亀との遭遇
亀って意外と早いんですよね。
「キャ、キャッスルトータスッ!? ほ、本物なの?」
「私、初めて見ました…」
「私だって初めて見たわよ!こ、ここっってこんな稀少な生物を飼ってるの!?」
「いえ、この研究所にキャッスルトータスが居るなど私も初めて知りました…」
皆盛り上がってるなー、コレだけ盛り上がってると水を差すのも気が引けるなー。
「……キャッスルトータスってなに?」
俺の言葉を聴いたフィリッカ達の動きが止まる。
「知らないの?」
「知らん」
「すごい有名ですよ?」
「さっぱり」
「よく子供達の話題になってましたよ」
「昔の子供の話だろ?」
なんか信じられないって顔されてるんだが。
知らんものは仕方ないじゃないか。
だいたいこっちから見えるの亀の尻だし。
「いい、キャッスルトータスって言うのはねこの世で最も貴い、4種の元獣と呼ばれる魔物なのよ。ほら甲羅を見てみなさい、まるでお城見たいな形でしょう?」
「元獣?」
「セイバードラゴン、ヴォルケーノタイガー、ダークフェニックスそしてキャッスルトータスそれが元獣と呼ばれる魔物の王の名です」
「四元獣は多くの伝説を遺しているの、勇者に力を貸して魔王を倒したとか自分を怒らせた大魔族を滅ぼしたりとか邪悪な王の野望を国ごと粉砕したとか昼寝を邪魔されて戦争してた両国の軍隊を吹っ飛ばしたとかそれこそ伝説に枚挙が無いわ」
それ悪い噂も混ざってないか?
「御伽話から歴史書までいろんな本に載ってるから子供でも知ってるわよ」
「子供達は親から勇者や四元獣の話を聞いて育ちます」
「初耳だ」
うーん、俺がこの世界で読んだ本は基本実用書ばかりだからな、魔物の本も実戦で戦う可能性のあるものを紹介する本だったし番外でドラゴンの事がちょっと書いてあった位だ。
会ったら死ぬから死ぬ気で逃げろ見たいな感じで。
「なんでそんなのがここに居るんだよ」
「知らないわよ」
「ミヤ」
「申し訳ありませんが私も存じ上げません、なによりキャッスルトータスをこの施設で飼育するというのは大変危険な行為ですので」
「危険って言うのは?」
「名前の通り大人になると城ほどの大きさになるのよ、そういうことでしょ?」
「はい、今はまだ子供ですがこの先成長すれは浮島の泉ではとても住まわせられない大きさになるでしょう。
それにこの研究所にはこの子の好物が大量に有りますから成長も早まることでしょう」
「そんなものがあるのか?」
「元獣は文字通り元素を好んで食べる魔物です、炎、風、雷など普通の生物が取り込めないエネルギーを己の力とします、それこそが元獣が特別な存在と証される理由でもあるのです。」
なるほど、この浮島は大量に魔力を含んだ資材や発明品に溢れている。
元獣にとってはおいしく調理されたご飯といったところか。
「それでコイツはどうするんだ?」
「それなのですが、この子の甲羅を見てください」
「甲羅?」
あれ?
「この子の甲羅に壁が食い込んでる?」
「でもそれっておかしく無いですか?」
フィリッカの言うとおり亀の甲羅の真ん中で食い込んで半分から後ろだけが見えている。
たしかに、コレじゃまるで動かない亀を壁に埋めたというよりも壁が延びて甲羅に食い込んだみたいだ。
「どういうことだ?」
「おそらくこの壁に開いた穴から入り込んで中のものを食べていたのでしょう、
そしてそれを大量に摂取し続けた結果、急速に成長しいつものようにこの穴を抜けようとして引っ掛かり」
抜けなくなったということか。
なんというか間抜けだな、食い意地が張ってだけじゃないのか?
「貴い魔物の王?」
「こ、子供だからよ!!」
「取りあえず壁をくり抜いて亀を保護しよう、このままだと甲羅が割れて死んでしまうから」
「甲羅が割れると死んじゃうの?」
「亀の甲羅は体と一体化してるんだよ、だから甲羅が割れると死んでしまうんだ」
「それは大変です、早く助けてあげないと」
「それなのですが奥の部屋の中を音を立てずに入り口から見てください、けして刺激しないように」
「?」
ミヤの意図は良くわからないが言われたとおりにそっと入り口へ近づいて行き部屋の中をのぞくと
そこにはキャッスルタートルの顔が見えた。
うわ、なんかすごい唸ってる。
こっち超見てる。
そっとミヤの所に戻る。
「すっごい不機嫌そうなんだけど」
「おそらく壁に挟まって動けなくなった事でこの施設に閉じ込められてしまい機嫌が悪くなったのだと思います」
まぁ当然だな。
「じゃあ早く出さないとな」
「ですが危険です」
「その心は?」
「キャッスルトータスはブレスを吐きます、属性は氷雪のブレスで子供でも十分危険な威力です。このまま開放すると最悪施設が破壊されます」
なるほど、ミヤとしては絶対に避けたい事態だな。
「対策は無いのか?」
「あの子の好物を用意して機嫌を直してもらうというのはどうでしょう?」
アルマがポツリと言葉を漏らす。
「好物って?」
「キャッスルトータスは地と水の二重属性を持っています、ですのでどちらかの属性に満ちた品があれば喜んで食べるかと」
「夢中で食べてる間に壁を撤去してご機嫌で巣に帰ってもらうというわけだ」
「はい」
「好物は何かある?」
「それが丁度良いものが無く今から準備をすれば1週間もあれば」
「遅いな、装置の修理を考えたら早いほうが良い」
何か良いものは無いかな?
