叙爵式
貴族の世界は大変面倒です。
「クラフタ=クレイ=マエスタに男爵の爵位を授けるものとする」
「この力、この命、陛下の為に」
「うむ」
こうして粛々と滞りなく受勲式は進行していった。
頑張ったよ本当、叙爵が決まったら毎日叙爵の為の訓練をしていたんだから。
アルマの治療よりも面倒でした。
「やーやっぱクラフタ君は貴族になっちゃったねー」
受勲式が終わって早々俺の前に現れたフィリッカはそう言い放った。
「いつぞやの発言はこの事だったのか」
「うん」
飛翔機の上での会話はこの事を見越しての発言だったわけだ。
「だいたいね、ドラゴンを倒して王族の命を救ったのよ。お父様じゃないけどそこまでやったらその偉業を認められないはずも無いでしょ」
「その通りだマエスタ男爵、貴公の働きは賞賛されてしかるべき偉業だ」
フィリッカの言葉に追従するように言葉が繋げられた。
そこには3人の男性が居た、見た目からして上等な衣装なのでおそらくは結構な大貴族なのだろう。
一番ヒゲが整った50代ほどの白髪交じりの黒髪の貴族が前に出る。
「始めましてマエスタ男爵、私はゴルド=トライア。爵位は伯爵だ」
続いて今度は40台くらいの恰幅の良い緑髪の紳士が横にトライア伯爵の横に出る。
「僕はブランム=エイ=マール。爵位は子爵だ」
名前の通り丸い人だ、最後に一番ガタイの良いピンク髪の貴族が名乗り出る。
「俺がグリーア=スクエアだ、爵位は男爵で軍人でもある。ドラゴンを退治した貴公なら軍でも立派にやっていけるだろう、いつでも来てくれ」
マッチョピンクの人が勧誘してきた、嫌な絵面だ。
「スクエア男爵、勧誘はまたの機会にしたまえ。今日はマエスタ男爵の叙爵を祝う時だぞ」
「グリーアはせっかち過ぎるんだよ」
「む、そうだな。スマン、マエスタ男爵」
マール子爵のスクエア男爵に対する砕けた態度から察するに二人は仲がいいのだろうか?
「クラフタ=クレイ=マエスタです。僕なら気にしていませんからお気になさらないで下さい」
「そう言って貰えるとありがたい」
「マエスタ男爵がおおらかで良かったね」
「マエスタ男爵もお前に言われたくないと思うぞ」
「彼等は幼馴染なのだよ」
「なるほど」
トライア伯爵が二人について説明してくれた、屋敷が隣同士らしい。
「トライア伯爵は御二人と仲がよろしいみたいですが」
「私達の親が仲が良くてね、親が親睦を深めている間良く彼等の相手をさせられたのだよ」
「それは何とも」
なるほど子供の相手を押し付けられてそのままつるむ様になったのか。
「それで僕達は腐れ縁の仲良し三人組になったのさ」
「それ、腐れ縁だけでいいだろう」
「まぁ、顔見知り同士で違う派閥にならずに済んだのは幸いだったな、隣同士で違う派閥だったら目も当てられん」
「派閥ですか?」
「人間が2人いれば派閥は出来るからね」
「うむ、我等は湖の派閥だ」
「そして私達が渓谷の派閥です」
おっと、更なる乱入者ですよ、厄介事の予感しかしないなぁ。
「渓谷ですか?」
「いかにも」
そこにはいわゆるテンプレエルフがいました。
金髪に長い耳の美形というそれはもう見事にテンプレなエルフです、テンプレすぎていっそ新鮮な気分です。
というかちゃんと人間以外の貴族がいるんだな。
だが後ろは違った、テンプレエルフの後ろにはかなり背の小さいゴツイおっさんと緑の髪に褐色の肌の女の人がいた、ただし木の樹皮で出来たドレスという変わった格好を着ている。
「私はボレアース=オクタン、爵位は伯爵。見ての通りのエルフだ。君の叙爵を心から祝おう」
「クラフタ=クレイ=マエスタです。お祝い頂きありがとうございます」
「こちらの彼はチタン=ヘキサグ子爵、見ての通りドワーフだ」
「よろしく頼む」
