雲にお城の更に雲
気がつくと予想外の場所にペットが居た記憶がありませんか?
浮島の飛行港で俺とフィリッカはにらみ合っていた。
「素晴らしい行動力ですね、さすがはフィリッカ第一王女の妹君です」
「愛しの王子様ともっと一緒に居たかったのでしょう、愛は偉大ですね」
「ははははは」
「ふふふふふ」
人気の無い夜の港で二人の笑いがこだまする。
「つーか、妹を送ってくるんじゃなかったのかよ!!何やってんだ姉!」
「ちゃんと用事を思い出したから一人で帰れるわよね?って言ったもん」
「姉としてどうよそれ!」
「付いてきちゃったのは本人の自己責任よ!そうでしょアルマ!!」
俺達が振り向くとそこにアルマの姿は無かった。
「お客様ならあちらです」
ミヤの指差す方向を見るとアルマはドックに係留してある飛行船を見ていた。
一言に飛行船といってもさまざまな形がある、気球型から船型、鳥型などデザインに統一感が無い。
「なんていうかフリーダムよね」
「1隻たりとも同じデザインが無いよなー」
「無いねー」
よくよく考えると前回来た時は書類を書くだけでろくに島を見ていなかったのを思い出す。
「前は大はしゃぎでしたねーフィリッカさん、さすが姉妹」
「クラフタ君がこの浮島の主になってから相手をしてもらえなくて暇でしたから」
意味の無い緊張が走る。
「それは良いので修理の為の許可を頂きたいのですが」
ミヤが申し訳なさそうに書類を出してくる。
「ああ、はいっと」
「ありがとうございます、早速作業に掛からせていただきます」
ミヤはそばに居た小型のゴーレムに書類を渡し指示を出す。
「それと地上でコンタクトを出来るようにしておいてくれるかな?」
「地上でですか?通信機ではダメなのですか?」
「通信を傍受される危険がある、なるべく情報を漏らしたくない」
「承知いたしました」
この時代の技術を考えるといささか心配しすぎかもしれないが古代文明の通信傍受装置を持っている組織とかが居るかもしれない、
王都に足止めされている今の状況を考えるとなるべく騒動を起こしたくは無い。
「あたしも欲しい!!」
フィリッカが元気よく要求してくる。
「いや必要無いだろ」
「私だって関係者なんだし仲間はずれは嫌よ」
関係者ではないと思う。
「それにロックにも合いたいしって、ミヤ!ロック居る?」
「はい、現在は迎賓館の掃除をしていますが」
「会いに行っても良い?」
ミヤが俺にどうするのかと視線を投げかけてくる。
「いいんじゃない?」
「承知いたしました、ではフィリッカ様に入館証を再発行いたしますので今しばらくお待ちください」
「ありがとー」
この浮島の入館証は研究所という施設の性質上翻訳機能が付いていて言語の違う種族同士でも会話が可能だ、
おそらく研究者達がスムーズに議論を交わせる様にだろう。
あれ?
「そういえばミヤ、いつの間に現代の言葉を?」
そう、ミヤはいまルジオス王国の言葉を喋っていた。
前に来た時は古代魔法文明時代の言葉しか話せなかったはずだ。
「ご主人様に研究所の機能回復の許可を頂いたことで周辺地域の情報収集が可能となりました。
現在シーカーを使用して近隣の地理、現代文明の情報を収集しております」
「その過程で言葉も覚えたわけか」
「はい」
勉強って大事だね。
「クラフタ様!!すごいです、羽の生えた船がいっぱいです!コレ全部飛ぶのですか?」
「んーどうだろ?」
ミヤに視線で問いかける。
「現在7割の船舶が運行可能です、残り三割は整備中で放置されたか資材が不足して居るためにドックの肥やしになっている状態です」
7割使えるのか、コレを利用して飛行船の定期便でもやったら儲かりそうだな、やんないけど。
「クラフタ様がこの島を御作りになられたのですか?」
ふぁっ!?
