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王と王女の望み

主人公は優秀かつ面倒なおっさんに好かれる隠しスキルを持っています、たぶん

余命いくばくも無いお姫様を助けた俺はその功績を認められお姫様と幸せに暮らしました。

なんて夢想したこともありました。

ええありましたとも。




「むぅ、このような方法が有ったとは、我ながら未熟!!」


だが残念なことに現実の俺の前に居るのはムサイおっさんだった。


「それで少年、この部分なのだが」

「ああ、そこはですね」


このおっさんは第二王女アルマ姫の専属医師、バクスター=フェルナンデス。

この人のおじいさんがかなりの名医で重い病に罹った当時の国王を治したことで男爵の爵位を賜ったらしい。

それ以来王家の御用医師なのだとか。

実際このおっさん、いやバクスターさんの医療技術は確かでこの人の治療風景を見学させてもらったのだがその手際の良さに驚かされた。

けど暑っ苦しいんだよなぁ。


「うーむ、やはり少年の師匠の遺した技術はすばらしいな!!」

「恐縮です」



どうしてこんな事になっているかというと、話は3日前に遡る。



「余がルジオス国王、バラムス=メンテ=ルジオスである!!、アルマの病気を治した少年とはそなたであるな、大儀である!!」

「お、お褒め頂き恐縮にございます陛下、私はクラフタ=クレイ=マエスタと申します」


なんでこんなタイミングで王様がやってくるんだよ

面会に2週間かかるはずだろ。

アルマの病気の症状を改善して数分と立たずにやって来た王様のフットワークの軽さに俺は呆れていた。

政務は良いのですかね。


「うむ、ラヴィリアから聞いたぞ、フィリッカの連れてきた少年がアルマの病気を治したとな」

「お言葉ですが陛下、それは間違いです」


症状を緩和させただけなのでまだ完治はしていない。


「何?」


王様の空気が変わる、周囲の温度が数度下がったような気がする。


「どういうことだラヴィリア」

「い、いえ、私は・・・」

「ラヴィリアよ・・・」


王様の殺気に近い怒りの気配でラヴィリアが怯え声を出せなくなっている。

コレは不味いな、ラヴィリアを擁護しようとするがその必要は無かった。


「陛下、ラヴィリアはアルマ様の病気を治せるという若者が現れ瞬く間にアルマ様の症状を改善したと言っただけで完治したとは言っておりませんぞ」

「む、そうであったか?」


王様と一緒に来た白衣のおっさんがラヴィリアを擁護した。

王様大チョンボです。


「すまなんだなラヴィリアよ」

「い、いえ、滅相もございません」


ガチ震えてるな、いやー誤解が解けてよかった。


「そんな事よりも少年、どうやってアルマ様の症状を改善したのだ?」

「え、いやそれは普通のマジックポーションを使ったんですけど」

「そんな筈はない、アルマ様に投薬していたマジックポーションはわが国で手に入る最高級の物だ。

だがそれでもアルマ様の症状には焼け石に水だったのだ」


白衣のおっさんがすごい食いつきで聞いてくる、おそらくこのおっさんがアルマの御用医師なのだろう。


「えーと、その、そこが間違いの元だったんです」

「む、どういう意味かね?」


俺は魔力欠乏症の簡単な概念を教え今までの薬では効果が強すぎた事を伝える。


「なんと!まさか高価な薬を使ったことが裏目に出るとは」

「一応は魔力が回復しますから、やらないよりはマシだったと思いますよ」

「だがそんな単純なことに気付けなんだのは我が身の不足よ」


真面目だなー。


「技術的な話は解らなかったがお主の治療を続ければアルマは完治するのか?」


王様が話しに入ってくる。