俺は宝物庫に意識を集中し手持ちの荷物から何か無いか探る。
・・・あ、そういえばずっと保管して使わなかったコレがあったわ。
「好物に関してはあてが有るから尻の見える部屋の方から壁の撤去準備を始めて」
「かしこまりました」
ミヤの指示の元、工作用ゴーレムがやってくる。
「よし、行ってくるか」
念のためフィリッカとアルマにはここに居る様に念を押す。
奥の部屋に入っていく、さっそくキャッスルトータスと視線が合う。
「や、初めまして」
グゥゥゥゥゥゥゥッ!!
唸り声を上げて威嚇してくる。
シュバァァァァ!!
て言うか攻撃してきた!!
だが甘い。
「ドレイン!」
俺はドレインのスキルを発動する、するとキャッスルトータスの放った氷雪のブレスを吸い込み・・・切れなかった。
ブレスの効果として副次的に発生した氷が俺の体を打つ、大量の野球ボール大の氷が俺の体を削る、スキルの効果では副次的に発生した現象までは防げない。
キャッスルトータスは必殺の一撃にまったく堪えていない俺に対して驚きの表情を浮かべる。
実際はすごい痛いんだけどね、アンデッド寄りになって生命力と体力が増大しているから耐えられるのであってちゃんとダメージは受けている。
えーと50位は生命力が減ったかな。
そして俺は気にする事も無いとキャッスルトータスに近づき、その口にある物を放り込む。
驚いたキャッスルトータスが一瞬吐き出そうとするが口に放り込まれた物が予想外のご馳走だった事に気付きそれを噛み砕き始める。
キャッスルトータスに食べさせたのはランドドラゴンの鱗だ、前にランドドラゴン戦った時に素材として回収してきたのである。
口に入れた鱗を食べ終わったキャッスルトータスはもっとくれと言わんばかりに甘えた声を出してくる。
ついさっきまでブレスを吐いていた奴とは思えんな、俺は更に鱗を食わせてやる。
もしかして空腹で機嫌が悪かったのか?
その間にも壁の切り離し作業が進んでいく。
数分後には壁が外れて開放されたデカい亀が久しぶりの自由を満喫していた。
「この子どうしましょうか?」
ミヤが気まずそうに聞いてくる。
無理も無い、魔力のある品に満ちたこの浮島の中で住まわせるには危険過ぎる生物だ、このまま成長すれば島を落とす大きさにまで成長するだろう。
それにまた今回の様な事件がおきないと言う保障はない。
「んー、しばらく俺が預かるかな」
キャッスルトータスの頭を撫でながら俺は答える。
「ここに置いておく訳にもいかんし甲羅の治療をしたらどこか静かに暮らせる所を探すとしよう」
「承知いたしました」
「キャッスルトータスを飼うの?」
「元獣を城に連れて行っても大丈夫かな?」
「寧ろ諸手を挙げて迎えられると思います」
仮にも伝説の魔物だからな、それならそれでかまわないが寧ろ問題は別にある。
「それよりも問題なのは、コイツがなぜこの浮島に居たかだ、キャッスルトータスって言うのは空を飛んだり出来るの?」
「そんな話聞いたこと無いわよ」
「となるとやっぱり誰かが持ち込んだと言う話になるが」
「ここに許可を受けた動物以外を持ち込むことは禁じられています」
「となると一般所員の可能性も低い」
「では偉い人が連れてきたんでしょうか?」
「そんな、仮にもこの研究所の管理者権限を有する上位職員が違反行為を行うなんて」
だが俺はその言葉を否定する。
「そうとも限らない」
「え?」
「この研究所で発見した個人資料で読んだ人物に思い当たる人材が居た。ミヤ、そんな人物に覚えは無いかい?」
フィリッカ達が居るのでぼかして言ったが俺には思いっきり心当たりが合った。
それもかなり身近な人物だ。
「それはその…」
ミヤも思い当たったようだ。
そうあの人しか居ない。
パルディノ師匠だ!
この浮島を発見したときに即俺に放り投げたのもこういった過去の悪行の後始末を『自分で』するのを嫌がったからだろう。
仮にも副所長が施設にとって危険な生物持ち込んだりといった違反行為をしていたのだ、きっと探せば他にも見つかると思う。
絶対ある。
その際に周りから怒られるのを嫌がったのだ。
子供かあの人は!




