている。
「さて諸君、諸君等に報告したいことがある」
あれ?打ち合わせに無い事態だ。
「アルマ、クラフタ来るのだ」
陛下に呼ばれて俺とアルマは集まる。
「クラフタよお主にはアルマの病を完治させた件、すなわち魔力欠乏症の治療法を確立させた功績を認め褒美を取らす」
「ありがたき幸せ」
なるほどサプライズと言う奴か。
陛下は一拍の間を置き言葉を紡ぐ。
「クラフタ=クレイ=マエスタ男爵、お主を我が娘アルマの婚約者とする」
会場内が再びどよめく、やっぱりなと言う顔をする者達、寝耳に水と驚く者達と反応はさまざまだ。
「クラフタよ我が娘アルマと共に王国に尽くすが良い」
き-てないよー陛下ー!
褒美の内容が完全にキャパシティーオーバーで正直遠慮したいが、
宮廷マナーを教えてくれた執事長からこういった席では絶対に口答えや拒否はしていけないと厳しく教えられた。
公式の場で断る事は陛下の面目を潰す事になり最悪死罪になると言われた。
「陛下と王国の為に我が命捧げます」
死罪が怖かったわけじゃないんだからね。
「うむ」
陛下が鷹揚に頷いた瞬間
「お待ちください陛下!!」
陛下と俺達の元に数名の貴族がこちらにやって来る。
「その通りです、陛下はその小僧に騙されております」
「その小僧に騙されてはいけません」
「王族が平民上がりに嫁ぐなどもってのほかです」
陛下との褒美の会話が完全に終わってから邪魔をする当たりみみっちい。
陛下の褒美を断ることが面目を潰すことなら陛下の話を遮るのは不敬罪に当たる。
つまり陛下に怒られて罰を受けるのが怖くて今まで待っていたようだ。
ピーピーと鳴いて餌をねだる鳥の雛は可愛いけど、今陛下の下にピーピーと喚く可愛くない豚が集まっている。
ちなみに俺はコイツ等に弾き飛ばされて外側に追い出されてしまいましたとさ。
「アレが血統派だよマエスタ男爵」
トライア伯爵とオクタン伯爵がやってくる。
「なんとなく予測はつきますけど説明をお願いできますか?」
「君も予測できている通り、若き英雄として活躍する君を同胞として受け入れたい者達と古き血ほど優れていると言う血統第一者達だよ」
「時間が勝利をもたらすのなら我等エルフ族を初めとした長寿族こそ至高なのではと思うのだがな?」
「彼等の言葉にはとっては「人間の」という枕詞が着きますから」
「巻き込まないで欲しいなぁ」
「ちなみに陛下の手前にいる方がファーガ=アグラム公爵、血統派のリーダーだね」
「どうかお考え直しください」
「決定事項である!! わきまえよアグラム」
「陛下は国を2分するつもりですか!?」
「まぁ実際のところ7:3くらいですか」
「どちらが7ですか?」
「英雄派ですね、貴方の存在は他の貴族にとっても有益なので」
「マエスタ男爵の登場で利益を見出せなかった者達と言い換えてもいいな」
「時代に取り残されましたねぇ」
「この事態、陛下はどう治めるんでしょうか?」
「おそらく予想通りの結果になるでしょうな」
「でしょうね、見ていれば分かりますよマエスタ男爵」
「静まれ!!」
陛下の一喝で場が凍りつく。
「ではこうしよう、クラフタには試練の谷に出向き王の試練を受けてもらう!!」
おおおおおおおおおおおっ!!!!!
ひときわ大きなどよめきが走る。
あかん試練やそれ。
「陛下!それは代々の王が受ける試練ですぞ」
「まさかこの者を次の王に!?」
「王族の娘を娶るのだ、それにふさわしい格を有していることを示すに王の試練以上のものは無い!!!」
そうして予定通り俺は試練を受けることになるのだった。