この子すごいこと言い出したよ。
「いや、無理だから。さすがにこんなデカイ物は作れんて」
「そうなのですか?」
なんか残念そうな顔をしている、アルマの中で俺はどういう人間なんだ?
「この浮島は古代魔法文明時代に作られた遺跡なんだ」
「遺跡、ですか?でも普通に動いているみたいですが」
「つい最近まで封印されていたんだよ」
「封印されていたということは今は封印されていないのですか?」
痛いところを付いてくる。
「それはそちらの方にご主人様と呼ばれていたことと何か関係が有るのですか?」
何この子!ピンポイント過ぎて怖い!!
「んーまぁなんといいますか」
『ご主人様、宜しければ私に説明させていただけませんか?』
『ミヤが?』
『はい、ご主人様の素性は隠して説明いたします』
『解ったまかせるよ』
「私が説明させていただきます、宜しいですかご主人様」
「ん、んん、まあいいか。任せるよ」
「ありがとうございます」
「まずはご挨拶から、私は空中研究機関エウラチカの管理運営を任されている自立思考管理装置、名をミヤと言います」
「自立思考管理装置?」
「はい、この施設を管理するため人工的に生み出された存在です」
「人間ではないのですか?」
「気味が悪いですか?」
「いえ、そのようなことはありません、エルフやドワーフの方々お会いしたことも有ります」
「……この時代は良い時代なのですね」
ミヤが目を細めて言う、それは少しばかりの憧憬を含んだ視線だった。
「ミヤ?」
「いえ、何でもありません」
俺の声に意識を戻したミヤが説明を再開する。
「過去に起こった戦争の被害を避けるためこの研究所は長らく封印されてきました」
「戦争が終わった後に再開はされなかったのですか?」
「はい、ここが封印された後関係者の方々は皆さん散りじりになり以降何人も訪れることの無い無人の地となりました」
「ですが」
「数千年の歳月の後、この地に足を踏み入れた者が居たのです。侵入者を撃退するためのトラップの数々を越え現れたその方の名は!!」
ミヤのテンションが上がる。
「そう、そのお方こそクラフタ=クレイ=マエスタ様だったのです!!クラフタ様の活躍によりこの島は数千年の眠りより目覚めたのです!!」
いつの間にか渡された駄菓子を食べながらテンションの上がったアルマが興奮して話を聞き入っている。
っていうかなんか話が盛られてませんかねぇ。
フィリッカに諌めてもらおうかとおもったがすでに逃亡した後だったでござる。
「そんな悲しい出来事があったなんて」
アルマが涙ぐんで同調している。おい、今何を話してたんだ?
なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。
「そしてクラフタ様は…あら?」
軽妙なトークが途中で中断される。
「どうした?」
「いえそれが…」
ミヤが言いよどむ。
「状況が変わりました、ご主人様、申し訳ございませんがご足労願えますか?」
「トラブルか」
「はい」
ミヤにうながされ中央の研究所に向かう。
「こちらです」
研究所を通り過ぎその先にある別の浮島に向かって行く。
「研究所じゃないのか?」
「はい、目的地はあちらの施設です」
ミヤの視線の先にある場所はその大半が雲に覆われていた。
「あれってまさか」
「足元にお気を付けください」
「ほんと、すごい雲ですね」
うっかり足を踏み外したら怖いな。
「アルマ、手を」
「っ、はい!」
アルマと手をつないで雲の中に入る、月の光が届かないので宝物庫から魔法のランタンを取り出す。
「こちらの建物の中です」
ミヤの声を頼りに施設の中に入るがその中も雲まみれだった。
「これはひどい」
「この先です」
ミヤについて施設の中を歩いて行く。
「この部屋です」
「雲でさっぱり中の様子がわからないな」
「そこの壁下を見てください」
「壁の下?」
ミヤの言葉通り壁の方向を見て視線を下に下げるとそこには巨大な亀が居た。
「カメ?」
1メートルはあろうかというカメが壁にあいた穴に挟まっていた。
「キャッスルトータスの子供が紛れ込んでいたようです」
仕事が忙しくなってきたのでしばらく執筆量が減ります。




