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霧の王都

都市が霧に沈んだら事件が起こるのは当然ですよね

「うわ、霧が濃いな」


冬が近づいて来たので俺は町に買出しに行くことにしたのだが、ここ数日続く王都の濃い霧に驚かされていた。

アルマの治療の為、冬を王都で過ごす事になったがそうなると色々と入用になってくる。

食事と住む場所は国が補償してくれるが長期滞在をするには着替えや細々とした生活雑貨と言った物がが足りない。

宝物庫にはヴィクトリカ姉さんが用意してくれた着替えがあったがさすがに冬服までは入っていなかった。


そこで俺は王都の観光がてら買出しに出ることにしたのだ。


「おやマエスタ男爵、お出かけですか?」

「クヴァル名誉男爵、お早うございます」


竜騎士のクヴァルさんだ、今日は鎧を来ていないので非番かな。


「クヴァルで良いですよ」

「ではこちらもクラフタと」

「いえいえ、未来の王族にそのような失礼は出来ません」

「それ、確定事項なんですか?」


俺とアルマの間に正式な婚約が結ばれたわけではないのになぜか俺の周りでは確定事項として扱われている。


「非公式な情報ですが上の方ではすでに決定事項と言われていますね、あくまで噂ですが」


強調するなぁ。


「まず噂を流すことで外堀を埋める為だろうな」


お?聞き覚えの無い声が。


「ディクセ、仕事は?」

「夜勤明けだ」

「お疲れ」

「おうっ」


クヴァルさんの同僚だろうか?