「いえ、あくまで薬で症状を緩和させているだけですので薬を切らしたら元の木阿弥です」

「完治は不可能と?」

「いえ、当てはあります」


「誠か!」

「ただその方法には問題がありまして最悪の場合、アルマ様の身に危険が生じます」

「…」


王様の気配がまた強くなっていく。


「私が師より受け継いだ秘術によって魔力欠乏症の治療は可能です。

が、それはあくまで理論が出来上がっただけで実践されていない机上の空論です。

よってこの治療法の最初の被験者はアルマ様となります、また治療の際には相当の苦痛を感じることになります。」


治療を行う際に発生する危険を知りその場に居る全員の顔が強張るがかまわず俺は続ける。


「ですので、このまま治療しないという選択肢もあります」

「え?」

「どういうことだ?」


俺の言葉に驚く王様達。


「見ての通り希釈したマジックポーションによってアルマ様の症状を改善することは出来ます。

このまま定期的に薬を服用すれば病による苦痛も薄れ命の危険は大幅に減りますので日常生活を行う分には問題ないでしょう。

それゆえに必ずしも危険を伴う治療行為を行う必要はありません」



「薬を飲んでいれば確実に安全が保障されるのですか?」


ほかならぬ自分の体の事だからとアルマが聞いてくる。


「絶対の保障は出来ません、アルマ様のご病気は未だ完治した者の居ない病です。

それゆえ薬によって症状を緩和したことで今後どのような変化が訪れるか解らないのです」

「危険を覚悟の上で完治する保証の無い治療を行うか症状を緩和させ現状を維持するか、か」

「そうなります」


王様と白衣のおっさんが渋い顔をする、責任のある立場の二人にとって判断が難しい所だろう。


「クラフタ様」

「はい、何でしょうか」


強い表情を浮かべてアルマが俺に語りかけてくる、どうやら決断したようだ。



「私の治療をしてください」


「「アルマ」」

「「アルマ様」」


王様達が驚いてアルマを見る。


「私の体の事です、私が決めるのが筋と言うものでしょう」


アルマは臆することなく言い放つ、失うものの無い彼女は知ってしまったのだ、

死を待つことだけが自分の運命と思っていた自分にもう一つの選択肢があった事に。

病と闘って生き残ると言う選択があることに。

それを知ればどれだけ困難であったとしても彼女が諦める理由になどならない。


「クラフタ様よろしくお願いいたします」

「この身の及ぶ限り全力を尽くすことをお約束いたします」


「ふーむ、アルマが決めたのなら仕方あるまい」

「よろしいので陛下?」

「アルマ自身が言った通り自分の体の事だ、好きにさせてやろう」

「陛下がお認めになられるのでしたら私もこれ以上言うことは有りませんな」

「ではクラフタと言ったな」

「はい」

「お主をこのバクスターの助手として任命しアルマの専属とする」

「はっ!」

「娘を頼むぞ」



「あの、クラフタ様、一つお願いがあるのですが」


と話が一段楽したところでアルマが話しかけてくる。


「何でしょうかアルマ様」

「そのですね、私と話すときは敬語は御止めください、先ほどのように普段の喋り方でお願いいたします」

「え、いやしかし」

「私はクラフタ様に治療していただく身、クラフタ様が私を姫として扱って変なところで遠慮してしまえば治療の妨げになることも考えられます」

「そうでしょうか?」


言葉遣いぐらいでそんなことにはならんと思うが。


「それと様付けも不要です、これからはアルマとお呼びください」

「え、そ、それはさすがに」

「お呼びください」

「わかりまし・・・・」


アルマが笑顔でこちらを見ている・・・


「解ったアルマ」

「はい!よろしくお願いいたしますクラフタ様」


そっちは様付けで良いんですか?