「クラフタ=クレイ=マエスタです、こちらこそよろしくお願いいたします。」
「少々口数が少ないが気を悪くしないでくれ」
「いえ、お気に・・・」
「で、私がリリーペンターグよ、爵位は子爵、見て解るかと思うけどドリアードよ」
喰い気味で自己紹介してきたお姉さんが自己紹介をするがどう見ても解りませんマジで。
「クラフタ=クレイ=マエスタです。ドリアードの方と聞こえましたが」
「そうよー」
「ドリアードは自身の宿った木から離れられないと聞きましたが」
「女には秘密がいっっっぱい有るのよ」
何か裏技があるってことか、しかしこのメンツ・・・
「察するに渓谷の派閥と言うのは人間以外の種族が中核になっているとお見受けしますが」
「その通りだ、だが誤解が無いように言っておくと我々は種族主義などでは断じて無い、我々の派閥にも人間はいる」
「マエスタ男爵、我々は憎みあっているわけではない、国の運営に対する思想の違いや優先されるモノの違いによって意見が分かれているだけなのだよ」
意外だったのはトライア伯爵がフォローした事だ、派閥と言っても日本の政治家のように利権や賄賂にズブズブで足の引っ張り合いをしている訳では無いようだ。
「うむ、俺達湖の派閥は戦争容認派」
「私達渓谷の派閥は戦争否定派よ」
うわ、きな臭い言葉が出てきたぞ。
「戦争ですか?」
「そう、隣国との関係がキナ臭くなってるんだけどそれぞれの派閥ごとに意見が分かれちゃってね」
そこで新入り貴族を自分達の側に勧誘することで意見を通しやすくしたいのか。
先ほどの軍への勧誘もそれが関係していたのだろう。
「戦争とは物騒ですね」
「この国はもう何百年もお隣のシャトリア王国と小競り合いを続けているのよね」
「原因は何だったんですっか?」
「なんだっけ?」
「領土問題だ・・・」
「領土問題ですか」
領土問題はある意味言った者勝ちだからな、だがこんな話にまともに付き合うギリも無い。
湖の派閥に組したら戦争に参加させられる可能性が高い、そうなったら城に帰る日は更に遠くなるだろう。
「派閥には興味ありませんが強いて選ぶなら渓谷の派閥でしょうか」
「理由を聞かせてもらっても良いかな?」
トライア伯爵がこちらの真意を確かめてくる。
理由は簡単だ。
戦争がしたくないからだ。
「隣国の奴等は力を蓄えている、今は争いを避けれてもいつか戦う事になるぞ」
「そうならないようにわが国を今以上に繁栄させれば国力の差に怖気づき侵略を先延ばしにするのでは?」
「その通りだマエスタ男爵、国の力が増せば周辺国もうかつな行動に出れなくなる、わざわざ戦争を行う必要も無い」
「さすがはアルマ様の婚約者ね」
「それほどで・・・え?」
なんか妙なワードが飛び出しましたよ。
「今何と?」
「アルマ様の婚約者?」
「それです!!なんで俺がアルマ様の婚約者になっているんですか?」
「それはねークラフタ君、君がアルマを救ったからよ」
俺の後ろからフィリッカの声が聞こえる。
「フィリッカ様?」
「いい、君は竜退治と王女の治療を行ったことですっごい活躍しているの、それにアルマの治療が完了すれば君は世界初の魔力欠乏症の治療に成功した人間に認定されるのよ。
はっきり言ってね、周りは君の多彩な才能に興味深々なのよ。しかもアルマは病気の所為で今まで婚約者を決めることが出来なかったの・・・でも今は違うわ」
「つまり俺を」
「丁度都合よく王族の中に婚約者のいない女の子がいたから君の婚約者にして君を王族の親戚にする、そうすることで君という稀有な才能を囲い込みたいわけね」
貴族の位を俺に与えたのもアルマと結婚させるのが本来の目的だったって訳か。
そんな俺を見てフィリッカは楽しそうに行った。
「陰謀渦巻く貴族の世界にようこそー、義弟君」