ディクセと呼ばれた人がこちらを見る。


「初めましてクラフタ男爵、俺はディクセ=ヘプターゴ、子爵だ」

「クラフタ男爵、彼も私と同じ竜騎士ですよ」

「初めましてヘプターゴ子爵、クラフタ=クレイ=マエスタです」

「ディクセで良い、同僚とは対等な関係が好ましいんでな」

「承知しました、ディクセさん」

「俺もクラフタと呼ばせてもらう」


まぁプライベートな時なら問題ないか。


「所で先ほどの外堀と言うのは?」

「ん?ああ、噂を流すことで反対派の燻り出しをしているんだよ」

「反対派ですか」


まぁ当然いるよな、平民の子供を王女の婚約者にするなんて自分達の血を何より重要視する貴族にとっては許し難いことだろう。


「そこまでする相手にどれだけの価値があるかを考えない連中だからな」

「湖の派閥も渓谷の派閥もクラフタ男爵を取り込むために日夜勧誘を続けていることだからな」

「一応渓谷側と伝えたはずなんですが」


戦争に参加するなんてゴメンだからな。


「だがどちらとも交流を続けているんだろう?だったら派閥の理念を正しく伝えれば自分達のほうに転ぶかもしれないと思ってもおかしくない」

「渓谷側もそれを危惧して交流を密にしようとしているようだったからな」

「それが原因でアルマ様の治療に支障が出ると法務大臣に怒られてましたけどね」

「どっちも露骨過ぎたからな、お陰でクラフタ男爵はアルマ様の治療が終わるまでどちらの派閥にも所属せず治療に専念せよとのお達しを受けたわけだ」

「振り出しに戻って湖の派閥にとっては幸運だったと言うわけですね」

「実際、薬を調合している時にまで来られて邪魔でしたからね」


地球でも宗教と新聞の勧誘は本当にしつこかったしね。


「でも反対派をあぶりだすことの何処が外堀なんですか?」

「そりゃ反対派を黙らせれば賛成派が残るだろう?」

「外堀ってそっちですか」


俺の意思ではなく周囲に認めさせると言う意味の外堀か、激流に流されてるなぁ俺。


「で、クラフタ少年は大人の陰謀に嫌気が差し静寂を求めて霧の海にお出かけか」

「冬に入る前に服などの買出しをしようかと思いまして」

「こんな霧の濃い日にか?」

「ここ数日いつもじゃないですか」

「まぁな、ここまで霧が濃いのは初めてだ」

「まったくだ、普段はこれほど濃い霧は出ないのだが」


「そうなんですか?ここ数日やけに霧が濃いから冬が近づくとこうなるのかと思っていたんですが」

「フラテス河の近くなら濃い霧の出る日もありますが王都でここまで霧が濃いのは珍しいですね、それも数日に渡ってとなると私も記憶に有りません」


霧か、なんか引っ掛かるな。何か忘れているような気がするんだが。


「所でクラフタは城下町に行ったことは?」

「今回が初めてですね、王都に来たときは空から着ましたから」

「それでよくこの霧の中出かけようと思いましたね」

「いや、街中なら何とかなるかなと」


町の外ならともかく中なら迷った所でたいしたこともないだろうし。


「なら俺達が案内してやろう」

「え?」

「たしかに、マエスタ男爵に何かあっては一大事、護衛も兼ねて丁度良いな」

「いや、そこまでしてもらう必要はありませんよ」


只の買い物なんで護衛とかいらんし。


「クラフタはまだ己の重要性を理解していないようだな」

「貴方は王都で最も重要な人間の一人なのですよ、何しろ貴方がいなければアルマ姫の病を直せる者がいなくなってしまうのですから」


つまり治療を邪魔したい奴がいるかも知れないと。


「それがわが国の人間とは限りませんが、警戒をしておくに越したことは無いかと」

「解りました、それではお願いいたします」

「任しておけ、王都の美味い店を教えてやるぞ」

「その前に買い物だろう」

「夜勤明けなんだ、買い食いぐらいいいだろう」

「いいんじゃないですか?」

「申し訳ありませんマエスタ男爵」

「クヴァルさん、街中で男爵と呼ぶのは無用な騒動を呼びます」

「っ、では何とお呼びすれば?」

「普通にクラフタと呼んでください」

「……承知しましたクラフタ…くん」


真面目だなぁ。


「よし、まずはケルピーの串焼きだな」


城下町に出た俺達はディクセさんの案内で屋台で腹ごしらえをする事になった。


「美味いんですか?」

「ああ、噛むと肉汁が文字通り溢れるくらいに瑞々しい肉だ。特に煮込み料理と相性がいいな」

「それは美味そうですね」

「屋台は初めてか?」


「この国の屋台は初めてです」

「王都の名物の一つだ、楽しみにしていると良い。おお、あそこだ」


ディクセさんが指を指した先は霧にさえぎられ何も見えなかった。

だが霧の向こうから漂う匂いはそこに店があることを如実に語っていた。


「良いにおいですね」

「ええ」

「ケルピーの串焼き2つくれ」

「毎度」


串焼きを2本受け取ったディクセさんは早速1本目にかぶりつく。

その瞬間噛み口から肉汁がジワリとあふれてくる。


「これは…確かに美味しそうですね」

「この肉汁がまた美味いんだよ」


肉汁がまるでダシのように溢れ串の表面に味付けをしていく。

なんという飯テロ。


「王都の名物とされる理由は近くに流れるフラテス河の影響です。

ケルピーの肉は獲りたてほど美味しいのです、フラテス河で思う存分泳ぎまわって肉の締まったケルピーを狩りその肉を迅速に王都に運ぶことで他所よりも新鮮なケルピー肉を食べることが出来ます」


「ゴクリ」


結局俺とクヴァルさんもケルピーの串焼きを買ってしまった。



「いやいや、屋台飯というのも侮れないものですね」


結局俺達もディクセさんの買い食いに付き合って色々な屋台を制覇してしまった。


「屋台で食事を済ませる人も多いですからね」

「買い物はそれだけでいいのか?」

「あとは錬金術の材料を幾つか補充したいと思います」


幾ら俺でもずっと屋台で買い食いばかりしていた訳ではない、ちゃんと道すがらにある店で着替えや雑貨などの買い物は済ませてある。


「錬金術関係ならこの先のみやげ物屋の通りを越えた先ですよ」

「みやげ物ですか」


みやげか、師匠達へのお土産も考えておくかな、

そういえば用事が済んだら師匠達の所に帰らないとな。

俺が管理することになった浮島の事も相談しないといけない。

……そもそもあの浮島は本当に偶然遭遇したのだろうか?

なんか偶然が重なりすぎて疑わしいんだよなぁ、具体的に言うとパルディノ師匠辺りが。

あれ以来パルディノ師匠は居留守を決め込んでいるし、アルマの治療が長引く事を伝えたときもあの人だけは出なかったから絶対何か隠しているっぽいんだよな。


「しかし霧が濃いな」


ディクセさんがぼやく、確かに霧が濃い。というか、


「少しずつ霧が濃くなっていませんか?」

「実は私もそう思っていたところです」


最初に霧が出た日から比べても明らかに霧が濃い、こうなると自然現象と考えるのは無理があるな。

そういえば前にフィリッカに説明したことも有ったけど霧と雲は同じものだったな、空の上なら雲、地上なら霧と。


まさかこの霧。


「クラフタ様ー!!」


丁度記憶と一致する聞き覚えのある声が俺の名を呼んだ。


「この声は…」


彼女が地上に降りてくるはずが無い、彼女は地上から遥か離れた場所にいるはずだ。


「見つけましたクラフタ様ー!!」


振り向くととても見覚えのある銀髪の少女が俺に向かってダイブしてきた。


「うぉぉぉぉぉぉっ!?」

「探しましたよー!!」


「ミ、ミヤ?」

「はい!ミヤです!!」

「何でこんなところに?」


オチの予想がつくだけに正直聞きたくない。


「大変なんです!! 研究所の機能の一部が破損してしまってシステムに異常が起きてしまったんです、至急研究所に戻ってください!!]



面倒ごとって言うのはいきなり襲い掛かって来るよね。

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