「「「ほほぅ」」」


なんか外野が楽しそうなんですけど。



かくして俺はアルマ姫の直々の願いで彼女の治療に当たる事となった。




で冒頭に戻るわけだ。


バクスターさんにアルマの症状を改善させた事から俺の師匠に会いたいと言われたのだがさすがにアンデッドの師匠達と合わせるわけには行かない、

いやこの人はそれでも気にしなさそうなんだが師匠達の事情を考えると外部にばれるのは避けたい、

そこで俺の技術は亡くなった(嘘は言っていない)師匠から学んだものと言う事にして師匠達との面会を断ったのだった。


「やはり見せてはもらえんか?」

「申し訳ありませんがそれは許されておりません」

「残念だ」


コレまでにも数回あった会話を繰り返す。

先日ミヤに製本してもらった浮島の研究所の資料を読んでいるところを見つかったのが原因だったりする。



「少年何を読んでいるのだね?」

「ああ、ええと、師匠の残してくれた錬金知識の本を読んでいたんです」

「なんと!少年の師匠のかね!!」

「はい」

「少年、ぜひとも見せてほしいのだが」


さて困った、この本に書かれている内容はおよそ外部に出すべきではないものが多い。

危険な知識というよりもおいそれと公表した場合、世間にどれだけ混乱を招くか判らないというのが正直なところだ。

何しろ古代魔法文明の技術は現在の魔法技術をはるかに上回る。

たいした事の無い用途の技術でも数百年は先の技術が紛れ込んでいる事もザラである、悪用されないためにも俺が内容を確認しないとうかつに話せないのだ。


「申し訳ありません、師匠の遺してくださった技術と知識は己の血肉とするまで誰にも見せるなと言われております」


さすがにそこまで言えば大丈夫だろうと思ったのだが見通しが甘かった。


「では少年が学んだ内容をワシが学ぶ分には問題無いと言う事だな」

「何ですと?!」



というやり取りがあって頻繁にバクスターさんは俺の所にやってきては医学知識の交換をしている、まぁこっちにも知識や技術を教えてもらえるからマイナスではないんだけどね。


「そろそろアルマ様の治療の時間です」

「おお、もうそんな時間か」 


勉強会を切り上げアルマの治療に向かう。


先日アルマの患っている魔力欠乏症の症状を改善させた功績から、俺は正式にアルマ付きの医者の助手として召抱えられることとなり

許可無く王族に薬を飲ませた件は特例としてゆるされた。

代わりにフィリッカの我が侭が原因ということで俺への処罰はフィリッカがお説教を受けるで帳消しとなった。

どちらかと言えば勝手に城を抜け出したことに対するお仕置きなんだろうな。


「うう、なんで私がー」


ありがとうフィリッカ、君のお陰で俺の首は繋がったよ。

お礼に俺を吹っ飛ばしたことはチャラにしてあげよう。


そんな訳で俺は毎日アルマに薬を飲ませ経過の観察を続けている。

アルマの部屋の前に着きノックをする。


「どなたでしょうか?」


初めてきた時の様にラヴィリアが部屋から姿を表す。


「アルマ様のお薬の時間です」

「これはクラフタ様、ご苦労様です」


ラヴィリアに迎え入れられて部屋に入る。



「いらっしゃいませクラフタ様」


昨日よりも顔色の良くなったアルマが出迎えてくれる。

日々改善しているようで何よりだ。



「今日の分の薬をお持ちしましたよ。」

「クラフタ様のお薬は苦くないので嬉しいです」

「お褒めに預かり恐縮です」


ミヤの作ってくれた薬のストックはもう切れているため現在使っている薬は俺が特別に調合したものだ。

効果は以前と変わらないが一つだけ違うところが有る、それは『味』だ。

アルマが飲みやすいように色々な味を楽しめるようにしてある。


「今日はイチゴ味ですよ」

「どんな味か楽しみです」


薬に味をつけたのは飲みやすさの確保だけでなくストレス緩和の意味合いもある。

生まれたときからほぼベッドが定位置のアルマは表に出さないだけで相当のストレスが溜まっていたはずだ。

そこで薬に味を付けることで少しでも楽しんでもらおうと思ったのだ。

結果は上々、アルマは薬を飲むことの不満が減ったようだ。


「子供向けに良いな、少年後で教えてくれんか?」

「明日で良ければ」

「判った」


アルマに薬を飲んでもらう前にステータスを使って生命力と魔力を教えてもらい薬を飲んだ後にも同じようにして生命力と魔力を教えてもらう。

こうすることで薬を飲む間の時間で減る魔力と回復する魔力の平均数値が算出できる。

ここまで詳細に判るのだからステータス魔法を考えた古代の魔法使いには感謝だ。


「だいぶ良くなりましたね」

「はい!近頃は本当に体が軽く感じるんです。」


この世界に生きる全ての生命体は生きるために魔力を生成し消費する、その魔力をまともに体内に取り込めなかったアルマはいわば息を止めて走っているに等しい状態だった。

それが改善されつつある今は普通の人と同じように呼吸をして酸素を補給しながら走っている状態だ。


「そろそろ中庭の散歩などしてもよろしいかと」

「本当ですか!!」

「ええ、余りはしゃがなければ」


本当に嬉しそうな顔をするアルマ、いままでずっと寝たきりだった彼女は只の散歩でもピクニックに等しい気分なのだろう。



「楽しそうだなアルマよ」

「お父様!!」


治療が終わり俺達が談笑していると唐突に国王陛下がやって来た。

この人、日に2回はやって来るんだよなぁ。


「お父様!クラフタ様が散歩をしても良いといってくださいました!!」

「ほう、それは素晴らしいな」


陛下がこっちを見る、説明をしろということだろう。


「アルマ様の魔力の回復は順調です、次は軽い運動をする事で肉体のリハビリを行います」

「ふむ、アルマは長くベッドに寝たきりであったからな、だが急に動いて大丈夫なのか?」

「時間を制限し中庭で散歩をするくらいでしたら問題は有りません」

「そうか、うむ、確かに適度な運動は必要だな」


陛下が納得した様に何度もうなずく。


「ときにクラフタよ、アルマの根本的な治療についてはどうなっておる?」

「それについては先日に説明したとおり姫の体力、生命力、魔力が施術に耐えられるほどに回復するまで待つ必要があります」

「お主の見込みではどれくらいかかる?」

「魔力と生命力は後半月もあれば万全かと、ただ体力の衰えについては十分な状態にするのに時間がかかります、リハビリに2、3ヶ月は掛かるかと。」

「ふむ、本格的な治療は春と言ったところか。ならば先に・・・」


現在の季節は秋でもうすぐ冬の季節になる。この世界では地球よりも四季がはっきりしていて世界中が日本のようにメリハリのある四季を演出してくれるそうだ。

冬の寒さも厳しく雪も結構降るらしいので秋のうちに暖房を集めるのは必須らしい、逆に夏は暑いそうだが。

夏暑く冬寒い盆地の気候みたいなものなのだろうか?


「クラフタ様、雪が降ったら雪だるまを作りましょうね」

「そうだね」


アルマは俺が教えた雪だるまを早く作ってみたいようだ。


「時にクラフタよ、お主ドラゴンを倒したそうだな」

「はい、フィリッカ様にお聞きになられたのですか?」

「うむ。目の前でドラゴンの首を刎ねたと興奮しながら余に話してくれたわ」

「ドラゴンと言ってもドラゴンドロップもまともに生成できていなかった子竜でしたよ」

「それでもドラゴンには違いあるまい、そのドラゴンを倒したお主には褒美を与えねばならんな」


王様が妙なことを言ってくる。


「え?」

「さてどのような褒美が良いか」

「陛下?ドラゴンを倒しても国から褒賞を頂けるようなことは無いと思うのですが」


町や国に甚大な被害を与えたとかならともかく、まだ明確な被害を及ぼしていないドラゴンを倒したところで国としては被害が出る前に退治してくれてラッキーといった所だ。


「あるぞ、お主が褒美を受け取る理由が」

「ええ?」


「ドラゴンを倒しそばに居た我が娘第一王女フィリッカを救い、ドラゴンドロップを手に入れて第二王女アルマの病の進行を劇的に改善した件だ」


「王女2人の命を救いさらにドラゴンを倒したとなれば国から褒美を出さないわけにはいきませんなぁ」


「その通りであるバクスター」


いつの間にかバクスターさんまで陛下に追従しとる。

これは「そういう筋書き」がもう決まっているのか、あの使えないドラゴンドロップの名はそのための舞台装置として。


「と言うわけでクラフタよ、冬が来る前にお主に褒美を与える式典を執り行う。」

「式典ですか」

「うむ、衣装はこちらで用意させよう。竜の逆鱗を忘れずに持ってくるのだぞ」

「は、はい」

「ああ、先に教えておくがお前に与える褒美は契約貨幣である白金貨5枚と男爵の地位である」

「へ、ええ!?」

「それはすごいな、白金貨を5枚に貴族の地位か。その歳で前代未聞の大出世だな」

「おめでとうございますクラフタ様」

「ああ、それとアルマの病が完治したらその件でも褒美を出すので期待するが良かろう」



なんだろう、めでたいことのはずなのに何か物凄いスピードで逃げ道をふさがれている気がするんですが。


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